【 憎めないモヒカン野郎 】
背中にモヒカン男を乗せ、右手にはシオンのプリントされたバスタオルに身を包むグルルを引き連れて ネジリー店長の店まで辿り着いた。
ここに向かってる途中 少しだけ雨脚が弱まったおかげで、予想よりは早く着いたが 三人ともずぶ濡れだ。
カランカランッーーー
「へいらっしゃっい。こんな雨の中ーーーって、タクト君じゃないか!ちょっと待ってな、今タオル持ってきてやるから」
入口の扉を開けるといつものようにネジリー店長が出迎えてくれて、またもや奥の部屋からバスタオルを持ってきてくれた。
「いつもすみません。助かります」
「タクト君はお得意様だからな、気にしなくていいって事よ。それより今日はいつもと違うメンツみたいだね」
「はい、実は・・・」
ーーーーーー
ーーー
俺はネジリー店長に事情を説明し、後で代金を持ってくるから食事をさせて欲しいとお願いをした。
ネジリー店長は二つ返事で承諾してくれたうえ、代金はいらないとまで言ってくれたが それはさすがに申し訳ないので断った。
いつもネジリー店長には美味しい料理を作ってもらってるし、散々迷惑もかけているのに これ以上かけなくてもいい迷惑までかけたくない。
「とりあえずこっちのクレイジーな人は空腹で倒れてたみたいなんで、ガッツリ系をお願いします。俺達は本日のオススメで」
グルルにもメニュー表を見せたが、案の定 字が読めないようだったので適当に注文をした。
「あいよ。それにしてもそっちの世紀末ファッションのニイちゃんは大丈夫なのかい?ちょうど今日、うちの女房と娘が帰ってきたところだから呼んできてあげるよ。女房は回復系のアイデン持ちだからそっちのニイちゃんも良くなると思うし、タクト君にもうちの可愛い娘を見せてあげたいからね!」
いまだ意識を失ったままのモヒカン男の心配をしながらも、家族の話になると顔がにやけてしまうネジリー店長はご機嫌な足取りで奥さんと娘を呼びに行った。
「たっくと、がつり?おすすすめ?ぐるるー!」
「ん?そうだぞ。こっちのモヒカンはガッツリ飯で、俺とグルルはネジリー店長のオススメメニューを頼んだんだ」
「おおー、ほほー、えへへー」
ちゃんと意思疎通が出来ているかわからないが、なんとなくグルルが何を言いたいのか伝わって来たので話を合わせてあげるとグルルは楽しそうに笑った。
外を歩いている時からずっと、グルルは全てのものに興味を示し 俺がそれに対して答えてあげると嬉しそうに笑っていた。
俺は最初、グルルは虐待を受けていたのではないかと思っていたが、純粋無垢な瞳からは穢れが全く見えてこない。
もし虐待などを受けていたのであれば多少なりとも瞳に陰りが出てしまうものだが、グルルにその陰は見えなかった。
俺の思い過ごしだったのかもな…
だが、そうなると一人で大雨の中 橋の上に全裸でいたのは謎だな。
まさか本当にこのモヒカン男が親って事はないと思うが・・・
まぁ後でモヒカン男が起きたら分かるし、モヒカン男が親ではなくても母さんに頼めば グルルの両親を探すことができるだろう。
ーーーーー
「お待たせしました。初めまして、ネジリーの妻フローラです。この子は娘のメアリー。主人からタクトさん達の事は聞いていますよ。いつもありがとうね」
「バァー、だぁ。きゃっきゃっ」
俺がグルルとメニュー表を見ながら言葉遊びをしていると、可愛い赤ちゃんを抱いた綺麗な女性がやって来た。
「いえ、こちらこそいつもネジリー店長には迷惑ばっかりかけてしまって…。俺もフローラさんとメアリーの話はいつもネジリー店長から聞いてますよ」
「そうですか…大変だったでしょう?すみませんね、主人ったら親バカで」
気恥ずかしそうに笑うフローラさんと少しの間談笑し、メアリーと戯れて時間を潰しているとネジリー店長が注文した食事を持って来てくれた。
