第八話 閃雷VS火炎(後編)
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沈黙に満ちたスタジアムの中央、僕とガオンは当初指定されていた位置に立ち、対峙していた。
「……よろしいのですか、クロー選手? ガオン選手? 試合時間は残り十分程しかありませんよ?」
「別にいいよ?」
「それでも……やらせてくれ!」
「……了承しました」
二人のその反応を見た審判が、ゆっくりと肯く。
「それでは、試合の準備はいいですか?」
「僕はいつでも」
「分かりました。……ガオン選手は?」
「俺は……試合前に、クローに聞きたいことがある」
「ん、何かな?」
その言葉を聞いた僕は、審判に目配せをした後、ガオンの方をゆっくりと見る。
ガオンは、僕の目を真っ直ぐに見つめながら質問をしてきた。
「……クロー。お前には“夢”ってあるか?」
「? 確かに“夢”はあるけど……それがどうかしたの?」
「……俺には。魔人たちを殲滅して、戦争を終わらせるって“夢”があった」
「……“あった”ってことは、今は違うんでしょ?」
「あぁ。クローが俺にいろいろと教えてくれたおかげで、その“夢”がついさっき潰れちまった」
「それは、ごめん」
「謝らなくていいさ、むしろ感謝してぇくらいなんだから。俺はお前のおかげで、自分がどれだけ無知だったのか、あの魔人の女子にどれだけ迷惑を掛けたのかが分かったからな。停学処分だって、甘んじて受けるつもりさ」
「そう、それはとても良かった」
ガオンの言葉を聞いた僕は、にっこりと彼に笑いかける。
それを見たガオンも、ぎこちなく僕に笑みを返してくれた。
その様子を見た審判が、ガオンに聞く。
「それでは、ガオン選手。準備はよろしいですか」
「あぁ。……いや、最後に一つだけ、クローに質問させてくれ」
「……了承しました」
審判の了承を得たガオンは、僕に最後の質問をした。
「その、クロー。差し支えがなければでいいんだが……お前の“夢”を教えてくれないか?」
当初の印象とは全く逆の、控えめなその問いに、しかし僕は曖昧な笑みで返す。
「んー……秘密ってことで」
「そうか……それじゃ仕方ない。この話はこれまでだ」
その言葉を聞いた僕は、一瞬残念そうな表情をした後、苦笑してそう言う。
そして──、
「なら、改めて──“火炎の支配者”ガオン・鋼鱗・リザードマン、神刃 クロー殿に勝負を挑む!」
彼が取ったのは、引き抜いた長剣を肩に乗せながら胸に手を当てる。レッドテイル王国の最敬礼。
それを見た僕は、苦笑しながら心の中で考える。
ガオンはここまでしてくれているし、観客をずっと僕の話に付き合わせたんだ。
だから……久々に“二つ名”を名乗って相手に答えるのも、悪くないだろう、と。
僕は、自然体で立ったまま相手を指差すと、少し恰好をつけながら言った。
「──“閃雷”神刃 クロー、喜んでお相手仕る!」
直後、沈黙を保っていた観客席から爆発的に歓声が上がる。
それを見た二人は、揃って審判にアイコンタクトを送る。
それに気付いた審判は、一回大きく肯いた後、大声で言った。
「それでは……試合再開っ!!」
『燃やし尽くせ、“火炎波”!』
『“雷光靴”、スタート!』
審判の掛け声と同時、二人は揃って魔法を発動していた。
僕は、迫り来る火炎の波を“雷光靴”を使って避ける。
もちろん、ガオンにとってこれは二度破られた攻撃。これで終わりではない。
『燃やし尽くせ、“豪炎球”!』
ガオンは、上空にいる僕に向かって直径1メートルの火炎球を打ち出してくる。
流石の僕も、“雷光靴”の効果では空中での回避が不能と思っての判断だろう。
その判断は決して間違っていなく、むしろ正解以外の何者でもない。
が──、
『“絶攻雷”、スタート!』
僕の右手の魔法陣から出現した雷の巨槍が、こちらに向かってくる火炎球を打ち落とす。
着地。
直後、息つくも暇なくガオンが魔法陣を展開させる。
『燃やし尽くせ、“火炎波”!』
再び地面から沸き上がる炎の波。
どうやら、空中にジャンプした所を狙う作戦を、続行するつもりらしい。
「だったら……」
僕は、迫り来る“火炎波”を見据えながら、その場にしゃがみ込む。
