【 出会い 】
ーーーその少し前、学園長に飛ばされたタクトは…
ガシャン、バキッ、ガラガラガラッ、、、
「いててて、あのクソピエロ…。学園に戻ったら絶対銅像に落書きしてやる」
地面ではなく何故か中途半端に空中に転移させられ、硬い何かにぶつかりながら落下してしまった。
中心街に送ると言っていたが、日の光が当たらない場所なうえに何か色々な物を壊してしまった音が耳に響いた。
「暗くて何も見えない。どこだここは?」
遠くで大勢の人の声は聞こえるが近くからは何も聞こえてこない。
身体が痛いのもあり、倒れた状態のまま目線だけ動かして周りを確認しようとしたが、一寸先も見えない暗闇のせいで何も確認できなかった。
「ん?足音?」
身体の痛みに耐えながら耳を澄ますと、かすかに足音が聞こえてきた。
足音は徐々にこちらへ近づいてきて、近くまで来ると音が止んだ。
「おいパンダ、てめぇ誰だよ。なんでいきなり降ってきやがった」
暗闇の中から不機嫌な声が聞こえたが…
パンダってなんだよ。
そんなのが降ってきたら一大事だぞ。
「なにシカトしてんだよっ!オラッ!」
「ぐはっ!いきなり何すんだよっ、げほっげほっ」
意味不明な事を言っていると思ったら突然腹に蹴りを入れてきやがった。
倒れてる人間にいきなり蹴りを入れるとか短気にも程があるぞっ!
「いきなり何すんだよはオレのセリフだ。人が集中してる時に邪魔しやがって」
集中?邪魔?なに言ってんだこいつは。
俺が何したって言うんだよ。
「いつまでふざけた被り物してんだてめぇ。ツラ見せろっ」
イラついた男が怒号と共に俺の頭を揺さぶってきた。
ーーースポンッ
「うっ、眩しい」
マヌケな効果音と一緒に人工的な光が目を刺激して俺は顔をしかめた。
徐々に目が慣れてきて周りを見回すと、沢山の機材や楽器、着ぐるみや小道具が置かれた部屋なのだとわかった。
横たわる俺の近くで仁王立ちする男の手には、パンダの被り物が持たれており、なんとなく状況を理解した。
部屋の中には不機嫌な男しかおらず、男は肩からギターを提げている。
一人で集中して楽器の調整でもしていたのだろう。
それを俺が突然現れて邪魔してしまったという具合か…
俺は男に睨まれたまま立ち上がり、制服に付いた埃と足跡を払った。
「ふぅ…」
少し冷静になり考えてみると、学園長にいきなり飛ばされた挙句、機材に突っ込み全身を打ち、腹に蹴りを入れられた俺は被害者だ。
しかし目の前の不機嫌な男は、それに巻き込まれて作業を邪魔されてしまった二次災害の被害者のようなものだろうと思い、俺は謝罪することにした。
「驚かせてしまいすみませんでした。知り合いに突然転移魔法で飛ばされてしまって…。邪魔するつもりはなかったんです」
「・・・・」
謝罪をして頭を下げたが、男は不機嫌な顔のままじぃーっと俺を見ている。
「お前、アルバティルの生徒か。青のネクタイって事は高1だな。クラスは?」
黙ったまま睨みつけていた男が唐突に質問をしてきた。
「Aクラスですけど…。詳しいんですね、もしかして学園生ですか?」
ネクタイの色で学年がわかれている学校は多数あるが、色などは学校ごとに違う。
それなのに学年まで知っているという事はアルバティル学園の関係者なのは間違いない。
それに見た感じ俺と歳も変わらなさそうだ。
身長も171センチの俺とほぼ同じだし体型も痩せ型で俺と同じ。
さらに俺のトレードマークのようになっているヘッドホンと同じメーカーのヘッドホンを、俺と同じように首に掛けている…
結構似た者同士なのかもしれないな。
などと考えていると、男は溜め息を吐きながらめんどくさそうに口を開いた。
「まさかクラスメートとはな。まぁオレは初等部の時に何回か行っただけの幽霊学生だけどな」
「えっ?1-Aなんですか?」
驚いた。
世界狭しと言えど、さすがにこんな偶然は予想していなかった。
「敬語やめろよ。まぁ嘘吐いてるようにも見えねぇし、アルバティルって事は転移させたのはどーせあの変人学園長なんだろ?」
俺が頷くと男は先程よりも深い溜め息を吐き「やっぱりな」と呟いた。
しかし学園長を知っている人でよかった。
もし知らない人だったら、俺がこの部屋へ泥棒に入ったのかと疑われてもおかしくはない状況だった。
「俺はタクト。原因は学園長だけど直接迷惑かけたのは俺だし、本当に悪かった。壊れた機材は後でちゃんと弁償させるよ。学園長に」
たとえクラスメートだとしても、作業の邪魔をしてしまったのは事実なので改めて謝罪をした。
すると男は三白眼の鋭い目をさらに細めて楽しそうに笑い出した。
「はっ!そりゃいいな。ここの機材はほとんどが廃棄物だから弁償なんて必要ねぇんだが、あの変人からならふんだくるのもありだな!お前おもしれぇな、気に入ったぜ」
こいつ、ひねくれてるなぁとも思ったが、俺も学園長にはさっきの恨みがあるので反対どころか大賛成だ。
奇妙な出会い方ではあったが、この男とは何故か気が合いそうな気がするな。
「そーいやぁ、自己紹介がまだだったな。必要ねぇかも知れねぇけど、オレが人を気に入ったのは久し振りだから一応自己紹介させろ。オレはケント・ウッドベルだ、ケントでいいぜ」
男は堂々とした態度で、悪戯っぽい笑顔を浮かべながら自己紹介をしてきた。