「へいおまちっ、熱いから気をつけて食べてくれよ。それと、食事の前にこのミニたこ焼きを食べてみな。うちの奥さんがアイデンを込めてくれた特別なたこ焼きだ!こいつを食べれば疲れなんて吹っ飛んで体力も魔力も回復するからな」
注文したのとは別に小さな飴玉のようなたこ焼きを三つ持って来てくれた。
「全快とまではいきませんけど少しは回復の促進が出来ると思いますので、どうぞ召し上がって下さい」
「ありがとうございます、じゃあ遠慮なく。いただきます」
パクッーーー
「ん、うまいっ!それに空っぽだった魔力がどんどん回復してるのがわかる。ほらグルルも食べてごらん。食べる前はいただきますって言うんだぞ」
「ほほー、いたまーす!」
小さなたこ焼きは味もさることながら回復量も多かった。
市販の魔力回復ドリンクなんかよりも回復量が多いし、今も徐々に回復していっているのがわかる。
歩き疲れた足も体もまるでマッサージを受けた次の日のように楽になったし、グルルも気に入ったようで目をキラキラさせながら喜んでいた。
とりあえず、1番空腹であろうこのモヒカンにも食べさせてあげないと・・・
「おい、いい加減起きろよ。飯が来たぞ」
「うぅ…」
俺の隣に座らせたモヒカン男は呼び掛けても目を開けず、口からも腹からも呻き声を上げた。
仕方ない……入るか。
俺はテーブルに突っ伏しているモヒカン男に共存を使い、小さなたこ焼きを口に入れてからすぐに共存を解除した。
・・・なんで俺がこいつの看病みたいな事してるんだよ…まぁ拾って来たのは俺だから自業自得だけど。
「んん・・・ん?うめっ!うんめぇぇぇ!!!」
「うおっ、いきなり叫ぶなよ!びっくりしただろっ」
共存を解除するとモヒカン男の閉じていた目がカッと開き、俺の目の前で口をモグモグさせながら歓喜の雄叫びを上げた。
そしてテーブルに置いてあるオクトパスペシャルを抱きつくように齧り付き 必死に食べ始めた。
「おおー、もひひいたまーす!いたまーす!」
「だよな。グルルはこんな大人になったらダメだぞ」
無我夢中で食事をするモヒカン男にグルルはいただきますを言えと言いたいようだったが、モヒカン男には聞こえてすらいないようだ。
ーーーーー
ーーー
「ぷはぁー、食った食った!こんなうめぇタコは初めて食ったぜぇ。げぇっぷ」
ガッツリの定番オクトパスペシャルを綺麗に平らげたモヒカン男は満足そうに腹をさすりながら下品にゲップをした。
「もう体調は大丈夫みたいだな。少しお前に聞きたい事があるんだけど、いいか?」
食べ終わったのを見計らい、俺はモヒカン男にグルルの事や橋の上で倒れていた事などの質問をする為に話しかけた。
「あん?ーーーげっ!てめぇはあん時のクソガキじゃねぇか!なんでてめぇが俺っちの隣で飯食ってんだぁ!?モヒんぞでめぇ!」
モヒカン男は食事を進めていくうちに元気と一緒にモヒカンまで復活していき、ここに来た時にはただの濡れロン毛だった髪の毛が今では触れたら痛そうなほど生命力に溢れたモヒカンヘアーになっていた。
体調が回復したからか やけに凄んで俺を睨みつけているが、ガタイも俺より小柄だし 一度捕まえた相手ってのもあって全然怖くない。
「落ち着けよ。お前が橋の上で倒れてるのを拾って来てやったんだぞ。それに飯まで食わせてやったのに何がモヒんぞだよ。凄んでるのは伝わるけど、まず意味がわからん」
「ーーーてめぇが俺っちを?それにこの飯も・・・」
モヒカン男はバツが悪そうな顔でそう言いながら腕を組み 葛藤しはじめた。
「そうだぞニイちゃん!この大雨の中タクト君がニイちゃんをおぶってここまで連れて来たんだ。助けられたら、凄む前に言う事があるだろ?」
ネジリー店長が補足を入れて説明をすると、モヒカン男は目を瞑り少し悩んだ後 意を決した顔で俺を見てきた。
