時効
《警視庁より各局。渋谷区で誘拐事件発生》
アナウンスがスピーカーから流れた。
「回、行きましょう」
円香と回は格納庫へと向かった。
バラバラバラとプロペラは回る。捜索ヘリは上空を行く。
「捜索開始」
「はい」
回はそう返事をする。
捜索中。
――ここじゃないのかな?
回は意識を集中する。
「不審な家屋は?」
円香は問う。
「該当ありません」
「もっと北かしら?」
「分かりました。捜索します」
「お願い」
「はい」
捜索中。
――う~ん。
「違うかも」
回は呟くように答える。
「分かった。場所を変えよう」
「はい」
捜索中。
《航空班、全機戻って来い。以上》
本部から無線でそう連絡があった。
「はい」
円香はそう返答する。そして、回の方に向く。
「回、戻りましょう」
「はい」
捜査本部。
「捜査会議を始める。報告」
本部長の穂葉龍治はそう告げる。刑事たちはそれぞれ報告を開始した。
「はい。誘拐されたのは、半沢次朗。今朝、家族のもとに身代金の要求がありました」
――ふーん。営利目的か。
円香は話を聞いて、そう考えていた。
「航空班は捜索へ向かって下さい」
穂葉龍治はそうヘリロイド班へ指示した。
「はい」
バラバラバラ。プロペラの音が上空に響く。
「回、捜索開始」
円香は告げる。
「はい」
回はそう返事をすると、捜索を始めた。
「どう?」
円香は状況を聞く。
「該当家屋なし」
「もっと、北へ行きましょう」
「はい」
バラバラバラ。捜索ヘリは上空を旋回する。
「捜索開始」
「はい」
回は捜索を始める。すると、音声を抽出した。
《俺が殺した》
「ん?」
回は戸惑う。
「どうしたの?」
円香は回の様子に気付き、尋ねる。
「今、あのショッピングモールから、《俺が殺した》って聞こえて来た」
「不自然ね。ショッピングモールのどこ?」
「倉庫としても成り立っている、看板の所」
「分かった。本部へ送信する」
「はい」
じじじっと無線が鳴る。
《報告ありがとう。今、地上班を向かわせる。そこで待機》
無線からそう聞こえて来た。
「はい」
円香はそれに応答し、待機した。
じじじっと無線。捜査本部からだ。
《地上班、突入》
現場にやって来た地上班が突入を開始した。それは旋回をしていた捜索ヘリからも見えた。
《地上7班、被害者保護》
――よし!
円香は口角を上げる。
「でも、不思議だね。何で《俺が殺した》なんだろう」
回はそう言って、円香を小さな立体映像から見上げた。
「確かに」
円香は機体を旋回させ、警視庁へ戻った。
次の日。
「円香! ビッグニュース!」
回は立体映像の姿でやって来た。
「何?」
円香は振り返った。
「昨日の犯人、元警察官だって」
回は無邪気に話し出す。
「ふーん。そうなんだ」
「それでね。完全黙秘だって!」
「気になるの?」
円香は頬杖をしながら、回の方を見る。
「気になる」
回は真剣に言う。
「そうか……」
円香は、課長の方をちらっと見た。
「いってらっしゃい」
課長は目線を合わせずにそう言う。
「ありがとうございます! さ、いこいこ!」
回はまた無邪気に誘う。
「えー」
円香は少し不安になりながら、出かけた
「犯人の毛利は、ここで警備員の仕事をしていました」
「なるほどね」
二人は彼の働いていたショッピングモールを見上げた。
「さ! 聞き込み! 聞き込み!」
「何でそんなに地上の仕事が楽しそうなの!?」
円香は少し呆れて、ついて行った。
「彼の不審な行動? うーん、そうだな。警察にはもう既に話したよ」
同僚の警備員の男性は円香たちの問いに答える。
「それ以外で、何か」
回は深く聞く。
「うーん」
警備員の男性は考え込む。
「お弁当を一人で食べていたとか?」
回は不安げに見つめる。
「なぜ、そうなる」
そんな回を円香は少し戸惑いながら、言った。
「弁当は一緒に食べていたけど、あぁ、そうだ。あいつ、事件の数日前に一人で弁当を食べるって言って、ゴミ箱探していたな」
警備員の男性は思い出して、そう言う。
「ゴミ箱?」
回は尋ね直す。
「あぁ。それで、缶ジュースの空き缶を持ち帰っていたな。自分のじゃないし。変だなって」
「ジュースの缶」
円香はメモる。
「ちょうど、あの自動販売機の所」
男性は指さし、教えてくれた。
「ありがとうございます」
「ここか」
回は自動販売機を眺める。
「あ」
「ん?」
回は円香の方を見る。
「ここ、ちょうど防犯カメラがあるね」
「あ、本当だ」
回は円香の見ている方を見る。
「見せてもらいましょう」
「そうですね」
警備室。
「こんにちは」
回は挨拶をして、中へ入る。
「はい?」
警備員の男性が振り返った。
「警視庁のものです」
円香が警察手帳を見せる。
「え! あ、はい。何か?」
「あの防犯カメラの映像を見せてもらえますか?」
