表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の管理業務。人材より人命が足りていません――欠勤事由:死亡のため  作者: ぶらっくそーど
第二項:チョコを切らさないこと

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/169

管他所の区画の怪物が、うちに来た④


 七分後。


 カイムの計算通り、非常階段の方角から足音が聞こえた。


 隔壁扉の向こう。遠い。しかし、地下の静けさの中では、階段を降りる足音が壁を伝ってくる。


 軽い足音だ。走っていない。歩いている。急いでいない。


 脱走した変位個体(ディスプレイスド)は、逃走しているのではなく、散歩しているような足取りで降りてきている。


 端末に追跡情報が更新された。



<当該個体、現在地下114階。非常階段を下降中。速度一定。>



 114階。あと三階。


 リビングスペースは隔壁扉から二つ角を曲がった先にある。距離にして40メートル以上。壁越しの干渉が至近距離限定なら、ここまでは届かないはずだ。


 足音が近づいてくる。115階。116階。


 そして117階。


 足音が止まった。


 隔壁扉の前で、止まった。


 静寂。


 リビングスペースにいる全員が、息を止めた。ノクスの金色の瞳が扉の方向を睨んでいる。セラが両腕を自分の身体に巻きつけている。メルトがノートを胸に抱えている。ラグナが唇を噛んでいる。カイムが目を閉じている。



 コン、コン。


 隔壁扉を叩く音。ノックだ。


 脱走した変位個体(ディスプレイスド)が、隔壁扉をノックしている。


 コン、コン、コン。


 丁寧に三回。来訪者のマナーとしては正しいが、脱走犯のやることではない。



「……」



 端末が震えた。


 テキストメッセージ。差出人は――第七区画の隔壁扉のインターホンだ。外部の訪問者が隔壁のパネルからテキストを送れるらしい。知らなかった。


<こんにちは。第九区画の八番です。道に迷いました。入れてもらえませんか?>


 道に迷った。脱走しておいて、道に迷った?


<追伸。お腹が空きました。何か食べるものはありますか?>


 食べるものを要求している。脱走犯が。


<追追伸。チョコレートがあると嬉しいです。>


 チョコレート。


 ノクスが毛布を被った。



「――入れないで。あたしのチョコがなくなる」


「入れませんよ。通達で接触禁止です」


 端末で返信した。



<当区画は閉鎖中です。通過してください。>


 返信。


<通過したいのですが、足が疲れました。少しだけ休ませてもらえませんか? 椅子があれば。あと、できればチョコレート。>


 こいつ、ずっとチョコを要求してるぞ。


「ノクスの同類か?」


「一緒にしないで」


 ノクスが本気で怒った。毛布の中から殺気が漏れている。忘却の魔王の殺気。半径30メートルの記憶が少し薄くなった。



「すみません。撤回します」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