アルジェの華麗なお小言:カバーリング
気象予報士3.5部、「サンスパングルの白銀姫」の後の日常。
「・・・あの」
「ん~?」
ふんふんと鼻歌を披露しながら、ご機嫌な様子のベリルが寝台のマットに洗濯したばかりだと思われる、真新しいシーツをかぶせている。
何故、そんな雑事を彼が行っているのだ。
いや、それ以前に、何故我が物顔で、勝手にカバーリングを交換しているのだ。ここは、ささやかながらも自分の城であった。確かにそろそろ交換しようと思ってはいたが、それにしても持ち主に無断でそんなことをしないでほしい。
「それはどこから?」
「ああ、新品だから心配しないで。洗濯はしてあるよ」
「そうですか・・・お聞きしたいのは、これの出所ですが」
自分のベッドなのだから、見ているだけというのも嫌だ。広げられたシーツを、ベリルの反対側に立って、マットの下に折りたたむ。腰をかがめたら、ふわりと鼻先に香りが届いた。
決して自己主張しない、穏やかな香りに、なんとなく安心する。
「家が頼んでいる店のだよ。アルジェがお風呂中に取りに行ったんだけど・・・手触り、嫌い?」
色は、薄水色。きっとご丁寧にも、たった今までここにあった手持ちのものと、意図的に同じ色にしたに違いない。けれど、意匠が違う。布地は上質のシルクで織られ、枕カバーには美しい刺繍が施されている。
「いえ、そういうわけでは」
「君の香りつき。ヘリオドールに一式作ってもらったから、今度から使ってね」
「え!?」
「え、ってなに? ヴァーベインでは植樹してないんだよね?」
にこにこと笑いながら、上掛けの布をかぶせた彼は、寝台をぐるりとまわり、こちらへと寄ってくる。ベリルの言うとおり、彼の一家のように自分の香りは存在しない。だから、ベリルの樹から作られる香りをそのまま受け取ればいのだが、そういう問題ではなく。
「だから、何故、勝手にするんですか!?」
腰を捕まえられそうになるのを避けて、一歩退き、そして。
言いたいことを、言った。
夕飯を作り、一緒に食べた。
当たり前のように、彼が浴室を使う。髪を拭くベリルが、盛大に色気を振りまきながら、君も入っておいでと言うので、その言葉に従った。そこまでが、許容範囲だった。彼の恋人となったばかりの、自分としては。そこまでが、羞恥を押し隠して最大限譲歩できる、ぎりぎりの。
浴室から出たら、彼が勝手にシーツ交換をする、この景色に。
これはなんだと叫ばなかっただけ、ましであろう。
「・・・嫌なの?」
「・・・っ」
退いた距離は詰めずに、ベリルが青い瞳を揺らして呟くから。
即座に反撃の言葉が出ない。
「だって、さっき、ぐちゃぐちゃにしちゃったし」
こそり、と出されたのは、笑みを含んだ声。夕食前に、戯れに寝台を乱された時の熱が、体の奥から蘇ってしまいそうで。
「それに、早く君に香りをつけたかったし」
そっと寄せられた体に、捕まってしまった。
薄いシャツを羽織っただけの、そのがっしりとした裸の胸元から、覚えのある香辛料のような香り。整えたばかりの寝台に、そっと体を運ばれる。
「・・・どうでもいけど、君のベッド、ひとりのくせに大きいよね」
「あ、おじ様に用意して頂いて・・・」
またしても無駄な色気をにじみ出しながら、耳元で囁かれた。反射的に出した答えに、ぴく、と彼の眉が上がる。
「あの、特に他意はありませんよ。他の家具もみんな頂いたから、っきゃ!」
首筋に、噛み付かれた。
そう認識したのは、鈍い痛みの上を、彼の舌が舐めてから。何をするのだと抗議しようとした右手を掴まれる。
「・・・他意はないだろうね。でも、癪だから、思う存分、使わせてもらうよ」
「っあ、っ」
艶を混ぜた声で、悪い笑みを浮かべるな、と。
言おうとして、口付けに飲み込まれた。
今は、逆らわない方がいい。
カバーリングと一緒に、彼に包まれるしかない。
本能がそう告げたので、大人しく、彼の首に腕を伸ばした。




