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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
93/165

【 ディミド城への訪問者 】



一方、アックス達と別れてディミド城へと報告に戻ったガイと負傷した兵達は、無事に城へと戻っていた。





城に常駐しているガイの部下に負傷者を医務室へと運ばせ、ガイは王の待つ玉座の間へと向かって歩いていたのだがーー




カツッ カツッ カツッ カツッ


カツッ カツッ カツッ カツッ



「それで、どうして負傷していない君まで付いて来たんですか?そんな不機嫌そうな顔をして斜め後ろを歩かれると良い気分はしないよ?」


相手を見ないままそう言うガイの斜め後ろには、牙狼討伐で大きな貢献をしたソルジャンが眉間に皺を寄せながら歩いていた。


ソルジャンは今年で26歳になる軍人で、ディミド軍の中で唯一MSSを持っている人物である。


ソルジャンのMSSレベルは2なのでセントクルス王国の軍に志願すれば優先的に入隊できる可能性があるのだが、ソルジャンはそれをせず 生まれ育ったこのディミドで軍人として働いている。


日々の鍛錬を怠らない真面目な性格で、体格も良く剣術も魔法の扱いもディミド軍の中ではトップクラスの人物。


民を守ることを常に心掛けている優しくて強いソルジャンに憧れて軍に入る者も多いほどの人格者でもある。



「ガイさん、無礼を承知で質問をさせて頂きたい」


「私がすでにアックス少佐に無礼を働きまくっているのは知っているでしょう?だからそんなに改まらなくていいですよ。ーーどうせ君の事だから さっきの牙狼討伐の指揮の事でしょう?」


ガイの言う通り、ソルジャンはガイの指揮に疑問と不信感を抱いていた。


とはいえ、ソルジャンはガイが自分よりも戦況を見る目を持っているのは知っている。


しかし、その時々でガイの冷酷な指揮に疑問も持っていた。


「ーーはい。何故、あの場面で劣勢な仲間の所へ行く事を止めたのですか!結果、劣勢だったあの部隊は全員大怪我を負い、一時期は形勢が逆転されてしまった!下手をすれば全滅になっていたかもしれません。あそこで我々の部隊が援護に向かっていれば、ここまで多くの兵が傷付く事はなかったはずです!」



「うーん、そうかぁ。ごめんね、私の計算ミスだったね」


「ーーは?なにを・・・」


熱と怒りを込めたソルジャンの進言に、ガイはワザとらしく項垂れた様子で自分の非を謝罪した。


その様子を見たソルジャンは、予想外過ぎた反応にキョトンとしてしまった。


その理由の1つは、謝罪をするガイからハッキリと【失望】がMSSで伝わってきたからだった。



「君がそこまで馬鹿で無能だったなんてね。私の人を見る目も落ちてしまったようだね」


「ーーいったい、どういう事でしょうか…」


謝罪をしたと思ったら、今度はゴミを見るような目でソルジャンを見たガイに、ソルジャンはさらに困惑が広がった。


実際、あそこで自分達が劣勢の部隊の援護に回っていればここまで多くの被害は出なかったはず。

自分の力を過剰評価などはしていないし、間違った事を言ったつもりもない…。



困惑するソルジャンを見たガイは、ここまで言っても分からないか、と言うように溜息を吐きながら面倒くさそうに説明を始めた。



「私の計算では今回の魔獣討伐で負傷する可能性があった人数は多くても5名だった……なのに この結果だよ。私の失策は君を有能な戦力として考えていた事だね。もしもあの場面で君が劣勢の所に救援に行っていたら、その時点では優勢だった左の部隊が劣勢になって、もしかしたら全滅…はアックス少佐がいるからないにしても、さらに被害は増えていただろうね」


ガイはそこまで言うと両手をグーにして自分の顔の横に上げた。


「君が戦いながら戦況を把握出来ていない時点で3人、自分の力量をちゃんと把握していなくて1匹倒すのに時間を掛け過ぎた時点で3人、考えなくてもいい猿鬼の事を考えた時点で2人、劣勢の所に気を取られた時点で2人、伝えなくてもいいはずの指示を私が伝えなくてはならなくなった時点で4人、その後に数秒悩んだ時点で1人の負傷者が増えた計算になるね」


