6-3 フジが隠していたこと
「あとは趣味以外のところですね。ここからは普通の風水の考え方です」
そう言いながらタカミは部屋を細かくチェックし始める。
(なにも見つからないといいけど……)
タカミの揺れるポニーテールを見つめながら、フジは手を握り様子を見守る。
「ベッドと壁の間に隙間がありますね」
フジのベッドを見てマットやシーツの色などを指摘するかと思えば、違うところをしてきた。
「強い気が流れてくると落ち着かないかもしれません。
そんなことありませんか?」
「気っていうのが分からないけど、大きなトラブルとかが起こった後、疲れてるはずなのに寝れないことはあるかな。
ストレスだと思ってたけど」
「ストレスもそうですが、余分な気がこの隙間に流れてしまうので、フジくんがその影響を受けているんだと思います」
「でもベッドを動かすのは僕とタカミさんだとつらいかも」
「そうですね……これは一旦置いておきましょう。他のところから――」
タカミが目を凝らし部屋を見渡す。
ベッドの隙間みたいな細かいところに注目する。
ということは、フジが些細なことだと思っていることも、タカミの考えでは重要なことになるかもしれないのだろう。
「これ、女性物の化粧品ですね」
フジの目が限界まで見開かれた。
先日幸福部で出かけたときに使ったものが、鏡の前にそのまま置いてあったと考えられる。
「ぷ、プラモデルの塗料代わりにお母さんから借りたんだ!
そういうテクニックがあって、これを使うとアーマードビーストの人工皮膚がリアルになるから」
「なるほどー。ファンデーションも?」
「そうそうそうそうそう」
こ、これならばごまかせるとフジは思った。
実際に女性用の化粧品をプラモデルの加工に使うことはほとんどない。
アイシャドーのような道具は使うことがあると聞いたことがあるくらいだ。
「でも、このパッドつきブラは――」
「……ごめんなさい」
ついにごまかしの聞かない物が見つかってしまった。
これも先日出かける際に、タンスから物の出し入れをしたとき出てしまったものだろう。
「はっ!?
まさか、女性物の下着を集める趣味が!」
「その方が男子としては健全だと思うけど、違うよ」
これはどうあってもごまかせない。
女性物の下着を集める変態だと言ってしまったほうが、良かったかもしれないと後悔する。
こういうときに嘘をつくのが下手くそな自分が恨めしいと、フジは肩を落とす。
「クローゼットの中、見てみて」
観念して、ため息混じりにタカミにそう言った。
「かわいい~。
もしかして、フジくん女装が趣味なんですか!」
「趣味じゃなくて、半分くらい女の子として育てられたんだ」
「魔除けのためでしょうか」
「さすがタカミさん。よく知ってるね」
「いろいろ調べましたから!」
とタカミは自慢げに笑った。
フジはタカミの知識量や偏見を持たない考え方に助けられたと思って苦笑い。
「僕の不幸体質はかなり幼い頃からみたいで、生まれる直前に病院の一分施設が停電して、懐中電灯の明かりの中で生まれたらしいんだ。
その病院の偉いひとの不祥事が発覚して別の病院に移されたり、家に帰る直後に交通事故で怪我したり、お父さんが金縛りに合うようになったり、いろんな出来事が起こったんだ」
「昔、男の子は悪魔に取り憑かれやすいと言われていました。
ですので幼少期は女の子の格好をさせて悪魔から身を隠す風習が、国内外問わずあります」
「それを知ったお母さんがそうするようになったんだ」
フジは遠い過去を思い返すように遠い目をしながら言った。
「でも身を隠す必要があるのは小さい頃まで、大きくなり始めたら大丈夫だと聞いてます」
「僕の不幸体質は今も続いてるからね。
制服のある中学校までは、女の子の格好をして学校に行ってたよ」
「効果はありました?」
「あった。
やっぱりゼロにはならなかったけど、女装して外出すると交通事故に合わなくなったし、怪我も減った。その代わり職務質問されることがあるけどね」
それももう慣れたとフジは乾いた声で言った。
「フジくんは、女の子の格好するのイヤですか?」
「慣れちゃった。でも変な目で見られるとイヤかな……」
「それは、分かります。わたしもそうですから」
タカミの笑顔に影が落ちた。
もしかしたらタカミも、変な目で見られることがあるのだろうか。
「このことみんなに内緒にしてもらえる?」
「いいですが、これは恥ずかしいことなんですか?」
タカミの強いポジティブシンキングは、フジが恥ずかしいと思っている格好ですらも、悪いことのように思っていないようだった。
フジは念押しするようにやや強い声で、
「そうだよ……。
先日はあんなふうにいじられたけど、普段からこんな格好してるって調べたらみんな僕のこと嫌いになるよ」
「そうでしょうか?」
「そうだよ」
言い放った。
厄除けや風習をしらなければ、ただの変人だ。
オカルトな考え方ならばなおさらだし、これを話して納得しれくれたのはタカミが初めてだ。
「……分かりました。フジくんがそういうのであれば」
「ごめんね」
「いいえ、ここはそうじゃないですよ!」
タカミは穏やかに笑って、いつもの指摘をしてくれる。
だがフジはいつもどおりに指摘を直しすことはできなかった。
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「少し置き場所を変えただけなのに、なんだか違う部屋みたいだ」
秘密がバレてしまい、少し落ち込んだフジだが、雰囲気の変わった部屋を見渡すと明るい声で感想を言う。
「これで気の流れが変わるので、過ごしやすくなると思いますよ!」
「うん、なんだか気分が明るくなった気がする」
「よかったです!」
タカミは両手を合わせて、自分のこと喜んでくれる。
「これでかなり幸せに近づくことができました!
ですが、本格的に棚の移動などが必要です。今度はご両親の許可をとって、みんなで大掛かりな模様替えをしますよ!」
「それで、もっと幸せに近づけるかな?
厄除けもそのうち必要なくなるかな?」
他の幸福部のメンバーを呼ぶことに不安はある。
だが来ることが分かれば、見られてはまずいものを別の部屋に移すこともできるだろう。
もしそれらが必要なくなるなら、バレないように部屋のリフォームがしたい。
フジはそんな前向きな考えを始めていた。
「もちろんです!」
「ありがとう、タカミさん」
「はい! フジくんが幸せだと、わたしも幸せです!」




