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1月7日(月)。始業式

 年が明ければ3年生は自由登校になる。しかし、始業式には必ず出席する、と言うのが暗黙の了解で、今日が冬休み明け初の登校日、つまり始業式の日だった。何気に律儀なこの学校の3年生たちは集まりが良い。


 紗耶加や晃一郎と冬休みの報告をしていると、レイチェルと敬が連れ立ってやってきた。珍しい組み合わせだな。


「どうかしたの?」


 紗耶加が近くまで来たレイチェルと敬を見て首をかしげた。レイチェルは近くの椅子に座ると尋ねた。

「ねえ、成原君知らない? まだ登校してきてないんだけど」

 そう言われて時計を見ると、ホームルーム開始まであと15分。碧はどんなに遅くてもホームルーム開始10分前には来るので、この時間になっても現れないのは珍しい。

「香坂もいないんだ。さっき千尋を見かけたんで聞いてみたんだが、自分が家出るころには起きてたって言うし」

 寝坊とかはなさそうだな、と敬。携帯端末に連絡を入れても返信がないらしい。まあ、悠李の場合はマナーモードになっていて気付いていない可能性もあるが……。


「もしかしたら、何かに巻き込まれてるんじゃないかと思って」


 レイチェルがちらっと校門の方を見た。校門の外にはマスコミやデモ活動の参加者たちが詰めかけている。ミネルヴァ魔法学院は世界的に有名な魔法学校であり、魔術師排斥運動の矛先がこの学校に向くのは予想できた。


「……うーん。でも、あの2人なら何かに巻き込まれても大丈夫そうな気がするけどね……」


 晃一郎が首を傾げて言った。何かに巻き込まれたのではなく、2人がどこかでいちゃついている可能性もある。……うん。自分でそう思ったが、ちょっと2人がいちゃついているのは想像できない。



『魔法は自然の摂理に逆らったものである! そんな悪しきものを学ぶことを恥ずかしいとは思わないのか!』



 ひときわ大きなデモ参加者の声が聞こえ、紗耶加が透視魔法で校門の方を見て、「あっ」と声をあげた。

「成原君と悠李! 走ってきてるよ!」

 そう聞いて、恭子たちは一斉に玄関に向かった。恭子たちが玄関に着くと、ちょうど碧と悠李が駆け込んできたところだった。


「碧、ユウ! 大丈夫ですか!?」

「恭子か。どうした」

「あんたたちがなかなか来なかったから、何かに巻き込まれたんじゃないかって心配してたのよ」


 レイチェルが恭子のあとを引きつぎ、そう言った。碧は「そうか」とうなずくと一緒にやってきた悠李に向かって言う。

「お前、大丈夫か?」

 膝に手をついて息を整えていた悠李はその言葉に顔を上げ、鋭い視線で碧を睨み付けた。


「あのねぇ! いくら僕の運動神経が良くても、男の全力疾走について行けるわけないだろう!? もう少しこちらのことも考えてもらえませんかね!?」


 悠李の心からの叫びに、紗耶加が驚いたように悠李と碧を見比べている。

「……そんなものか」

「そんなものだよ!」

 そんな幼馴染2人を見ながら、恭子はひそかに、実は悠李と碧の身長はあまり変わらないはずだから、足の長さにもあまり差がないのではないか……と思った。


 しかし、並んだ2人を見て、おやっ、と思った。


 恭子の最終情報では悠李は身長174センチ、碧は身長180センチだったはずだ。つまり、身長差は6センチのはずだが、今、どう見ても10センチは身長差がある。悠李の背が縮んだとは思えないので、碧の身長が伸びたということだ。


「……」


 恭子がいつも2人を見上げていたので気づかなかったのだろうか……そう言えば、晃一郎も少し身長が伸びてるような気がする。春には悠李より明らかに小さかったが、今ではほぼ同じくらいである。


