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7月30日(月)。夏季休業前日

 まず、7月に入ると高等部全体での魔法実技研修が行われた。1年生から3年生まで合同で、夏学期の中間評価のための実技研修になる。流れとしては、3年のみで行った6月の魔法実技研修と同じだ。


 それが終わると、7月中旬には一週間かけて中間筆記試験が行われた。ミネルヴァ魔法学院高等部の成績は、実技と筆記合わせての評価になる。各学年とも総合成績上位50人の名前が張り出される。


 3年生のトップは不動の3‐F成原碧だ。恭子の記憶が確かなら、彼が学年1位から落ちたことはない。その後を僅差で2位3‐A九條紗耶加と3位3‐C氏家透馬が追う。少し離されて4位が3‐E香坂悠李、5位同じく3‐E瀬那敬だ。

 ちなみに、3‐A鷺ノ宮恭子は今回9位。危なかった。ぎりぎり10位以内だ。いつもならもう少し上位にいるのだが、どうも実技の成績が良くなかったようだ。魔力が強いほど実技の評価が上がるのは仕方のないことではあるが、ちゃんと魔法を発動するまでの技術なども評価してもらえる。体が弱く、魔法使用に制限のある恭子はいつも技術点をもらっていたのだが、今回は技術点がよくなかったと思われる。

 他、3‐A篠崎晃一郎が8位、3‐F水瀬レイチェルは27位だった。


 これが筆記のみ、実技のみになると少々順番が代わってくるのは仕方のない話だろう。


 筆記のみだと紗耶加がぶっちぎりの1位。ほぼ満点だ。その後を、少し離されて2位碧、3位氏家、4位敬が追っている。その後をさらに離されて、5位悠李、8位に晃一郎、9位に恭子だ。


 そして実技のみだと、上位3人、碧、悠李、氏家がほぼ三つ巴。その後に敬、紗耶加、晃一郎などが続き、恭子は彼らに少し離されている。


 2年生では、1位は2‐A三上志穂だった。2‐A香坂千尋が3位、2‐Bの梶亮祐は15位だった。香坂姉弟は2人とも順位が微妙である。ちなみに、千尋は実技ではぶっちぎりだったらしい。現在の3年生のレベルが高いので、2年生が少し劣るように見えるのは仕方のない話だろう。


 1年生は1‐Cの村川章平が総合成1一位だったようだ。入学してすぐのころ、彼と喧嘩をした1‐C黒部幸弘は5位。従姉妹同士の高崎家は、1‐Aの絢音が7位、1‐Cの花奈が12位だった。なかなかの好成績と言えるだろう。




 そして、今日は夏休み前日。生徒会役員はたびたび学校に出てこなければならないだろうが、明日からは夏休み、夏季休業だ。何故7月31日、しかも火曜日から夏休みに入るのかはいまいちよくわからない。

「もう夏休みですか……休みが明けて1か月くらいで任期満了ですよね?」

 尋ねたのは2年生のしっかり者、志穂だ。碧がうなずく。

「ああ。10月からは新規生徒会始動だな。その前に役員選挙、引継ぎがあるが」

 その引継ぎが面倒くさいのだが、そのあたりは今考えないようにしておく。恭子は生徒会役員に名を連ねてはいるが、何か役職があるわけではないから。


 すでに引継ぎ書類を作っているのが会計の悠李だ。彼女は何故か機械類担当になることが多いのだが、先ほどからコンピューターに向かってものすごい速さでキーを打っている。いつもの笑顔はなく、かなり真剣な表情だ。そっとしておこう。

「俺と三上なら、三上が会長だな。俺は副会長で」

「……まあいいけど」

 亮祐の調子のいい言葉に、志穂は少々動揺しながらもうなずいた。志穂は成績2年生1位だし、不足ないだろう。意外と要領のいい亮祐が副会長なら、うまく志穂を補佐できるはずだ。


 この学校の生徒会役員は立候補制だ。立候補制と言っても、先生やその時の生徒会役員に、『やらないか』と声をかけられることもある。というか、自主的に立候補するものよりも声をかけられて生徒会に入るものの方が多い。つまり、生徒会役員選挙は選挙ではなく、信任投票となる。

「志穂、亮祐、頑張ってくださいね……そう言えば、風紀委員の方はどうなるのでしょうか」

「風紀委員の方は、千尋君に委員長をやってもらうってケイ君が言ってたよ」

「なるほど。千尋なら大丈夫そうですね」

 紗耶加の返答に恭子は納得した。空回り気味の千尋だが、おさえるところはおさえてくるので大丈夫だろう。ちなみに、風紀委員長は、前委員長による指名制だ。現在の委員長の敬も、前委員長に指名されたことになる。


