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2月8日(金)。様々な結果

この話は、前半は恭子視点、後半は第三者視点です。

 今日は魔法大学の試験の結果がわかる日だ。家にも郵送されてくるが、学校でも結果を知ることができる。と言うことで、ほとんどの3年生は学校に登校してきていた。


 結果がわかるのは正午。授業もないので、みんな思い思いに雑談したり、勉強したりしていたが、正午が近くなると自分の教室に戻っていく。悠李と雑談をしていた恭子は3‐Aの教室に戻り、うなだれる紗耶加を発見した。


「……どうしたんですか?」


 紗耶加自身ではなく、そばにいる晃一郎に尋ねた。晃一郎は苦笑する。


「結果を見るのが怖いんだって」

「ああ、またそれですか。紗耶加が落ちるんでしたら、ミネルヴァ魔法学院からは碧しか合格者が出ないことになってしまいますよ」


 筆記の成績上で紗耶加とほぼ同格なのは碧のみだ。つまり、紗耶加が落ちたならみんな落ちた、と言うことになってしまう。実にくだらない悩みだった。

「そんなこと言わないでよ~! 緊張して間違えた可能性もあるのよ!? ああ、絶対落ちたわっ」

 それだけ言って、紗耶加は再び机に突っ伏した。恭子と晃一郎は顔を見合わせ、彼女のことは放っておくことにした。正直、面倒くさい。


「はい、みなさん。結果を配りますから、順番に取りに来てくださーい」


 クラス担任の先生が軽い調子で言った。名簿の関係上、この3人の中で初めに通知の封筒を受け取るのは紗耶加だ。紗耶加は封筒を受けとつてが震えていた。

 続いて恭子と晃一郎は出席番号が並んでいる。結果を見て、喜ぶ人と泣き出す人の声を聴きつつ、2人は結果を受け取った。

 恭子は早速封筒を開け、結果を見た。うん。合格。問題なし。一応平均点なども載っているが、それは家に帰ってから見ることにする。

「恭子、受かってた?」

「ええ」

 晃一郎にうなずいて見せると、だよね、と言う風にうなずく彼。紗耶加は顔を覆って泣いている。たぶん、合格しているだろう、彼女は。6度目の受験、合格のはずだが、ここまで感動できる彼女はすごい。






 一応、お昼になってから紗耶加に結果を確認したが、やはり受かっていた。何気なく点数を聞いたところ、法学部ではほぼ最高点で合格したことが判明した。

「すごいですね、紗耶加は」

「うん。本当によかった……」

 そう言って紗耶加は大事そうに封筒を抱きしめる。今から昼食を取りに行こうと思うのだが、その封筒は持って行く気か?


 しかし、食堂に近づくにつれて食堂付近の様子がおかしいことに気が付く。さしもの紗耶加もどうしたんだろう、と首をかしげている。

「誰かが喧嘩でもしてるのかな」

 晃一郎が自分の予測をつぶやいた時、「あんたのせいよ!」と言う金切り声が聞こえた。



「あんたのせいで、透馬君はっ!」



 透馬君。氏家の事だろうか。彼が、試験結果の判明する今日、学校に登校してきていないことは知っていた。

 恭子は紗耶加と晃一郎と目を見合わせると、見学中の野次馬をかき分けて前の方に進んだ。そして、長谷川桃と悠李が向き合っているのを見た。

「透馬君が学校に来なかったのが、僕のせいだってことかい?」

「しらばっくれないで! 家に会いに行ってもいないし、あなたが何かしたんでしょう! ふざけないで! 透馬君に何をしたの!?」


 微笑む悠李に怒り狂う桃。これは、この状況で微笑んでいられる悠李の方が怖いな。


 変に口出しするとこじれる気がしたので黙って見ていることにする。ざっと野次馬を見渡すと、碧や敬、レイチェルなどの姿を発見した。

「透馬君を返して!」

 おいおい、どうしてそこまで発展したんだ、と言うセリフを吐いて、桃が悠李に向かって攻撃魔法を放った。周囲は悲鳴を上げたが、当の悠李は落ち着いて、自分に魔法が接触する前にその魔法を相殺した。


「このっ!」


 生徒たちが止めようか迷っている間に、桃はナイフを取り出して逆手に持ち、悠李に切りかかった。悠李はこともなげに桃の細腕をつかんだ。


 言っておくが、戦闘魔法に長けた悠李に喧嘩を売る方が間違っているのだ。悠李はあまり放出系魔法は得意ではないので知られていないようだが、その気になれば魔法戦もかなり強いのだ。なんと言うか、攻撃魔法を使ってもうまく相殺されてしまうので、攻撃する意味がない! と思わされることが多々ある。


