表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/44

1月3日(木)。初詣

 結局、悠李と碧が何を話したのかわからないまま、年を越してしまった。


 12月にはいろいろあった。もちろん、実技研修もあったし、3年生は志望校に願書を出す、と言う作業もやった。


 わかっていたが、進学先は割れた。まず、敬は魔法医科大学に進学する。

 そして、残り5人は同じミネルヴァ魔法学院大学に進学予定だが、学部学科はばらばらである。恭子は人文学部魔法史科、紗耶加は法学部法学科、晃一郎は文学部魔法言語学科。

 悠李と碧は理系で、悠李は理学部物理学科、碧は同じく理学部だが数学科だ。


 恭子にはよくわからないのだが、悠李は魔法の新理論を開発し、碧は魔法の真理に迫りたいようだ。


 この辺りはもう定番となっているのだが、この頃はめったに遭遇しない珍しい現象に遭遇していた。



 魔術師排斥運動である。



 この世界の3分の2が魔力を持ち、そのうち3分の1が魔術師だと言われている。そんな世界で魔術師を排斥すればどうなるかは明白であるはずなのに、魔術師排斥運動は年が明けても収まる気配がない。

 魔術師は自然に反する存在であり、この世に存在すべきではない。国は魔術師を優遇し、魔術を使えないものを軽んじている、と言うのが彼らの主張である。


 むしろ、魔術師は国から弾圧を受けているのだが、それを彼らは理解していないのだろうか。


 さらにタイミングが悪いことに、以前、京都に旅行に行ったときに遭遇した魔術事件の犯人が捕まった。いや、事件を起こしたものと言うよりも、裏で操っていた黒幕、と言うべきか。彼は洗脳系の魔術師だった。

 これにより、特に精神系の魔術師への風当たりが強くなった。悠李やレイチェルが気まずげなのはそのせいだ。


 よって、魔術師は最近、外出を控えている。そんな中で、恭子は初詣に出かけていた。もちろん、1人ではない。1人ではいまだに外出許可が下りないからだ。

 悠李と碧と待ち合わせ、明治神宮に出かける。他の3人は帰省中なのだ。集合場所までは車で送ってもらった。と言っても、集合場所は明治神宮前だけど。


 三が日最後の日とあって人が多い。待ち合わせ相手が見つかるか心配なところではあるが、恭子はあまり心配していなかった。何しろ、待ち合わせ相手は目立つ。

 予想通り、悠李と碧はすぐに見つかった。先に来ていた2人は並んで立っており、逆ナンにあっていた。話しかけてきた高校生くらいの女の子を碧は思いっきり無視しているが、悠李は困惑気味に誘いを断っていた。

 女の子2人があきらめたところで、恭子は2人の方に向かって行った。


「2人とも、モテますねぇ」


 恭子はにこにこと笑って2人の全身をざっと眺めた。碧は黒いコートに足元は同色のショートブーツ。悠李はベージュのコートに足元はやはりブーツ、細身のスラックスをまとい、伸びてきた髪を帽子の中にまとめてしまっていた。


 うん。これは中性的な顔立ちの少年に見える。


「一緒に来たんですか?」

「いや。僕が来たら成原がさっきの2人にナンパされてたから、割って入っただけだよ」


 悠李はからりと笑って言った。碧は憮然とした表情で悠李に言った。

「お前が女装してくればあの2人も引いてくれただろ」

「いやだよ。冬だし。寒いじゃないか」

「それはわたくしも思いますわ」


 恭子も悠李に同意した。そう言う恭子は白いコートに青のマフラー、足元は編み上げブーツでチェックの膝丈スカートをはいていた。一応、黒の厚手のタイツを履いているが、寒いものは寒い。


「……まあ、恭子が風邪を引く前に初詣を済ませてしまおうか」


 どうぞ、と悠李が笑顔で手袋に包まれた手を恭子に差し出した。恭子はその手を握って手をつなぐ。


「お前ら……まあいいか」


 碧が何かを言いかけて、止めた。何となく、碧がかわいそうな人みたいになっている感じは否めないが、真実は恭子も悠李も女なので、碧は周囲から見た状況に口をはさむのをやめたのだろう。


