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僕の婚約者は人生2回目なのかもしれない。  作者: 織子


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9/9

第九話ーオリヴィエの回帰


「――ごめんなさいお姉様!」


頭に響く甲高い声に、オリヴィエは我に返った。

目の前で子供がこちらを見ながら震えている。その子供の容姿にオリヴィエは目を見張った。金の髪、紫の瞳。


(な、なにこの娘。メロディに似すぎているわ)


視界に自身の振り上げた腕が見えた。周りに視線を向けると、子供たちが集まっているようだ。全員がオリヴィエを奇異の目で見ている。


オリヴィエは今、目の前の子供を叩こうと手を振り上げていた。

(どういうこと?)

混乱しながらも振り上げていた手を降ろす。


メロディに似た子供の傍らには、オリヴィエの兄、ライボルトとアレスターに似た子供の姿がある。


(いえ、あれはお兄様だわ……そして紫の瞳の子なんてめったにいない。これはメロディなの?)


子供の姿をしたアレスターが前に出て叫んだ。

「オリヴィエ!お前、まさかメロディに手を上げようとしたんじゃないだろうな!」


子供とはいえ、敵意のある眼を向けられオリヴィエは狼狽えた。

(ここは、覚えてるわ。メロディが侯爵邸に来て初めての大きなパーティー。……私の、8歳の誕生日パーティー)


――思い出したくもない。オリヴィエの誕生日パーティーとは名目だけ。実際はメロディを他の高位貴族にお披露目するための場だった。事実、オリヴィエにはプレゼントの一つもなかったのだ。


オリヴィエは後退りをし、その場を逃げ出した。




走って走って、思い切り逃げたつもりだったが、辿り着いたのは侯爵邸の庭だった。息切れがひどく、これ以上は走れない。

とりあえず(けやき)の木の下に腰を降ろした。


(落ち着いて、落ち着いて……)


オリヴィエは自分の手のひらを見た。小さい。明らかに大人の手ではなかった。


「う……う、嘘でしょう……?」

震える手を見ながら、オリヴィエは唸った。


自分の身に何が起こったのか。思わず目をギュッと瞑ると、皇太子妃教育で叩き込まれた聖書の一文が脳裏に浮かんだ。


「回帰……だなんて……」


ぽつりと呟くと、牢に入れられるまでの出来事を走馬灯のように思い出した。


「‥‥もうあんな目にはあいたくない」


ぽろぽろと涙が溢れた。 


(女神様。私が何をしたというの。どうしろというの)


オリヴィエにとってとても辛い日々だった。牢に入れられてからは特に。


(やり直せというの?復讐しろとでもいうの?)


聖書には、女神の施しにより回帰した聖人たちは、過ちであった過去を改め、国を救ったなどという記述もあった。


(――嫌だ)


オリヴィエの涙が引っ込んだ。濡れた瞳で焦点も合わないまま手を見つめた。


(――私は疲れたのに)


オリヴィエが何か動く事で、国が無くなるわけではない。事実、回帰する前に起こったのは自身の死だけだ。ただ義妹との折り合いが悪く、罠にはめられただけ。


(……そうね、死にたくはないわ。私は生きたい。……静かに暮らしたい)


オリヴィエはしばらく一点を見つめた。パーティー会場に戻る気にはとてもなれない。オリヴィエは覚えている自室に戻ることにした。




オリヴィエが一人で自室に戻ると、メイドがすぐに気付き着替えを持ってきて手伝ってくれた。

(この頃はまだ、本邸でも私の世話をしてくれる人がいたのね)


とはいえ、顔に嫌悪感が滲み出ている。嫌々世話をしているのが分かる。


オリヴィエは着替えが済むと、すぐにメイドを下げらせた。ただでさえ気分が滅入っているというのに、嫌悪感丸出しのメイドと同じ空間に居たくはない。


「これからどうしようかしら‥‥」


何もしたくはないが、何もしないままだと回帰前と同じ事が起きてしまう。


(あんなに大きな光属性の魔法は初めて見たわ。メロディの魔力はとても高いのね‥‥)


最期に見た、光の球体。メロディの紫暗の瞳。


「何故お父様が、皇太子妃をメロディに譲らなかったのか分かったわ‥‥」


ぽつりと呟く。


(光属性で、あれほどの魔力量。お父様はメロディを神殿に送るつもりだったのね)


よく考えれば、強欲な父が、親しかったからと情だけでメロディを養子に迎えるはずがない。



「皇室には私を……神殿にはメロディを差し出すつもりだったんだわ」


皇室と神殿。どちらの権威も得る為に。


「はは……」

オリヴィエは自嘲するように嗤った。悲しくもなんともない。もはや父としての愛情を、カッサンドラ侯爵には求めていないからだ。


この日、オリヴィエは夕食も食べずそのまま眠り込んでしまった。夕食の席に姿を見せないオリヴィエを呼びに来る使用人もおらず、オリヴィエが目を覚ましたのは明け方だった。


ベッドから降りてカーテンを開ける。まだ朝日も顔を出しておらず、外は闇に包まれている。


オリヴィエは今後の目標を定めた。一番重要な事は、皇太子の婚約者にならない事だ。メロディとの関係を改善しようとも思わない。ただ、視界に入らないようにしたい。


(婚約者にさえならず、極力メロディに関わらなければ、静かに暮らしていけるはずだわ)


オリヴィエは朝日が昇るまで外を眺めた。








読んでいただきありがとうございます。


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