第2話
目が覚めると愛猫のシュシュはすでにどこかへお出かけをしていた。どうやら、プリズン・シャルからの脱獄に見事成功していたようだ。まだ重たい瞼をこすりながらリビングの方へ歩いてゆくと、早くも餌皿の前にて脱獄犯を発見することができた。どうやら、共謀犯と楽しくランチを楽しんでいたようだ。
「姫っちおはようっす、って凄い頭っすね。また乾かさないで寝ちゃったんすか?」
「・・・ん。ベットに入ってシュシュ抱きしめてから記憶がない」
「もうお昼っすよ。同じ物でよければすぐ用意するっすけど?」
「パスタたべたい」
「はいはい。それじゃ用意してくるんで、その間に顔洗ってその髪何とかしてくるっすよ」
「・・・ん。わかった」
やれやれと、ニーナがキッチンの方に消えていったので自分も顔を洗いに洗面所へと向うことにする。この後自分の大惨事(髪型)に悪戦苦闘することになるのだが、なんとか偉大な整髪料の力を借りて元の美しい姿に戻ることが出来た。これを開発した有能な科学者諸君、本当に感謝する。
着替えと化粧もかるく済ませると思った以上に時間がかかってしまったので、慌ててリビングに戻ってみると私の席の前には出来立てのミートパスタが置かれていた。食欲をそそるいい香り、流石我が相棒。私の好みをよく解っていらっしゃる。
「おぉ、やっと戻ってきたっすね。全然帰ってこなかったから勝手にソース選んじゃいましたけど、これで大丈夫っすか?」
「ぐっじょぶ!」
「・・・それはよかった。それではどうぞ召し上がれ」
「テレビつけてもいい?」
「はい、どうぞっす」
なにやら向こうで「あれぇ?思っていたリアクションと違うっすね・・・」と声が聞こえてきたが、特に気にしない。さっそく食事を楽しみながらテレビを眺めていると、どうやら大物政治家が昨夜何者かに襲撃され死亡するという痛ましい事件があり、現在警察官達が全力をもって捜査に当たっているらしい。現場ではマスコミやら野次馬、警察官達でごった返している様で中々のパニックっぷりである。
「あら恐い。街中で襲撃騒ぎですって、ニーナさん」
「本当っすねぇ。まさか徹夜で頑張っている警察官達も、犯人が昼間まで爆睡していて現在ほっぺにソースをつけながらパスタ食べてるとは思っていないと思うっすよ」
「・・・・よし取れたわ。しっかし思ったより有名人だったみたいね、あのターゲット。どの番組もこのニュースで持ちきりじゃない。私も有名人になっちゃったりするのかしら?」
「そりゃ、ばれたら有名人っすよ。まぁ、そんなヘマはしてないっすけどね。」
「それは頼もしい。それで、パパから何か連絡あったの?」
「今日の午後にメッセンジャーが来るってさっきメールが届いてたっすよ」
「午後って何時よ?」
「さぁ?短いメッセージしかなかったので時間までは分らないっすね」
「まっ、どうせそれまで待機だろうし、私は自分の部屋でゲームでもしているわ。今この時間だったらUAサーバーのカモ共がわんさかログインしてるのよね」
「ゲームは程ほどにしておいてくださいよ。さて、自分もこの後部屋で情報収集と意見交換をしてくるっす」
「昨日の深夜アニメは?」
「作画班の仕事ぶりが最高でした!」
「はいはい。よく解んないけど、そっちも程ほどにね」
「あぁそれと、近いうちにベースに戻るので撤収の準備だけは済ませておいて欲しいっす。どちらにしても次の仕事でこの街を離れることになると思うので」
「了解したわ、それじゃ」
「「また後で!!」」
食事も終わり、2人してそれぞれ自分の部屋に篭もって趣味に没頭する。私が今から始めるのは、先日発売されたFPS『World War Innocence2』という『世界大戦時の英雄が罠に嵌められ犯罪者にまで落とされてしまった主人公が、無実を証明するために黒幕達を皆殺しにしていく』というストーリーのゲームなのだが、皆殺しにしたら犯罪者なんじゃないの?と思いながら最初はプレイしていたが、最後には中々感動できるシーンが織り込まれており、いつの間にかすっかりはまってしまい前シリーズから大ファンになってやり込んでいるタイトルだ。
しかもこのゲーム、マルチ対戦にも対応しておりストーリーで登場したマップを使い全世界のプレイヤー達と対戦することができるので、此方も仕事の合間の暇な時間にかなりやり込んでいた。その最新作が私を待っているのだ、これはやらない訳にはいかないではないか!!
