第七話 詭弁
「ざ、残念だったな! ノーカンだ! このゲームは無効だぁっ!」
絶望の淵に突き落とされたはずの地下室に、突如として怒鳴り声が響き渡った。
声の主は、三人のクズ親の中で一番年上の男だった。
彼は顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら、勝ち誇ったように下劣な笑い声を上げている。
「……は?」
私は冷ややかな視線を男に向けた。
「今回のデスゲームのルールを忘れたのか!? 『負けた”一人の親”が全部の借金を肩代わりする』ルールだ! お前が親で流し満貫をアガったってことは、俺たち三人の娘は全員4000点ずつのマイナス! つまり全くの同点だ!」
「そ、そうだ! 同点なら単独の最下位は決められない!」
「敗者が決定しなかったんだから、条件不成立だ! このゲームは無効だ、無効ぉぉっ!!」
男の苦し紛れの屁理屈(詭弁)に、他の二人のクズ親もハッとして顔を上げ、同調し始めた。
娘たちも「そうよ、引き分けよ!」と安堵の声を上げる。
自分の仕掛けた悪辣なイカサマで自爆したというのに、ルールの穴を突いてゲームそのものをなかったことにしようとする醜い大人たち。
そのあまりの見苦しさに、私は吐き気すら覚えた。
(本当に、救いようのないクズね)
普通ならここで「ふざけるな」と激昂するところだろう。
後ろにいる私の父親などは「そ、そんな理不尽な!」と涙目で抗議している。
「悪いけど、そんな詭弁に付き合う義理はないわ」
私が毅然とした態度で言い放つと、部屋の奥で静観していた債権者――このデスゲームの主催者である裏社会の男が、面白そうに口を開いた。
「いや、親父たちの言うことにも一理ある。ルールはルールだ」
「ほら見ろ! 主催者が言ってるんだ、ノーカンだノーカン!」
男たちが勝ち誇ったように騒ぎ立てる中、主催者はニヤリと笑って私を見た。
「それに……あの極限状態から勝利を手にするお嬢ちゃんの戦いぶり、もっと見てみたくなったんでね」
主催者の言葉は絶対だ。
これ以上、私が拒否することは許されない。
私は小さくため息をつき、氷のように冷たい声で彼らの狂騒を断ち切った。
「――一つ、条件があるわ」
「あぁ? なんだよ、往生際が悪いな」
「次もまた三人同点になったとして、『同点だからノーカンだ』なんて見苦しい言い訳は二度としないこと。三人同点負けでも、きっちり敗北を認めて借金を背負う。それを約束するなら、なかったことにして続けてあげる」
私の思いがけない提案に、三人のクズ親たちは顔を見合わせ、やがて腹を抱えて下劣な嘲笑を漏らした。
「ハッ、いいだろう! 約束してやるよ!」
彼らがこの条件をあっさり飲んだのには理由がある。 次回の二局目、私の席は北家(子)へと移る。
つまり、他の三人は東家(親)、南家、西家となるのだ。
麻雀の点数計算において、親と子では点数の支払いや受け取り額が異なる。
誰かがアガれば、親と子で支払う点数に必ず差が生まれ、『東・南・西の三人が全く同じ点数で負ける』などということは、事実上ほぼあり得ない。
(今度こそお前の一人負けが確定するんだ。そんな約束、したところで意味はねえ)
彼らのそんな浅ましい思考が透けて見えたが、私は何も言わず、ただ静かに頷いた。
きっとあいつらはまたイカサマを仕掛けてくる。
私は覚悟を決め、ゲーム再開の合図を待った。