 そして、その風紀委員だが、現在校内見回り中だ。夏休み前最後の登校日なので、羽目を外す馬鹿が時々いるのだ。そういうのを取り締まっているため、風紀委員は出払っていた。


 生徒会役員選挙やその引継ぎ作業もそうだが、夏休み明けには体育祭というイベントが控えている。体育祭、つまり運動会だが、この学校では2日に分けて行われる。1日目が通常の身体能力の身による競技。2日目が魔法使用による競技だ。


 この魔法競技の準備が面倒くさいのだ。何が面倒かというと、人によって出られる競技と出られない競技が存在するのである。


 人によって魔力量が違うのだから、魔法技術に差が出るのは当然だ。それは身体能力もそうだが、魔法は身体能力以上に埋められない差が存在する。魔法には『運』要素が存在しないのだ。


 例えば、運動魔法が得意な悠李や千尋、氏家などは運動魔法で勝敗が決まるような競技には出られない。競技の中には射撃が必要なものもあるが、それには射撃魔法の申し子と言える碧は出場不可能だった。


 あくまで体育祭はイベントであり、勝敗を競うものではない、という建前だからだ。魔法を競うなら実技研修で競え、との事らしい。


 というわけで、だれがどの競技に参加できて、どの競技に参加できないのか確認しなければならない。教師陣もやってくれるが、生徒会でも把握しておかなければならない。体育祭は生徒会主催だからだ。

 体育祭は現在の生徒会最後のイベントになる。みんな気合が入ろうというものだ。

「香坂」

「なんだい?」

「引継ぎ資料の作成が終わったら、体育祭の競技資料を作ってくれ」

「ん、了解。もう少しかか、ぉわっ!?」

 ポンポンと碧と会話していた悠李だが、妙な声をあげた。突然停電したのである。電力事情が安定している近年では珍しい現象だが、全くないわけではない。おそらく、暑くなってきたのでいろんなところでクーラーや冷蔵庫などがフル稼働され、一時的に電力消費量が供給量を上回ったのだろう。

「悠李、バックアップ取った?」

「……途中までならね……」

「……ええっと」

 自分で聞いたのだが、思ったより深刻な事態に、紗耶加は悠李になんと言えばいいのかわからなくなったようだ。思ったよりがっくりしている悠李に、恭子はマグカップのウーロン茶を差し出した。いくら電気が止まっているとはいえ、冷蔵庫の中はまだ冷えている。


 みんなでお茶を飲んでいると、パッと電気がついた。どうやら自家発電に切り替わったようだ。最近の建物には、自家発電がついていることが多い。この学校もそうだ。


 パソコンも復旧したが、悠李ががっくりしたところを見ると、どうやらデータは復旧しなかったらしい。彼女はまたカタカタとキーを打ちはじめた。あまり引きずらないのが彼女のいいところではある。根に持つことはあるけど。

「……今の停電、何だったんでしょうか」

 志穂が首をかしげた。他のメンバーも首をかしげざるを得ない。何故停電したかわからないからだ。

「俺も常に遠隔透視魔法を使っているわけではないからな……おそらく、どこかの配線が切れたとかじゃないか? 地域全体が停電したわけではなさそうだし」

 携帯端末でこの学校周辺の情報を検索していた碧が言った。ということは、校内で何かあったのだろう。碧が言うように、配線が切れたか、恭子が考えたように一度の電気使用量が配電量を上回った可能性が高い。

「会長って意外と適当ですよね」

「停電しても、生徒会の仕事に特に影響はないからな」

「ちょっとそこ。僕の立場は?」

 亮祐と碧の気の抜けた会話に、パソコンに向かっていた悠李がツッコミを入れた。彼女はまたデータが飛ぶような事態になっても大丈夫なように、携帯端末と記憶媒体メモリーをパソコンにつなげてバックアップを取っていた。どうでもいいけど、その携帯端末。悠李自身のものではないのか? いいのか、それは。



 この後、碧の言葉にツッコミを入れた悠李があっさりと引継ぎデータを作ってしまい、さらにすぐに配電が復旧したため、この停電事件は特に話題に上らなかった。




 しかし、数日後に学校に呼び出された恭子たちは、驚きの事実を知ることになった。





ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


バックアップは大事だと実感する今日この頃。

だんだん、日付が追い付いてきました……。あと3回くらいで追い越す予定。


次は8月9日、土曜日です。

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