時間を忘れ、キーボードとマウスを巧みに操りながら画面の向こうのプレイヤー達を次々に皆殺しにしてゆく。オープンチャットで「チーター野郎」とさっきから罵られているが、気にせずに見つけたプレイヤーから次々にマップ外へとはじき出していく。勿論チートなど使っていない、単に相手が弱すぎるだけだ。
「ふっふっふ。お前達ごときを捻り殺すのにチートなど使うものか。恨むなら己の未熟さを恨むんだな、哀れなキッズ共よ!」
「部屋真っ暗にしながら、何物騒なこと呟いているんだ。我が妹よ・・・・」
「にゃっ!?レオ兄!って、あぁあ・・・」
「よそ見するからだ。ほら、仕事の話をするからこっちにおいで」
「ぶぅ~ぶぅ~。もう少しで新記録だったのに、レオ兄のお邪魔虫!」
「はいはい、うちのお姫様はたいそうご立腹のようで。ケーキも買ってきているんだが、そっちは・・・」
「今すぐ行くわ!ちょっと待っててもらえるかしら!?」
「・・・・兄さん少し心配になってきたよ。なるべく早く来るんだよ?」
「りょうかい~♪」
彼の名前はレオニード・ヴァーゼルト。私の一つ上の兄で、表向きは我が社の情報分析部門の副主任を担当している。また現地にて情報収集をおこなう関係上、世界中を飛び回る彼は裏でこうして各部隊に重要な情報を届けるメッセンジャーも兼任でやってくれているのだが、今回の仕事はレオ兄が届けてくれたようだ。
ちなみに私の所に来る時は、毎回私の好きな物を何かしらの差し入れで持ってきてくれる優しい兄でもある。今回はケーキか、兄はセンスがいいから味も期待できるので今からとても楽しみだ♪
パソコンを落としてリビングへ向うと、すでに相棒はケーキに夢中になっていた。ほほぉ、私より先にケーキを選ぶとはいい度胸だ。罰としてそのモンブランの上に君臨する栗は私が頂こう!ぱくっ・・・うま!!
「あっ!私の最後の楽しみが!?姫っち酷いっすよ・・・・」
「私が来るまで待てない子にはお仕置きです。それでレオ兄、次の私達の仕事が決まったんだって?」
「まぁ、長くなるから座って聞きなさい。ヤン、人数分の飲み物を頼む。」
「了解しました。只今ご用意させていただきます」
彼は兄の相棒件、護衛官のヤン・ユイフォン。武術の達人にして白兵戦のスペシャリストだ。私も何度か手解きを受けているが、正直彼に純粋な格闘戦で勝てる気がしない。なんでも、実戦ではナイフと己の拳だけで何人もの敵を打ち倒してしまっているそうだ。それに、秘書官としてもかなり優秀で、こうして兄の身の周りの世話もしてくれている、性格もとても優しいので非常に頼れる先輩だ。
そして、そこで悲しみに打ち震えているのが私の相棒ニーナ・シュテンハイム。情報戦のエキスパートで私の観測者などを主に担当してくれている。彼女にかかると、建物へのハッキングから機密情報の奪取などは朝飯前らしく、酷い時はアニメの再放送を見ながら仕事をしている時すらある。
元々は仕事のターゲットだった過去があり、依頼人にある施設から彼女の奪還を頼まれた時に知り合ったのだがその時に妙に懐かれてしまい、そのまま私の決まっていなかった相棒の席にすっぽり収まった少し変わった経歴を持った少女だ。趣味はアニメ鑑賞で、特にある国の深夜アニメが大のお気に入りらしい。そして、重度のショタ好きを煩っているヘンタイさんでもあるので取り扱い要注意である。
なんか泣き出しそうになってきて可愛そうだったので、私のイチゴをのせてあげたらやっと笑顔に復活していた。レオ兄、そんな生暖かい目で見ないでいただけるかしら?
