【 天才 】
「はぁ…はぁ…」
予想以上に重いな・・・
満腹で眠りに落ちてしまったグルルを背中に乗せて防雨結界に守られながら雨道を歩いているのだが、グルルは見た目の小柄さからは想像もつかない程に体重が重かった。
身長はマリアよりも少し低く100㎝あるかないかくらいなのに、体重が確実に俺より重い…
裸にバスタオルを羽織っただけのグルルが何かを隠し持ってる可能性はないので単純に体重だと思うのだが・・・ありえないだろ…
「ふぁ〜ぁ、おおー?たっくと、こーは?こーは?」
「お、起きたか。これは防雨結界って言って、雨から守ってくれる魔法だよ」
あまり時間をかけずに目覚めたグルルは雨を防ぐ結界に興味を示し、また質問遊びを始め出した。
「ほほー、まほー?まほー!」
言葉は未熟だがグルルは頭が良く、どんどん俺の言葉を吸収していくので 教え甲斐があって俺も楽しいし嬉しくもある。
このペースで行けば3日くらいでマリアより会話が成り立つようになるんじゃないか?
「あんまり俺から離れるなよ。結界からはみ出ると また濡れるぞーーーっておい!言ってるそばからっ」
背中から降りたグルルは防雨結界をまじまじと見ていたが、突然結界の外に飛び出してしまった。
「まほー、まほー!」
ーーっ!?
うそ・・だろ?
俺の結界から軽やかな足取りで飛び出してしまったグルルは、せっかく乾いた全身をまた雨で濡らしてしまうーーーと思ったのだが、そうはならなかった。
「ーー防雨結界…。元々使えたのか?いや・・まともに喋れないのに詠唱を覚えてたとは考えにくいよな・・・」
魔法は詠唱を知らないと発動できないのは常識だ。
生まれつき声が出ない人や目が見えない人達は、専門の施設で脳内詠唱学習というのを受ける事で魔法を覚えていったりはできるが、その施設を利用出来るのはあくまでも障害を持った人だけだ。
これまでのやり取りでグルルにそういった障害があるとは思えないし、詠唱を覚えているとは考えにくいが…見ただけで魔法を使えるようになったと言われる方がもっと考えにくい。
考えられるとしたらーーーそういうアイデンって事くらいか。
まぁアイデンなら納得は出来る。
見た物や触れた物を真似するコピー系アイデンは多く存在しているし、もっととんでもない能力もあるくらいだからな。
でも、まだ5歳くらいに見えるグルルがこんなにアイデンを使いこなせるのは凄いとしか言いようがない。
天才ってやつだな。
クローツ先輩とかも幼い頃からアイデンも結界も使いこなしていたって聞いたことあるし、グルルもそういった天才人種なのかもしれない。
つくづく謎だらけだな…一体何者なんだ、グルルは。
「凄いなグルル!でもあんまり離れるなよ、また迷子になったら大変だからな」
「ぐるるすごー!たーへん?まほーまほー!」
グルルが天才だろうが何者であろうが、小さな子供であることには変わりない。
この子の安全が確保されるまでは俺がしっかり手を引いてやらないとな。
そんな俺の心情を知らないグルルは、俺に褒められた事が嬉しかったようで、また俺の周りをぐるぐる回り出した。
とりあえず側から離れていく事はなさそうなので、そのまま2人で歩きながら警察署へと向かった。
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