【 若き王と道化師の邂逅 】
ぞくぞくっ…
ブルブルッ
「うおっ!!?」
王様の少し後ろを歩いてしばらくすると、突然左耳に生温かい風が吹きつけて俺は身震いしてしまった。
「ちょっと、本当にやめて下さいよ学園長!心臓が止まるかと思いましたよっ!」
突然の気持ち悪い温風に左耳をくすぐられ、風の吹いてきた方へ顔を向けると、鼻と鼻が当たるのではないかと思うくらいの至近距離に道化師の顔があった。
「おーやおや?ぼくの事が大好きすぎて、油性ペンで頬っぺたにサインをおねだりしてきたタクト・シャイナス君ではありませんかっ。奇遇だねっ!丁度いい位置に耳があったからついついフゥーってやっちゃったよっ。おめでとうっ」
何がおめでとうだこのクソピエロ…
毎度の事だが学園長の気配の消し方は完璧すぎるんだよ。
普段なら溜め息だけで済むが、今は目の前に王様がいるのだから本当にやめてほしい。
「今回は驚いてくれたねっ、ぼくちんウレシッ!おっとこれは失礼、ご無沙汰しております王子君っ!ごきげんうるうるぅ〜」
このピエロは何言ってんだよ本当に!
相手は王様だぞっ!不敬罪で処刑されるぞ!
「久し振りだねソガラム、相変わらずの胡散臭さで安心したよ。それと今日の業族の件はご苦労だったね」
鋭い眼光で学園長を見てはいるが、敵視しているわけではなさそうだ。
それに学園長を名前で呼ぶ人なんて初めて見た。
それなりに親しい間柄なのかもしれないな。
「いえいえお安い御用ですよ、って言いたいところなんだけど実際問題サディス君達を動かすのは骨が折れるからねっ!今の場合は苦労するって意味じゃなくて本当にサディス君に骨をポキッとやられるって意味でねっ!」
折られたのか…
学園長も苦労してるんだな。
「まぁそれはいいんだけど、正直言うと王子君からの直接の依頼は肝が冷えるね…」
それはいいのかよっ!と心でツッコミを入れていると
「今の王子君の狙いは何かなぁ?ってね」
学園長の雰囲気が一瞬で変わった。
息が詰まるというより、呼吸の仕方がわからなくなるくらい圧迫する空気が張り詰めた。
「ふっ。誰にも素顔を見せない貴様に警戒される覚えはないな。それに今は私が王だ、いつまでも王子と呼ぶな」
圧迫された空気に呑まれる事もなく、王様が学園長に反論すると、学園長から発せられたドス黒い雰囲気が消えた。
「おぉこわいこわい、まぁいっか。それはそれとして、王子君とぼくのファンのタクト君が仲良く並んで歩いているのはどういう事かな?まさかぼくから王子君に乗り換えたのっ!?浮気っ!?」
いつもの学園長に戻ったのは嬉しいが、戻ったら戻ったでやっぱりうざいな。
「出口がわからなくて歩いていたら、たまたま王様とお会いして。そしたら王様がわざわざ道案内までして下さったんです」
「・・・たまたま、ねぇ」
俺が経緯を話すと学園長はなにかを考えているようだった。
顔は見えないから、なんとなくそう感じただけかもしれないけど…
「いやぁそれにしても迷子とは、タクト君はドジっ子なんだねっ!もう仕方ないんだからっ、中心街までぼくが送ってあげるよっ!門限までには帰るのよー、ばいばーい」
捲し立てるように話す学園長が、俺に不名誉なドジっ子属性を与えると一方的に転移魔法を発動してきた。
「えっ、待って!学園ちょーーーー」
ーーー朝のデジャヴを感じながら、俺はまた挨拶すらさせて貰えずに時空の歪みへと吸い込まれていった。




