2月2日(土)。ミネルヴァ魔法学院日本校の秘密
秘密って程じゃないですけど……。
あと、この話は第三者視点です。
魔法大学の受験が終了した次の週の金曜日。夜のミネルヴァ魔法学院日本校の校舎内に人影があった。その影は校舎で一番高い場所に向かい、そして。
「やはりお前か」
前生徒会長に発見された。やはり、と言うことは、予測がついていたということだろうか。
「……驚いたな、どこで気づいたんだ?」
「さすがに6回目だぞ。それに、お前は悠李に好意を寄せているからな、氏家」
「……うん。そうだね」
そう言って、氏家透馬は整った顔にはかなげな笑みを浮かべた。対する成原碧はいつも通りで、クールそうな外見に無表情だ。碧はグイッと眼鏡のブリッジを押し上げる。
「でも、よく今日、俺が来るってわかったね。遠隔透視能力の効果範囲内だっけ?」
そう言って氏家は首をかしげた。しかし、碧はいや、と首を左右に振る。規格外の透視能力範囲を持つ碧だが、それは違う。
「お前のことだから、魔法大学の試験結果が出る前に行動を起こすと思っていた。合格発表後で、万が一合格していた場合、魔法大学側に迷惑がかかると考えたんだろう」
「……まあ、否定できないね」
氏家はそう言って苦笑し、続きを待った。
「さらに、生徒を巻き込みたくないとも考えたな? それで、人が最もいなくなる土曜の夜が一番可能性が高いと踏んだ……だけだ」
「ってことは、先週も張ってた?」
「まあ、そう言うことになるな」
碧はこともなげにそう言い、氏家に肩を竦めさせた。
「さすがだな、成原。感服したよ」
「そうか。一応、何のためにこんなことを、とでも聞いてやろうか」
碧が冷静にそう言うと、氏家は「知ってるくせに」と言う表情になった。
「このミネルヴァ魔法学院日本校がある土地は、もともと魔力が集まりやすいとちなんだ。今は魔法が外に漏れないための結界も張られ、この土地は魔力にあふれている。飽和状態に近いと言えばいいかな? そんな場所で大規模攻撃魔法を使えば、」
「暴発するな」
「その通り。俺達の目的は、魔術師の解放だ。大規模魔法で事故を起こすことで魔術による恐怖心を植え付け、脅迫し、現在魔術師にかかっている魔法使用制限を解く、と言うのが一応の流れになるかな」
「だが、お前は途中で、これが本当にうまくいくか、疑問に思ったんだな」
碧の鋭い視線にもひるまず、氏家はからりと笑った。
「疑問に思ったわけじゃないよ。十中八九、うまくいかないさ。成原もそう思うだろ」
「……ああ」
やや間を開けてから、碧がうなずいた。
「方法に無理があるな。この場所を魔法爆破して脅迫するにしても、日本政府は国際魔術師連盟に助けを求めるだろう。つまり、お前たちは世界を敵に回すことになる」
「だよねぇ。つまり、俺たちは捨て駒ってこと」
「ちなみに、魔術補助用の魔法陣も撤去した」
「仕事が早いねぇ」
あきらめたように氏家は笑った。ひとしきり笑って、彼は再び口を開く。
「政府が魔術師を利用するのは、ある程度は仕方がないと思うんだ。魔術の力は強大で、恐ろしいだろう……その中でも、精神魔法の使い手は怖がられるのではなく、嫌がられる」
その言葉に碧がぴくっと眉を動かした。碧には遠隔透視魔法のほかにあまり精神系魔法はないが、彼の側には悠李やレイチェル、真幸と言った精神系魔術師が存在する。
特に悠李はその能力を怖がられている。真幸は接触感応魔法の能力者で、『触れるのを嫌がられる』とよく言っている。
目に見える大きな魔法は現実味がない。それよりも人は、精神魔法などの姿の見えないものが怖いのだ。人が幽霊を怖がるのも同じ原理だろう。
「この学校を爆破して、攻撃系魔術師の脅威性が上がったら、相対的に精神系魔術師の地位も上がるんじゃないかって、思ったんだ。……まあ、俺も夢を見過ぎだよなぁ……」