 ちゃんと、時間が過ぎているのだな、と思う。1年を繰り返すのも6度目なので、あまり実感がなかったのだが、ちゃんと観察すればこういう変化もあるのだ。






 結局、恭子たちが教室に戻ったのはホームルームが始まる直前だった。それから始業式を経てお昼だ。恭子は早速悠李と碧を捕まえた。


「それで、2人ともどうして登校するのが遅かったんですの」

「……最近、魔術師排斥運動が盛んだから、悠李を家まで迎えに行ったんだが」


 風紀委員長である千尋は朝早くに出ていくことはわかっていた。黙って立っているだけなら美人な悠李が、この魔術師にとって優しくない現状の中、1人で登校するのは危険だと判断した碧は、彼女を迎えに行ったらしい。迎えに行ったと言っても、香坂家の最寄駅で待ち合わせたそうだ。


 いつもなら碧も早めに学校に来ているが、香坂家によったためにいつもより若干、学校の最寄駅に着くのが遅くなった。今は冬なので、コートで制服は見えないが、ミネルヴァ魔法学院は東京郊外にあるため、その駅で降りるのは魔法学院の生徒だけだ。

 と言うことは、魔術師排斥運動の賛同者たちがその駅で待ち構えているのは想像できる。暇だな、運動参加者。恭子は車で登校したため、気づかなかったようだ。

 あまりに追及がしつこいので、悠李を引っ張って校内に駆け込んだらしい。さすがのデモ活動参加者も校内にまでは乗り込んでこない。法に触れるからだ。


「まさかここまで排斥運動が激化するとはな……」

「寮でも外出禁止命令が出てるのよ」


 紗耶加もうんざり気味に言った。寮ではそんなことになっているのか。

「さすがの母もあまり出歩くなって言ってたし、これは相当だね」

 悠李も苦笑気味だ。彼女の母ドクター香坂は顔が売れている。もしかしたら、彼女が母親に似ているせいで追及が激しかったのではないかとふと思った。言わないけど。

「どう考えても、この状況はおかしいわよ。誰かが背後で煽っているとしか思えないわ」

 紗耶加はそう言って、ぐいっと温かいお茶を飲んだ。恭子はちらっと初詣の時に同じ意見を言った悠李を見た。彼女は紗耶加の方を見ていた。


「紗耶加。どうしてそう思うんだい?」

「だって、この状況は異常だわ。確かに、今までも魔術師に対する抗議活動はあったけど、こんなに激しいものは初めてのはずよ。それに、今では人口の3分の2が魔力を持っているって言われて、魔法産業も日本経済を支えているのよ。それがなくなればどうなるかなんて明白だわ」


 紗耶加は一息でそれだけ言い切った。ここで少し間を置き「それに」と話しを続ける。


「こう言ってはなんだけど、魔術師は戦力だわ。魔術師を排斥すれば、日本の防衛力が落ちる……つまり、攻められたときの対抗手段が無くなるわ。みんな、そんなことも忘れてる。戦後世代の弊害ね」

「俺たちも戦後世代だけどな……」


 敬はそう言って苦笑した。だが、魔術師が日本やほかの国でも戦力の一端をなしているのは確かだ。ドクター香坂などは戦略級魔術師とすら言われる。

 だとしたら、やはり、紗耶加や悠李の言うように、魔術師排斥運動がここまで激化するのはおかしい。

「なら、彼らは何がしたいんだろうねぇ……」

 とても穏やかな口調で悠李が言った。しかし、目は笑っていない。冷静にキレるタイプの彼女は、落ち着いているときが一番怖い。


 彼らは何をしたいのか。知りたいが、知るのは怖い。


 恭子は自分があまり頭のいい方だとは思っていない。だから、考えることは他の頭のいい人たちに任せて、自分は目先の問題に取り組むことした。


 つまり、受験だ。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


私はこの話は1日区切りにしているので、話が短い場合があります。今回と、次回も短い予定です。


次は9月22日、月曜日です。

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