プロローグ
愛情に決まった形などないのでしょう。
伝える言葉に形式などないのでしょう。
恩返しに作法などないのでしょう。
きっとそんなものなのでしょう。
そう聞いた。
彼はこう答えた。
「そんなもんだ」
それならば伝える言葉に意味なんてあるのでしょうか?
誰かが何かを言ったとして、その言葉の意味を正確に理解し、解釈する人などいるのでしょうか?
言った本人の意志と聞いた人物の解釈は全く違ったものになるのではないでしょうか。
手紙を書くということに何の意味があるのでしょうか。
「それでも人は何かを伝えようとする生き物なんだろう」
私の問いに彼は答えてくれた。
彼はそう答えてくれた。
「でも、もしそうなら。誰もその人の言葉の本当の意味を知らないことになります」
「世の中はそういうものだよ」
確かにそうなのでしょう。
そういうもので、そういう世界で、人とはそうなのでしょう。
「それでも伝えなければならないのでしょうか?」
「伝えようとしなければ何も伝わらない違うかい?」
「確かにその通りなのでしょう」
でもそうなのだとしたら誰も相手の本心を知らないことになってしまうのでしょう。
「そんなものなんだよ。Ms.ハイデガー、あなたにも次の依頼があるだろう。私は仕事に戻るよ」
「私もそうします」
私はそう言い、彼の執務室を後にした。
私が最近受けている仕事は元軍人や現役軍人の代筆の仕事の依頼だ。
そろそろ私は出発しなければならない。