NGO法人
――今日はおつかいを頼まれていたっけ?
「?」
少年、名郷は、刑事、葉跡とすれ違う。
――まったく、忌々しい。
人工知能の彼、SEKIIは、立体映像を揺らす。
――こいつは消そう。ただの刑事、上手くやればこのNGOは守れる。
《警視庁から各局。誘拐事件発生。ヘリロイド班出動せよ》
そうアナウンスが流れる。
「行こう!」
円香と回は、現場へと向かった。
バラバラバラバラ。捜索ヘリが上空を旋回。
「回、捜索開始」
「はい」
回は、自身の機能で、捜索を始める。
「該当家屋なし」
「車両は?」
「該当車両なし」
「分かった。もっと北へ向かう」
円香は機体を旋回させる。
「捜索開始」
「はい」
回は円香の指示に従う。
――ん?
《誰か、助けてくれ!》
「円香、抽出した!」
「本部へデータを送って」
「はい」
――ここは神社? なぜ?
円香は機体を旋回させた。
捜査本部。
「それじゃ、今捜査している事件の被害者じゃないのか!?」
十武は驚く。
「どうやら、そうみたいです。神社に監禁されていたようで」
浅海は説明する。
「捜査はふりだしですね」
津井楽は腕組みをする。
「あぁ、まったくだ」
冬烏は頷く。
刑事たちはざわざわと会話をしていた。そこへ本部長が入室してきた。皆は黙り、席に着く。
「今回、保護された被害者の男性の事件に、この捜査本部から人員をさくこととなった。端末に連絡のあった者は、隣の捜査室へ向かえ」
「はい」
刑事たちは本部長、穂葉龍治の命令に返事をし、端末を確認すると、それぞれ立ち上がり隣の捜査室へと移動して行った。
「ヘリロイド班は引き続き、捜索を」
「はい」
円香も返事をする。そして、回と共に部屋から出て行った。
警察病院。十武と浅海はそこにいた。今回、保護された葉跡から話を聞くためだ。
「今回の事件の犯人に心当たりはありませんか?」
十武が尋ねる。
「いいえ」
「部屋も荒らされていました。本当に犯人に心当たりは?」
浅海からの質問に葉跡は黙り込んだ。
「また、危害を受ける危険性もあります。もし、心当たりがあるなら」
「あいつさ」
葉跡は呟くように言う。
――あいつ?
「それは、一体?」
十武は尋ねる。
「NGO法人AKIの管理人工知能さ」
「え?」
十武は少し戸惑う。
「あいつはインサイダー取引で、寄付金を倍増させている。だから、さ」
葉跡は続けた。
「もし、それが本当なら、実行犯がいるはずです。それには?」
「さぁな。後ろから突き飛ばされたからな。顔は見てない」
葉跡は神社の階段の所で背後から突き飛ばされた。それにより、頭部を強打し、意識を失っていた。
「なぜ、神社へ?」
浅海が尋ねる。
「郵便受けにメモが入っていたんだ。金を払うと」
葉跡は視線を逸らす。
「恐喝をしていたのか」
浅海は少し驚く。
「あぁ、そうだよ。金に困っていたんだ」
「なるほどね。だからか」
浅海は淡々と言った。そんな浅海に十武が話しかける。
「防犯カメラの映像を確かめよう」
「そうですね」
刑事二人は病室を出て行った。
警視庁鑑識課。二人は、防犯カメラの映像をもう一度、確認していた。
「この中に犯人がいるはずだ」
十武は必死に再確認をしていた。
「しかし、この防犯カメラ映像に映っている人物にNGOとのつながりはありませんでしたよ」
「あぁ。だから、今嫌な予感がしているんだ」
「嫌な予感?」
「一人だけ、まだ残っているだろう。この防犯カメラに写っている人物が」
「まさか、この中学生!?」
「こいつを調べる」
「はい」
NGO法人前。刑事二人はビルを見上げていた。
「行くぞ」
「はい」
刑事二人はビルへと入って行った。受付で担当の人物を呼んでもらった。すると、一人の男性が現れた。
「おまたせいたしました。担当の飛瀬です」
その男性は二人を会議室へ案内した。
「お聞きになりたいこととは何でしょうか?」
飛瀬は二人の刑事に尋ねた。
「この少年と、このNGOとの関係をお教えください」
十武は、少年の写真を見せた。
「この少年?」
飛瀬はその少年の写真を手に取る。
「中学に通う、15歳です」
「私は知りませんが、管理人工知能に問い合わせてみます」
「あ、いや。彼には問い合わせないで下さい」
十武は、それを阻止した。
「え?」
「詳しくは言えませんが、その少年の情報はあなただけで検索できませんか?」
「私の権限だけだと、寄付をしていただけているお客様の情報しか、ご提供できません。このビルの防犯カメラ映像やこのNGO法人の職員の個人情報などは全て管理人工知能SEKIIが管理しております」
飛瀬は淡々と説明した。
「どうします?」
浅海は十武に聞く。
「あなたの権限内だけで十分です」
十武は飛瀬へ、そう言った。
「では、今、情報を」
飛瀬は自身の持っているノートパソコンでデータを検索した。
「確かに、名郷様はこのAKIに寄付をしていただいております」
――やはり、関係が!
「ありがとうございました」
十武は浅海に目くばせすると、そのNGO法人を後にした。
捜査本部。
「確か、被害者の葉跡を縛っていたロープに繊維質が付着していたな」
十武は捜査資料を再読しながら、言う。
「そうでしたね」
浅海は、頷く。
「軍手らしいな」
「それを調べるんですか?」
「この軍手の取り扱い店をあたろう」
十武と浅海は、各店をあたることにした。
ホームセンター。
「ここ一週間でこの軍手を買った人物は、この十人です」
店長は、購入履歴を提出してくれた。
「ありがとうございます」
十武はお礼を言う。そして、ペラペラと紙の資料をめくり始めた。
「どうですか?」
浅海が尋ねた。
「あった。この少年の名前」
「ということは」
「この少年に任意同行をかけるぞ」
「はい」
取調室。
「全て、僕の犯行です」
少年、名郷はあっさりと自供を始めた。
「そうか」
十武は少し考えて、取り調べを始めた。
「君は、誰かに頼まれて犯行に及んだのですか?」
十武は尋ねる。すると、名郷は答える。
「はい。AKIの管理人工知能に頼まれました」
「どのように?」
十武は優しく尋ねる。
「私の敵を抹殺してほしいと言われました」
名郷は俯いて、話した。
「だからか?」
「はい。あの男性に恐喝されていて、NGO法人を潰されると」
「そうか。そうだったのですか」
十武は少し戸惑った。
翌日。新聞の一面には、NGO法人AKIの管理人工知能SEKIIによる犯行の記事が載っていた。そして、逮捕されて、起訴の兆しがあるということも。
――解体ではない。裁判を受ける権利が。
「進みましたね」
円香は呟く。
「え? 普通でしょ」
回はきょとんと答える。
「そうね。君にとってはね」
「そうですよ」
回の言葉に円香は微笑んだ。