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界変のアルテントロピー  作者: 芳蓮蔵
第一章 異能変
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勇者《Ignorance》③

 モンスターとの決戦開始から8時間余――太陽が徐々に紅めいてきた頃。戦況は数の不利をものともしない勇者ユウらの活躍により、開幕当初の勢いそのままに人間側へと大きく傾いていた。


 丘のあちこちにはモンスターのみならず人間や馬の屍もが累々としていたが、モンスター達の死骸は既に半数近くが白骨化していた。絶命したモンスターは己の魔力の残滓に肉体を蝕まれ、急速に腐敗する為である。


 そして戦闘は開幕時の大規模なぶつかり合いから、丘の広範囲に散開した小人数同士の競り合いへと変化しつつあり、そうなってくると一層、個人としての戦闘能力が抜きん出た勇者ユウの戦いっぷりは際立っていた。


「はああぁッ!」


 銀髪の少年――勇者ユウが雷を帯びた白銀の剣を振るうと、巨大な巨人鬼(トロール)の体は真っ二つとなり、黒焦げた斬り口を晒しながら倒れ、小人鬼(ゴブリン)達の白骨を圧砕した。そしてそのユウの異常な強さを前にして、闘争本能が強いさしものモンスター達も次第に戦意を失いつつあった。


「勝機だぞ! 一気に押し込めぇぇいッ!」


 それを好機とみた将軍レグノイの号令で、散開していた人間の兵士達は一丸となる。彼らの被害も決して少なくはなかったが、依然士気の衰えぬ精鋭兵士らの攻勢に、弱腰のモンスター達は次々と呑み込まれていった。


「――ユウ!」


 その波に徒歩で付いていこうとするユウを、レンゾが認め声を上げた。開戦から今だ剣を休めることのない勇者の許に、魔法で敵を蹴散らしながらレンゾが駆け寄る。


「無理しすぎだよ流石に。魔力もロクに残ってないじゃないか」


「だ……大丈夫、まだ――やれるよ……」


 ユウは肩で息をしながら、ガキンッと剣を地面に突き立てるとそれに体重を預けた。それでもよろけるユウの肩を慌ててレンゾが支える。


「どこが大丈夫なんだか……。もうここの勝敗は決したも同然だ。あとは兵士達(みんな)に任せればいい。それに――」


 レンゾは遠くの岩山――最終目標(災厄の竜)の根城がある方角に目を凝らす。


「本当の戦いはこれからなんだから。ここで力を使い果たすわけにはいかないよ? 僕らは真の敵――災厄竜ガァラムギーナを倒さなくちゃいけない」


 レンゾが真面目な顔でそう諭すと、ユウは涸れた息を漏らしながら頷いた。


「うん……解ってる」


「じゃあ一旦退いて。レグノイも呼び戻すから。体制を立て直してから――そう長くは休めないけど、怪我は治さなくちゃ」



 ***



 ――王国軍陣営、戦の喧騒が遠退いた後方の天幕。


 鎧を脱いだユウが椅子に腰を掛けると、二人の魔法医が掌に浮かび上がる淡い緑色の魔法陣を、ユウの身体中に付けられた傷にそっと押し当てた。出血がすぐに止まり、やがて傷そのものが小さくなっていく――。


 そこへ、天幕の垂れ布を上げて巨躯の戦士レグノイが徐に入ってきた。


「無事か、ユウ」


「うん、大した怪我じゃないよ」


「そうか……。勝敗は決したな。こちらの被害も決して少なくはないが」


 そそくさと侍従武官が、モンスターの返り血で塗れたレグノイの鎧の留め金を外そうとすると、彼は「このままでいい」と手で制した。そして剣帯だけを侍従に渡して、用意された椅子にドカリと腰を下ろす。


「残党狩りの指揮は副官に任せてきた。残るは彼の竜――ガァラムギーナだけだが、奴は死んだモンスターの魔力すら己のものとすると云われている。これだけの軍勢の魔力が奴に還ってしまえば、恐らく勝つのは難しいだろう。連戦になるが攻めるなら今しかあるまい」


「覚悟の上だよ」とユウ。


 すると彼に回復魔法を掛けながらレンゾが応える。


「まあ20万体以上(あれだけの数の)モンスターに強化魔法を施しているんだから、ガァラムギーナも相当疲弊している――とは思いたいけどね」


 レグノイは「そうだな」と頷いて、侍従が差し出した水を一気に飲み干した。魔法によって傷が癒え、活力を取り戻したユウは再び鎧をその身に纏う。


「いけそうかい?」とレンゾ。


 コクリと頷いたユウは、剣帯に付けた鞘から白銀の剣を引き抜き、それを見た。あれだけ酷使しても尚、刃こぼれ一つしていない鏡の様な刃――そこに写る自身と目が合う。


 4年前この剣と魔法の世界(アーマンティル)で目覚めた自分――。何ひとつ持たずにこの世界に現れた気弱な少年(じぶん)は、今や新たな伝説を紡ぐ者となったのである。


(死んでいった皆の為にも――)


 ユウが歩んできた冒険はたった4年間の短い物語ではあったものの、ここに辿り着くまでの代償は大きく、彼にしてみれば果てなく長い旅路であった。


(災厄の竜ガァラムギーナを倒し……世界を護る……)


 その唯一の目的、そして己の軌跡に想いを馳せながら、ユウは自答するかのようにもう一度しっかりと頷いた。


「行こう。――最後の決着をつけに」

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TEAPOTノベルス
想実堂のD2C出版プラットフォーム『TEAPOTノベルス』
― 新着の感想 ―
[良い点] 感想を書かせていただきます! 初っぱなからクライマックスですね!災厄の竜を倒すことは出来るのか。続けて読ませていただきます!
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