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黒龍皇の血統  作者: 現野 イビツ
虹色の巫女と金眼の悪魔
18/26

第十七話 蝙蝠襲来(4)

今回は、ついにあの人が登場します!

蝙蝠編は、これを含めて後三話程です。

「私の狙いは……時間稼ぎだよ」


私のその言葉を聞いた瞬間、ハノンちゃんは大きく目を見開いた。

「時間、稼ぎ……?」

「うん、そうだよ」

ハノンちゃんのその問いに、私はしっかりと肯き返す。

確かに、私達三人じゃあの合成獣キメラに“勝つ”ことは不可能に近い。

けど、“負けない”だけなら、私達だけでも出来る可能性がある。

だからこそ、私は四つの選択肢の中から、この答えを選んだのだ。

が、しかし──、

「あ、彩那ちゃん? 時間稼ぎって……大丈夫なの?」

──ハノンちゃんは、どことなく不安そうにそう聞いてきた。

それもその筈、時間稼ぎという戦法は、“時間が経つと戦況が変わる”ことを前提として戦うモノだ。

じゃないと、時間を稼ぐ意味なんて存在しない。

だから、それを理解しているハノンちゃんは、私にそう質問をしたんだろう。

しかし、それでも私はハノンちゃんにしっかりと肯き、そして聞いてみた。

「ねぇ、ハノンちゃん。何か忘れてない?」

「え? 白鏡さん、それってどいうこと……?」

「……ここって、今は貸し切り中なんだよね。クロー・・・に」

「あぁっ!? それって……」

「そう」

何が言いたいか気付いたであろうハノンちゃんに、しっかりと頷きながら私は言う。


「少なくとも、後十分以内には、風紀委員かクローが絶対に来る! だから、それまで何とか持ちこたえるの!」




それからの三人は、見事と言うべき連携で、すぐに態勢を整え始めた。

『焼き尽くせ! “火炎波フレイムウェーブ!』

「ありがとう、ガオンくん! ハノンちゃん、急いでガオンくんの後ろに……あ、いや、出来ればそこの剣を一つ取って来て!」

「分かった! ……え? でも、どんな剣を?」

「ガオンくんが使ってるのと同じヤツを!」

「えっと……これでいい?」

「うん、それでいいよ」

私は、ガオンくんの後ろに回り込みながら、ハノンちゃんから剣を受け取る。

すると、ハノンちゃんは少し首を傾げながら聞いてきた。

「あの……白鏡さん? それ、どうするつもり?」

「え? ……あぁ! ハノンちゃんは知らないよね」

「? 何のこと?」

「えと、まぁ、見てて」

私はそう言うと、躊躇無く左手の人差し指にその剣を滑らせる。

「あっ!?」

ハノンちゃんが驚いた声を上げるが時既に遅く、その剣に私の血液が流れ始める。


その刃と、刀身に走る真紅の刻印・・に。


それを見た私は、少し狼狽しているハノンちゃんを尻目に、“詠唱”を始めた。


『“風紀委員”彩那・アリア・白鏡の名と血の下に、抗魔こうま刻印の解除を命ずる!』


……と、そう言った瞬間、刻印の色が徐々に、真紅から純白に変わって行く。

すると、それを見ていたハノンちゃんが、目を丸くしながら聞いてきた。

「え!? これってどういうこと、白鏡さん!?」

私は、人差し指の先から溢れ出す鮮血を舌で舐め取ると、ハノンちゃんの問いに答えた。

「今のは、抗魔刻印を解除したの」

「抗魔、刻印……?」

「ほら、その剣の刀身にあった紅いの。他の武器にもあるでしょう?」

「え? あぁ、うん」

「それって、模擬試合で使う武器に刻んであってね、それで付加魔法が“付与エンチャント”されないようにしてるんだけど」

「その刻印が?」

「そう。それで、生徒会と風紀委員会のメンバーには、その刻印を解除する権限を与えられるの。だから……」

私はそこまで言うと、防御魔法で合成獣キメラを牽制しているガオンくんに、剣を投げ渡しながら言った。

「ガオンくん! それ、普通の剣として使えるから!」

「おぉっ! 助かるぜ!」ガオンくんは、空中にあるそれをキャッチすると、私に向かってそう言い、先程まで持っていた剣を投げ捨てながら“詠唱”を開始した。

『燃やし尽くせ! “炎鞭フレイムウィップ”!』

その言葉と共に、刀身に魔法陣が展開され、次いで発現された炎が集まり、刀身を鞭状に変化させる。

それを見た私は、ガオンくんに向かって叫ぶ。

「ガオンくん! 合成獣キメラ翼撃ガストを打とうとしてるから、迎撃をして!」

「了解!」


――ヒュンッ!


