7-5 タカミの秘密
フジの部屋は見違えるほど片付いた。
ベッドは空間が少し空いていたのを壁にピッタリつけてるようにし、南向きだった机と本棚を東側に移動。プラモデルの展示スペースを南に移動させた。
そうした上で地震で散らかったプラモデルや本を回収。
「お片付けプラスリフォーム完了ですね! お疲れ様でした!」
タカミが高々に宣言した。
「おつかれさまですぅ」「お疲れ様っ」「――お疲れ」
「みんな、ありがとう。」
部屋の持ち主であるフジはほとんどプラモデルの回収をしていた。
リフォームのアイディアも全てタカミが指揮し、物の移動はほとんど任せてしまった。
それに罪悪感を持ちつつ、フジは頭を下げた。
「いえいえ、わたしたちはフジくんが幸せになってくれればそれでいいんです」
「困ったときはお互い様ですぅ。
それにお茶を飲んでいただいたりぃ、いい匂いを堪能させていただいたりでぇ、わたくしがお礼を申し上げたいほどですぅ」
「――新しい守護像のインスピレーションを貰った。
そのうえで試練を乗り越えることができた……。これは幸せなこと」
「ここに来てフジくんのことをもっと知ることができたっ。俺はそれだけでも嬉しいよっ」
皆口々に今日のことは区ではないと行ってくれる。
フジは小説のように仲間に恵まれたことに感謝しつつ、仲間たちを玄関まで送る。
「それではわたくしたちはぁ、失礼いたしますぅ」
「ナスナさん、お茶おいしかったよ」
「今度は他のプラモデルや、ご両親の手相を見てみたいから、また来てもいいかい?」
「うん、お父さんとお母さんにも伝えておく。
ケントくんなら、ふたりとも喜んで見せてくると思うよ」
「――同志フジ、プラモデル一緒行く約束……忘れないで」
「僕もセンさんと一緒に行くの楽しみにしてる」
皆の言葉に返事をしながらフジはゆっくりとドアを締めた。
もっと一緒にいたいと思ったが、明日もまた会えるなら今日はお開きでもいい。
名残惜しくはなかった。
だがひとりドアから出ていないことにフジは気がつく。
「タカミさん?」
「もうちょっとだけ、いてもいいですか?」
「うん、いいけど。あまり遅くなっちゃうと家のひとが心配するんじゃ――」
「大丈夫です」
タカミは食い気味に即答。
まるで家にかえることを拒んでいる子供のような顔だった。
「じゃあ、お茶しようか。ナスナさんのお茶まだ残ってると思うし」
そう言いながらフジはリビングにタカミを案内する。
「あら、タカミちゃんは帰らないの?」
母が夕飯の準備をしながらタカミに話しかける。
「ええ、そのちょっと事情があって」
「事情?」
「うへ~、潰れた家があるじゃないか、大変だな……」
フジが首を傾げると父がテレビの画面を見て声を上げた。
テレビの画面に写っていたのはフジが目印に使っていた古い平屋だった。
思っていたとおり地震で倒壊してしまっている。
テレビでは耐震補強の工事が不可能なほど古い家だと説明している。
「タカミさん?」
その画面を見るとタカミはうつむいて、暗い顔をしている。
休日に街に出た帰りに見た、タカミだと思えないほどの暗い表情と同じ顔があった。
「あれ、わたしの家なんです」
「えっ!?」「あらっ!?」「なんと!?」
フジも父も母も声を上げた。
「ですから、わたし帰る場所がなくて……」
そんなタカミの顔を見て、フジはなにか力になれることはないかと考える。
あの日声をかけられてから、タカミにはお世話になりっぱなしだ。
その恩を今こそ返すべきだという意識がフジの心のなかに強くこみ上げてくる。
だが自分にはあの家を建て直す力も、お金もない。
それどころか、うつむき、暗い顔をするタカミに対していい言葉をかけることすらできていない。
自分は無力なのか?
タカミのように笑顔で幸せを分け与えたり、ナスナのように匂いで幸福感を満たしたり、ケントのように幸せになれる方法を分析したり、センのように幸せになれる拠り所を作ったりはできない。
だがケントは自分にもできることがあると言ってくれた。
ナスナもセンも、フジのおかげでよいことがあったと言ってくれた。
なにか言える言葉があるはずだ。なにかできることがあるはずだ。
フジは両手を強く握りながら、考える。
「だったら、うちに泊まっていきなさい」
するとそこに、母のなんのためらいもない提案がでてきた。
「いいのお母さん!?」
フジは驚いた声をあげるが、その声には少し喜んだ気持ちが混じっていた。
「そうだな。
こんなこともあろうかと、部屋をひとつ開けてある。
物置にしてあるんだが、片付けてお布団を用意するよ」
「『こんなこともあろうかと』って一体どんな状況を想定したの!?」
そんな宇宙戦艦アニメのような言葉にフジは父にも大きな声をあげる。
「もちろん、こんな状況さ。
それと『こんなこともあろうかと』って一度言ってみたかったんだ!
ぼくの夢がひとつ叶ったよ」
「フジ、あなたもお父さんにカッコつけさせてばかりじゃだめよ」
「おっと、これはでしゃばりすぎたな」
父と母の期待の視線がフジに向けられる。フジは思わず後ずさり。
ふたりの期待していることはなんとなく分かる。
ここからタカミと仲の良い自分が言わなければいけないのだろう。
男らしく、ヒロインを助ける主人公のように。
「タカミさん。この前、怪我をしたとき誰も来てくれなかったのって」
「そうです。わたしにはお父さんもお母さんもいません。親戚も頼れません」
「だったら僕を頼ってよ!
僕は不幸少年だし、それ以上に弱い男だ。
だけど僕のことを幸せにしてくれようとがんばる女の子が困っていたら、なんとかして助けたいって気持ちはある。
もちろんできないことも多いけど、今はできることがあるから」
フジは手を差し伸べる。
幸福部に初めて行った日。
下駄箱で尻餅をついていた自分に、タカミが手を差し伸べてくれたときのように。
「タカミさん、僕のうちに来てよ。歓迎する」
今まで暗闇の中にいたようなタカミの表情に光が灯る。
本当はずっと暗闇の中にいたのかもしれない。
だがそれを隠して明るくふるまっていた。
幸せにしてほしい側だったのに、それをせずにフジを幸せにしようとしていた。
だから今度は自分が、タカミの不幸を取り除きたい。幸せにしてあげたい。
「フジくんを幸せにするはずが、わたしが幸せにされてしまいましたね」
手を取った。
「いえ、こんなに優しいフジくんと出会ったことが、幸せなことだったんですね」
フジはタカミの細い手を優しく包むように握る。
「しばらくお世話になります」
フジの手を取ったまま、タカミは座間夫妻に頭を下げた。
「タカミちゃんみたいなかわいい子なら大歓迎よ」
「そうだな。あとは写真を少し取らせてもらえば――」
父が頭を叩かれた。
「フジ、お父さんからタカミちゃんを守ってあげなさい」
「これはひどい」
「ごめんね、変な家族で」
フジはせっかくカッコつけたのに、両親に台無しにされてしまったことに苦笑。
タカミとしてはこれは死活問題なのにおちゃらけたやりとりになってしまったことを謝る。
「ううん。フジくん、よろしくね」
タカミは目に涙を浮かべながら笑った。




