第二十二話 放課後の三人?
何か最近、ガオンくんの扱いが酷いなぁ……って自分でも思います。
放課後。
僕と彩那、ハノンちゃんとガオンくんみたいな何かの四人は、エクシリオン魔導学園の南側に位置する学園街エリアに来たのだが……、
(自分で言っておいてなんだけど……アレだね。ガオンくん“みたいな何か”って、何なんだろうね? 数え方が人であってるか分からないし)
(……いや、クロー様? 気にするトコロは、そこなんですか?)
(……え? 他にどこを気にしろと?)
(いや、あるでしょ一杯! 例えば、一旦私服に着替えた筈のガオン様が、何故かまたボロボロになっているトコロとか!)
(……やめてよ、アパ。知らぬが仏って言葉を、貝塚くんが死んだ魚のような目をしながら教えてくれたんだから)
(……魚人ですもんね、彼)
僕と、相変わらず鞄の中にいるアパは、小声でそまで交わした後、どちらからともなく口を閉ざす。
……この話題を続けた所で、僕達二人に何の得もないどころか、下手したら命の危険だってありそうだと悟ったから、自然とお互いに目を逸らし始めたのだ(と言っても、アパは鞄の中にいたが)。
そのまま二人の間に、重く苦しい沈黙が漂い始める。
……が、その時、前を行く彩那とハノンちゃんが、僕に向かって声を掛けてきた。
「ねぇ、クロー。学生街エリアに遊びに来たのは、結構久し振りだよね?」
「うん、まぁ、そうだね」
「ねぇ、神刃くん。今日は、とっても楽しみですね」
「うん、まぁ、そうだね」
「ねぇ、クロー。こうやって、私の私服を見るのも久し振りでしょ?」
「うん、まぁ、そうだね」
「ねぇ、神刃くん。さっきから思っていたんですけど、この三人の中で制服なのって、クローくんだけですよね」
「……うん、まぁ、そうだね」
……今、ハノンちゃんは三人って言ったよね?
……うん、気にしないことにしよう。
「僕が制服なのは、アレだよ。僕は学園の寮で暮らす君達と違って、この国の皇都である“シュルテンリヒト”にあるから、三十分で家に帰って着替えてまた集合ってワケには行かなかったから」
「へー、神刃くんって、王都の方に住んでいたんだ? やっぱり、ラインヴァイス城の近くに住んでるの?」
「いや……、王都の東端──学園に近い辺りに住んでてね。まぁ、それでも朝は結構忙しいんだけど」
「あー……、吟声の森があるもんね」
「まぁ、そういうことだよ、彩那」
僕は、軽く頷きながら彩那の問いに答える。
ここ──エクシリオン魔導学園は、皇都“シュルテンリヒト”から東に約2km程しか離れていない場所にある学校で、実は皇都にも近い国最大のエリート校なのである。
が、ここにいる生徒の多くは、皇都に住むことをせず、学生街エリアにある寮で生活するものが多い。
何故なら、この学園と皇都の間には、吟声の森と呼ばれる魔獣と高確率で遭遇する危険地帯が存在するからだ。
もちろん、皇都に隣り合っているこの森が整備されていない何てことは無いが、吟声の森には道が四本しか存在しない上、その全てが安全地帯を選んでいるがために、長く捩れた道となっている。
そのため、朝はとても忙しい学生達は、わざわざ朝に慌てないように、留学生が多いために設備が整った寮の方に引越す、というワケである。
というか、僕みたいにわざわざ通学するような学生は、皇都の東側に住んでいる人達くらいだろう。
……ちなみに、僕が実家であるラインヴァイス城ではなく、普通の民家に住んでいるのは、一般人のフリをするためと、学校に遅刻しないようにするためである。
それでも偶に寝坊をして、こっそり空を飛んで登校するコトはあるけど。
「ねぇ、クロー。今度また遊びに言っていい? 久々にアパさんやカーサさんに会いたいし」
「アパさんとカーサさん、ですか?」
「……あぁ、ハノンちゃんはあったことが無かったよね」
「あのね、ハノンちゃん。実はクローのお父さんって、何でもこの国でそれなりに偉い人らしくてね」
「そうなんですか?」
「うん、まぁ、そうだね」
黒龍皇だとは、口が裂けても言えないけど。
「で、なんだけど」
「うん」
「実は、そのお父さんの部下の人の内何人かが、クローの世話とかをしててね。アパさんって言うのは、クローの家に住み込みで働いてるメイドさんで、カーサさんって言うのはクローの家庭教師さんで──」
「何いっ!? クローの家にメイドさんがいるだボガァッ!?」
「「ガオンくん、煩い」」
……見てない。
一瞬復活してガオンくんが二人に鞄で殴られて、即座に沈黙したトコロなんて、僕は絶対に見ていない──!