「――ッギャォォォォウ!」

私の言葉を聞いたガオンくんは、“火炎波フレイムウェーブ”越しに“炎鞭フレイムウィップ”を振るい、合成獣キメラ翼撃ガストの阻止に成功した。

それを見ていた私は、小さくガッツポーズをした後、二人に次の指示を出す。

「ガオンくん! その方法で十分相手を牽制出来るから、可能な限り時間を稼いで! ハノンちゃん! その間に、私達は魔力の回復に徹底!」

「「了解!」」

二人の返事を聞いた私は、ガオンくんのことを信じて、その場に座って目を閉じた。

そのまま、焦る心を何とか落ち着かせていく。

すると、徐々にだが、体の奥底から魔力が溢れ出してきた。

――瞑想。

感情をコントロールすることによって魔力を回復する、特別な技術である。

中等部の頃、クローにこの技術を教えて貰っていた私は、急いで、しかし決して焦らず着実に、魔力を回復していっていた。

「グッ、ルォォゥ……」

その様子を見て焦ったのか、合成獣キメラが再び翼撃ガストの構えを取ろうとする。

しかし――、

「させるかっ!」

「ギャォゥッ!?」

ガオンくんが鞭を振るい、その行動を牽制する。

それにたじろいだ合成獣キメラが、一旦後ろに退く。

それを見た私達は、一瞬だけ歓喜の表情を浮かばせる。

――が、次の瞬間。

『蠢け――』

合成獣の胸にある蝿の頭が、再び“詠唱”を始めた。

私達は、表情ごと体の動きを硬直させる。

が、いち早く正気に戻ったガオンくんは、私とハノンちゃんに向かって、大声で呼び掛けてくれた。

「ハノン! 風紀委員ちゃん! 防御魔法を!」

「――り、了解!」

「う、うん!」

おかげで、私達も自分が何をするべきか思い出せた。

私とハノンちゃんは、急いで魔法陣を展開させようとする。

――が、その直前。

あることに気付いた私は、ハノンちゃんに向かって叫んだ。

「ハノンちゃん! さっきは“水壁アクアウォール”を使ってたけど、確か闇属性魔法も使えたよね!?」

「え? あ、うん!」

「じゃあ、そっちの防御魔法を使って! 水だと、ガオンくんの火と相性が悪いから!」

「わ、分かった! けど、それだと、白鏡さんの光と相性が悪くならない?」

「大丈夫! 私も闇を使うから!」

そこまで言うと、ハノンちゃんは小さく首を縦に振って、改めて魔法陣を展開し始めた。

私も、急いでそれに続く。

そして――、

『守って! “闇壁ダークウォール”!』

『響き渡れ! “闇壁ダークウォール”!』

『――“錆朽騒音ラスターノイズ”!』

三つの魔法が発現したのは、ほぼ同時。

しかし、なんとか間に合ったようだ。

錆朽騒音ラスターノイズ”は最初から発現してあった“火炎波フレイムウェーブ”と、私の“闇壁ダークウォール”を貫いた。

が、その二つで威力の大半を削ぎ落としたおかげか、ハノンちゃんの発現した“闇壁ダークウォール”と拮抗する。

そして……何とか凌ぎきった。

「よっし!」

「「やった!」」

それを見た私達は、思わず歓喜の声を上げる。

そして、その次の瞬間。

「グッギヤァァァアアッ!!」

「………………え?」

気付いたら、ガオンくんの体が、宙に浮かび上がっていた。

「………………え?」

それを見たハノンちゃんが、先程ガオンくんが漏らした疑問の声と、全く同じ声を零す。

しかし、私はそれを尻目に魔法を展開していた。

『響き渡れ! “陽光防壁シャイニーカーテン”!』

「グギャッ!?」

そして、そのおかげで合成獣キメラ追撃タックルの阻止に成功する。

それだけ確認した私は、アイコンタクトだけで、ハノンちゃんにガオンくんの手当てを指示する。

それを見たハノンちゃんは、私に向かって一度頷くと、すぐに右手に魔法陣を展開させた。

『守って! “治癒ヒーリング”!』

魔法陣から零れ出た淡い水色の光が、ガオンくんの体中にある傷を癒していく。

数秒後、ガオンくんが痛む体を摩りながら起き上がった。

ハノンちゃんが、すぐにガオンくんに聞く。

「大丈夫、ガオンくん?」

「あぁ、大丈夫だ、ハノン。それより風紀委員ちゃん、そっちは?」

「なんとか耐えてるけど、そこまで持ちそうにない」

「……よしっ! 俺に任せろ!」

ガオンくんは、そう言いながら勢い良く立ち上がると、すぐに詠唱を開始した。

『燃やし尽くせ! “炎鞭フレイムウィップ”!』

「ガウッ!?」

再び、炎の鞭で合成獣キメラを打ち付けるガオンくん。

しかし、先程と違い、合成獣キメラは鞭に怯みもせず、執拗に突進を続けてくる。

「くっ、そ……っ!」


――ヒュヒュンッ!