「なっ!?」
流石にこの行動は予期していなかったのか、ガオンが驚いて声を出す。
しかし、僕はそれを無視してじっとしゃがみ続ける。
そして、ついに“火炎波”が僕を呑み込もうとした瞬間――、
『“絶攻雷”、スタート!』
――右手の魔法陣から現れた雷が眼前の炎の壁にぶつかり、その衝撃で、そこに人一人が余裕で通れる大穴を開けた。
穴越しに、ガオンの驚愕の表情が見える。
そう。
この魔法は相手の逃げ道を塞ぐ強力な魔法だが、同時に、相手の行動の目隠しになるデメリットがある。
だからこそ、今のように突拍子もない行動を取ると、相手は即座に反応が出来ない。
僕は、ガオンが硬直している隙を見逃すワケもなく、クラウチングスタートの要領で穴から飛び出す。
『も、燃やし尽くせ、“火炎連弾”!』
一瞬の後、正気に戻ったガオンが咄嗟に、用意していた魔法を発現させる。
それは、三十発にもなる、ソフトボール大の火炎球。
それを見た僕は、背中に冷や汗が流れるのを感じる。
あんなの……方向転換が難しい空中だったら、“絶攻雷”でも迎撃しきれずに、まともに喰らっていた。
……が、地上であるここなら話は違う。
「よっ、と!」
僕は地面を強く蹴って、大きく右に跳ぶ。
“雷光靴”で跳躍力を上げていたおかげで、難無く“火炎連弾”の回避に成功した。
「くっ!」
「行くよっ!」
僕は、顔を顰るガオンにそう言うと、フィールドを強く蹴って、彼我の距離を一気に詰める。
「くそっ! それなら……」
ガオンは魔法陣の展開が間に合わないと悟ったのか、腰に差していた長剣を引き抜き、正眼に構える。
けど……この試合で、その剣の出番はないよ。
僕は、心の中でガオンにそう言うと、右手に魔法陣を展開させる。
それは、回避用の“雷光靴”でもなく、攻防兼用の“絶攻雷”でもない、僕の二つ名の由来となった最後の“切り札”――、
『――“烈煌閃雷”、スタート!』
その言葉とともに魔法陣から現れたのは、ソフトボール大の雷の球。
――その正体は、閃光弾。
「ぐっ、うわぁぁあ!」
その強烈な光に目を焼かれたガオンが、苦痛で悲鳴を上げる。
そして僕はその隙に、“雷光靴”を纏った足で、ガオンの手から剣を蹴り飛ばし、腰から引き抜いたナイフを彼の喉にそっと当てる。
三度、観客席に満ちる沈黙。
「あ、う……」
時間が経ち、ガオンの視力も徐々に戻ってくる。
だが、彼は視力を完全に取り戻すと同時に、自分の喉にナイフが当たってることが分かったようで
「……そうか」
と、ただ一言だけ悲しげに呟いた。
そして、それを見た僕は――
「……気が変わったよ」
「え?」
「教えてあげるよ、僕の“夢”」
「っ!?」
――ガオンに微笑みながら言った。
「僕の“夢”は、純人・亜人と魔人間の戦争を早く終わらせて、“ファンタジア”をもう一度、三種族が仲良く暮らせる平和な世界にすることだよ」
「へ……?」
その言葉を聞いたガオンは――、
「……ぷっ、アハハハッ!」
――突然、大声で笑い始めた。
「アハッ、やっぱり僕の“夢”って変?」
「変、って言うより面白いな。少なくとも、俺はこんな大口叩くやつを、初めて見た」
僕が少し苦笑しながらそう聞くと、ガオンは笑いながらそう答える。
そして――、
「けど……」
「けど?」
「けど、お前なら実現しても不思議じゃない、って思ってる」
「そう……ありがとう!」
その言葉を聞いた僕は、ガオンの首からナイフを話し、代わりに手を差し延べる。
「! ……いいのか?」
「もちろん」
僕のその言葉を聞いたガオンは怖ず怖ずと、しかししっかりと僕の手を握り返してくる。
それを見た審判が叫んだ。
「――勝者、神刃 クロー!!!」
次の瞬間、この日最大の歓声が、観客席から上がった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
前書きでも申し上げましたが、先日10000PVを突破しました!
これらは、全て皆さんのおかげです。
本当にありがとうございました!
感想、アドバイス等、いつでもお待ちしています。
それでは、次回“試合の後に(仮題)”をお楽しみに。
以上、現野 イビツでした。