「お前達はほんと仲がいいな。それで仕事の話を始めたいのだが、そろそろいいかな?」
「復活したので大丈夫っす」
「私も平気よ。それにしてもレオ兄が来るほど、次は大きな仕事なの?」
「まぁ、それは状況次第ってところかな。親父も本当は他のチーム任せようとしていたらしいんだけど、その対象が問題でね。今回は護衛件、対象の護送が仕事だよ」
はい、と渡された資料を読んでみると、すぐに「なるほど」と納得が出来た。要は、相棒の時と同じ少女の護衛任務というやつだ。家の会社には腕利きで信頼できる団員達がたくさん在席しているが、あまりに優秀なためか皆厳つい顔をした強面の者が非常に多く、いくら護衛とは言っても端から見ればどっちが誘拐犯なのか分ったもんじゃないのである。それに、きっと大泣きされるのが安易に想像出来てしまうので、今回私達に仕事が回ってきたのであろう。
「護衛任務はいいとして、私達のチームって今は前衛私だけなんだけど。他にどこかのチームがサポートに回ってくれるの?」
「あぁ、メインはシャルのチームに任せるとして、今回結華さんのチームがお前達のサポートに回ってくれるそうだ。親父は最初結華さん達だけに任せるつもりだったんだが、後は・・・分るだろ?」
「あぁ・・・。結姉、子供嫌いだからなぁ。なんとなく理解したわ」
「あの人が唯一子供の時でも大丈夫だったのがお前だけだからな、結華さんから親父に直談判したそうだよ」
「だから調整役でレオ兄が態々派遣されてきたと、遠いところからご苦労様です」
「これも仕事のうちさ。スタッフに気持ちよく働いてもらえる環境作りは、経営者側の課題だからね。俺が動くことで丸く収まるなら安いものさ」
「それで、仕事は何時からどれくらいの期間なの?」
「今週の金曜にとある会社の役員会議があるんだが、それが終わるまで対象を護衛してもらいたいんだそうだ。なんでも、そこの会長さんの孫娘が護衛対象らしいんだが、その子の親の娘さん会長さんに結婚を反対されて、随分前に駆落ちしてしまったらしい。
そして暫くは平穏に暮らしていたんだが、ある日娘さん達夫婦が子供を残して交通事故で死んでしまった。これは本当に事故だったらしくてね、その当時の捜査記録も入手して確認してきた。
そして親の残した財産はあるものの、幼くして孤児になってしまった彼女に引き取ってくれる親戚がいないかと公共機関の職員の手で遺伝子が調べられ、膨大に記録されているデータの中を探してみたところ、なんと大企業の会長様の孫娘であることが判明した。会長さんも娘の忘れ形見である孫娘が生きてることを知って非常に喜んだのだが、それがまったくもって面白くない連中も存在した。
それが今回の相手側、親戚連中が雇った戦闘集団になるって話だ。」
「要するに、その子が生きているとそいつ等に都合が悪いってことっすね」
「そういうことだね。会長の直系の子供は娘さんただ一人。必然的にその孫娘が会社の後継者候補ナンバー1ってことになるからね。娘が駆落ちしたことによって、後継者の座を目前にしていた連中にとっては、どうしても排除したい対象となるって訳さ。
そして、娘さんが駆落ちしたショックでここ数年元気がなくなってた会長さんが息を吹き返してやる気マンマンに。孫娘が成人するまで現役で頑張るんだと滅茶苦茶張り切ってるそうなんだよ。まぁ、その人まだ60歳になったばっかしだしね。
