ベリルのおしゃべり:解凍作業3
誕生日のプレゼント=好きな人、の法則。
「ったく、主役に買出しさせるなんて・・・」
真冬の夜空にさらされた冷たい体を、暖房の効いた部屋の中に早くねじこみたくて。半ば駆けるように足を動かして、貸切にした知り合いの店を目指した。
今夜は年を越しながら、明日の自分の誕生日を祝ってもらう、という名目で開いた内輪のパーティー。堅苦しく実家で祝ってもらうよりも、こじんまりとした場所で、気の合う友人と楽しく過ごす方が好きだった。
今年はアルジェという恋人ができたので、紹介するつもりであったのに、彼女にはあっさり振られ、無理強いすることもできず。尚且つ、主役であるのに、足りなくなった食材の買出しに行かされる始末。
ついてない、と思いながら、角を曲がり。
通りの先に見えた、終着点の店の明かりを目にして、やっとほっとした。
街灯の下、扉の前に。
小さな、ともすれば見逃しそうな、その塊。
「え、何だこれ・・・?」
白い、雪だるま。
簡単につけられた、その辺で拾ったと思われる小枝の手。
その、小枝の手の先に。
しゃがみこんで、まじまじと見れば。
灯りを反射する、金属の輪につながった鍵。
それと、緑色の布の花。
「あ! ベリル、帰ってきてたのかよ! さっき、すごい美人が、」
ぱたん、と暖かい空気と一緒に扉が開いて。
驚いた友人の声が上から降ってくる。
これは。
この、小さな小さな、自己主張は。
「っ、アルジェが来た!?」
「いや、名前言わなかったから・・・あれってお前の・・・?」
戸惑う友人に、事の次第を聞きだして。
踵を返して、道を戻った。サー・クロムはいるか、と銀髪の美人が突然現れた、と言われて。自分を訪ねてきたのはアルジェだと、確信した。その唐突さと、親しくもなさそうな口調を怪しんで、その場で待つようにと勧めなかった友人を、責めたかった。
けれど、アルジェが自分の誘いに乗らなかったのは確かで。
行きたくない、と彼女にそう言わせたのは自分で。それでもこうやって静かに訪れてくれたのは、誰かに明日の意味を聞いたのだろう。
開始時間を大分過ぎた、もう少しで日付が変わろうとするこの時刻に訪れた事実が物語っている気がした。
早足を通り越して、今度こそ本当に駆け出していた。
吐き出した白い息が後ろに流れて。
大通り、狭い裏道、プランターの並んだ住宅街、それらを通り抜け。
褐色のドアノッカーに、ようやく手が触れた。手袋越しでも、冷たい。
「・・・アルジェ、開けて」
はぁ、と大きく息を吐き出して。
手に握りこんだ金属に目を落とす。柔らかい金の輪につながれた、銀色の鍵。
ことり、と扉の向こうで音がする。
大きさと形に、見覚えがあった。気配はあるのに、一向に開かない扉の。
差し込んで、やはり、と。
手が震えた。その震えを押さえ、ゆっくりと右に回す。
かちゃ、と音を立てた後、ドアノブが回り、扉が開く。
彼女が開けたのではなく、自分の右手で。
「差し上げます」
「ああ、・・・もう、」
抱きしめるしかなかった。
はにかむように微笑んだ彼女を見た瞬間。勝手に腕がその体を引き寄せていた。
華奢なその感覚、背中から冷たい風が吹き込んでくる入り口を、遮断して。
「・・・ちょっと、あの、痛いです・・・」
「ごめん、なんか感動して・・・」
腕の中で抗議の声を上げた彼女を、少しだけ放す。
完全に離れられず、口付けて。
「んっ、・・・今更ですが、抜け出してよろしいのですか?」
「・・・いいよ、どうせ私がいてもいなくても騒ぐだけだし」
染まった頬をそのままに。
にこりと微笑むその顔は最強だと思う。
「もう日付が変わりましたね・・・お誕生日、おめでとうございます」
「っ、ありがとう。今まで生きてきた中で一番嬉しい」
指の先に、ふわりとした感触を残した、緑の花。
「これ、手作りだよね?」
厚めの布を色を変えて何枚か重ね、中心には鈴。
苦労した、と一目で分かる縫い目に口元が綻んだ。
「・・・お裁縫は苦手で」
うつむいて、何かに耐えるように両目を閉じた彼女を抱き上げる。
「え、あ、っあの」
玄関から奥へと進んで、勝手に寝室へ。もう、耐えられない。
「私は得意だから、これからは君の分までやってあげるよ」
ベッドにその背を倒し、上にのしかかり、もう一度口付けて。
シーツに広がるワンピースの裾を見て、更に笑みが浮かんだ。
「なんか脱がしやすいオシャレしてるね。嬉しいけど」
「っっ、これは!」
真っ赤になった耳を食んで、抗議の声を抑えた。
全部、自分の為だと思いたい。
「サー、・・・ベリル」
至近距離で見つめると、俄かに水色の双眸が潤んでいく。
そっと出された声に、最後の箍が外れた。
「いただきます」
ふざけたその一言に。
ほのかに笑んだ彼女が、キスに応じたのが嬉しかった。




