9 白鳥の少女
TRPGではダイスの表現をxDyのように表現します。
y面のDをx回振る、という意味です。
例)2D6の場合は六面ダイスを二回振る
「天の川に着いて、デネブと言う酒場に案内された時、君たちは悲鳴を聞いた。どうやらいきなり事件が起こった様だ」
「助けに行くよ。武器取り出しながらでいい?」
「私も。木刀じゃなくてダガーを構えてあと魔力燐も生成しながら悲鳴があがった方に向かうよ」
「お二人はどうしますか?」
「アタシは鞘に入れたまま先輩達の後を追います」
「私は盾も出します」
事前に武器を準備しておくと、戦闘がぐっと楽になる。
何せターン毎にできる行動の回数が決まっているのに、剣を鞘から出すだけでそのうちの一つが埋まってしまう。
「皆さんが酒場に着いた時、一人のウエイトレスと思われる少女が人型のロボットに襲われているのが分かる」
星那ちゃんが酒場の間取りと位置関係を碁盤(正方形の集合なら何でもいいらしい。ルールブックではチェス盤や将棋盤を推奨されていた)にフィギアを並べて説明してくれた。
ちなみに人型であるだけで見た目は機械らしい。
「じゃあ、戦闘始めていくよ」
「うーん。ロボットかぁ」
「どうしたんですか?」
「私達、翻訳作業したからある程度敵キャラのステータス覚えているんだけど、人型のロボットに心当たりなくてね」
「ロボドッグならいたけど今回は人型って言ったし違いそうだなって」
「はい。これはオリジナルデータです。タネがバレた手品をする気はないですよ」
ウエイトレスの少女とロボットが接敵している。
結構マズい状況。
一緒に行動していたカササギは気にしなくていいらしい。
「という訳で誰か献身の盾してください。しないならしないでもいいです」
ロボットに襲われている女の子をかばわないといけない。
皆の視線が立花さんに集まる。
一番固いのが立花さんのキャラであるクルミだ。
「クルミちゃん防御値いくら?」
「16、です」
「え、16? 通る気がしないなぁ」
■攻撃 右ストレート
ロボ(暴走中?) → ウエイトレスの少女
┗▶▼献身の盾
クルミ
攻撃対象を自分に変更
┗▶■攻撃 右ストレート
ロボ(暴走中?) → クルミ
[3D6]+? → [二、六、二]+? → ?
<TN:16
【攻撃失敗】
「はい、案の定通りません。ノーダメージ」
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天の川の中洲にある酒場『デネブ』
昼間にも関わらずその酒場は活気に満ちていた。
看板娘の『アルビレオ』
看板ロボットの『サドル』
平和な日常が突如豹変する。
単なる給仕ロボであるはずのサドルが何の前触れもなく暴れだしたのだ。
アルビレオ
「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!」
酒場の客が逃げるための時間をなんとか稼ぐことに成功したアルビレオはしかし、そこで膝をついてしまう。
天運尽きたかに思えた状況で、それでも運は少女に味方した。
クルミ
「大丈夫? 助けに来たよ」
サドルの攻撃がアルビレオに届く寸前、一人のドワーフの少女が現れた。
ドワーフの少女はロボットの拳が届かないようにアルビレオを押しのける。
アルビレオ
「後ろ、あぶなっ」
ただし、サドルの攻撃は止まらない。
ウエイトレスに向かうはずだったロボットの拳はその小さな影に撃ち降ろされる。
クルミ
「この程度へっちゃらです。すぐに片付けますね」
その小さな少女は自分より大きなロボットが放つ拳を危なげなく受けとめた。
どこか余裕すら感じさせる動きでサドルのパンチの勢いを完全に殺すことに成功。
◆呪 ―防―
アカネ → サドル
[3D6]+? → [二、六、三]+? → ?