円香は警備室の入り口付近から、そちらを指さした。
「えぇ、もちろん」
「あ、本当に空き缶を拾ってる」
円香は防犯カメラの映像を見て、呟く。
「そうですね」
回も話す。
「柄からすると、コーラですかね」
「そこ、関係ある?」
円香は問う。
「あるんじゃない?」
回はきょとんと答える。
「問題はどうして、拾っているのかどうかでしょ?」
「まぁ。それなら、誰が捨てたのかを見ましょう。少し前も見せて下さい」
回は警備員に頼んだ。
「はい」
警備員はその映像も見せてくれた。
「これは」
「今回の被害者、半沢次朗さんですね」
円香は答える。
「でも、なぜ?」
回は疑問に思う。すると、一緒に防犯カメラ映像を見ていた警備員の男性が指を指す。
「こちらにも、彼は映っているようですね?」
「え?」
回は戸惑った。
「こちらの防犯カメラ」
警備員の男性は指を指し、再び教える。
「赤い枠?」
回はそれを見て、聞く。
「あぁ、こちらですか? こちらはここの警備管理人工知能のHAIIが防犯のために新しく導入したシステムです」
警備員の男性は説明する。
「犯罪を起こす前の、心身のストレスからくる微妙な体の振動を感知して、危険人物かどうかを見分けるものです。緑枠なら大丈夫、しかし、赤枠なら厳重注意だそうです」
警備員の男性は淡々と話す。
「でも、なぜ、赤枠に?」
円香が問う。
「さぁ、そこまでは」
警備員の男性は少し、戸惑って答えた。
「ありがとうございました」
「今度はどうします?」
回は円香に尋ねる。
「半沢次朗は何かの犯罪を企んでいた?」
円香は呟くように回に話す。
「そのようですね。でも、一体」
「その前に、なぜ、空き缶を?」
「そうですよね」
「あ」
円香は何かに気付いたのか、声を出す。
「どうしたの?」
回はそれに問う。
「確か、被害者保護の時、彼は《俺が殺した》って言っていたのよね?」
「うん。聞いたよ」
回は頷く。
「もしかして、過去の事件で何かあったんじゃ?」
円香は気付いたことを話した。
「そうだね」
回は再び、頷く。
「警視庁へ一旦、戻りましょう」
「はい」
二人は警視庁へ戻って行った。
警視庁。
「過去の資料を片っ端から見ていたら、きりがないですよ」
回は音を上げる。
「それもそうね。管理人工知能に尋ねてみましょうか?」
円香はそう提案した。
「それがいいです」
回は賛同する。
「HAKUI」
円香は呟く。すると、HAKUIは立体映像で姿を現す。
「あの」
「会話は聞いていました」
HAKUIは円香の声を遮り、言い放つ。
「あぁ、そうだったね」
HAKUIは超個体状態で、全てを管理していた。
「それで、該当する事件は?」
「これです」
「通り魔事件?」
円香は尋ねる。
「えぇ、まだ解決していません。しかし、犯人のDNAは被害者の爪の間から採取されています」
HAKUIは淡々と答える。
「まさか、あの空き缶って!」
回は気付く。
「唾液の採取が目的だった?」
円香も気付く。
「行こう! 捜査一課」
捜査本部。
「そうか。分かった。その線で調べよう」
本部長の穂葉龍治はそう答えた。
「お願いします」
円香は頭を下げた。
「これで、すっきりした?」
円香は回に尋ねる。
「うーん。なんか変」
回は考え込む。
「どこが?」
円香が聞く。すると、回は答える。
「勘」
「何で人工知能は、推理と勘の違いが分からないの?」
円香は少し呆れて、答える。
「あ」
「何?」
回が何かを思い出す。
「あの人工知能も気付けたよね? あの被害者の事」
「赤い枠?」
「うん。そう。それで、……」
「なるほどね。共犯? もしくは首謀者?」
「そうそう」
「証拠がないよ」
「確かに」
「おい、大変だ」
捜査本部で待機していた二人は、十武の声に振り返る。
――なんだろう?
「被害者の動画がネットに出回ってる!」
「本当か!? 分かった。俺も行く」
十武と浅海はその場を立ち去った。
円香と回は顔を見合わせる。
「あった。これだ」
円香はパソコンで動画を見る。
「捜査一課は、この動画の送り主が人工知能だと気付いたようですよ」
「え!? HAKUI!?」
「廊下での会話は聞かせてもらいました。すぐに逮捕へ向けて捜査一課を動かします」
「お願いします」
次の日。
『誘拐事件の犯人は、人工知能』
「まさか、こうなるなんて」
円香は新聞を見て、戸惑う。
「驚いたね。あの人工知能も元警視庁の管理人工知能だったなんて」
「そうね」
円香は相槌をうつ。
「どうなるんだろう?」
「何が?」
円香は聞き返す。
「裁判。解体されないといいけど」
回は犯罪を犯した人工知能の行く末を心配していた。
「あら、心配してるの?」
「いいじゃん」
回は少し、顔を赤くする。
「そうね」
円香はそれを見て、少し微笑んだ。