鞭のスピードを更に上げ、より強い連撃を合成獣キメラに打ち付けていくガオンくん。

これは流石に聞いたのか、合成獣キメラは“陽光防壁シャイニーカーテン”から離れていく。

が、次の瞬間、合成獣キメラは怒りで燃え盛る瞳で私達を睨み付けると、再び突進の構えを取った。

「こんのっ……往生際の悪いっ!」

それを見たガオンくんが、再び合成獣キメラに鞭を振り下ろして……直後、それが失敗だということに気付く。

「ギャアス!」

「なっ!?」

ガオンくんの鞭が合成獣キメラの翼に当たりそうになったその瞬間、突如体を翻した合成獣キメラが、その足で簡単に鞭を掴み取ったのだ。

「くっ……!?」

それを見たガオンくんは、慌てて鞭から手を離そうとする。

が、それより先に、合成獣キメラが新たな詠唱を始めた。


『蠢け! 氷結呪フリーズカース!』


「んなっ……!?」

その詠唱の終了と同時に、ガオンくんが動きを止める。

それを見て嫌な予感がした私は、すぐにガオンくんに聞いた。

「どうしたの、ガオンくん!?」

「か……体が、動かねぇ!!」

「「えっ!?」」

その言葉を聞いた私とハノンちゃんは、揃って驚愕の声を上げる。

どうやら、合成獣キメラが先程使った“氷結呪フリーズカース”という魔法は、相手の動きを止める付呪カース系統の魔法らしい。

とてつもなく厄介な魔法だ。

私は、急いでガオンくんの傍まで駆け寄ると、魔法陣を右手に展開しながら言う。

「待ってて、ガオンくん! 今から解呪するから!」

「た、頼……って、うわぁっ!?」

しかし次の瞬間、まるで合成獣キメラが解呪の邪魔をするかのように、掴んでいた鞭ごとガオンくんを引きずり始めた。

「――っ!? は、ハノンちゃん!」

「う、うん!」

それを見た私とハノンちゃんは、急いでガオンくんの体を押し止めようとする。

が、女の子二人が、合成獣キメラとの力比べで勝てるワケもなく、ガオンくんはそのまま“陽光防壁シャイニーカーテン”の向こう側まで引きずり出されてしまう。

「「ガオンくんっ!?」」

あまりのことに、思わず恐怖の声を上げる私達。

それに気付いた合成獣キメラは、まるで私達を嘲笑うかのように口元を歪めると、最初に使っていた騒音を発し始めた。

「ぐっ!?」「きゃあ!」「いやっ!」

再び引き起こされた激しい頭痛に襲われた私は、抵抗もままならないみに床に膝をついてしまう。

『ひ……響き渡れ!』

私は咄嗟に魔法陣を展開させ、再度“消音波サイレントウェーブ”を発現させようとした。

しかし、その直前で、あることに気付く。

合成獣キメラが、再び魔法を発現しようと、魔力を溜めているのだ。

――今、誰かが助けないと、ガオンくんは合成獣キメラの餌食になる。

――けど、ハノンちゃんにそれは出来そうにない。


――だったら、私がやるしかない。


決断は、一瞬だった。

私は右手に展開していた魔法陣を消すと、両足に新たな魔法陣を展開して、叫ぶように“詠唱”した。


『――響き渡れ! “雷光靴サンダーブーツ”!』


「「えっ!?」」

二人の驚く声が、耳の中に入って来る。

が、幼馴染の得意とする雷属性の魔法を纏った私は、それを無視して“陽光防壁シャイニーカーテン”を飛び出すと、合成獣キメラの足元にいるガオンくんを突き飛ばした。

「おうっ……と!!」

突き飛ばされたガオンくんは、運よく“陽光防壁シャイニーカーテン”の内側に入れたようだ。

それを見た私は、一度安堵の溜め息を吐くと、最後の目的を果たすため、すぐさま体の向きを反転させる。

それは――、