ガイは指を折り曲げながら人数を数え、子供に説明するようにソルジャンに教えていった。


「君が戦いながら次に倒しやすい牙狼に目星を付けて、すぐに討伐を重ねていけば牙狼討伐部隊の負傷者は多くても1人の計算だったんだよ」


劣勢を助けるのではなく、数と属性で圧倒しているのなら弱い所からいち早く討伐して優勢を拡げていけという事。

そうすれば劣勢への援護も早くなるし、危険度も格段に下がる さらには魔獣が減れば士気も上がり勢いもつく。


例え相手が個では脅威な魔獣であっても、今回は始めから数と属性で圧倒的に有利な戦いだったのは間違いない。


ーーーそれなのにソルジャンは被害が少なくなる事を優先的に考えてしまい、最短最善を放棄してしまっていたのだ。


慎重になる事が悪い事ではない。

だが実力を見誤って必要以上に慎重になるのは 慎重ではなく臆病と変わらない。

それは今回のような場合、出さなくて済んだはずの被害まで出してしまうという事だ。



「情に熱いのは結構、優しいのも結構。だが、それが足枷になっているようでは三流以下だ。私の期待を裏切るならアックス少佐みたいに裏切って欲しいものだね。ーーちなみに私の計算では、残りの負傷者の予想は猿鬼で1人とゴブリンで3人だったんだけど、ゴブリン討伐部隊での負傷者は0だったよ」


そこまで話すと玉座の間にちょうど辿り着き、ガイはソルジャンの返答を待たずに玉座の間へと入っていった。



「・・・・・」


1人通路で立ち竦むソルジャンは、下唇を血が出るほど噛み、自分の無力さと無能さと足りなさを悔やんでいた。





ーーーーーーー





ソルジャンを放置し、玉座の間に入ったガイは玉座に座るモーリス王にヌエン村での報告を済ませたーー



「ーーーー報告は以上です」



「そうか、大雨の中 御苦労であったな。ガイもこれからヌエン村へ戻るのだな?では城で警備をしておる兵士を何名か連れて行くがよい。少しでも復興の力になれるであろう。明日からはもっと多くの者を派遣するが、生き残った村人にとって今夜が1番辛い夜になろう。ーーーどうか支えてやってくれ」


「わかりました。おそらく今夜はアックス少佐も私もこちらへ戻らず村で泊まると思いますので、何かあれば私の方へご連絡下さい。では私はこれで」



決して大きいとは言えない玉座の間で、還暦を迎えたばかりにしては老けて見えるディミド小国の王モーリスに報告を終えたガイは、ヌエン村へ連れて行く兵を集める為に玉座の間を出ようとしたーーー




「ーー誰です!出てきなさいっ!」


玉座の間を出ようとしたが、危険な気配を感じ取り モーリス王を守る形で大きな声を発した。


「・・・・?」


一瞬とてつもなく凶悪な殺気を感じたが、完全に気配が消えた。


全神経を集中させて気配を探ったが、狭い玉座の間の中にはガイと王以外の人の気配はなかった。



「どうしたのだガイよ。何か感じたのか?」


「・・扉が開いた気配もない…気のせい、だったようですね。失礼しましたモーリスおーー」



トンッーー




気配が見つからなかった事で自分の勘違いだと結論付け、突然大声を出してしまった事を王へ謝罪する為に振り返った途端、背後から首筋にヒンヤリとした剣が当てられた。



普段は余裕を保つ冷静なガイであったが、さすがに動揺を隠せなかった。


たった0.2秒前までは絶対に誰もいなかった場所から気配も魔力も感じさせないまま突然誰かに剣を突き付けられるなど、あり得るはずが無い。


「ーーくっ、何者…ですか?」


背後から剣を突きつけられている為、相手の顔が見えない。


少しでも動けば確実に首が胴体から離れていくとガイは理解していたが、目の前には絶対に守らなければいけない王がいるので、背後の敵の意識を少しでも自分に向ける必要があった。


敵が一瞬でも隙を見せれば王を連れて転移で逃げるしかないが、逃げ切れるイメージが全く湧かない。



「なってねぇなあ腹黒メガネ!俺様に向かって何者ですかだあ?まぁ最初の気配で逃げなかったのは減点だが、咄嗟に動けたのは合格点だなあ!小便チビってたら不合格だが、まさかチビってねぇだろぉなあ?」


