Prologue
『気象予報士』の主人公、緋天の両親の話。
意外なあの人もちらっと登場!
『気象予報士』の第2部を読んでからの方がわかりやすいと思います。
「しーちゃん、そっち歩かないで。危ないの」
「はーい」
ここ最近の曇天続きの日々から抜け出し、久しぶりに晴れ間の広がった空。風は冷たいものの、日が差しているので気温は比較的高かった。春はもうすぐだ。
車がひっきりなしに行き交う道路に沿う歩道。その縁石の上を跳ねるように歩く子供に、大きなお腹をかかえた女性が注意をする。大人しくそれに従って、彼女の伸ばした手に小さな右手を入れた彼は、笑みを浮かべて母親を見上げた。
「もうでてくる?」
「そうねぇ。なんだかのんびり屋さんみたいなの。本当は今日がお誕生日のはずなのに、まだここにいたいみたい」
「えー!! そんなの、こまるよ」
苦笑してお腹をなでて言った彼女に、彼は驚いて声を上げた。
「ぼく、いっぱいあそぶよてい、かんがえてるのに。はやくでてきてよー」
空いた左手でふくらんだそこをつついた彼を、愛しそうに見る彼女。その顔が、自分の妻の顔と重なって。ついつい笑みがこぼれた。
春に生まれた自分の息子が妻を独占している状況は悔しいが、それも目の前の彼ほどの年齢になれば、母親にべったりとくっつく事はなくなるのだろう。あと数年の辛抱かもしれないと思い、右手の白い病院に入っていく母子を見送った。
今日は久々にのんびりできそうだ、と。
家へ帰る為に足を速めた。