「急げ! 風紀委員ちゃん!」

「早くこっちへ!」

――私に手を伸ばしてくれる二人の元に戻って、三人全員が無事に帰る為。

だからこそ私は、大きく跳ぼうと足に力を溜めて――、




『――蠢け、“氷結呪フリーズカース”』




――気付いた時には、合成獣キメラの魔法を喰らって、体の動きが止められていた。

「………………え?」

思わず、口元から些か間の抜けた声を漏らしてしまう。

――え? 合成獣キメラが溜めていた魔法って、ガオンくんに止めを刺す魔法じゃなかったの?

――合成獣キメラが用意していたのは、私を捕まえる為の魔法だったの?

――――――もしかして、合成獣キメラは最初から、私だけ・・・を狙っていたの?

そこまで考えた瞬間、合成獣キメラがまるで私の心の裡を読み、あたかも“ご名答”と言いたげに口を歪めた。

次の瞬間、


「――――――――――――――――――――――ッッッッッ!!!?」

とてつもない恐怖に襲われた私は、一瞬でパニックを起こして、思考能力を放棄してしまう。

「――ぃやっ! やだっ! 何で!? 嘘っ!? 嘘だよねっ!? そうだよねっ!? ねぇ、そう言ってよ! お願いだからっ!」

「オ、オイ! 風紀委員ちゃん!?」

「白鏡さん、落ち着いて!」

二人が私に何かを呼び掛けてくるようだが、頭の中が真っ白になっているせいで、会話の内容が全く頭に入ってこない。

……けど、ただ一つだけ。


――“絶体絶命”という文字だけが、頭の中に浮かんでいた。


合成獣キメラが、再び魔力を集め始める。

今度こそ、私に止めを刺す為に。

――ガオンくんは、“氷結呪フリーズカース”のせいで動けない。

――ハノンちゃんにも、決定打となる攻撃魔法が放てない。

――だからこその、絶体絶命。

合成獣キメラが、勝利を確信してか、ニヤリと笑う。

私は、心を絶望で支配され、ただあること・・・・だけを後悔していた。

――幼馴染に、あの言葉が言えなかったことを。


『蠢け――』


合成獣キメラが、“詠唱”を開始する。

それを見た私は、怖くて、悲しくて、どうしても幼馴染にあの言葉が伝えたくて――呟いた。


「助、けて……!」


その言葉を聞いた合成獣キメラが、その下卑た笑みをより深くさせる。

何故なら、その台詞は本来誰にも届かない筈の、意味のない台詞だったからだ。

しかし、それでも。


――彼は、その願いを叶えてくれた。


『――“錆朽ラスター――――』

合成獣キメラが、その魔法の名を告げようとしたその瞬間。




『――“絶攻雷ストライクボルテクス”、スタート!!!』




――突如現れた雷の大槍が、合成獣キメラを背後から貫き通し、思い切り吹き飛ばした。

「「「えっ……!?」」」

ガオンくんも、ハノンちゃんも……そして私も。

一瞬、何が起こったのか分からなかったので、皆一様にポカンとする。

が、次の瞬間には一斉に、雷の槍が飛んで来た方向――扉のある場所を見た。

そして――、

「ぅ……あっ……!」

――そこにいる彼を見た瞬間、私は思わず涙を流してしまう。




気付いたら、私の大好きな幼馴染――神刃しんじん クローが、そこにいた。





活動報告!

先日、新作“シロガネの契約者 〜神白 銀架のComplexion〜〜を投稿しましたので、是非、そちらも読んで見て下さい!

それでは、次回“蝙蝠襲来(5)”をお楽しみに。

以上、現野 イビツでした!

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