【 橋の上のモヒ 】
来た道とは反対の橋の出口に向かって、グルルの手を繋いだまま ゆっくりと歩き出した俺達。
雨脚は弱まる気配を見せず 俺達の歩く速度は決して早くはなかった。
しかし、気分は悪くはなかった。
俺の手にはグルルの温もりがある。
偶然が重なったおかげで救う事が出来た小さな命。
MSSが通じない為 グルルの無邪気な笑顔の裏に、どんな事情があるかはわからない。
共存でグルルに入った時、身体を動かす事ではなく心の奥に意識を集中させれば何か分かったかもしれないが、さっきはそんな余裕などなかったし、もしあったとしても俺は多分それをしなかったと思う。
俺の《共存》は大きく分けて2つの使い道がある。
1つは相手の身体を俺の意思で動かす事で、結構頻繁に使っている能力だ。
溺れた人を助ける時とか、調子に乗ったセルを懲らしめる時とか…まぁそれは今はいいか。
そしてもう1つが相手の心に入り込み、意識レベルで対話をする事。
この意識に入り込む能力は、普段は基本的に使わないようにしている。
悩みを一人で抱え込んでしまう人などには有効的ではあるが、人にはそれぞれ自分の世界があり、秘密があり、裏と表がある。
そんな場所に入り込み、知られたくないことまで知ってしまったりすると 一歩間違えば俺も相手も心がおかしくなってしまう危険性がある、と俺は思っているからだ。
なにより、土足で心に入り込むのはメリットもあるがデメリットやリスクも多く、今のグルルの笑顔を見たら そこまでする必要はないように感じられた。
なにはともあれ、この無邪気な少年を救う事が出来てよかった。
ーーーグニャ
「うわっ、なんか踏んだ!なんだっ!?」
「うぅ…」
繋いだ手の先のグルルが転んだりしないように気を付けつつ 視界の悪い道の先に意識を向け過ぎていた為、足下に何かがあるのに気付かずに何かを踏んづけてしまった。
踏んだ瞬間に何か変な音がしたので、動物の糞などではないとは思うが 生き物だったら嫌だなぁと思いながら恐る恐る下を見るとーーー
「人っ!?もしかしてグルルの親か?おい、大丈夫ですか!起きて下さいっ」
踏みつけてしまったのはファンキーと言うよりはクレイジーな服装の男だった。
うつ伏せで倒れているので顔は見えないが、怪我などはしていないようだ。
しかし、体調が悪いのか先程からずっと呻き声を上げている。
「大丈夫ですか?携帯とか持ってるなら貸してください、すぐに助けを呼びますから!」
そう言いながら、とりあえずうつ伏せは良くないと思い 体を上に向かせたーーー
体調が悪そうなので、慎重にゆっくりと上を向かせると今まで見る事が出来なかった相手の顔がしっかりと見えた。
そして、その顔には見覚えがあった。
「ーーーっ!?お前っ、なんでこんな所にいるんだ!捕まってるはずだろ!」
具合が悪そうに倒れている男は、この前 俺とセルとイリアで捕まえたカモメ団とかいう三人組の犯罪者の1人だった。
あの時はモヒカンだったが、今は雨のせいでただのロン毛みたいになっている。
「うぅ…ハラ、へった・・・」
痩せ型のモヒカン男は、痩せこけた顔を歪ませながらそう漏らしたが…意識はなさそうだ。
「どうするかな…」
犯罪者ではある・・
だが、外にいるという事は既に釈放されたという事か?
指名手配されていたとはいえ セルの話しでは強盗は未遂で被害者はいなかったらしいし、前回暴行されたカップルもイリアのおかげで怪我などはすぐに治っていたので、軽い判決が下されたのかもしれない。
もし罪をちゃんと償って釈放されたのなら、このままここに放置するのは気が引けるな…。
「仕方ない。連れて行くか・・・」
渋々ではあったが、俺はモヒカン男を背中に乗せて連れて行くことにした。
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