 しかし、これは成功率が低いらしく、仕組みもよくわからない。比較的弱い魔法だと成功しやすいらしい。


 そして、魔法剣術を得意とする悠李に接近戦を挑もうなど狂気の沙汰だ。少なくとも、この学校に、剣術で悠李に勝てる人間は氏家くらいだ。


 まあ、その氏家の件でもめているようだが、桃が一方的にまくしたてているともいう。


「放して! 放しなさい!」

 桃が暴れるが、そもそも体格が違うのだ。悠李は細身とはいえかなりの長身。桃は細身かつ小柄だ。そんな桃が力勝負で悠李には勝てない。

 ふと、悠李を睨み付ける桃の瞳が怪しく輝いたのを見た。桃がナイフを出した時点で野次馬の人数はかなり減っていたので、恭子ははっきりとそれを目にした。

 悠李は桃の腕をひねり上げると、彼女に囁くように言った。

「僕に魅惑魔法は聞かないよ。そのタイプの能力は、意志の強い人や精神感応系能力の強い人には効かない。ちなみに、僕は後者だよ」

「っ! あんたなんで大っ嫌いよ!」

「別にかまわないよ。僕は君のことを何とも思っていないから」

 悠李は相変わらず微笑んでいたが、その笑みがひどく冷たく見え、恭子は身を震わせた。そこにやっと先生がやってくる。仁科先生だ。

「長谷川! 何をしてるんだ! 香坂妹も放しなさい」

 仁科先生に言われ、悠李はパッと桃を話した。桃はへなへなと崩れ落ち、仁科先生はその手からナイフを取り上げた。


「まったく、面倒事を起こさないでくれ。面倒くさいから」

「……」


 そう言えば、この人そんな人だった、と思う。仁科先生は悠李の兄真幸の同級生らしく、悠李を香坂妹、千尋を香坂弟と呼んでいるようだ。

「ほら、長谷川も立ちなさい。どうやら被害者のようだが、香坂妹も職員室に来い」

「わかりました」

 悠李は素直にうなずき、仁科先生が桃を立たせるのを手伝った。職員室に向かう際、碧と悠李が視線を交わしたのを見た。その目は、


『頼むぞ』

『任せて』


 と言っているように見えた。


「ビックリしたぁ」

 悠李たちが見えなくなってから、紗耶加が小さな声でつぶやいた。

「いや、悠李があんなことでやられるとは思ってないけどさ。驚くよね」

「うん、俺も驚いたよ……どうしたんだろうね、長谷川さん」

 晃一郎も紗耶加に同意しつつそう言った。しかし、恭子はまっすく碧のもとへ行くと、彼に尋ねた。

「悠李に何を頼んだのですか?」

「何の話だ」

「さっき、視線で会話してませんでした?」

「気のせいじゃないか? 俺にも悠李にもテレパシー系の能力はない」

 あくまでしらばっくれるつもりらしい碧に、恭子はそうそうに諦めた。碧は意志が強くて魅惑魔法が効かないタイプなのである。


 恭子は相手を変えて、レイチェルと敬に尋ねた。


「何があって、長谷川さんは悠李に怒鳴っていたのですか?」

「うーん……どうやら、彼女は氏家君のことが好きらしいよ」

「あ、なるほど」

 レイチェルのさらりとした返答に、恭子は妙に納得した。氏家は優しげな顔立ちの美形だ。彼にこっそり思いを寄せる女子生徒は数知れない。そんな氏家が好きだったのは、ハンサムな女子生徒悠李だった。


