27th shot
『巨人族だとォ!?』
驚くザクトラスの思念が広がるが、この事実は変わらない。
その巨人族の男は雄叫びを上げた後、近くの木へ寄って行き、まるで玩具を持ち上げるように、木を引き抜いた。
ここらの木はドラゴニュートですら住めるほど高く太いのに、だ。
直径数m、高さ数十m。そんな巨木を奴は軽く手に取り、そして軽く振って扱いやすいようにへし折る。
それによってかなり太い、巨人仕様の十数mの槍が完成した。
皆が絶句するなか、テレパスによって指示を出したのはクォーツニュートだった。
『皆様、飛ぶのですぞ!!
飛んでしまえば一斉に殺されることはありませんな!!』
その鶴の一声に、どんどんドラゴニュートは宙を舞い、エルフもまた風魔法で空をホバリングしていた。
そんなドラゴニュート達をうざったく感じたのか巨人の男は槍を思いきり振り払った。
それだけで周りの木々がしなり、踏み込みによっていくらかの人間が死ぬ。
しかし振られる槍はそれだけで風を纏い、故に空飛ぶドラゴニュート達は風圧に吹き飛ばされることはあっても打ち落とされることはなかった。
『んん、奴は巨人の種族特徴である怪力を引き継いでいるのですぞ!
故に見た目以上に力があるのですな!!
背丈こそ大きい人程度ですが、その力はオリジナルにすら近いと考えていいですぞ!!
つまるところ、巨人があのサイズまで圧縮されたと考えるのが妥当ですぞ!!』
『『『な……』』』
絶句。それが今の現状を的確に表す言葉だった。しかしクォーツニュートの言い様は諦めていないように聞こえる。
『しかしながら耐久力は巨人のそれとは比べるべくもなく!
故に空飛ぶドラゴニュート殿達とエルフのお嬢さんで遠隔攻撃を加えつつ、黒いの殿の秘密兵器を使えば確実に倒せますぞ!!』
『何故、そう言い切レル?』
聞かざるを得なかった。
しかし返ってきたのは予想外の答えだった。
『我輩は巨人討伐作戦に参加したことがあるのですぞ!
伊達に450年、生きてはいませんからな!!』
『『『ハ?』』』
また皆が絶句した。その年齢が定かならばドラゴニュート族の長老レベルになる。
『そんなに疑問に思うのなら、生還した後で長老にでも聞けばいいのですな!!
天を衝く大災害と言えば分かる筈ですぞ!!』
『ハァ!?』
僕はつい声もとい思念を上げてしまったが天を衝く大災害と言えば僕が両親に寝物語に聞かされたものだ。
つまり奴はいわゆる英雄というやつではないのか。
『とにかく!!!
黒いの殿以外は全員巨人族の末裔を引き付けるのですぞ!!』
『『り、了解!!』』
過去が凄まじいほどのリーダーシップとなってクォーツニュートの指示は説得力を持つようになった。
そのおかげか彼の指示でドラゴニュートで奴の被害を被る者はいない。
肌が死を思わせる灰色の巨人の男はそれに怒ったのか、地団駄を踏み、足元近くにいる賊共を踏みつぶして殺していく。
その衝撃すらももしかしたらクォーツニュートの計算の内だったのかもしれない。
彼が現れてからドワーフに掘られたと思われる落とし穴に、巨人は落ちたのだ。
といっても膝までしか埋まらないのだが。
しかしそこまで背が落ちればザクトラスと同じ目線の高さとなる。
ザクトラスは羽を使って飛翔すると、その勢いのまま両手斧を振り下ろした。それに対して巨人は槍を使って攻撃を阻むが、即座にザクトラスは斧を手放した。
そして羽を使って地面に急降下するとそのまま腰を落として拳の乱打を何発も巨人の腹に見舞う。
それからとんぼ返りのようにザクトラスがバックステップと共に羽を使って後ろに下がると、ザクトラスが居た場所に巨槍が叩きつけられた。
そんな攻防の最中、僕はカスタムでエルフの時と同じ様に20mmを撃てるように整えると、さらに地面に固定するのに用いる、固定部が三股に分かれている一本足を追加する。
なるべく早く相棒を召喚し、地に固定していくが、しかしその間も巨人の大暴れは止まらない。何度も大槍を振り回して、当てることは叶わなくとも吹き飛ばすことでドラゴニュート達を地へ落としているのだ。
『さテ、射撃準備は整ッタ』
正直言って、このようなバケモノの引き金など引きたくはない。例え地面に固定していようともその衝撃は凄まじいことだろう。僕の断片的な記憶は不完全ながら、しかしそんなものは使うなと僕に囁く。
しかし、撃たない選択肢などないのだ。
オークの襲撃の時もこんな心境だったな。
そう僕は自嘲しながら、相棒に体重をかけていく。
すると、目の前に青髪が広がった。
「ライフルマン、アンタ一人じゃ、前みたいに倒れちゃうんでしょ?」
「私達も手伝おう。何せ、私達はパーティだろう?」
「そうです!
