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9月2日(日)。魔法人形運用試験【1】

 恭子はその日、悠李の父・瑛一えいいちから呼び出されていた。香坂家へ行くと、何故か碧もそこにいた。


「恭子。お前も呼ばれたのか」

「ということは碧も呼ばれたのですか? 何故でしょう?」

「知らん」


 碧が首を左右に振った。そこに、瑛一と悠李、千尋が出てきた。瑛一は50前後の年齢のはずだが、とてもそうは見えない。精悍な面差しで、いまだに魔法戦に優れた戦士だ。悠李と千尋は父親ではなく、母親に似ているが、長兄の真幸は父親似だ。


「待たせたな。2人にちょっと付き合ってほしいことがあってなー」


 瑛一はニコリと笑うと、手招きして恭子たちを車に乗せた。瑛一は自分でハンドルを握る。


「どこに連れて行かれるんですか?」


 恭子が不安げに尋ねると、恭子を挟んで後部座席に座っている悠李と千尋の姉弟はそろって首をかしげた。

「親父のやつ、俺らにも教えてくれないんだぜ」

「何となく、ろくでもないようなことのような気がするけどね」

 精神系魔法を得意とする悠李の勘はかなり信頼できるため、恭子はこっそりため息をついた。体調がいいからと、出てくるべきではなかったかもしれない。



 連れて行かれたのは、自衛隊基地の一つだった。例によって場所は教えられないらしいが、大規模な魔法戦闘訓練場がしつらえられていた。通された場所は、市街地戦を想定したと思われる訓練場に面した司令室だった。大きなガラスの向こうに市街地を模した空間が見え、司令室にはたくさんのモニターが並び、6人のオペレーターが座っている。


「ああ。遅かったわね。あなたたちが最後よ」


 聞き覚えのある声に振り返ると、ドクター香坂がいた。何だ。香坂家のほとんどが巻き込まれているのに、子供たちが何も知らないってどういうこと。


「……おい、香坂。今度は何に巻き込んでくれたんだ」

「何言ってるんだい。僕の『ドリームメーカー』じゃないよ。そうならもう少し趣味のいい夢にしているよ」


 今ので通じる2人もすごいけどね。と、恭子は碧と悠李をちらっと見た。

「まあ、全員そろったところで、説明でもしましょうか。おーい」

 ドクター香坂が少し離れたところにいる集団を手招きした。寄ってきた男女は総勢10名。全員、恭子たちより年上だろう。そのうち半数くらいはかなり体格が良いので、もしかしたら自衛官かもしれない。

「お互いの自己紹介は後でね。まず、みんなにやってもらいたいことを説明するから」

 そう言って、ドクター香坂はモニターにデータを一つ表示した。人間のデータのように見えるが、違うようだ。


「これは日本政府が開発した、『魔術使用を目的として作られた人工生命体』、通称・MMBドールです」


 何それ。MMBって何の略? つっこみたいところはいろいろあったが、ひとまず我慢した。


「今回は、このMMBドールの戦闘データを取るために、皆さんに来てもらいました」

「……つまり、俺達にこのMMBドールってのと戦えと?」

 1人の青年が言った。自衛官には見えないから、学生かもしれない。

「そうです。もちろん、断ってくれても構いません」

 全員がお互いの顔を見渡した。そして、強くうなずいた。

「やらせてください」

「日本防衛大学魔法科学生の名に懸けて、負けられませんね」

「世界のミネルヴァ魔法大学の名を汚すわけにはいきません」


 真剣な表情で彼らは言った。どうやら、全員学生だった様子。防衛大学魔法科学生と、ミネルヴァ魔法大学の学生を引っ張ってきたらしい。体格がいい人が、防衛大学の学生かな。


「悠李たちはどうする? 嫌なら断ってくれればいいし」


 ドクター香坂は自分の子供と恭子、碧を見渡して言った。恭子たちは目を合わせる。みんな不安げな表情だった。

「……母さん。一ついいかな」

「何かしら」

「このMMBドールは社会倫理に反すると思うんだけど。僕たちと戦わせるってことは、対魔術師を想定して作られた、ということだよね。データを見る限り、バイオロイドに近いと思うから一応の言い訳は通ると思うけど、自分で考える力がある以上、人間とそう変わらないんじゃない? そんな存在を、人工的に、しかも戦闘を行うためだけに作ったの?」


