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彼が最強と呼ばれる所以!!  作者: 犬ちゃん
第一章 森の民達
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メイドの過去話 『始まり』

お久しぶりです

良い感じの展開が思い浮かんだので、再開します。

 ジェアは名のある盗賊団の一員だった。盗賊団の名前は『レベトリア怪盗団』なんて小洒落た名前だけれど、やっていることは残虐非道をそのまま具現化したような有様だった。


 そんな盗賊団の幹部をジェアは務めていた。名のある盗賊団の幹部を務めていたから、普通に考えれば彼女自身も強いと考えるのが妥当だ。そして、今私が言ったように、ある程度強者に与えられし二つ名もあった。


 『妖精の踊り子』

 

 当時幼かく短い肢体で、何百人もの人間を切り刻み歩いていた姿が、まるで血を浴びて(はしゃ)いでいる妖精に見えたところから名付けられた名前だ。

 血の妖精、刃物遊び、なんて異名も聞いたことがある。

 

 ここまで聞いてわかると思うけど、彼女は普通ではない。一見すれば大人しそうな彼女でも、小さき体には猛虎を飼ってるんだ。

 

 ……アハハ、そんな顔を怖くするな。冗談ではないけど、その猛虎はとっくの昔に鳴りを潜めたよ。今の彼女は普通の人間だ。いや、戦闘能力の面で言えば、人間の常識を遥か越えているだろうけど、人間だよ。


 でもまぁ、前座はこれくらいにしておいて、本題に入るとしようか。


 数年前、この森の結界に穴を開けた者たちがいた。その者たちは巷だ世間を賑わす悪党『レベトリア怪盗団』であった。


 さっきも名前を出していた、それだ。


 レベトリア怪盗団は、殺人、強盗、拉致、様々な悪事に手を出す、小洒落た名前に似合わない盗賊団だった。

 そんなレベトリア怪盗団は、それまでは一切我らが森の民に対しては干渉しなかった。恐れるものは無し、と思われていたレベトリア怪盗団でさえ、この森には手を出すことが出来んかったんだよ。


 それぐらいに、フウリックが張った結界は強力なものだった。


 このまま平穏に終わって、和やかな日常を話せればどれだけ素晴らしいことなんだろう。


 結果から言ってしまえば、結界が破られてレベトリア怪盗団が数人のエルフを殺害するという事件が起こった。


 様々な思惑が入り混じっていた。まぁ、結局はレベトリア怪盗団が全て持っていく形で帰結したんだけど。


 その頃の私と言えば、戦争が終結してからというもの、天手古舞(てんてこま)いな日々だった。まずは周辺国との関係の悪化を引き留めるため政策や、革新派の若人(わこうど)達も抑えなくてはいけなかった。

 毎日が資料や革命との闘いでね。でも、それはそれで大事な娘を失った悲しみを緩和してくれたよ。忙殺は感情を殺さなければ出来ないことだからね。だから、私は忙殺によって感情を殺すことが出来たんだよ。


 さて、そんな平穏な日常に嫌な報告が舞い込んでくる。嫌な報告が舞い込んでくるときは日常が常だ。


 私も長生きしているけど、本当に嫌な報告は不意打ちでやってくる。



▼▼▼▼



 木の香りとインクの臭いが充満した書斎に、ヒューゼは手元にある資料を恨めしそうに眺めている。彼が今眺めている資料は、様々な問題が箇条書きで羅列してある藁半紙の資料だった。

 

 「……はぁ」


 そして、今日で幾度目かの嘆息を吐いた。

 この近隣諸国の問題や森周辺の治安の問題の羅列を見ていると、思わず昔のように旅に出たくなる衝動に駆られた。自分を縛る鎖など一切ない、流浪の旅にだ。けれども、ヒューゼは頭を振ってその衝動を振り落す。

 昔の地位も名誉も無い自分ならいざ知らず、今の私はこの森を支える一柱だ。そのようなことを考えてはいけない。


 そう自分を奮い立たせて、再度資料に目を落とすと、先ほどまでのは何処かへ行ってしまったようで、熱意というものが萎えてしまう。


 別にヒューゼは、目の前の資料に書かれている問題の多さに気苦労を感じているのではない。(うつ)ろ、ヒューゼはことに進展があるのであれば、自分のことなど(かえり)みずに行動に移す性格である。

 ではなぜ、彼は精神的に疲弊しているのかと言えば、理由は単純で、ことの進展が見えないからだった。


 近隣諸国のレイルド王国は、前代の王が庶民の暴動によって処刑され、それで今代の王が国民選挙によって選定された。そのような経過があり、今代のリイレ・レイドが即位したわけなのだが、それ故に問題は多い。