「それで、悠李が氏家君を奪った! と思ったらしいわ。馬鹿よね」


 さらっとレイチェルはいい、恭子を苦笑させた。敬も苦笑している。

「しかも、氏家が行方をくらましたらしくて。先生たちの間でも話題になってるぞ。まあ」

 敬はちらっと碧の方を見た。


「事情知ってそうな奴が、口割らないからだけど」

「……」


 うん。碧なら何も言わないだろうね。恭子は納得しつつも苦笑した。


「そう言えば、3人とも、試験の結果はどうでした?」

 恭子が話しを変えると、紗耶加が寄ってきた。こういった話は紗耶加の興味をよく引き付ける。

「ん。医科大、受かったぞ」

「私も防衛大に合格しました~」

 敬が少しにやけた表情で、レイチェルが乗りよくピースをしながら答えてくれた。恭子は碧に視線を移す。

「碧は……当然受かってますよね」

 むしろ、受験生の中で一番とかで受かっていてもびっくりしない自信がある。こいつならやってのけそうだ。

「とりあえず、そろそろ昼を食いに行かないと、時間がなくなる」

 碧に言われて、ようやく一同は昼休み時間終了が近づいてきていることに気が付いた。





――*+○+*――





「よう」


 職員室に入った仁科は、職員室の自分の席に座っている男を見て眼を見開いた。

「あ、兄さん」

 3年の香坂悠李が少々驚いた様子でその男を『兄さん』と呼んだ。あまり外見は似ていないが、この男、香坂真幸は悠李の兄である。そして、仁科の大学時代の同級生でもあった。

「……何しに来たんだ、真幸」

「お前に用があったんだよ」

 真幸は表情を動かさずにそう言った。妹の悠李を見てもわかるが、彼もかなりの美形だ。何気に面食いの1年、長谷川桃が状況も忘れて、彼を見てぽーっとしている。

 真幸は周囲の教諭の視線を受けながらも悠然と立ち上がり、こちらに歩いてきた。そして、周囲には聞こえないほどの声で言った。


「前々回のループの時、俺の妹を殺したのは、お前だな?」


 仁科は思わず真幸を睨み付けた。それが答えだった。

「悪いが、お前には魔法省まで来てもらう」

「魔法省は管轄外だろ」

 真幸は防衛省勤めだったと記憶している。部署替えがあったのだろうか。いや、そんな話は聞いていない。

「お前は魔術師だからな。魔法犯罪はすべからく魔法省に出頭だ。警察でもいいが……そして、俺は確かに防衛省の役人だが、魔術師だから魔法省への権限も持っている」

 誰だ。こいつにそんな権限を与えたやつは。仁科は思わず心の中で吐き捨てた。仁科は背後にいる長谷川桃に手を伸ばす。


「悠李!」

「了解!」


 ほぼ条件反射だろう。悠李が桃を突き飛ばし、仁科の足を払うと、床に取り押さえた。女性教諭の悲鳴が上がるが、悠李はお構いなしに肩に関節技を決めてくる。さすがは真幸の妹……。

 だが、長身だとはいえ所詮は少女である悠李は、かなりウェイトが軽い。こういった技を決める場合、体重が重要になってくる。仁科は体術補助の魔法を使用し、肩に関節技を決める悠李を弾き飛ばした。軽い彼女は簡単に仁科から離れることになる。机にぶつかる前に、真幸が彼女を受け止めた。


和彦かずひこ。やめておけ。俺と、それに今は悠李もいる。おとなしく魔法省までくれば、情状酌量の余地は与えてやるぞ」

「あ、僕も入ってるんだ」


 低い真幸の言葉は迫力があったが、その後の悠李のどこか能天気な言葉がすべてを台無しにしていた。

「……お前は、お前たちは、不公平だとは思わないのか」

「何をだ」

 絞り出すような仁科の言葉に、真幸がぴくっと眉を動かした。桃が近くにいた教諭に確保され、こちらから距離を取らされている。


「魔術師は差別されている。人々は、魔術を自然に逆らった悪しきものだと叫びながら、危険になれば魔術師を頼る。魔術師排斥運動を見ただろう? 彼らも、危険が迫れば魔術師を頼るんだぞ。あれだけ魔術師排斥を歌いながら、虫が良すぎるとは思わないか?」


「だが、仕方がない話だ。人は誰かに頼らなければ生きていけないし、自分にない能力を人が恐れるのは当然の話だ」


「何が当然だ」


 冷静な真幸の言葉に、仁科は吐き捨てた。


「魔術師が自由に生きるためには、魔術師が政権を取るしかないんだ。今の政府を見てるだろ。内閣も国会も、魔術師はいないんだ。すべて兵力に回される。彼らにとって、魔術師は道具でしかないんだ!」


 仁科は、自分の親が、かつての世界大戦で捨て駒として使われたのを知っていた。幸い、2人は生きて帰ってきたが、2人は今も、『戦場帰り』であることを気にしながら生きている。