どうせやるなら一緒、です!」
相棒の銃身をクロエが支え、僕の背中をシャルルが押さえ、そしてそのシャルルと背中合わせにドミニクが足の力で踏ん張っていてくれている。
「【ターゲットスプリット=【ストレングスインクリース】【エンデュランスインクリース】】」
ドミニクの詠唱に、僕達パーティに付与魔法がかけられたのが分かった。
「後悔、スルナヨ」
「ああ」
「うん」
「勿論です!」
僕は狙いを絞り、巨人でも腹部の、鳩尾部分を狙う。なるべく筋肉量のないところを狙った結果だ。
息を吸い込み、ゾーンに入る。
空を舞うエルフやドラゴニュートがスローに動き、その中僕は巨人の男の急所を狙う。
そしてザクトラスが射線から退き、僕の相棒の銃口先に障害物がなくなった瞬間、僕は短くテレパスで皆に伝える。
『イクヨ』
僕は体当たりする感覚で思いっきり銃に体重をかけ、そのまま引き金を引いた。
瞬間地面に固定する一本足が軋む音と共に、僕に衝撃が加わる。しかし今は支えてくれる人間がいて、付与魔法をかけられていて、ライフルも地面に固定しているのだ。
こんな条件で甘いことは吐けない。そう強く意識し、腹部に力を込め、リコイルを受けきった。
無論作用反作用の法則から分かる通り、僕が受けきった分強力な威力を保持する弾丸は気流も風向きも無視してただ一直線に巨人の腹へ向かう。
巨人とてこの速度に反応できるはずもなく、その榴弾は確実に奴の腹にめり込んだ。
そして少し皮膚と肉を破ってから、炸裂。轟音が周囲に鳴り響く。
しかし巨人に倒れるような仕草は見受けられないし、多少腹回りは焼け焦げ腹も抉れてはいるが、まだまだ余力は残しているようだった。
まだ、射撃を続ける必要がある。
しかし華奢なクロエではその衝撃に耐えられなかったようだ。後部に吹っ飛んでいったが、今のチャンスを逃せば巨人は僕を潰しにくるだろう。
落とし穴にはまって機動力を失い、ドラゴニュートに注意が引きつけられている今しか奴を仕留められるタイミングは無いのだ。
僕はまた引き金を握り込む。
またそのエネルギー量の塊は着弾し、炸裂するが、しかし同地点に当てたはずなのに、巨人は倒れる雰囲気を出さない。
こちらはもう衝撃で全身の触覚やら痛覚やらがおかしくなってきているのにだ。しかも今度の射撃でシャルルとドミニクも飛ばされていった。
『もう少し、もう少しですぞ!
生体反応が弱ってきているのですな!!』
そのクォーツニュートのテレパスに悪寒を感じ、バッとスコープから目を離し巨人を見やると、奴はこちらに向けてその巨槍を投げんと振りかぶっているようだった。
どうやらドラゴニュート達はヘイト稼ぎに失敗したようだ。
僕はそう悟ると、巨槍を打ち落とす準備を整えようとした。
瞬間、ザクトラスがその振りかぶられている槍を急降下からのテイルスイングで吹き飛ばす。
そんな奴の顔にはニヤリとした笑みが浮かんでいて、奴の意志がテレパスを介さずとも伝わってきた。
――やれ!
「アア、勿論サ」
僕はもう一人だ。支えてくれるパーティは全員衝撃に耐えきれなかった。
しかし、そんなことにはすでに慣れている。僕はずっと一人だった。それが冒険者を始めて、随分と縁故が増えただけの話なのだ。
僕は再度相棒に身を任せると、トリガーを引いた。
もう、躊躇する必要もない。
その衝撃に僕でさえも吹き飛びそうになるが、そうすると銃身を抑えている右手がズレて弾丸の軌道がブレるので全力で耐える。
歯を食いしばり、しかしその隙間から胃液を吐き出しながら、僕は相棒を制御しきった。
それに応えるかに愚直に直進する弾丸は、そのまま誰にも邪魔だてされることなく巨人の胸に吸い込まれ、そして爆ぜた。
度重なる炸裂に流石の耐久力も限界が来たのか、最後の爆発によって巨人の腹には貫通した穴が開き、呼吸や発声もままならないようだ。
そしてとどめだと、グレートアックスを拾い直したザクトラスはその巨人の男の首を刈った。
『これで本当に、作戦は終了だ』
ザクトラスのその意識は、受け取る者の胸からこぼれるほどに感慨に溢れていた。