<TN:14
【抵抗失敗】
アカネ
「呪術通ったよ」
ユウカ
「任せてください」
ドワーフの少女の加勢であろう、兎の獣人がサドルの動きを縛る。
そして、鬼のサムライが刀を鞘から抜き一閃。
■居合 大太刀
ユウカ → サドル
[3D6]+6 → [二、六、三]+6 → 17
≧TN:? (呪術で―1)
【攻撃成功】
┗▶★ダメージ
[2D6]+5 → [三、六]+5 → ★14
┗▶▼追連撃 ロングソード
クルミ → サドル
[3D6]+1 → [四、四、四]+1 → 13
≧TN:? (呪術で―1)
【攻撃成功】
┗▶★ダメージ
[1D6]+1 → [五]+1 → ★6
★サドル ダメージ合計:20★
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「これが幼馴染の絆かぁ。出目走ってるのもあるけど火力高いなぁ」
「今回の条件で一番火力を出せる武器選びました」
「クルミでもいちげきで沈んじゃう……。やっぱり私も一番防御値が高くなるようにするべきだったかな」
「でもアタシ遠距離の攻撃手段何も持ってないよ。防具は一番安い奴で盾も他の武器も買えなかった」
「私は悠夏の攻撃最優先の思考好きだよ」
「そりゃ月はそうだろうね」
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■攻撃 ダガー(投擲)
アカリ → サドル
[3D6]+3 → [五、一、二]+3 → 11
<TN:? (呪術で―1)
【攻撃失敗】
■攻撃 ロングソード
クルミ → サドル
[3D6]+1 → [五、三、四]+1 → 13
≧TN:? (呪術で―1)
【攻撃成功】
┗▶★ダメージ
[1D6]+1 → [四]+1 → ★5
★サドル ダメージ合計:25★
★サドル撃破★
★戦闘終了★
★勝利!!★
サムライの一撃からの流れは一瞬だった。
刀で斬りつけられ怯んだ隙にクルミが追撃、エルフのダガーによる牽制の隙にもう一撃。
本当に、すぐに片付いてしまった。
サドルは損傷を受け過ぎた影響でもう動く気配がない。
アルビレオ
「え? え!?」
クルミ
「怖かったよね。もう大丈夫だよ」
その小さな姿からは想像ができないほどの苛烈な戦いを繰り広げた女の子の姿に、アルビレオはポカンとした表情を浮かべる他なかった。
そして、
――ピピー、ピピー
――タナバタヲチュウシセヨ
サドルの口から普段の声とは別の機械音声が流れたことにより、弛緩していたはずの場に再び緊張が走った。
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「くーちゃん、くーちゃん」
「うん」
――パンっ
星那ちゃんの戦闘終了宣言で立花さんと金子さんがハイタッチを交わす。
ああいうのもいいなぁ。
「ぶっちゃけもうちょっと歯応えある予定でした」
星那ちゃんが不満気だけど仕方ない。
というか攻撃役のユウカちゃんはともかく防御役のクルミちゃんが凄く活躍してた。
「違うの、私にはまだ攻撃手段残ってたの。だからこれは手加減しただけなの」
「はいはい。言い訳しても一人だけダイス判定失敗した事実は変わんないよ」
月が抱き着いて来たので頭を撫でながらあやす。
確かにアカリにできることはまだあったけどコストを考えると圧倒的優位なあの場面で使うべきじゃなかった。
ムキになって使わなかったことは褒めてあげるべきか。
いや、ただでさえ月に甘過ぎと評価されているんだからそこまでしなくてもいいか。
「ちなみに茜先輩が月先輩の攻撃をアシストしていればダガーは当たってましたよ」
「茜―! 星那が苛める」
「いや、私次のターンに備えて攻撃のデバフするつもりだったしあのタイミングでアシストはないよ」
振り返っても自分の行動が間違っていたとは思えない。
相手のHPが分からない以上はどうしようもないよ。
「あ、投げたダガー回収できる?」
「いいですよ。それじゃあ戦闘が終わってウエイトレスの少女とお互い自己紹介をします。具体的にはこんな感じ」
星那ちゃんが何枚かの紙を机に置く。
こちらもカササギと同じくラミネート加工されていている。
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名前 :アルビレオ
種族 :獣人(白鳥)
容姿 :ウエイトレス服 オッドアイ(青・橙)
交友 :カササギと幼馴染
備考 :酒場デネブの看板娘 サドルの作成者
名前 :サドル
作成者:アルビレオ
種族 :ー
容姿 :メカメカしい
備考 :酒場デネブの看板ロボット 声はAIにより自然にしゃべる
サドル
「いやー、助かりましたわ。なんや突然体が思うように動かんくなって困った困った。にしても嬢ちゃん達すごいなぁ。ワシ実は倒されるまで意識はあってん。あ、意識つっても人間のそれとちょっと違うんやけどな。ワシこれでもデネブの用心棒も兼ねてるんよ。たった数秒で落とされるとは思わんかったわ」
アルビレオ
「こんなことになってしまいすみません。今は動力部を取り除いて指一本動かせないので安心してください」
サドル
「そうそう。こないなってしもたらもう口しか出せんでさみしーわぁ。嬢ちゃん達あれやろ。ご主人が七夕中止阻止のために呼んだ冒険者。そりゃ強い訳やわ。今日はもう遅いしデネブで過ごすことになるんやろうけどご主人と仲よーしたってな。あぁ見えてご主人コミ障やからカササギちゃんくらしか同年代の友達おらんねん。キミら……(カチッ)」
アルビレオ
「原因が分からない以上口を動かすだけでも何かあるかもしれません。完全にシャットダウンしておきますね」