 倫理的なところをつかれて、恭子は一瞬ぽかんとした。千尋に至っては完全に口が開いている。彼は真剣な表情でつっこみを入れた姉の横顔を見ていた。

 ドクター香坂は娘のツッコミにひるむことなく、言った。


「勘違いしないでほしいのは、これは私が作ったわけではないということよ。確かに、生体工学は私の専門分野と言っても差し支えないわ。でも、こんな非人道的な開発は行わないわよ」


 非人道的な魔法を行使できるドクター香坂に沿う反論され、悠李は「すまなかったよ」と肩をすくめた。

「もう一ついいかい?」

「まだあるの?」

「うん。僕は機械とは相性が悪いんだけど、戦ったら死んだりしないかな」

「……大丈夫よ」

 その間が気になるんですけど。恭子も思わず尻込みしたとき、瑛一が笑って言った。

「大丈夫だ。真幸は1人で3体を軽く吹っ飛ばしていたからな」

「……」

 それ、安心できないから。恭子たちはそう思ったが、大学生たちは、『1人で3体倒せるなら何とかなる』と考えたようだ。女学生の1人が言った。


「不安ならやめておけば? 子どもには刺激が強すぎるかもよぉ」


 馬鹿にした口調で言われ、恭子はむっとしたが、碧が肩に手を置いて止めた。

「ドクター。俺はやります。香坂……っと、悠李と千尋も、いいな?」

「もちろん」

「いいぜ」

 悠李は笑顔で、千尋は自信満々に答えた。ドクター香坂が恭子の方を見る。

「恭子ちゃんはどうする?」

 恭子は碧、悠李、千尋の順に顔を見た。碧は無表情だし、香坂姉弟はにこにこ笑っている。


「……わたくしは、とりあえず見ていることにします。みんなの足を引っ張りたくないですし」


 威力だけなら恭子がもっともあるが、ここは市街地戦を想定している。恭子の能力ではビル街を吹っ飛ばしてしまう可能性があった。

 話し合って、まず防衛大学の学生たちが対戦してみることにした。3対3でMMBドールと対戦する。こちらは真剣、銃弾を使用するが、あちらの武器は模擬剣で飛び道具は使用しない。

 戦闘状況は司令室のモニターで見られる。音声は聞くことができるが、訓練場の中にいる彼らと会話はできない。


藤堂とうどう速水はやみ工藤くどう。準備はいいか?」

『大丈夫です』


 代表格らしい藤堂が答えるのが聞こえた。そのままゴーサインが出る。


 唐突に、ビルが崩壊するほどの轟音が聞こえた。実際に、ビルが一つ倒壊した。

「振動魔法だな」

 碧が冷静に言った。振動魔法を使って大地を震動させたらしい。大胆だが、MMBドールの一体の信号が消滅した。すげぇ。


 さすがは防衛大学の自衛官候補というか、10分程度で殲滅された。さすがは戦闘魔法のスペシャリスト養成学校の学生だ。

「うーん。やはり自衛官と自衛官候補では相手にならんか」

 瑛一が苦笑気味に言った。まあ、防衛大学の魔法科学生は、対魔術師を想定して訓練を受けてるもんね。続いて、魔法大学の学生が訓練場に入った。防衛大学の学生は、3人とも剣を持って訓練場に入ったが、魔法大学の学生は3人のうち2人が魔法道具の銃を持っていた。


 どうやら、剣を持つ1人が先行しておとりを務め、他2人が放出魔法で仕留めるつもりだったらしいが。

大川おおかわ! 右に行ったぞ!』

『わかってる!』

『大川! 宮部みやべ! こっち……きゃぁっ!』


 あ、紅一点だった女学生が倒された。気を失ったらそれ以上、追撃しないようにプログラムされていたらしく、その女生徒(確か細山ほそやまという名のはず)は放置された。後で回収するのだろう。