「……俺は、お前がそこまで悠李のことを愛していたのに驚きだ」
「あー、うん」
照れたように氏家は笑ったが、すぐに切なそうに微笑む。
「だけど、悠李ちゃんが好きなのは、お前なんだよなぁ……」
「……」
さしもの碧もなんと返答すべきかわからず、押し黙った。しばし考えて、言った。
「……実は、悠李がお前のことを狙っている」
「狙ってるってどういう意味?」
「スナイパーライフルで照準を合わせているということだ」
「……それ、お前の十八番じゃないの?」
氏家は疑うように碧を見たが、碧の言うことは事実だ。悠李は魔法修練ジュノ屋根の上から氏家に照準を定めている。
「お前、性格悪いよな」
「よく言われる。だが、もしお前が本気で学校を爆破しかかるなら、『悠李が狙っている』と言えば止まるかと思ってな」
「成原らしくないな。単純に、悠李ちゃんが説得役に向かないからだろ」
香坂悠李は押しに弱い。氏家も、そのことはわかっていた。
「魔術師を解放したいなら、まず、まっとうな方法で魔術師の地位を向上すべきだ。昔よりはだいぶましだが、排斥行動が続いているくらいだからな……そうか、お前たちは魔術師排斥運動を煽ることで、『魔術師が事件を起こしても仕方がない』風潮を作り出していたのか」
「その辺はよくわからないけど、たぶんそう。ご苦労なことだよね」
氏家は呆れ気味に肩をすくめた。これだけ声高に魔術師排斥を叫ばれれば、温厚な人でも少々腹が立つはずだ。腹立ちまぎれに事件を起こしても仕方がない。彼らはそう言う風潮を作り出していたのだ。
「俺は、お前のことを誰かに言うつもりはない。未遂だったからな」
碧の父は政府関係者であり、警察や自衛隊に連絡して協力を要請しようと思えばいくらでもできた。しかし、彼はそうしなかった。氏家を責めるつもりはなかった。
「……それでも、俺はたぶん、自分で自分が許せない。だから、出ていく。と思う」
絶対に成功しない脅迫計画。氏家は、その背後にいる人のことを良く知らない。氏家も精神感応系の能力が強い方だが、それを上回る認識変化魔法の使い手がいるのだ。
顔も知らない相手の思惑に、氏家は踊らされてしまった。自分で自分が情けなく、許せない。だから、もう彼女の前に姿を現す資格はないと思った。
「……そう言うと思っていた。今日、ここでお前に会ったのは必然だからな」
碧の唐突な言葉に、氏家は彼の顔を見た。夜闇にも異様に整った顔立ちが眼に入った。
「俺は、お前を止めようと思っていた。お前は、誰かに自分を止めてほしかった。あきらめがつくから。だから、俺たちは互いに互いの行動を呼んでいたはずだ。だから、今日、ここで会ったのは必然だ」
「……意識はしてなかったけど、そうかもしれない」
氏家はあっさりと認めた。誰か、自分を止めてくれる人を探して、氏家は止めてくれる人ならこうするだろうと、無意識に考えていたのかもしれない。
ただ、どうせ止めてくれるなら好きな子に止めてほしかった。まあいいけど。
「……じゃあ、もう俺は行くよ。もう会うこともないと思うけど、またな」
「待て。あと一つだけ聞かせろ」
「まだあんの?」
さすがにうんざりした様子で氏家は碧の方を振り返った。碧は不機嫌そうな氏家を気にも留めずに尋ねた。
「氏家。お前、だれが悠李を殺したか知っているか?」
「……それって、前々回のループの時の?」
「そうだ」
「……俺は、現場にいたわけではないから。でも、犯人らしき人ならわかる」
「誰だ?」
氏家が言った名前を聞き、碧は珍しくも眼を見開いた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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次は9月27日、土曜日です!