 すべては政府政策のせいだ。仁科はそう思っていた。思い込まされていた。


「……それで、この学校を爆破して政府を脅迫かぁ」


 悠李がぽつっとつぶやいた。氏家が逃亡したことから、誰かは知っているだろうと思ったが、悠李だったか。とはいえ、殺してはいないだろう。悠李は人を殺すには優しすぎた。

 そう、前々回のループの時もそうだ。彼女は、自分の能力を最大限に駆使すれば生き残れたはずだ。しかし、彼女は仁科に殺された。彼女はあの時、死ぬ前にこう言った。



『ここで私が死ねば、あなたは幸せになれるのかしら?』



 基本的に少年のような口調を崩さない彼女から出た、本音の言葉なのだと思う。彼女は本気で仁科に揺さぶりを駆けてきた。


 幸せになれるのか? 結果から言えば、なれなかった。


 彼女は、仁科が魔術師の過激派組織に関わっていることを突き止めた。彼らは、仁科に、魔術師の利権を認めさせるには、魔術師の力を大々的に見せつけるしかないと言った。そして、この計画だ。魔力の集まりやすいこの学校を敷地ごと爆破し、政府を脅迫する。反対派は一掃し、魔術師だけの政権を樹立する。

 うまくいくのだろうか。疑問に思ったことは認める。しかし、うまくいけば、魔術師にとってより生きやすくなると感じた。周囲の人に、自分が魔術師であることを隠さなくてよくなるかもしれない。だって、ほかの人も魔術師のはずだから……。


 彼らの描く世界に、非魔術師はいなかった。


「我が妹ながらなかなかのセリフだ」

「それはどーも」

 半眼で兄を睨み付けつつ、悠李が適当に返事をした。そのまま、真幸は言う。

「悠李。和彦を眠らせろ。お望みの夢を見せてやれ」

「ええっ? いいのかい? 許可降りてないけど」

「構わん。責任は俺が取る」

「かっこいいね、兄さん。じゃあ」

 悠李がFCUを操作し、右掌を仁科の方に向けた。彼女の『ドリームメーカー』は知っている。仁科は思わず足を後ろに引いた。


「ほら、今怖がりましたね。先生は、僕の能力が怖い。非魔術師が、先生の能力を怖がるのと同じように。あなたに、魔術師をかたる資格はないよ」


 見えない波紋が広がるような感覚。仁科の意識は悠李が強制的に作った『道』を歩まされ、このまま悠李が構築した『夢』を見ることになる。悠李は気を失って倒れこんだ仁科を見て眼を細めた。

「おやすみなさい。よい夢を」

「悠李。協力感謝する」

「ん。別にいいよ。責任は取ってね」

「わかっている。先生方も、お騒がせしました」

「いやいや。しかし、仁科が、なぁ」

「意外ですよね」

 先生方がひそひそとそんな会話をしている。ちらっと悠李の方を見る先生もいたが、彼女は気にする様子もなく仁科に手錠をかけつつ、サイコメトリーで調査する兄に尋ねた。

「洗脳でも受けているかい?」


「そんな様子はないな。どちらかと言うと、意識操作、マインドコントロールに近い」

「ぶっちゃけ、違いがよくわからないんだけどね、僕」


 悠李はそう言って肩をすくめた。とりあえず、仁科が自分の意志だけでこのふざけた計画を遂行していたわけではないようだ。

 午後の授業開始のチャイムが鳴る。先生たちがあわただしく出ていく。

「香坂……お前じゃない! 妹の方だ!」

 真幸も学生時代に世話になった先生が話しかけ、振り向いた真幸にそんなツッコミを入れる。妹の方はその先生の方を見た。

「午後の授業は出なくてもいいぞー。どっちにしろ、授業じゃないし」

「わかりました。ありがとうございます」

 悠李はニコッと笑って礼を言った。そんな彼女の首根っこを摑まえ、真幸は言った。


「ちょうどいい。お前も行こう。それと、そっちの彼女は一体なんで連れてこられたんだ?」


 別の先生に説教されている桃を見て、真幸は尋ねた。悠李は、ああ、とうなずく。


「愛は盲目ってよく言ったものだよね。愛ゆえの凶行だよ」

「……俺は時々、お前の将来がどうなるか心配なんだが」


 真幸は呆れた口調で言った。




 ちなみに、桃は悠李に殺意をもって攻撃を繰り出したが、悠李自身がとりなしたことにより、停学処分ですんだ。





 そして、氏家は見つからなかったそうだ。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


謎解きパート。悠李の魔法が視覚的にわからないものだから描写しづらい! 真幸が許可を出したとはいえ、勝手に魔法を使ったので、魔法省に警告がいったはず。どっちにしろ、彼女は魔法省に出頭ですね。


あと2話で終わりなので、連続投稿して9月中に終わらせようと思います!

というわけで、次は明日! 9月28日、日曜日です!

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