影の形が、少女のそれではなかった④
夕方。自室。
今日一日で、三つの奇妙なものを見た。
ラグナの影が、少女の形ではなかった。
ノクスの瞳の裏に、底のない黒が透けた。
メルトの文字が凍結してひびが入った。
加えて、セラは夢の中で「裂け目」を見ている。カイムは最近「声が聞こえる」と言っていた。
五人全員に、何かが起きている。
端末で検索する。
「変位個体 制御 異常 兆候」。
検索結果:閲覧制限。
「……」
もちろん閲覧制限だ。この組織は閲覧制限が好きすぎる。
しかし、一件だけ一般閲覧用のページが引っかかった。
<変位個体管理FAQ Q:個体の外見が変化することはありますか?>
<A:【人型制御】の適用下では、外見の変化は通常発生しません。変化が確認された場合は、速やかに上長へ報告してください。>
<詳細は閲覧権限レベル3以上が必要です。>
人型制御。初めて見る単語だ。
その単語で再検索する。結果、1件。
<人型制御概要(一般閲覧用)>
<変位個体の外見および能力を、管理可能なレベルに制限するための基礎制御システム。太陽再構築期に開発。全変位個体に適用。>
<詳細は閲覧権限レベル3以上が必要です。>
能力を「管理可能なレベルに制限する」。
つまり、今の彼女たちの能力は、制限された状態だということだ。
ノクスが不機嫌で半径30メートルの記憶を消す。それが「制限された」能力。
セラが笑って壁にひびを入れる。それが「制限された」能力。
メルトが喋って声が凍る。それが「制限された」能力。
ラグナが走って通路を壊す。それが「制限された」能力。
カイムが未来を垣間見る。それが「制限された」能力。
制限されていない状態の彼女たちは、どんな存在なのか。
分類名。
【忘却の魔王】
【現実裂きの勇者】
【沈黙の魔女】
【破壊の結晶獣】
【境界の魔法少女】
あの仰々しい名前は、ただのカッコいい二つ名だと思っていた。ラノベの登場人物みたいな、厨二病全開のネーミングだと。
でも、もしあれが「ただの名称」ではなく、「本質の記述」だとしたら。
忘却の魔王は比喩ではなく、文字通り忘却を司る魔王なのか。
破壊の結晶獣は比喩ではなく、文字通り破壊を結晶化する獣なのか。
俺はこの一ヶ月近く、彼女たちの「制限された」姿しか見ていない。檻の外観だけを見て、中身を知らずに管理者をやっている。
知りたいか、と訊かれたら。
正直に言えば、怖い。知るのが。
でも、知らないまま管理者を続けるのも怖い。知らなかったせいで、佐久間さんのように死ぬのは、もっと怖い。
端末を閉じた。
明日、戸波さんに訊く。【人型制御】について。彼女たちの本質について。知れることは全部知る。
管理者マニュアル(灰嶋版)に、新しい項目を追加した。
第十一項:彼女たちの本当の姿を知ること。怖くても。
怖いから離れるかって言うと、それは別の話だ。
ラグナに言った言葉を、自分にも言い聞かせた。