 まず、参拝をしてからおみくじを引いてみた。恭子は吉だった。微妙。


「ユウ、碧、何でした?」

「僕は末吉。ほら」


 うわぁ。余計微妙な人がいた! 悠李自身も微妙な表情である。


「ん」


 碧は無言でくじの方を見せてきた。それを覗き込んで、恭子も悠李も「うわぁ」という表情になる。


「わたくし、凶って初めて見ました」

「僕は昔、一度引いたことがあるけど……初詣のおみくじでも凶って存在するんだね」

「俺も初詣で引いたのは初めてだ」

「……」


 と言うことは、ほかにも凶を引いたことがあるのだろうか。恭子はそう尋ねようかと思ったが、止めておいた。と言うか、悠李も凶を引いたことがあるのか。もしかして、よく出る?


「まあ、逆に運がいいんじゃないかい? 凶なんてめったに出ないだろう?」


 あ、やっぱりあんまりでないよね。悠李の結構無理やりな慰めだが、碧はそもそもこういったものを信じていないらしい。


「わあ。一緒に天乙貴人を見た仲じゃないか。罰が当たるよ」

「悠李。お前、少し黙れ」


 完全にからかっている悠李に鋭い視線を投げかけ、碧は冷たい口調で言った。悠李は肩をすくめると、「屋台を見に行く?」と恭子に笑顔で尋ねた。恭子は笑顔でうなずきながら、悠李が本当に男だったら絶対モテたな、と思う。いや、今でもモテているか。







「あけましておめでとう」


 屋台で買ったたこ焼きを食べていると、不意に声がかかった。その声の主を見て、恭子は眼を見開く。


「あけましておめでとうございます、若菜様。お元気そうですね」

「ええ。元気いっぱいよ。悠李ちゃんは相変わらずかっこいいのね」

「まあ、僕の取柄はこれくらいですからね」


 悠李は爽やかに言い切った。


「誰だ?」


 碧が恭子に囁いた。恭子は緊張気味に口を開く。

「ええっと。今上陛下、です」

「は?」

 碧が珍しく間抜けな声を上げる。悠李は若菜とその夫である世羅を見上げながら談笑している。若菜に言われたのか、悠李が碧に若菜を紹介する。


「碧。この人は若菜様。それと、こちらが旦那さんの世羅さん。若菜様はうちの母の教え子なんだ」

「なるほど……成原碧です。よろしくお願いします」

「若菜よ。こっち夫の世羅。よろしくね、碧君」


 若菜が快活にあいさつをする横で、世羅が笑みを浮かべて丁寧に頭を下げた。おそらく、世羅の方が若菜より2歳か3歳ほど年上だと思う。たぶん。


「袖振り合うも多生の縁。一緒にお茶しない?」


 若菜に誘われ、恭子たちは近くの茶屋に入った。もちろん、天皇陛下のおごりである。っていうか、天皇ってお金を持っているのだろうか。普通、天皇は外を歩き回ったりしないからわからん。


「若菜様、公務はいいのですか?」

「大丈夫よ。もともと半日開けてもらっていたし。子供たちもお留守番」


 若菜はそう言って疑問を投げかけた悠李に笑みを向けた。若菜は2人の子持ちなのである。


「それにしても、この物騒な状況で初詣なんて、あなたたち、いい度胸してるわ。まあ、私も人のことは言えないけど」


 そう言って若菜は暖かい紅茶に口をつけた。恭子は遠慮なくムースをほおばる。

 魔術師は一見して普通の人間と変わらない。変わりがあるのは、FCUをしているか、していないか、くらいの差である。大量のFCUを身に着けている悠李も、今日は襟元がかっちり閉じ、長袖を着ているのでFCUをつけていてもわからないのである。


