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10月20日(土)。文化祭、1日目

 翌日。店番が午前中の最初の時間である恭子は、喫茶店に様変わりした教室の中で最後の確認を手伝っていた。


「よし。問題なさそうね」


 店長役の女生徒がそう言って満足そうにうなずいた。両手を腰に当てる彼女はメイド服姿だ。そう言う恭子も、隣にいる紗耶加もメイド服。メイド服と言えば、恭子はロングスカートのような気がするが、このメイド服は膝より少し長い程度だった。

 ちなみに、男子生徒はギャルソン風の服を着ている。そのため、この教室は若干混沌としていた。


 開店は10時だ。喫茶店などの飲食系の出し物の店が混むのはお昼が近くなってからである。それまでは割と暇だ。


 3‐Aの喫茶店が出すものは、お菓子などの嗜好品が多い。食事には向かないと思うのだが、昼が近づいてくると続々と人がやってきた。いわゆるうれしい忙しさと言うやつだ。恭子はオーダーをとる係で、テーブルを訪ね歩いていた。


「やあ、恭子。その格好、かわいいね」

「まあ、ユウ。来てくれたのですね」


 口調だけでだれかわかる悠李が来店していた。敬とレイチェルが一緒で、敬が女顔で悠李がハンサムであるため、まるで悠李が両手に花の様だったが、実際に両手に花なのは敬の方である。

「レイチェルはいるのに、碧はいないのですね」

「やつは今店番。執事服、似合ってるわよぉ」

 レイチェルが茶化すように言った。碧とレイチェルが所属する3‐Fは執事喫茶なので、レイチェルも執事服を着ていた。なんだかいけない番組のコスプレみたいになっている。


「それは会うのが楽しみですわ。注文は何になさいます?」


 悠李の戯言たわごともレイチェルの発言も受け流して恭子は尋ねた。だって、教室の外に列ができてきてるんだもん。早めにさばかなければ。

「じゃあ、クッキーとワッフル、あと、紅茶をもらえるかな」

「あたしはマドレーヌをよろしく。飲み物はコーヒーで」

「俺はパウンドケーキとコーヒーだな」

 3人ともこちらが忙しいのをわかっているからか、あっさりと注文を決めた。何となくおなかにたまるようなものばかりである。

 この3人には、基本、オーダー担当の恭子と、1人では持ちきれなかったので紗耶加が一緒に注文の品を運んで行った。

「お待たせしました」

「ありがとう。紗耶加も似合っているね」

 悠李が爽やかに言った。なんだか今日はいつもより歯の浮くようなセリフが多い気がする。気のせい?

「褒めても何も出ないわ……っていうか、悠李は何? それは何の格好してるの?」

 恭子はスルーしていたが、紗耶加はまじめなのでツッコミを入れた。レイチェルは執事の恰好。そして、敬は白いタキシードのような格好。ちなみに蝶ネクタイ。そして、悠李はモーニングコートにシルクハットだ。よく似合っているからつっこまなかったのだが。

「僕たちのクラスでは魔法教室をしてるんだけど」

「うん」

 紗耶加が真剣にうなずいた。


「ただ魔法教室をするだけじゃつまらないから、コスプレをすることになったんだ」

「……」

「と言うわけで、今日の僕はマッドハッターさ」


 悠李が両手を広げて芝居気たっぷりに言った。そんな様子も様になるため、ほかの女性客がちらちらと彼女に秋波を送っている。ちなみに、この学校の文化祭は、体育祭同様、生徒の身内や身分証明ができれば校内に入ることができるため、今日はこの学校の生徒でないものもいることも記しておく。


「不思議の国のアリスですか。じゃあ、ケイはなんですか?」


 恭子が敬の方を見ると、彼はコーヒーを飲んでごまかした。しかし、同じクラスの悠李がいるので意味はない。


「ケイは白ウサギ。不思議の国のアリス以外のシンデレラとか、白雪姫の恰好の子もいるよ」

「……それは文化祭と関係あるの?」

「さあ。みんな、はっちゃけたいんじゃないのかい?」


 悠李は結構適当に返答した。恭子が改めて敬を見ると、確かに首から懐中時計らしきものを下げていた。


「本当はウサ耳をつける予定だったんだよ。でも、さすがにかわいそうだったから止めたよ」

「当然だろ!? お前がつけてろよ、ウサ耳!」


 敬が顔を赤くしながら悠李に怒鳴った。悠李はからからと笑う。


「僕がしても似合わないよ。ケイの方が女顔だし」

「いいわね、ウサ耳」


 レイチェルにもそう言われ、敬はがっくりと肩を落とした。

「恭子さん。オーダー入って!」

「あ、はい。では、3人ともゆっくりして行ってくださいね」

 恭子は3人に別れを告げて違うテーブルに注文を取りに走った。紗耶加も別のテーブルで注文を取り始めた。


 3人は注目を浴びまくりながらしばらく滞在し、そして恭子たちに手を振って教室を後にした。それからしばらくして、恭子と紗耶加もシフトが終了。洗い物をしていた晃一郎も一緒に店番終了だ。


 と言うわけで、とりあえず体育館に千尋のクラスの劇を見に行った。一応、アーサー王伝説だという話は聞いていたが、それ以外は何も知らない。そう言えば、志穂も同じクラスのはず。

 ……生徒会長と風紀委員長が同じクラス。それなのに劇でアーサー王。はっちゃけたな、2‐Aと2‐B。大丈夫か?

