【 月明かりに照らされて 】
「パールさん元気そうで良かった。相変わらず綺麗だったなぁ。お料理も上手だしおもしろいし、素敵な人だよね」
母さんのせいで賑やかになり過ぎた夕飯を思い出しているのか、イリアは楽しそうにそう言ってきた。
「息子の俺から見たら綺麗とか素敵ってのは判断しにくいな。料理がうまいのは認めるけど性格に難がありすぎて、プラスマイナスで言ったらマイナスが勝つからな」
「またそんなこと言って…もうっ!なんてね。タクトが本当はお母さん想いだって事、私はちゃんとわかってるんだからね」
上機嫌に話すイリアの隣を歩きながら、俺は返事をせずに空を見上げた。
「・・・・・」
見上げた先では、月を主人公にした無数の星達がまるでパレードでも行っているかのように煌めき合い、夏の夜を祝福しているようだった。
「綺麗な星空… もしもあの中に飛んで行けたら… 私は… 私も…」
俺の目線を追って同じ星空を見上げたイリアが呟くようにそう言った。
その横顔は、月明かりに照らされているせいか、いつもより大人っぽく綺麗に見えて不覚にもドキッとしてしまった。
だがその横顔は、消えてしまいそうなくらいの儚さを漂わせており、俺は不安も感じていた。
「きっとあの星空から見たら俺達の住むこの地上も、街灯や家から漏れる明かり、それに人が使う魔法なんかで、星空に負けないくらい綺麗だと思うぞ。だからイリアはもう星空の中にいるんだよ。気付いてないだけだ。…空なんかに行く必要、ないだろ?」
なにか言わないとこのままイリアが空に消えていってしまう気がして、自分でもよくわからない事を口走ってしまった。
自分の焦りがイリアに伝わってしまわないようにゆっくりと話したつもりだったが、口調に意識を集中し過ぎて内容がよくわからない物になってしまった。
しかしイリアは俺の言葉を聞き、目を閉じて何かを考えているようだった。
「…そっか。そうなのかもしれないね。ありがとう、タクト」
イリアが何を想っているのか、何がありがとうなのか、俺にはわからなかった。
だが空を見上げていたイリアの顔が俺の方を向いた時には、先程までの消えてしまいそうな雰囲気は消えており、いつもの柔らかい笑顔でありがとうと言うイリアを見て俺は安心した。
「それにしてもタクトって、昔からたまにロマンチストになるよね。ふふっ、私そういうタクト好きだよ」
「っっ!?女の子が軽々しく好きとか言うなよっ!それに俺はロマンチストじゃなくてリアリストだっ」
「はいはいわかりました。あ、そこ段差あるから転ばないようにね」
だめだ。これはわかってくれてないやつだ。
どちらかといえばイリアの方が鈍臭いし子供っぽいところもあるのに、なんでいつも俺を手の掛かる子供扱いするんだよ。
それにイリアの言う好きは恋愛の好きとかではなく、花が好きとかカレーが好きとかの好きと同じで、俺をからかっているとかではなく素だ。
まぁもう慣れてるからいいんだけど…