 主に彼の反対勢力や、前代の自国民至上主義に染まり切った国民の一部が、ことが進展するのを妨害しているのだ。

 それに加えて、森の民とレイルド王国民の様々な『差異』が表面化してきていた。


 現在、レイルド王国と森の民の文化交流が盛んに行われており、森の民には好評を博している。もともと閉鎖的な空間ではあるが故の、外への好奇心なのだろう。

 『サンドイッチ』なる食べ物や『活版印刷』もその一つだ。


 しかし、対する森の民の文化からレイルド王国の文化輸出は芳しくなかった。芸術品や伝統工芸品の類いは評価は高い。けれども、森の民が日常で使用するような木を彫った食器や、森で採れた食材を用いた料理に関しては、頗る評判が悪かった。

 

 確かに、ヒューゼから見ても、この森の民の生活はか古すぎると感じている。

 それに、森の民とレイルド王国民の価値観の差異も指摘しなければいけないし、科学技術力が森の民よりも遥かに進歩していることも指摘せねばなるまい。


 「文化交流……まったく、厄介な代物だ」


 それに加えて、亜人差別や貿易摩擦、亜人奴隷の裏売買など、頭を悩ませる種は無数にあった。基本的に全ての事柄彼に回ってくることは無いのだが、一エルフとしては、この無数に植え付けられる悩みの種が悲しく思えるのだ。

 少なくとも、その種が発芽する前に取り除かなければならないことは確かなのだが、除去しても除去しても、また新たな種を見知らぬ誰かが植えていく。


 だからこそ、進歩が無い。進歩が目に見えない。


 ――そのように、ヒューゼが頭を悩ませている時であった。


 重々しい空気が沈殿している部屋に、四回のノックの音が鳴った。


 「ヒューゼ隊長、お時間よろしいでしょうか」

 「……いいよ。入ってきなさい」


 そういうと、一人の隊員がヒューゼの書斎に入ってくる。胸には巻き筒を抱えた鳥の刺繍がされていた。彼は恐らく『配文隊(はいぶんたい)』のエルフだ。

 

 またもや、ヒューゼは嘆息する。配分隊がここに来るということは、何かしらの問題があった場合が多い。そして、ヒューゼはどこかしら焦燥(しょうそう)を感じている青年の顔を見て、直感的に何かしらの問題が起きたと考えたのだ。


 「それで、何だい?」

 「はい、森の結界付近に『レベトリア怪盗団』の団員らしき人間が、接近した、との報告が上がっています。人数は五人。現在、魔術検証部が結界に何かしらの工作をしたのではないか、と言う調査を行いました」

 「……そうか」


 やはり、問題だったか、とヒューゼは頭を悩ませる。


 「しかし、調査結果は『何もされていない』という結界に落ち着きました。けれど、上の方からはこの調査結果に納得していないようで、ヒューゼ隊長を呼ぶようにとの命令です」

 「まぁ、大体理解できた。とりあえずは、私が現場に向かえばいいんだな。君が案内役かい?」

 「いいえ、表でヒューゼ隊長を待っています」

 「事の概要は、現場に(おもむ)最中に説明するのか」

 「そうです」

 「了解した。私は準備ができ次第、現場に急行する。君はもう下がっていい」

 「はい、それでは失礼しました」


 伝文隊の隊員はそう言って、去って行った。

 それを扉がキチンと閉まるところまで見送り、ヒューゼは思わず天井を煽った。問題が次から次へと、まるで津波に様に押し寄せてくる。

 

 『レベトリア怪盗団』という名をふと、頭の中に思い浮かべてみる。

 確か彼らは、まだレイルド王国が自国民崇拝主義を取っていた時代に、義賊として名を馳せた怪盗団だったはずだ。

 数々の貴族の家宅に潜入し、金貨や財宝を盗み、そしてそれを貧民に分け与える。そのようなことをして、貴族や王族たちからは忌まわしく思われ、庶民からは慕われる義賊だった。

 

 しかし、レベトリア怪盗団の団員の一人が、捕縛され、斬首刑にされたことによって事は幕を閉じた。

 レベトリア怪盗団の活動がそれっきり止んでしまったようだ。


 そのような経緯を密輸入の商人が嬉しげに語ってくれたのを覚えている。


 けれども、それから十数年後のある日、ヒューゼは治安問題相談議会での問題視されている議題の中に混じっている一つに目が留まる。


 『レベトリア怪盗団』


 話を聞くと、どうやら自らをレベトリア怪盗団と名乗る賊が出現し、レイルド王国近隣の村落や集落を襲っている、ということだった。ヒューゼはレベトリア怪盗団を自称する者たちが出てきた、等と流暢に思っていたものだったが、何処か違和感を覚えていた。