「うーん。一般人には十分脅威になりうるか……」

 瑛一が戦闘を見ながら言った。確かにまあ、魔法大学の学生は、魔法を学ぶために大学に行ったのであって、戦闘方法を学んでいるわけではない。だから、戦闘用魔法人形であるMMBドールに勝てなくても仕方がない。


「政府はこれを戦力として投入するかもしれないわね」


 ドクター香坂がため息をつきながら言った。いわく、『道徳観念はしっかりしている』らしいドクター香坂はこの戦闘用魔法人形が気に入らないようだ。


「まあ、一般の魔術師相手にこれだけ戦えれば、戦力として不足はないと思いますが……やはり、人口生命体ですから、バグった時が怖いですね」


 藤堂が苦笑気味に言った。訓練場で戦っている大川と宮部は奮闘している。しかし、2対3はなかなか厳しいものがあると思う。


 結局、大川と宮部が協力してMMBドールを一体倒したところで1時間の制限時間が過ぎた。細山を回収して2人は戻ってくる。

「くそっ。行けると思ったのに」

 吐き捨てる宮部に、防衛大学の学生たちは苦笑気味だ。防衛大学の学生五人の中に女学生が1人いるのだが、彼女が言った。

「まあ、戦闘訓練を受けてない魔術師にしては上出来だと思うわよ」

 とりあえず、2人で1体は倒せることはわかったしね。防衛大学の女学生、名前は松井まついだったか? 彼女が碧たちの方を見た。


「あなたたち、高校生よね? 危ないと思うけど、やるの? 魔法大学の学生でも一体倒すのがやっとだったのよ」


 本気で心配している口調で言われたが、高校生組はそれでも行くようだ。


「悠李。魔法人形と相性は悪いだろうが、大丈夫か?」

「平気だよ。君が狙撃してくれるならね」

「そうそう。頼むから俺らに当てないでくれよ」


 碧の確認に、悠李と千尋は自信ありげに答えた。どこから来るの、この姉弟の自信は。


 どうやら、この3人は悠李と千尋が陽動、碧が狙撃で行くようだ。


 3人が同じ保護魔法陣の織り込まれた戦闘服を着ると、悠李がかなり細身であることがわかる。まず、肩幅がない。どんなに中性的な顔立ちをしていても、やっぱり女の子だなぁと思う。戦闘に行かない恭子が現実逃避をしている妙な状況だった。


「ほら、碧。魔法狙撃銃だ」


 瑛一が碧に狙撃銃を差し出した。司令室には銃型の魔法道具がいくつか置いてあったが、狙撃銃型はなかったのだ。碧は渡された狙撃銃を眺める。

「サザーランド狙撃銃ですか。使ったことはないですけど、大丈夫だと思います」

「いつも碧って何の狙撃銃使ってるんですか?」

 恭子が何気なく尋ねると、碧はかけていた眼鏡を外して言った。

「ロシアのエレミン狙撃銃だな。魔法耐性が強く、壊れにくい」

 選ぶ点はそこなのか。恭子は肩をすくめた。言われてもわからなかった。


 一方の悠李と千尋は真剣を持っている。さらに、悠李は拳銃もホルスターに収めた。

「千尋はいらないかい?」

「俺は放出魔法が使えるからな」

 悠李の問いに千尋はそう言って真剣だけを手にぶら下げていた。訓練場に降りていく3人に、恭子は声をかけた。

「怪我しない程度に頑張ってくださいね」

 碧は目を細め、悠李はふっと微笑み、千尋は不敵に笑って訓練場に降りて行った。

「……大丈夫なのかしら、あの子たち」

 松井が心配そうに言った。まあ、普通はそんな反応になるが、恭子はあの3人なら何とかしてしまうような、そんな気がした。




ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


MMBドールについては特に正式名称を考えずにつけました(←)

『魔法使用を目的とした人口生命体』が正式名称になると思います。だから、Making Mgic bioroidになるかなぁ。もうすでに意味のない単語の羅列……しかも、バイオロイドの意味違う。


次は8月23日土曜日です。戦闘シーン、頑張る!

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