「まあ、魔術師排斥運動中だからと言って、ずっと引きこもっているわけにはいきませんから」


 悠李はそう言って肩をすくめた。若菜への返事はほとんど悠李が行っている。話が成立している時点で、すごいなぁ、と恭子は思っている。

「それもそうよね。私も出てきてるし」

「いや、お前は皇居でおとなしくしてろよ」

「でも、ずっと閉じこもってるのも息が詰まるしねぇ」

 夫につっこまれ、若菜はからからと笑った。この行動力、天皇にしたのは間違いとしか思えない。


「まあ、街の様子を見ておきたかったのもあるのよ。特に東京ではデモ活動も盛んでしょう? どうなってるかしらーって」


 若菜はそう言って微笑んだ。ほぼ、彼女が1人でしゃべっているような状況だが、あまり気にしていないようだ。


「で、あなたたちはこの状況をどう思う?」

「非常に居心地悪いです」

「そうじゃなくて。絶対わざとやってるでしょ、あなた」


 若菜が悠李にダメ出しする。世羅が「似てるな、お前ら」と呆れた。確かに似ているかもしれない……。とりあえず、恭子は沈黙を続行する。


「たった一か月の間に、活動が広がりすぎだとは思います。おそらく、背後でこの状況になるように煽っている人物がいるんでしょうね。特に、精神系魔術師に恨みがあるとしか思えません。あるいは」


 悠李は一度言葉を止め、手元のホットコーヒーを飲んでから、もう一度口を開いた。


「世間からはじき出された魔術師を使って、何かをしようと考えているものがいる……のかもしれません」

「さすがはドクターの娘ね。上出来」


 若菜が手をたたいて喜んだ。悠李はちょっと顔をしかめる。ちらっと碧を見てみると、彼は若菜の相手を悠李に丸投げしてすまし顔でコーヒーを飲んでいた。こいつ……。


「私の予想とほぼ同じ。と言っても、私にできることは少ないから、是非頑張って頂戴ね」

「……」


 悠李は無言で眼を細めた。基本温厚な悠李だが、彼女は怒るとかなり怖い。彼女は冷静にキレるタイプなのでよりたちが悪い。

 しかし、さすがに天皇にキレるほど非常識ではなかったらしい。会計を若菜持ちにしてもらうだけで済んだ。ぶっちゃけ、常に無表情の碧とキレた悠李に挟まれるのはきついので、悠李が怒らなかったのはありがたい。



 進行方向が同じなので、若菜と世羅の後ろを恭子たちは歩く。前の2人の背が高いので、恭子はいまいち前が見えない。いや、人が多いからかもしれないけど。


「ああっ! 泥棒!」


 女性の悲鳴が聞こえた。どうやら、白昼堂々ひったくりをした人間がいたそうだ。ひったくり犯がこちらに走ってきたので、悠李が身構える。

「俺がやる」

 碧が走るひったくり犯に手を向けた。おそらく、第1級使用制限魔法の行使者である悠李が魔法を使うと面倒になる、と思い、自分から買って出たのだと思う。

 碧が拘束魔法を使用し、ひったくり犯を拘束する。足と手を拘束されたひったくり犯は地面に転がった。悠李がひったくられたカバンを取り返し、女性に返した。


 しかし、女性は礼を言ったものの微妙な表情だ。何故だ、と思ったが最近の風評のせいだと気が付いた。最近は魔術師排斥運動が激しい。碧は明らかに魔法を使ったから、敬遠しているのかもしれない。


 もしかしたら、碧はこのことをわかっていて悠李に魔法を使わせなかったのだろうか。


 恭子はちらっと若菜と世羅を見た。世羅が若菜を捕まえていて、こちらに来られないようにしている。天皇を巻き込むのは気が引けるのでほっとした。


 恭子が周囲を見ていると、唐突に石が飛んできた。運悪く、それは碧の額にあたった。たぶん、彼なら避けられたと思うのだが、わざと避けなかったのかもしれない。


「人でなし!」


 石を投げた人物だろうか? 人が多くて確認できなかったが、誰かが叫んだ。どうしてひったくり犯を捕まえた碧が人でなしなんだ。風評被害とは恐ろしいな……。恭子は碧に走り寄った。


 ざっと野次馬を見渡した悠李が石を投げた犯人を見つけたのかそちらに向かって歩き出そうとした。


「やめろ」

「……でも」

「やめろ。面倒を起こすな」


 碧に制止され、悠李は肩をすくめてあきらめた。彼女を止めた碧の額からは血が流れていた。


 背後で魔術師排斥を煽っている人物は、何を考えているのだろう。恭子は碧の怪我を見て、唇をかんだ。







ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


年が明けてちょっと重めです。

ちなみに、天皇陛下若菜はお忍び初詣なので見つからないようにこそこそしています。


あと一か月くらいで完結する。予定。


次は9月20日、土曜日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