(最近、現実逃避をする回数が増えましたね、クロー様?)
(……ストレスを溜めないようにするのが、僕の最近のポリシーでね)
僕は鞄の中にいるアパに小声でそう言うと、この気まずい空気を払拭するために話題を変えることにする。
「で、でさ、二人とも。今日はドコに行くの?」
「え、あ、うん、そうね……。どっかで甘いモノでも食べたいんだけど……。ハノンちゃん、どこかいいお店知ってる?」
「え、あ、実は私、一度言って見たいお店があって……」
「それって、ドコ?」
「えと……、苺のタルトが有名なお店でね。そこのお店を食べてみたいなーって……」
ハノンちゃんは恥ずかしそうにそこまで言うと、もじもじしながら僕達に聞いた。
「“メイデン・カフェ”って言うんだけど……知ってる?」
……。
………………。
………………………………。
『“雷光靴”、スタ──』
『響き渡れ、“閃光鎖”』
「って、彩那!?」
ハノンちゃんの言葉を聞いた次の瞬間、“雷光靴”を使ってその場を逃げ出そうとした僕を、彩那が先制した放った光の鎖で捕まえる。
「………………え?」
「ちょっ!? クローも風紀委員ちゃんも、一体何を……」
あまりにも突然な僕達の行動に、ハノンちゃんとガオンくんらしきものが驚いたような声を出す。
……が、残念ながら、今の僕にはそんなことを気にしている余裕はない。
僕は、“閃光鎖”に縛られたまま、何とか必死に彩那に懇願する。
「お、お願いだから! 離してょ、彩那! アソコ以外なら、どこにでも連れて行くから!!」
「いーや! ハノンちゃんも行きたいって言ってるんだし、久々に言ってみようよ」
「い、嫌だっ! 僕は、もう二度とあの店に近寄らないって、心に誓ったんだ!!」
「えー、いいじゃない。ちょうど、今日は撮影用クリスタルも持ってきてるし、出来ればあの姿を見たいなぁ……って」
「た、助けてガオンくんっ!! 今度女の子に折檻されていたら、二分くらいなら庇ってあげるから! だから助けて、ガオンくん!」
「ほーら、クローは暴れない、暴れない」
「お願いだから、許してよ、彩那っ! あの店に言ったら僕は──」
『響き渡れ、“声消”』
「──! ──────! ────────────!!」
「はいはい、クロー。いい加減諦めて、メイデン・カフェに行こうね♪」
語尾に音符を付けて、チャームポイントであるサイドテールを揺らして、そしてとびきり満面の笑みを浮かべて、歓喜の感情を全身で表現しながら、僕を鎖で引き摺っていく彩那。
抵抗をしようにも、声を消されているために詠唱どころか抗議も出来ない。
成す術がないことを悟った僕は、眼鏡の淵に涙を光らせながら、がっくりと項垂れる。
ハノンちゃんとガオンくんは、そんな僕達を最後まで呆然と見ていたが、彩那と僕の姿が見えなくなる直前に我に返り、慌てて僕達を追い始める様子が視界の端に入っていた。
──こうして僕達は、僕の心に深い傷を刻み付けた悪魔の店に行くことになったのだ……。
さて、いきなりですが、次回予告!
いつぞや作者の活動報告で書かれていたクローへの罰が下されます(!?)。
詳細は雑談バトンで!
次回、“メイデン・カフェでの日常会話?”をお楽しみに!
以上、誰か挿絵を描いてくれないかなあと最近思っている現野 イビツでした。