男はガイのすぐ背後から大声でそう言うと、ガイの首に当てていた剣をどかした。


首元から死が離れていったガイは聞き覚えのある男の声に驚いた表情をしながら振り返り、まさかとは思いながらも男の姿を確認した。



振り返った先には、予想通りではあるが想定外の人物が不敵な表情で仁王立ちしていた。


男は袴のズボンに上半身は裸にサラシという目立つ格好をしており、サラシで隠れていない肌や顔には無数の傷が散りばめられていた。


そして男の傍には手を触れていないにも関わらず自由に飛び回る大剣が寄り添っている。



「レスカー様!?なぜレスカー様がこのような場所に……モーリス王がお呼びになったのですか?」


「い、いや…魔獣が出た事をセントクルス城へ報告はしたが要請はしておらんよ。アックスとソルジャンとガイが居れば低級魔獣なら問題はないと思っておったしな」



ガイと王は2人して困惑した様子だった。


その様子を見ていた困惑の原因であるレスカーは徐々に不機嫌な表情になっていき、それに気付いたガイと王は冷や汗を垂らしながら会話をやめた。


「俺様が来てやってんのにシカトこいて仲良くお喋りたあ、てめぇら明日がいらねぇみてぇだなあおい!」


「も、申し訳ありませんレスカー様。まさか貴方のような方がお越しになるとは思ってもいませんでしたので困惑しておりました。本日はどのような要件で足をお運びになったのでしょうか」



一国の王に対して無礼千万では足りない態度のレスカーに対し、自国の王が貶められる発言をされたガイは咎める事はせず、それどころか膝をついてレスカーに謝罪をした。



謝罪を受けたレスカーは反発してこないガイとモーリス王をつまらなさそうに見た後、理由を話し出した。



「あの生意気な坊ちゃんが言ったんだよ!ここに来れば強ぇやつと戦えるかもってなあ!どこにいんだ?まったく強ぇやつの気配なんか感じねえ。俺様に気配を感じとらせねぇたぁ、やるじゃねぇかあ!城にいんなら隠さずに早く出せよ」



ガイとモーリス王にはレスカーが何を言っているのか理解出来なかったが、レスカーの機嫌を損ねると城が真っ二つにされかねないのでどう言葉を繋ぐか悩んでいた。



ーーーゴンゴンッ


「王様っ、失礼致します!ソルジャン・ナイトレス入ります!大きな声が聞こえましたが、何かありましたでしょうか」



玉座の間の前で己の無力さを悔いていたソルジャンだったが、玉座の間の中から王でもガイでもない声が聞こえてきた為、不審に思い入って来てしまった。



「あん?なんだ小僧、おめぇが強ぇやつか?・・・いや違ぇな。素質はありそうだが全っ然育ってねえ。育ってから出直せやガキ」


扉から入って来たソルジャンを見たレスカーは腕を組んだままそう言うと、レスカーの横に浮遊する大きな剣が勝手に動き出し その場で一閃した。


ブォンーーー


「なっ、くっ!うおぉぉぉぉっ!」


玉座の間は狭いとはいえ、レスカーの立つ場所からソルジャンの居る入り口までは距離がある。


なのにも関わらず、ソルジャンに向けて振られた剣は剣圧だけで鎧を着たソルジャンを城の外にまで吹き飛ばしてしまった。



「ほお!あんだけしか飛ばなかったかあ!あいつ、少しは見込みあるかもなあ!しっかり育てろよ、腹黒メガネ!」


「承りました…」



突然のソルジャン乱入に肝を冷やしたガイと王であったが、レスカーの機嫌が良くなった事に多少ホッとし、飛ばされたソルジャンに心の中で拍手を送った。





ーーーゾクッーーー


ガイがホッとしたのも束の間、レスカーからのプレッシャーが消えた代わりに外から嫌な気配がヒシヒシと伝わってきた。



「お!なんか感じたなあ!なんだ今の?魔獣っぽいな!」


ガイが感じた嫌な気配をレスカーも感じ取ったようで、嬉しそうな顔で気配がする方を見ていた。


その方向はーーー


「ヌエン村の方角……モーリス王、私はすぐにヌエン村へ向かいます。ーー嫌な予感がします」


「わかった。気を付けて行ってくるのだぞ」


「お?なんだ、腹黒メガネも行くのか?俺様の邪魔すんなよ、邪魔したら蹴り殺すぞ」


「邪魔なんか致しませんよ……力をお貸しください」





幸か不幸か、世界最強の剣士レスカー・ウッドベルがディミド城に舞い降り、ガイと共にオールドオーガが出現したヌエン村へと向かって行った。




その頃ソルジャンは


「うぅ・・・ブクブク……」


ディミド城下町にある噴水に飛ばされて、意識を失っていた。



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