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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【疑惑】ユスカ
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五年後の二人

ヴィー視点となります。

楽しんでいだたけると嬉しいです。

 ユスカと出会って、五年が過ぎた。

 成人まであと一年をきったわけだが、その日が待ち遠しくてたまらない。

 そんなある日のこと――


「よっ、ヴィー」


「カーポか。一週間ぶりくらいか?」


 学校の帰り道、別の学校へと進んだカーポが私を見つけて声をかけてきてくれた。

 カーポは騎士になる為に必死に勉強をしていて、私は魔女としての特性を更に活かす為に医者としての勉強をしているのだ。


「この前ユスカ見かけたけど、相っ変わらず優しすぎだな」


「どうかしたのか?」


 何かあったのだろうかと首を傾げると、カーポがその時見た光景を話してくれた。

 私服のユスカがどうやら大きな荷物を抱えていたお婆さんに手を貸していたらしい。

 私服ということは騎士としての職務中ではなく、それどころか護衛部へと転属したユスカは広報部として顔を売らなければならないわけでもない。それなのに、というところで優しいという表現だったのだろう。


「ああ。そこがいいところなんだ」


 褒められた私は胸を張って多いに頷いた。

 ちょっと小言が多い時もあるがすぐに手を出して困っている人を助ける。騎士の中でもひときわ優しいのだと思っている。

 ちなみになぜ護衛部になったかというと、地方勤務にならないようにとのことだ。広報部では地方勤務になることはごく当然のことであり、王都に居続ける為には護衛部に入るしかなかったようだ。以前ユスカが二週間ほど故郷へと行った時に私が後を追ったことで、期限付きでの転属を決めたらしい。


「俺も少しは見習わなくちゃなんだろうな」


「カーポは面倒見がいいから、気にせずとも大丈夫じゃないか?」


「だといいけど――っと。時間だ。またな」


「ああ、またな」


 連日勉強に鍛錬にと忙しくしているカーポは手を振ると足早に去っていった。

 ユスカからはこのままいけば入団試験は合格するんじゃないかって密かに聞いているから、実は安心していたりもする。


「ユスカ騎士は優しいわよね」


 と、カーポの背を眺めていると同級生の女が声をかけてきた。上から目線で見下すように私を見るこの女は大嫌いだった。


「十歳からヴィーヴィのおもりをしてるんだもの、本当に優しいわ」


 こいつはユスカの事が好きで、だから私に何かと嫌味を投げつけてくる。

 またかとうんざりしていると女はねっとりとした厭らしい言い方をしてきた。


「結婚だなんだって言ってるけど、ユスカ騎士は本当のところ、貴女のことどう思ってるのかしらねぇ?」


「そんなもの愛してくれているに他ならないだろう。私はユスカを愛しているし、ユスカも私を愛している。完全な相思相愛だ」


 私が成人すると同時に結婚すると約束している。書類としての契約はないものの、じじ様も認めてくれているし私達は婚約者なのだ。

 お前の付け入る隙などないのだと睨みつけると、それでも女の態度には変化がなかった。


「ヴィーヴィはそう思ってるかもしれないけどね?よく考えてもみなさいな。ユスカ騎士は貴女が十歳の時に出会ったのよ?幼女趣味というわけではなさそうだけど、果たして本当に異性として愛してくれてるのかしら」


 ユスカの想いを真っ向から否定されて、敵意をむき出しにして低く唸る。


「何が言いたい」


「十も違うのよ?そんな対象になるのかしらね」


「確かに今は十歳という差は大きく感じるかもしれない。だが大人になってからの十歳は対して障害ではない。実際にそれくらい年が離れた夫婦だって少なくはないはずだ」


「ええそうね。わたしの両親もそれくらい年が離れてるからよくわかるわ。だけどね、大人になってからの十歳差と、子供の時からの十歳差は違うんじゃないかしら?」


 あくまでも厭らしい問いかけに顔を顰める。

 回りくどく私を攻撃してくるこいつの手立ては本当に腹が立つ。


「十歳は身体も小さいし頭脳だってこれからな成長途中の段階でしょう?ユスカ騎士はそこから成長していくヴィーヴィを見ていたわけだから、どちらかというと恋人への愛情じゃなくて親が子供へ向ける愛情なんじゃないかしらって言ってるのよ」


