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不幸少年フジと幸福部  作者: 雨竜三斗
第七章 フジとタカミは幸せか?
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エピローグ

「じゃあ行ってきます」

「行ってきます」

 そう言ってフジとタカミは家を出る。


 フジはいつもとは遅い時間に、タカミはいつもとは違う道を歩き学校へ向かう。


「一緒に登校するのは初めてですね」

「うん……」


 爽やかな笑顔で言うタカミに、フジは赤くなった顔を隠すためにうつむく。


「フジくん、眠いんですか?」

「昨日あまり寝れなくて」


 フジはあくびをする。

眠いが心臓は全力で稼働しており、頭の中も脳内麻薬が絶え間なく分泌されているような感じで、フジは眠たくてもまったく寝れる気がしない。


「地震が怖いですか?」

「そ、そうだね、そんなところ」


(タカミさんが僕の部屋の真下の部屋で寝てることを考えてたら、寝れなかったなんて言えない)


 あれから余震が少し続いているがそこまで大きな地震ではなかった。

 プラモデルも倒れていないし、なによりフジの頭の中はそれどころではない。


 かわいい女の子とひとつ屋根の下という、ラノベやウェブ小説でも使い古された出来事が実際に起こっているのだ。

 こんなベタベタな出来事が本当に起こるとは夢にも思っていなかった。

 想定していたのは両親だけだ。


「大丈夫ですよ」

 タカミは、フジの寝不足の理由を言葉通りだと思ったのかフジの右手を握る。


 暖かくて、柔らかくて、心地がよくて、幸せが手を通して流れてくるような手。

 こんなことをされれば爪の先まで真っ赤になると思ったが、逆に緊張がほぐれていくのをフジは感じた。


 もし本当に地震が怖くて寝れなかったとしても、こうして手を握ってくれていれば怖くないだろうと思うほど、優しさに溢れた手だった。


「わたしが一緒ですから」

 慈愛の心で世界を救う女神のような笑顔をタカミは浮かべた。


 だが今本当に困っているのはフジではくタカミだ。


 今はこうして笑ってくれるが、父と母の提案がなれけば、フジに勇気がなければどうなっていたのか。

 それがなくてもタカミは笑っていただろう。


「……タカミさんも」

「も?」


 だから自分がタカミを安心させてあげなければならない。そう思い息を吸い、

「僕が居るから、大丈夫だよね?」

 フジの出せる精一杯優しくて、安心できる声で問いかける。


「もちろんです!」

 タカミは世界の夜明けよりも明るく、希望に満ち溢れた声で答えた。



「タカミさんの家が倒壊っ!?」

「家のものは――最低限しか持ち出せていない……?」

「住むところがないってことですかぁ?」


 フジは昼休み、幸福部のメンバーを部室に招集し、昨日のことを簡単に説明。


 ケント、セン、ナスナはひとりずつ驚きながら状況を確認すると、

「そうですね。今はフジくんのご両親のおかげで、大丈夫ですよ」

 タカミは、本当に困っていないと感じてしまうほどの健やかな笑顔を見せた。


 もしフジたちの提案がなくても、住めば都、生きていればどこだって生きられると言ってタカミは笑顔でホームレス生活を始めただろう。


 フジも、他のメンバーもそれは良しとしない。


「――じゃあ今は……同志フジの家に居るってこと?」


「そうです」

 センが低い声でタカミに質問するが、タカミは気にせず笑顔で答えた。直後、

(な、なんで僕が睨まれてるんだろう)


 前髪という物陰から狙撃銃のレーザーポインタがフジの目を狙うように、センはフジを睨んだ。

 口には出していないがこれからお前には神の天罰が下るというニュアンスをフジは察し、苦笑いをしながらうなじをこする。


「じゃあ、タカミちゃんの家はどうなるんだい?」


「ちょっとまだ考え中ですね。これから座間さん――フジくんのご両親と相談していく予定です」


 家に関しては父と母が知り合いや弁護士などに相談して、今後のことを提案してくれることになっている。昨日も深夜までメールを打っていたらしい。


「でもうちの両親は、ずっといてもいいって言ってる――」

「それはだめ――」

「なんでセンさんが否定するの!?」


 フジの言葉に噛み付くようにセンが声を上げた。

 先程睨まれたことといい、今回の否定といい、どうして自分に噛み付いてくるのかフジには分からなかった。


「女の子とひとつ屋根の下……間違いがあったら困る。

 ――神もそう言っている」

「ホントに言ってるの!?」


「でしたらぁ、わたくしの事務所でもご相談に乗りますよぉ」

「ホントですか!? ナスナさん、ありがとうございます!」


「俺も引っ越しとか力仕事があったら手伝う。いつでも声をかけてくれっ」

「はい! ケントくん、よろしくお願いします!」


「――私も……なにかする。

 タカミさんが襲われないように……私が守る」


 タカミの返事に笑顔で答えた後、センは再びフジに睨みをきかせる。

 まるでフジがタカミ襲うから私が守ると言っているようだとフジは感じた。


「センさん、頼りにしてます」


「ぼ、僕も!」

 幸福部に通うようになってからまだまだ日は浅いうえに、タカミのことについては知らないことだらけだ。


 それでも他のメンバー同様、自分もタカミのためになにかしてあげたい。

 タカミの幸せを守りたい。そう思いフジは手をあげた。


「わたしは、幸せものですね」

 そんな幸福部のメンバーを見てタカミは目をうるませながら、心の底から幸せそうな笑みを浮かべた。



 帰り道もタカミとふたり、肩を並べて歩く。


 転けそうになることがまったくない、鳥がフジたちの上を飛んで行くだけ、工事中だった道の工事は終わって歩きやすくなっており、追いかけてきたことのある犬もご主人と一緒、帰り道で買ったジュースはちゃんと冷たいし、お弁当もグチャグチャになっていることがない。

 この調子ならばまた自転車通学をしてもいいかもしれないと思った。


 そんな幸運に押されて、フジはある決心を固めて、口にする。

「タカミさん。僕、お父さんとお母さんに服のことを話してみようと思う」


「男の子の服をちゃんと着たいと、伺ってみるんですか?」


「そうだね。もしかしたらまた不幸な目にあうかもしれないけど」

「けど?」


「不幸を乗り越えるってことを、幸福部のみんなから教えてもらった。

 だから厄除けがなくても大丈夫な気がするんだ」


「はい! きっとおじさまもおばさまも分かっていただけると思います」

 タカミは前向きな笑顔でフジの意見を肯定してくれた。


「では、フジくん。あなたは幸せですか?」

 自分のことを不幸だと思っていた。


 歩けばなにもないところでよく転ぶし、犬に追いかけられるし、猫に引っ掻かれるし、通り道はいつも工事中、横断歩道ではよく車に轢かれそうになる。


 それを避ける厄除けのために休日は女の子の格好をしていた。


 さらに自分には取り柄もなく、誰かのためになにかをしてあげることはできないと思っていた。


 だがそれは違った。


 自分が居るだけで誰かに良い影響を与えることができる。


 それは不安を払ってくれたり、新しい発見をしたり、仲間とさらに仲良くなるきっかけをくれたり。


 自分を助けてくれたひとに手を差し伸べることができる。


 不幸は誰にでも訪れる。

 幸せそうにしているひとでも、実は不幸を背負って行きているかもしれない。なにか悩んでいるかもしれない。


 そんなひとに手を差し伸べることができるのは、

「幸せだよ」

 フジはそう感じる。

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