【 予定と兆しと終わり 】
「そう言えばもうすぐ夏休みだな。祭りには今年も一緒に行けそうか?」
学園島ではアルバティル学園が夏休みに入る日に、島全体を巻き込んだ大きな夏祭りがひらかれる。
カカカ祭りと呼ばれるふざけた名称の祭なのだが、世界の中心に位置する学園島の一年で1番大きな祭りという事で各国から沢山の人が集まってくるのだ。
カカカ祭りの正式名称は夏花火祭りだったらしいのだが、学園長が「カカカ祭りの方が楽しそうでいいねっ、響きがいいよっ!」と言い出したのを切っ掛けに徐々にカカカ祭りという言葉が広まっていき、今では正式名称を知らない人の方が多くなってしまっている。
そんな珍名な祭りに、俺は学園島に引っ越して来てから毎年イリアやマキナ、それに最近ではセルなんかとも一緒に行ったりしており、なんだかんだ言って俺はこのお祭りがけっこー好きだったりする。
「うん。今年はマキナがマリアちゃんとラピスちゃんも連れて来るって言ってたから、いつもより大人数になりそうだね」
「ラピスってデュランの妹だよな?よくあのデュランが許したな」
この前のHRでサディスにぶっ飛ばされていたクラスメートのデュランは極度の過保護で、俺から見れば立派なシスコンのサディスからシスコンと言われるほど妹想いの兄だ。
というのもデュランは妹と二人暮らしで両親がいないから、普通の兄妹よりも過保護になってしまうのもわからなくはないが…
「うん。デュラン君もラピスちゃんの言う事には逆らえないってマキナが言ってた」
マリアにしてもラピスにしても、やっぱり妹ってのは強い立場なのか…
俺は一人っ子だからよくわからないけど。
「そうか。それならデュランが心配しなくてもいいように、一緒に行く俺達がしっかり見ててあげないとな。まぁマキナ以外の2人は大人しい子達だから問題はないと思うけどな」
マリアとラピスは大人しい性格で、1人でどこかに行って団体行動を乱すような事はないと思う。
しかしカカカ祭りは一度はぐれると見つけるのが困難なほど人が多いので、一つとはいえ年上の俺達がしっかり見ててやらないとな。
「ふふっ、タクトもやっぱり心配性だよね。しっかりね、タクトお兄ちゃん」
からかった笑顔で話すイリアも祭りが楽しみなようで、壁に貼ってある祭りのポスターを見つけてははしゃいでいた。
祭りの話しや今日の任務の話などをしながら歩いていると、広い土地にポツリとある花屋が見えてきた。
イリアの家だ。
俺達レベル3が住む家は周りに人家のない所にある事がほとんどで俺の家もイリアの家も例外ではない。
暗闇の中で唯一光を放つ花屋は幻想的に見え、寂しくも見える。
イリアの家から少し離れた所で足を止め、イリアの代わりに持ってあげていたお土産をイリアに渡した。
「送ってくれてありがと。荷物も持たせちゃってごめんね」
「いいって。遅くまで付き合わせてごめんな、ゆっくり休めよ」
申し訳なさそうにイリアが謝ってきたが、こんな事でいちいち謝らなくていいのに。
イリアは昔から変わらないな。
「付き合わせたなんて言わないの。私も楽しかったし。タクトもしっかり休むんだよ」
確かに今日は色々な事があり過ぎた…
初の王城任務で初めて魔獣を見て、自分の弱さを思い知らされ
魔獣よりも圧倒的な力のサディスを見て次元の違いを知った。
世界で一番有名な王様に道案内してもらい死ぬほどの緊張を味わい
クソピエロにいきなり飛ばされてイライラ…あ、そういえば学園長の銅像に落書きするの忘れてた。
まぁいいか。
その後、不登校の有名人クラスメートと出会い意気投合し
極め付けは歌姫のライブだ。
あのライブは俺の人生の中でも上位に入る衝撃だった。
本当に今日は色々あったなぁ。
「はいはい。じゃあまた学校でな」
「うん、じゃあねタクト。おやす…きゃっ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッッーーーー
おやすみの挨拶をして別れる直前、突然大きな揺れが地面を襲った。
「イリア大丈夫かっ!?」
揺れはかなり大きく立っているのも辛いほどであったがすぐに収まり、揺れが起きた瞬間にうずくまったイリアの元に駆け寄り声をかけた。
「う、うん。タクトも大丈夫?地震なんて珍しいね。学園島に来てからは初めてだよね?怖かったぁ」
イリアの言う通り学園島に来てから地震に遭遇したのはこれが初めてだ。
セントクルスに住んでいる時にはたまに小さな地震が起きた記憶はあるが、地震でここまで大きな揺れは経験した事がない。
「あぁ。なんとか収まったみたいだけど、また余震が来るかもしれないから早く家に帰ろう」
「うん。気を付けてね、家に着いたらメールしてね」
イリアに頷きを返して俺も急いで家に帰る事にした。
十数年前まで頻繁に起きていた戦争のおかげ…と言っていいのかはわからないが、どこの国でも家や店などの建物はかなり頑丈に作られているので相当な揺れや衝撃にも耐えれる様に出来ている。
なので母さんに何かあるとは思わないが、家に着くまでは安心が出来ないので俺は走って家に帰った。
家に着くと電気は消えており、母さんの部屋へ確認に行くと気持ち良さそうに爆睡していた。
母さんの無事を確認した途端に急に1日の疲れが身体を襲ってきたので、自分の部屋に戻りイリアへメールを送って眠る事にした。
イリアの家もみんな怪我はなく無事だったようだ。
「はぁ。疲れた…」
倒れるようにベッドに横になるとすぐに意識が深い闇へと落ちていき、怒濤の1日がようやく終わりを告げた。