 大人同士であれば互いに成長は止まっている。だからこそ十歳の差は大きくは感じない。

 だが片一方が子供であれば違うのではと言っているのだ。


「ユスカの愛が、子供へ向けるもの……?」


 全くもって考えたことのなかったそれに、頭が殴られたかのような衝撃を受ける。

 守ると言ってくれた。愛していると言ってくれた。大切にされている自覚もある。


「そ、んな、ことは」


「あら。じゃあヴィーヴィはユスカ騎士から口付けされたことはある?」


 ない。いくら私が強請っても、ユスカは成人するまでは駄目だと絶対にしてくれない。それどころか必要以上に近づいて触れあうことを良しとしていない節さえある。

 最近同級生達の間で交わされる初体験や、恋人との軽い触れ合いの体験話。そのどれもを、されたことがない。

 十歳くらいであれば理解はできるが、今の私は魔法で姿を変えていた時と変わらない身長に加えて胸だって膨らんでいる。だと言うのに一向に色っぽい気配にはならない。


「ほらね?可愛そうなヴィーヴィ」


 私の表情に何かを悟ったらしい女が勝ち誇ったような笑みを向けて去っていく。

 だが女のそんな表情に怒ることも忘れて、私はただ立ち尽くすのだった。


 + + +


 その夕方。

 いつものようにユスカの家で料理を作っていた私だったが、どうにも思うように進まない。

 どうしてもあの女の言葉が頭から離れなくて野菜は所々皮がむけていなかったり、大きさが不揃いになったり、果ては鍋を真っ黒に焦がしてしまった。


「……ユスカ」


 ちゃんと一人の女として私を見てくれているはずだ。

 そう自分に言い聞かせてみるも、心は重く塞ぎこんでいる。


「早く帰ってきてくれ」


 そうして真っ向から否定してくれ。

 口を噤んで眉間に力を入れて、焦げに焦げた鍋に水を入れて冷やす。熱い鍋に水を入れたからか煙が上がる。

 食材が無駄になってしまったが、鍋は磨けば何とか使えるだろうか。


「ただいま――ってなんだこの煙は。ヴィー!おい、ヴィー!?」


 少しだけ泣きそうになっていると、帰ってきたユスカが慌てて台所までやって来た。


「ユスカ……」


 力のない声でその名を呼んで振り返ると、一瞬安心したユスカがすぐにその表情を引き締めた。


「どうした、何があった?」


 真剣なその表情を見上げて、言葉に詰まる。

 何があったって。


「鍋を、焦がした」


「それはわかる。俺が聞きたいのはそれじゃなくて、なんでそんな顔をしてるのかってことだ」


「それ、は」


 女の言葉が脳裏をまわる。

 不安が胸の内に溜まり、広がるこの状況をどうにかするには。ユスカに聞くしかない。

 ユスカは、嘘は言わないから。

 怖いと思いつつも私は意を決して顔を上げた。


「ユスカ。この五年間で私はどこか変わったか?ユスカの中で、私は変わっただろうか?」


「え――あ、ああ。それは変わったが」


 見上げる私にユスカは動揺したようだった。僅かばかり視線を逸らされて、そうしてもう一度向き直った。

 変わったという一言に、弾かれたように縋る。


「どこがっ、どこが変わった!?」


 ユスカの愛は変わることがないと信じていた。信じていたのに。

 愕然とした私の様子にユスカはいぶかしむ様に私を見た。


「どうしたんだヴィー。本当に何があった?」


 ユスカに聞かれるも、それどころではない。


「どこがどう変わったと思ってるんだ!」


 まさか、まさか本当に子供への情愛だったとでも言うのか。

 必死の質問にユスカはしばらく心配そうに私を見ていたがやがて口を開いた。


「そりゃあいろいろと、あるだろ。自然以外のものへの知識も深まって、背だって伸びたし、成長したなと。特に……とか」


 どこか気まずそうで、しどろもどろなその答えに思わず涙が零れる。

 成長したな、なんて。それじゃあまるで保護者の感想じゃないか。あの女が言っていた、そのままの言葉じゃないか――


「ヴィー!?」


 次から次へとこぼれる涙にユスカが目を見開いた。

 ほんの少し身を屈めて覗きこむその顔は、心配そのもので。


「っユスカは……私のことを子供だと、思っていたのか?女としてではなく、子供として愛していると言ったのか……?」


 ひくひくと小さくしゃくりあげながら、まるで迷子の子供のような気持ちで問う。

 ああ、こんなでは余計に子供だと思われてしまう。

 そう冷静な自分が言っているが、それでも涙も不安も止まってはくれない。

 一生懸命に涙をこらえようと口を引き結んだ、その時。


「んなわけあるか」


 思いのほか強い力で抱きしめられた。

 少し声が怒っていて、それに目が丸くなる。

 ぎゅっと両腕が背中にまわされて身体が密着してしまい、その顔を見ることができない。


「俺はな、ヴィーが成人するのをずっと心待ちにしてるんだぞ。幼女趣味だなんだと言われようがなんだろうが、俺はヴィーが好きでヴィー以外の女なんかどうでもいい」


 やっぱりちょっと怒っていて口早なユスカだけど、言っている内容と体温が心地いい。


「ヴィーが成長してどんどん大人になってくってことはそれだけ結婚が近づいてるってことだ。それが俺は嬉しい」


 成長を感じても、そこから生まれる感情は親心ではなくあくまで恋人としてのもの。

 そう言われて安心が増すが、それでもどうしてもあと一押しが欲しかった。


「じゃあ、キスしてくれるか?」


 上目遣いで訴えるように頼めば、ユスカは息をのんだ。そしてほんの少しだけ目元を赤くした。


「……一回だけだぞ。これをしたら成人までないからな」


 その言い方が私にではなく、どこか自分自身に言っているように聞こえたが気にしない。してくれるのならそれ以上は望まない。


「ああ!」


 そうしてユスカの手が頬に添えられ、私は目をつぶるのだった――

ちなみにユスカの自制心は強くもありますが、不埒な真似をしたら即刻斬り刻むとセスに言われているのも大きな原因の一つだったりします。


これにてユスカ編完全終了となります。

今後は小話ではなく各騎士編をと思っていますが未定です。そろそろ攻めの騎士が欲しいなとは思うんですが…


読んでいただきありがとうございます。

また投稿しましたらお付き合いくださると嬉しいです。

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