【 ういろうの美味しい食べ方 】
カチャカチャ ジャー トントン…
【ん〜このプリッとして水々しい宝石みたいなういろう久しぶりっ。しかも私の1番好きな抹茶味!さすがイーちゃん、わかってるぅ】
「ふふっ、パールさん喜んでくれてるみたいでよかった」
「だな、ありがとうなイリア。それとこれ、イリアの分とマキナへのお土産」
キッチンで母さんが鼻歌混じりにういろうを切っている間、俺はイリアにライブ会場で買ったお土産を渡した。
「ありがとう!ライブが終わってショップ見た時には、もうほとんど売り切れちゃってたからタクトが先に買っててくれて助かったよ。はいお土産代」
ライブが終わってイリアと見回りのついでにショップを見たら、量産されてる缶バッチが数個と、まったく似てない歌姫とケントのヌイグルミしか置いてなかったので先に買っておいて大正解だった。
「いや、お金はいいよ。ういろうで母さんも喜んでるし、俺もイリアには普段お世話になりっぱなしだからな。これは日頃のお礼って事で。マキナの分はおまけな」
「え?でも、、、うーんわかった。ありがとうタクト」
少し悩んではいたが、俺の気持ちを汲んで笑顔で受け取ってくれた。
そんなイリアを見て、俺も少しだけ頰が緩んでしまった。
やっぱりイリアが笑ってくれていると安心する。
【それにしてもイーちゃん大きくなったなぁ、ムネが。何を食べたらたった二年であんなに大きくなるのよ。まさかマーちゃんも巨乳になんてことは…】
「・・・・・」
「・・・・・」
【いつまでも小さい子供じゃないのねぇ。タッ君もいつの間にか大きくなってますますいい男になっちゃったし】
「・・・・・」
「・・・・・」
【はっ!まさかイーちゃんのムネが急成長したのってタッ君が揉み…】
「ぅおいっ!考えてる事全部こっちに聞こえてるのわかってるだろっ!変な事考えるのやめてくれっ!」
選別の大雨が最初に降ったのが12年前で、もちろん母さんは当時二十歳を過ぎていたのでMSSには感染していない。
なので母さんが考えている事はレベル3の俺やイリアには丸聞こえになってしまう…
それは仕方ないのだが、イリアもここにいるので少しは気を使ってほしい。
「ごめんごめん。それよりほらっ、ういろう切れたからいただきましょう」
「お手伝いもせずにすみません。ありがとうございます」
俺の心労を気にした様子もなく、お皿に小分けしたういろうとお茶を乗せたお盆をキッチンからリビングに持って来た母さんが、俺とイリアの真ん中にどかっと座ってきた。
「狭いっ!なんでわざわざ真ん中に座るんだよ。そっち空いてるだろ」
リビングのソファーはL字に設置してあるのだが、3人は今横一列に並んで座っている状態ですごく狭いし暑い。
「いいじゃない。ういろうは皆んなで寄り添って食べた方が美味しいのよっ。ねっ、イーちゃん」
「ふふっ、そうですね」
適当な事を言いながら同意を求める母さんに、イリアは楽しそうと言うよりも嬉しそうに返事をしていた。
「でしょー!イーちゃんわかってるぅ。で、イーちゃんはタッ君に揉まれて大きくなったの?」
「も、揉まれてませんっ!」
「母さんっ!次に変な事言ったら北さんフィギュアコレクション全部捨てるからなっ」
「っ!?北さんは悪くないじゃない!それに北さんならきっと捨てられても正義の力でゴミ捨て場という戦場から無事に帰還してくれるわよ。ざーんねんでーしたぁー」
「ねぇタクト…私の胸が大きくなったのって揉まれたからなの?私の知らない間にタクトかマキナが…」
「イリアも何言い出してんだよっ!頼むから母さんの戯言に感化されないでくれっ」
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「パールさん、遅くまでお邪魔しました。夕飯までご一緒させてもらって…。お仕事大変そうですけど、無理しないでくださいね」
「ありがとイーちゃん、またいつでも遊びに来てね。今度はマーちゃんも連れてらっしゃい、2人まとめて可愛がってあげるわよぉ」
「じゃあ俺はイリアを送ってくるから、母さんはもう休みなよ。明日も早いんだろ?」
はいはーいと言いながら手を振る母さんに見送られて外へ出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
ういろうを食べた後ついでに夕飯も食べ、ライブや学校の事などを話していたらいつの間にか時刻は21時を回っていたので当然か。