そこで、次の役員会議で続投を宣言したいそうなんだけど、おかげで会長自身も命を狙われているらしくてね。そっちは親父達本社の人間が護衛するから、一番狙い易いの孫娘の護衛を君達に頼みたいってのが今回の仕事って訳さ」
「なるほどね。でも、だったら孫娘にはどこか安全な場所に避難していてもらったらどうなの?その方が楽でしょ」
「実はその子、国の南側に位置するここ『シャロン』に住んでいてね、依頼人の会長さんが『首都に住んでいる自分の近くで守りたい』と親父に注文を付けたらしい。しかも、昨日ここでは銃撃騒ぎが起こったばかりだからね。会長さんも気がきじゃないみたいなんだよ。大変だね、犯人さん?」
「あはは・・・。」
「知らないわよ、私はちゃんと依頼通りに仕事をしただけですぅ」
「それは分っているよ。いつもながら良い仕事ぶりだった。ただ、タイミングが悪かったて話さ」
「それじゃ、すぐにでも仕事に取り掛かった方がいいってことね。仕事の内容は『護衛しながら依頼者の元まで連れて行く』でok?」
「理解が早くて助かるよ。もし必要そうな物とかあったら言ってくれ。ある程度はすでに用意してあるからね」
「道具はいつもので大丈夫だから問題ないわ。それで、レオ兄はこの後ベースに帰るの?」
「あぁ、そのつもりだよ」
「それじゃここの引き払い作業チームの派遣と、シュシュ隊員のベースまでの身辺警護をお願いいたします」
愛猫のシュシュは丁度私の膝の上で丸くなって寝ていたので、そのまま抱きかかえてレオ兄に手渡した。どうやら退屈して本気で眠っていたようで持ち上げると全身の力が完全に抜けていて、足を『ぷら~ん』と脱力している仕草はとても愛らしかった。
「シュシュかい、ok勿論任せてくれたまえ。責任を持って最上級の御もてなしと快適で安全な空の旅で護衛しよう」
「そっか、プライベートジェットで来てたのか。てか、私達もそれに乗せてくれた方が早くない?」
「追尾型ミサイルと追っかけっこが御所望かい?それはなかなかデンジャラスな旅になりそうだ」
「相手側はそんな物まで持っているのね。今回は大人しく陸路で目指すことにするわ」
「それが賢明だね。もうすでに結華さんのチームが護衛に就いているから早めに行ってあげるといい。きっとお互い困ってると思うからね」
「了解よ。ニーナ、いつもの感じでいいわよね?」
「私は自分のバンで別行動って事っすね。いくつか機材を積むので5分ほど待ってほしいっす」
「それじゃ、私は下の車のとこで待っているわ。レオ兄、後のことよろしくね」
「心得た。すぐにチームを派遣してここを引き払うとするよ。ほら、シュシュご主人が仕事に行くよ、ちゃんと挨拶を済ませなさい」
「にゃ~ん」
「はい、よく出来ました。シュシュ、またベースのお家で会いましょうね。それじゃ、行ってきます」
「いってらしゃい、気をつけて」
「レオ兄もね。ヤンさん、兄をよろしくお願いします」
「承知いたしました、姫。御武運を」
さて、それでは今日もお仕事頑張りますか!
次回の投稿は明日、4月30日月曜日を予定しております。
同時連載中【アルカディア ~転生職人奮闘記~】
ゲーム“ハイジン”の職人系主人公が異世界に転生するどうなるのか!
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