強欲Ⅰ
「強欲=欲深い・欲張り」と解釈しました。
時代設定は一応江戸時代。
若衆歌舞伎(江戸時代の美少年でやる歌舞伎のこと)がネタです。
この時代の一人称・二人称がイマイチわからず、苦労しました。
軽いBLです。
苦手な方はご注意ください。
「どうだった? 初めての感想は?」
暗闇に揺らめく行灯の灯。芝居がはねた後の君の部屋。ふぬけてうつ伏せになったままの自分の耳元に熱い吐息がふりかかる。
「すごく……良かった……」
躰が動かない。下半身の甘い痛みと、全身にまとわりつく軽い倦怠感に酔いしれる。
「声……すげえ可愛かったぜ」
……君は意地悪だ。心地よくまどろんでいた自分はその言葉ですっかり目が覚めた。顔が熱く火照っていくのがわかる。夜具から顏を引きはがして見上げると、紅の残る濡れて艶めく唇が眼前にあった。
「うわっ……何だ……!」
仕返しとばかりにその美味しそうな唇にむしゃぶりつく。引きしまった薄い筋肉に覆われた剥き出しの白い肩を掴むとぴくりと反応する。君を驚かすことができてなんだか少し嬉しい。まだまだ慣れない下手な口づけだけど、教えてもらった通りになんとか頑張ってみる。甘く香る唇を割って舌を挿し込むと待ってましたとばかりに熱い舌に絡め取られてしまう。
「まって……おねが……」
君からの逆襲が激しくて、自分の息はもう絶え絶え。やっぱり百戦錬磨の君には敵わない。
「ふん、あまっちょろいお武家の若様。まだまだ、おれには勝てないよ」
鼻で軽く笑われた。やっと唇を離してくれたと思ったら、優しく顎を掴まれ顏を引き寄せられる。少女みたいに細くて長い指はとても滑らかで、そのまま顎を優しく撫でられるとまるで猫になった気分だ。
化粧はすっかり落ちているはずなのに、相変わらずの美少女ぶり。きめ細かい肌、長い睫毛、伏し目がちの眸は切れあがってじっと見つめられると心まで見透かされているようで少し怖い。同じ男の自分から見てもため息が出るほど綺麗な君。誰もが憧れる若衆歌舞伎の花形。まさか君とこんなことになるなんてどうして想像できたろう?
「何? おれの顏に何かついてる?」
とても男のものとは思えない漆黒の艶やかな髪。解けて乱れて頬に肩に流れ張り付く姿は自分には刺激が強すぎる。ずっと見ていても飽くことはない。一瞬ごとに新たな美しさを発見して惚れ惚れする。そんな呆けた自分をとがめることなく、顎を支えていた君の指がそっと移動して今度は頬を優しく撫でてくれる。
ちょうど一年前。
悪友たちに連れられて興味本位に入った若衆歌舞伎の芝居小屋。名のある武家の長男として育った自分はそんないかがわしい場所に出入りすることはもちろん初めてだった。悪友の中にはすでに吉原に通いつめている奴もいて、「男」になったことを自慢する奴もいた。その時自分は十五。そういうことに興味が無いわけじゃないけど、まだまだ先のことだと思っていた。悪友たちには堅物と呼ばれ、彼等は自分をどうにかしてそっちの遊びに連れ込もうと半ば躍起になっていた。もちろん皆武家の跡取り息子として連綿と続く窮屈な生活の退屈しのぎだと充分知ってはいたけれど。
だから自分も一回限りという約束でつきあうことに決めた。だけどさすがに吉原はお金がかかる。我が家は武家といえどもそんなに裕福ではない。ましてほんの子供の自分が女を買うための道楽に費やすような余分な金などあるわけがない。だから女絡みが無く害のなさそうな、それでいて巷で流行っているという若衆歌舞伎というものを見物してみようと思った。提案すると、悪友達も興味津々。それならばということで自分達は人気の一座を選んで芝居小屋に足を踏み入れたんだ。
そして、そこに君がいた。
あの時の衝撃を決して忘れない。
豪奢な着物を纏って優雅に舞う乙女。扇を優雅に捌いて科をつくって観客に流し目を送る……そんな君の艶やかな姿に自分は目を瞠った。
まさかあれが男だなんて!
それは罠だったんだ。甘くて危険な、一度堕ちたら二度と這い上がることができない君という妖艶な罠。それに自分の心はいとも簡単に鮮やかに絡め取られてしまったんだ。
ある朝目が覚めて思いついた話。
BLっぽいものは初めて書きました。
時代の雰囲気がお伝えできればいいのですが…。
お読みくださり、ありがとうございました。