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界変のアルテントロピー  作者: 芳蓮蔵
第一章 異能変
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開幕《Followed by clouds》⑦

 選抜対抗試合が団体戦と個人戦に分かれているのには理由がある。


 まず彼ら殊能者の目指すべき軍隊(みらい)は、ウイングズのような戦闘に特化した部隊であれ、警備や災害救助を目的とした部隊であれ、必ず少数ないし多数の編成による団体行動が主である。その為彼らに求められるのは、単純な殊能の強さよりも連携戦術への理解度や実践効果なのであった。


 しかしその一方で単独戦闘に特化した殊能は、団体戦のルールでは長所を存分に発揮できないことがある。神堂クレトの『ウルズの刻』のように敵味方を問わず影響を及ぼす殊能や、朱宮ホノカの『スルトの火』のようにそもそも直接攻撃にしか使えない殊能などがそれに当たり、チームワークを重視する団体戦や、選手の安全性を考慮せざるを得ない種目にはそぐわない能力であった。とは云え、真に強力な顕現名帯者ネームドは往々にしてそんな特性であり、彼らが十二分に実力を発揮出来る種目が必要であるということは明らかである。そこで近年、団体戦とは別にこの個人戦が設けられたのであった。


 今回行われる個人戦の形式は、競技用に装備を変更(カスタマイズ)されたアーマードとの、市街エリアにおける1対1の模擬戦闘。平地エリア付近に設けられた観覧席からその様子を確認することは出来ないので、観客は会場に設置された大型のライブモニターでその戦いを観ることになる。


 そして対人戦闘ではないが故に殊能の使用に関して一切の制限は無く、運営委員会が取り決めたルールでは、対戦するアーマードの完全破壊すら容認していた。


アーマード(あんな高価な物)を壊してもいいって、運営も太っ腹だよなー」とヒロ。


 個人戦の手続きを終えて戻ったリコが、破壊可(その意図)を説明する。


「この競技で使うアーマードはー、KW9という型式(シリーズ)でぇ、本来は殊能者による暴動の鎮圧やゲリラ戦を想定して作られてるんですよぉ? つまりちょっとやそっとの殊能(攻撃)なんかじゃあ、まず壊れる心配はないんですよー」


「なるほどぉー」と、リコの物真似をしながら頷くヒロ。


「なのでむしろぉ、一人でアーマードを破壊できるような殊能者が見つかるなら、アーマードの1体ぐらい惜しくはない、とゆーことなんですねぇ」


 そんなやり取りが観覧席で行われるうちに――個人戦に出場する第一校のクレト、コノエ、ホノカの三人は、他校の選手と一緒に演習場の市街エリアへと移っていた。


(ここが市街エリア……)


 初めてこのエリアに足を踏み入れるのはホノカが、緊張気味にその景色を見渡す――。


 市街エリアはRC構造(鉄筋コンクリート)の建物が立ち並ぶ、文字通り市街地を再現した演習区域である。そこで行われる個人戦は、ゲリラ戦を主とする殊能者の部隊にとっては最も実戦に近い形式であると云えた。建物はほとんどが2階から4階程度だが、中には重量鉄骨造の10階を超えるビルすらもあった。再現と云っても建物に意匠性は無く、壁はコンクリートの打ち放しで、看板や内装の類は施されていない。ガラスなども嵌められておらず、窓は単なる四角い穴でしかない。それでも商店やオフィス、モールや住宅といった間取りや構造自体は現実に則して設計されている為、建物の存在が要となる訓練には充分な場所であった。


 そして今回主戦場(フィールド)となるのは、その市街エリアの中では比較的開けた、目抜き通りである。


「では皆さん、装備の確認をしてください」


 大会実行委員が皆に促すと、生徒達はそれぞれ自身の装備をチェックする。基本装備は団体戦と同じ、全身を包むバトルスーツとフェイスモニター搭載のヘルメットである。それに加えて防弾ベストと、肩、肘、膝、脛に強化樹脂素材のプロテクター。


 銃器は選手・アーマードともにペイント弾の仕様だが、選手が使う銃は中距離突撃銃(アサルトライフル)の他に、汎用短機関銃(サブマシンガン)遠距離狙撃銃(スナイパーライフル)も選択肢としてあった。ペイント弾は選手に対しては団体戦と同じ様に擬似ダメージがあるが、アーマードに対して損害は与えられない。その代わり各所に設置されたカメラとドローンの映像を解析して、着弾地点や射角から即座に実ダメージに相当する局部的な機能停止処処理が行われるのである。つまりペイント弾のみでも精確で効果的な射撃を充分に行えば、理論的には無力化が可能ということになる。そのメイン装備以外にも全員がハンドガンか、己の殊能を活かせる刀剣類か鈍器類の携行が許されていた――第一校からは、唯一クレトのみが刀の使用を申請していた。それはクロエがアルテントロピーによって複製強化した、名刀『守堂神威(もりどかむい)』である。


「では準備が整いましたら、国際殊能学院高校の選手から開始します」


 実行委員の指示に従って殊能学院のトップバッターがフィールドに入ると、間もなく個人戦が開始された。



 ***



 ――巨大な虫が羽を震わせる様な音を鳴らして、アーマードの単身機関砲(チェーンガン)が火花を噴いた。夥しい弾幕が殊能学院の選手を袋小路へと追い詰める。


「クソッ!」


 逃げ場が無い事を悟った彼が振り返ると、無機質で威圧的な鉄の巨人(4メートル)のシルエット――。土埃の色をしたアーマードは、胸から上が分厚い円盤状で、頭部は無い。胴体が人体と比べると細く奥行きがあるため、正面からだとT字型にも見える。そのT字の両肩から真下に二の腕が伸び、肘から先がチェーンガンになっているのである。肘とは云っても球体状の関節である為、その可動域は人間を遥かに超えて広い。胴の真ん中には投射擲弾(グレネード)用の発射筒。更に上部は一部が切り離し可能で、偵察用のドローンとして機能する。下半身は人体に近い構造の二脚だが、強度と安定性を確保する為に短く鈍重である。


 しかし歩行速度がそれほど速くないとは云え、その圧倒的な威容は生身の人間がいざ対峙してみると、物理的な圧力を錯覚させるほど強烈であった。


「くっっそおおああぁっ!」


 追い詰められた選手が右手で抱えたアサルトライフルを乱射しながら、左手で炎の殊能を発動――アーマードの胴体正面のカメラ前に小さな爆発を起こすと、素早くアーマードの横を摺り抜けた。しかし彼が袋小路から飛び出した瞬間、目の前をドローンが塞いだ。


「――っ!?」


 彼に対処する間も与えずに、ドローンは無線の高圧電流銃(スタンガン)を射出――電流を受けた選手は、為す術も無くその場に崩れ落ちた。市街エリアに終了のブザーが鳴り響き、ドローンがフワフワとアーマードの上部に戻って合体すると、アーマードは殆ど無傷に近い状態で停止する。


 そしてすぐに数人の係員がフィールドに入り、選手を起こしたり、アーマードのメンテナンスを始めた――その様子をモニターで観ていたヒロが呆れた様に言う。


「おいおい、これで全員アウトだぜ?」


 殊能学院から始まり第三校へと続いた個人戦は、これまでの6人全員が戦闘続行不能による試合終了となっていた。


「でもぉ皆さん頑張ってると思いますけどねー?」とリコ。


 射撃の命中だけでもポイントにはなるのでリタイアと云えども全員が失格やゼロ点ということではなかったが、それでも去年の個人戦の動画と見比べると確実に難易度が上がっている、というのが彼女の感想であった。


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