 とはいえ、生徒会長しほはおそらく、練習する時間はなかったのだろう。裏方で照明をやっていたと、後から聞いた。副会長の亮祐も裏方だったらしい。千尋は主役のアーサー王でもないのに一番目立っていた。主役を食ってる。


「……いや、さすがは千尋っていうか」

「……目立ってたね」


 劇を見終わった晃一郎と紗耶加もそう言っていたから、恭子の勘違いではないはずだ。


 体育館では、今日は1日劇をしている。劇とライブ。明日になれば、ミスコンとかやってるみたいだけど。今日のうちに推薦を集め、推薦が多かった人物を体育館に呼んで行うらしい。恭子はミスコンをちゃんと見たことがないのでわからない。前回はレイチェルが呼ばれていた気がするけど。

 体育館を出ていつもより明らかに人が多い校内をうろつく。文化祭は中等部も合同なので、かなり一般人……と言うか、親御さんも多いのである。

 3‐Fの教室をのぞいたが、碧もレイチェルもいなかったので、隣の3‐Eに移動した。そこでは、悠李と敬が店番をしていた。そこそこ繁盛しているようだ、この魔法教室。


「あら、恭子、紗耶加、晃一郎君」


 なんと、3‐E魔法教室にはレイチェルがいた。彼女の隣には、中等部の制服を着た少女がいる。ラインが赤だから中等部2年生か。中等部は4年間なので、中等部2年は12歳から13歳の少年少女だ。しかし、その子は恭子たちとあまり変わらない年ごろに見えた。平たく言うと、大人びて見えた。


「この子、私の妹で水瀬みなせエルシア。見ての通り、ミネルヴァ魔法学院中等部の2年生よ。エルシア。私の同級生の恭子と紗耶加と晃一郎君」

「……初めまして」


 エルシアはほとんど表情を変えずに挨拶をした。碧も大概無表情だが、このエルシアはその上を行くのではないだろうか。

 顔立ちはレイチェルと似ている。栗毛に琥珀色の瞳、それに卵形の顔。しかし、表情の違いだけで、まるで人形のように見える。


「姉さん。私、そろそろ店番の時間だから」

「あら、そう。じゃあ、またあとでね」

「うん」


 エルシアは人ごみをかき分けて教室の外に出ていった。レイチェルがため息をつく。

「ごめんね。あの子、愛想のない子でさぁ」

「でも、かわいらしい子ですね」

「でしょう」


 と、レイチェルがシスコンな発言をしたとき、周囲から「おおっ」という歓声が上がった。見ると、悠李のいるあたりで光が発生していた。まだ小学生くらいの女の子に魔術を教えていたらしい悠李は、彼女に手の中に光の球を出現させることに成功したのだろう。教えかたがうまいのだろうか。


 この世界では、人口の約3分の1に魔力があり、そのうち3分の2は魔術師だと言われる。光球は魔法道具を使えば、簡単に出現させることのできる魔法である。魔法道具を使わなかったら、発火能力者くらいしかできないけど。


 恭子たちがそちらを見ていると、気づいた悠李が手を振った。そして、奥の方にいた敬に声をかける。敬も振り返り、ひきつり笑いを浮かべた。さすがにウサ耳はないが、恰好が恥ずかしいのだろう。


 魔法教室を出ると、その後は校舎をぶらぶらした。途中で碧と氏家が何か話しているのを発見したが、見るだけで声はかけなかった。


 そして、もうそろそろ今日の文化祭は終了と言う時、ミスコン委員会から放送がかかる。明日、ミスコンに参加する人の名前を公開するのだ。呼ばれた人は、明日、体育館に行かなければならない。


『と言うわけで、今年は男子のミスターコンテストも行います』


 何それ、聞いてない。でも、まあ、ミスターコンテストでもミスコンだもんね。


『では、まず、女子部門から。3‐F水瀬レイチェルさーん……』


 おお、いきなりレイチェル。それから3年生が4人、2年生が2人、1年生が1人呼ばれ、最後に

『1‐A長谷川桃さん。女子は以上です』

「……」

 思わず恭子たちは沈黙した。ここでその名が出てくるか。前回は出てきてたっけ?


『続いて男子部門です。3‐F成原碧さん』

「さすがは成原」

「うるさい」

 晃一郎のつぶやきに、碧はすかさずツッコミを入れた。

『3‐C氏家透馬さん』

 この辺りも呼ばれて当然。そして、三年最後に何故か、

『3‐E香坂悠李さん』

 そっち!? そっちなの!? ミスコン違いだ!


 そう思ったが、女生徒の黄色い声があがっているからいいのだろうか……いや、やっぱりよくないだろう。あれでも悠李は女だ。


 男子の方は3年生5人(悠李含む)、2年生3人(千尋含む)、1年生1人となった。いや、でも謎なのが悠李だ。千尋も入っているので、あの2人の顔がみんなの好みなのかな?


 あと、マッド・ハッタ―のコスプレも関係あるのかな。この学校の生徒でなければ、彼女が『彼女』であると気付けないであろう恰好ではあった。


「……明日は波乱の予感ですわね」

「まさかの成原君VS悠李」


 これには紗耶加も驚いたようで、少々意味不明なことをつぶやいたのだった。




ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


文化祭はふざけすぎました。ちょっと反省してる。


次は9月6日、土曜日です。

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