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えらく個性的なロボットだなぁ。
アルビレオの名前は聞き覚えがあるようなないような。
でも、ここまでキーワードが揃っているならこうじゃないかなってのはある。
「はくちょう座?」
「あ、デネブですよね。アタシも知ってます。織姫と彦星と一緒に夏の大三角ですよね」
「あと、織姫がこと座で彦星がわし座です」
私の呟きに一年生たちが反応する。
それはそうなんだけど、私が引っかかったのはデネブじゃない。
「そっちじゃなくてアルビレオの方。たしか、はくちょう座の頭だったよね」
「やっぱり知ってましたか。そうです。尾羽がデネブ。口がアルビレオです。星図用意してますよ」
夏の夜空の星図がでてきた。
天の川と、ベガとアルタイルとデネブがそれぞれの星座と一緒に示されている。
「これがアルビレオですよ。正直バレる確率半々くらいと思ってましたが、茜先輩ものしりですよね」
「たまたまだよ」
星那ちゃんがはくちょう座の星の一つを指す。
はくちょう座は十字架の形をしていて、北十字とも呼ばれている。
中心の星があって、その上下左右に一つ大きな星が一つづつ。
そして、デネブと反対方向にある星がアルビレオだ。
「ちなみにこれは私が撮ったアルビレオの写真です」
差し出されたのは一枚の天体写真。
明るいオレンジの星と、少し小さいけどコントラストが綺麗な青い星。
「ん? どっちがアルビレオ? オレンジ?」
「二つでアルビレオだよ」
「二人とも正解です。一般的には二つでアルビレオですけど、狭義だとその明るい方だけを指してますよ」
あ、そうなんだ。
それは知らなかった。
「正直私も茜先輩のように二つでアルビレオと思ってました。このシナリオ用に調べて正解でしたね」
「あ、だからアルビレオちゃんはオッドアイなんですね。それぞれの瞳が二つの星の色を表している感じの」
「そうですよ。胡桃ちゃんも天文に興味出てきましたか?」
しばらく天文部が撮った天体写真で盛り上がる。
ちなみにSadrは十字の真ん中の星らしい。
他にも、はくちょうの翼のベガ側の星にはFawaris、アルタイル側の星にはAljanahという固有名が国際天文学連合から与えられているらしい。
自分達で撮影した写真が出てくるのはすごい。
私は月にすらカメラを向けたことがない、ということすら意識したことはなかった。
「はい。じゃあちょっと天の川についてのルールを説明していくよ。天の川って織姫と彦星を分断してるから渡るのに少し手間がかかります。具体的にはこんな感じです」
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天の川
1.許可なく渡ることはできない
2.デネブ等中洲の施設は入った側の岸にしか出ることができない。
酒場:デネブ
1.カササギのおごりで好きなものを注文できる。
2.天の川の中洲にある。
3.プレイヤーが入ることができるのは昼間のみ。
4.出るのは入った側からしか出られないため時間がかかる。
5.宿泊施設を兼ねており、一晩過ごせば対岸に出ることができる。
織姫と彦星
1.会うことはできない。手紙等も禁止
2.七夕のみ下記の手段で会うことを赦されている。
カササギの固有魔法『ヴァルペキュラ・サギッタ』
・天の川に魔法で橋をかける。
・この橋は自由に渡ることができる。
・魔力消費が激しく、条件が揃わないと使えない。そのうちの一つが七夕であること。
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「七夕って結局悲恋の話だよね。改めて考えると川のあっちとこっちで住んでるんだったらすぐ会えそう」
「ちなみに実際のベガとアルタイルは14.4光年離れているので年一で会うには現在の物理法則超える必要があります」
「愛に限界はないってね」
「天文っぽくなってきた」
「別にサンドキャッスル的にはシナリオに星を使う必要はないんですが、それだとつまらないとは思いませんか?」
思わないけど、それだったらこうやって休日に学校に集まるのは難しいだろうな。
こうやって星図を並べてワイワイやるのと星と全く関係のないテーマで遊ぶのは全然ちがう。
少なくとも部外者を巻き込んでやるのは星がテーマの時だけにしてほしい。
それから、GMからルール説明を受ける。
行動できるのは以下の通り。
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七月五日昼
七月五日夜
七月六日昼
七月六日夜
七月七日昼
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今サンドキャッスルの世界は四日の夜。
天の川のルール的に、この日はもう移動できないらしい。
あと、織姫と彦星の護衛は昼だけで良いとのこと。
「基本的には二手に分かれて織姫と彦星それぞれに会いに行ってください。そして夜にプレイヤー間で情報交換するまでチームを完全に分断します」
「うん。チームは事前に決めてきたよ。これ途中で、例えば五日の昼のチームと六日の昼のチームが違っても良いんだよね?」
「オッケーです」
二手に別れて情報収集。
という名目で幼馴染達から一人づつどんな調子か聞くことが目的だ。
流石に投げっぱなしだと不誠実だけど相手がいる時にどうどうと進捗を聞く訳にはいかない。
最初の作戦でつまずいたしどうするつもりかも聞いておきたい。
「じゃあ、今日は移動できないみたいだしデネブで探索しますか」
現地の人は旅人より制限が緩いらしいけど、それでも対岸に渡るのは一日かかるらしい。
あとポーションが栄養ドリンク扱いなのはちょっと笑った。