 その違和感が何のか、今でもヒューゼは理解できなかった。何処か釈然としない何かが、突っかかっていたように思えるのだ。

 

 「……まぁ、考えても始まりはしない」


 行動無くてはことは始まりはしない。

 ヒューゼは鞄掛けに掛けてあった皮の鞄に、調査に必要とする様々な魔術媒体を入れ、書斎のドアを開ける。

 

 しかし、彼は何を思ったのか、ふと後ろを振り返る。そこには様々な書物が散乱している自分の部屋があった。


 近々、家政婦でも雇おうかと、頭の隅で考えながら、ヒューゼは自宅を出る。



 ▼▼▼▼



 「魔力残滓は見られませんでした。何かしらの術式を発動した形跡も発見できません」

 「魔流検紙はどうだった? 僅かにでも変色しなかったか?」

 「はい、少しだけ黄色を帯びましたが、それは恐らくこの森の魔力に反応したものでしょう」


 ヒューゼと案内役の若いエルフは、森の中を疾走しながら、会話していた。足には脚力を強化する魔道具と、には筋力維持による様々な副作用を軽減する術式が発動してあった。

 通常の人間が見たら、輪郭すらも捉えられない速さで、ヒューゼたちは会話をする。


 「結界に反応が無いということは、何かしらの攻撃を結界自体にした訳ではない……、であれば、物理的干渉の反応はあったのか?」

 「いいえ、そのような反応もありません」


 そのように、検証結果の報告をしていると、事が起こった現場に到着した。


 現場は森と平原の境界線に位置付いており、そこが結界外と結界内の境界線にもなっている。そこには、数名の調査団のエルフたちが立ち尽くしている。ヒューゼの到着を待機しているのだ。


 「すまない、待たせたな」

 

 ヒューゼは魔道具の出力を下げ、上手く体を静止させた。それに習って、案内役のエルフも静止する。土埃を微かに上げて、登場する二人を待っていたかのように、調査団のエルフたちは二人の方向に向かって歩く。

 

 ヒューゼは寄ってきた調査隊のエルフ達を観察すると、どこか不満気な表情を浮かべているエルフ達が多かった。それもそうで、上司たちが納得行かなかった検査結果は、目の前の調査隊員が満を持して送った結果なのだ。

 目の前の不満気な表情をしている彼らは、自分が検証した結果に対して自信を持っていたのかどうかはヒューゼにはわからない。


 しかし、恐らく良い気分ではないことは理解できた。


 「ご足労頂き、ありがとうございます。ヒューゼ隊長」


 調査隊の部隊長らしきエルフの男が、ヒューゼに近寄って挨拶をする。ヒューゼは軽く会釈をした。


 「……それで、調査の方はどうだ? 何か進展はあったかな?」

 「すみません、今のところ再調査の最中なのですけれども、一回目と途中まで同じ結果が出ていました、恐らく二回目も証拠らしきものが出てくるとは……」

 

 部隊長がそう言葉を濁し、気まずいような表情を浮かべる。ヒューゼはそんな部隊長に「気にするな」と一言、言葉を掛けて、部隊長の後ろに控えている調査隊員たちに向かって一歩踏み出す。

 彼らは一様にヒューゼを見た。ヒューゼも視線が自分に集合するのを感じる。


 「さて、皆。再調査ご苦労。最後まで調査を頑張ろう。私は私で、独自に調査をさせてもらう。君たちは君たちで、出来る限りのことをやってくれ」


 一応、そう声を掛けてみたはいいものも、調査隊の顔は何処か覚束無い。これは相当不貞腐れているのだろう。ヒューゼは内心で苦笑した。エルフは総じて自尊心が高い。

 己の努力を否定されると、自分自身まで否定されたとまで思う者も存在するのだ。ヒューゼはこの問題も解決せねばいけない問題であると捉えている。

 自尊心を持つことは大事だ。けれど、行き過ぎた自尊心は己を尊大にさせる。長年生きてきた歴史と世界を旅した見聞が、そうヒューゼに語るのだ。


 「まぁ、そう嫌な顔をするんじゃない。君たちにしかできないこともあれば、私にしかできないこともあるだろう」


 そう言って、ヒューゼは調査隊から少し離れ、案内役のエルフの下に近寄る。


 「これは、相当上の判断に納得がいっていないように見えますね」

 

 案内役のエルフは、何処か他人ごとのように言ってくる。それにヒューゼは苦笑した。


 「まぁ、自分の努力を否定されれば、少なからず不満を抱くさ」


 そこまで苦言を呈さずに、何処か曖昧に言うようにヒューゼは(とど)めた。


 

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