「わぁーったよ!飯を食わせてくれた奴には敬意を払うってのが俺のポリシーだ。だから…その、なんだ・・・ありがとよっ!くそっ、これで文句ねぇだろっ」
「ふふふ、青春ですね。ではあなた 私達は戻りましょうか」
モヒカン男が照れ臭そうにお礼を言ったのを見届けたネジリー夫妻と赤ちゃんはカウンターの奥へと戻っていった。
再び3人だけになったのをきっかけに、俺はモヒカン男に質問をする事にした。
テーブルの料理を夢中で食べているグルルの事はモヒカン男も見えているはずだが、何も反応しないところを見ると この2人に関係性はなさそうだが、とりあえずはーーー
「なぁモヒカン。お前、もう釈放されたのか?捕まってからそんなに日にち経ってないよな?まさか脱走でもしたのか?」
「モヒカンって呼ぶな!それは髪型だろうが!俺っちにはメシクレって立派な名前があんだよっ。それに脱走なんかする訳ねぇだろっ、っつか出来ねぇよあんな場所。俺っちくらいビッグな男になると保釈の為に色々手を回してくれる人がいんだよ。わかったら跪け!モヒんぞ」
そうか…まぁ脱走したとかじゃないなら助けて正解だったかな。
「じゃあなんでメシクレは橋の上で行き倒れしてたんだ?そういえばお前って3人組だったよな。他の2人はどうしたんだよ?」
「てめぇいきなり呼び捨てかよ・・・まぁ飯食わせて貰ったから許してやるけど、俺っちの事情を一々教えてやる義理はねぇな!それに兄貴達とは仕事をした後で逸れちまっただけだし、別に喧嘩なんかしてねぇし嫌気もさしてねぇよチクショウ!」
・・結局勝手に喋り出したメシクレの話をまとめるとーーー
昨日 兄貴分であるカネクレとモノクレっていう奴と一緒に仕事をした帰り道で、その二人と意見の相違から喧嘩になってしまい 1人で雨の中をボーっと考え事をしながら歩いていたのだが、朝から何も食べていないことを思い出した途端に力が抜けてしまい倒れていただけらしい。
倒れてからすでに20時間以上は経っていたっぽいので、あのまま放置していたら本当に死んでしまっていたかもしれない。
グルルの事についてはやはり知らないらしく、倒れる前にも見た記憶はないと言っていた。
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「おっちゃん、飯めちゃくちゃ美味かった!また寄らせてもらうからよっ!それと、てめぇにもこの借りはいつかぜってぇ返すから覚えてろよクソガキ」
一通り話を終えると メシクレはもう行くと言い出し席を立った。
口は悪いが、意外とおもしろい奴だし悪い奴ではないような気がした。
「別に恩返しなんかしなくていいけど、もう悪い事して捕まったりするなよ。あと、兄貴分達ともちゃんと仲直りしとけよ。じゃあな」
「じゃな?もひひじゃなー!じゃななー!」
俺達が席を立たずに見送るとメシクレはペッと口で言いながら外に出て行った。
店内を汚さないように唾を吐かないで口でペッと言うだけなところが憎めない奴だなぁと思いながら見送ったが、なにげに防雨結界を使いこなしていたメシクレに感心もしてしまった。
一つの問題は解決したが、1番の問題は・・・
「ぐるるー!ふぁ〜ぁ・・むにゃむにゃ…」
このグルルという少年だ。
お腹が膨れて眠くなったのか、メシクレを見送るとすぐに寝息を立て始めてしまった。
ここから母さんの職場までは少し距離があるが、フローラさんのおかげで魔力がかなり回復したので また防雨結界を張る事が出来る。
可能性は低いが、もしもグルルが迷子であるなら今頃グルルの親が必死に探しているかもしれないので、俺はネジリー夫妻にお礼を告げた後 グルルを背負い 店を出て母さんの職場である警察署へと向かう事にした。




