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光のタクト  作者: セカンド
魂の軌跡
165/165

【 元凶 】




学園に戻ったサラはすぐに学園長室へと向かった。



コンコンコンッーーーガチャ。



「失礼致します・・・ウラルさん、学園長はどちらへ?」


いつもより少し強めのノックをしたサラは室内からの返事を待たずにドアを開ける。


しかし、いや…やはりというべきか、部屋にソガラムの姿はなく、ウラルしか居なかった。



「お早いお戻りでちたね、ムチ姉たま。紅茶に致ちまつか?とれともーーー」


「結構です。学園長がどこに行かれたかお教え下さい」



お告げで異常事態が起こると知り、異常の起こる場所をソガラムに教えられたにも関わらず、異常が起きないという異常事態。


サラの内心は、変化の無い表情とは裏腹にかなり焦っていた。



「パパたまはムチ姉たまにはバレないように誤魔化ちといてねと言いながら、予兆のあった場ちょでヒーローごっこをちておりまつ」


「ーーーーー」


サラは頭が痛くなる思いで目頭を抑えた。


もしもMSSで今のサラの心声を聴くことが出来たのなら、やっぱりか。と聴こえてきたことだろう。



「その場所というのは?」

「学園のてい門を出て、つこちつつんだ上空でございまつ」


「ダイソン君もそちらへ?」

「た様でございまつ」


「ウラルさんはこちらで何を?」

「わたくちはムチ姉たまへの誤魔化ちと、クローツたまが警戒なたっているグルルたまの動向と学園島全体を監ちちておりまつ」



ウラルにとっての最優先事項はソガラムの命令。


サラもそれは重々知っている。

こちらの要望にも大半は応えてくれるが、ソガラムが別の指示を出した時、たとえそれが肩を叩いて欲しいという取るに足らない命令であったとしても、ウラルはソガラムの命令を優先させる。


既に知っているウラルの特性について咎めるつもりは微塵もない。

サラが知りたかったのは、ウラルがこちらの頼み事もやってくれているかどうか。グルルと島全体の監視をちゃんとやってくれているかどうかだった。


状況が好転した訳ではないが、ウラルはこちら側の指示にもちゃんと従ってくれている事を確認出来たサラは学園長室を出ると、急いでソガラムの元へと向かった。







学園に居る生徒達や付近に住む島民達に異変を勘付かれては面倒が増える為、サラは人目を避けつつ魔力を抑えながら目的地へと急ぐ。


「ーーーーー」


背筋の伸びた歩き方、キリッとした表情、生真面目そうな雰囲気。

すれ違う生徒達から挨拶をされ、挨拶を返すサラは傍目から見ればいつも通りに見えるだろう。


だが、実際はすぐにでも走り出したい思いであった。


サラが焦っている理由、それはネムレのお告げにある。



ネムレのジーニアススキル《夢》は、非常に優れた能力ではあるが、それと同時に非常にややこしい能力でもある事をサラは理解していた。


サラ達がネムレに使ってもらっている主な能力は《夢占い》と《お告げ》の2つ。


《予知夢》の事も当然知ってはいるし、それで回避出来たトラブルもあるが、予知夢はネムレの意思で自由に使える能力という訳ではないと本人から説明を受けているので、予知夢に関してはネムレの自己申告に任せている。



夢占い、お告げ、予知夢。


この3つはどれも《夢》の能力による物だが、似ているようで全く別物として考えなくてはならない。


その事をサラは理解していた。


しかし、この理解はあくまでもサラが理解しているだけの事。


同等程度の理解をクローツはしているだろうが、1日のうち18時間はふざけているソガラムがそれをちゃんと理解しているかは分からない。


サラの焦りの理由はそこにあった。




「ーーー!?」


学園の外に出たサラが上空に目を向けると、どんよりした雨雲が何度か白く発光してるのが見えた。


視覚阻害の結界も張ってあるにも関わらず上空の異変が見えてしまうという事は、それだけ大きな力が発生しているという事。


何事も起きていないのは既に望み無しだが、せめて最悪の事態だけは起きていないでくれと願いつつ、サラは上空へ飛び上がり視界の悪い雨雲の中へと入って行った。




ーーー





雨雲を抜けて視界が広がると、すぐにソレは見つかった。


「あれは・・・」


足元の雨雲は夕陽のせいで真っ赤に染まり、上も下も赤が支配する中、一箇所だけぽっかりと穴が空いた様に黒い場所が視界に入った。


異彩を放つその場所からは、英雄と呼ばれるサラでさえ警戒を最大限にしなければならないほど禍々しい気配が漂っていたが、悠長に警戒している猶予はなく足早に駆け寄って行く。



「ーーーーー」


真っ黒な塊に近付くにつれてソレの全容が徐々に明らかになっていくが考察は後回しにして、サラは足早に近付く事だけを優先させた。



ハッキリと視認出来るようになった巨大なソレは、絵具の黒だけで描かれたような黒龍。


「そうだとは予想していましたが…」


黒龍は文字通り全身真っ黒ではあるのだが、頭部から雷の直撃を受けた様な傷痕が白い亀裂を刻んでおり、その特徴的な傷痕は、以前サラが1度だけ見た事があるモノと同一の個体である事を証明していた。


以前この黒龍を初めて見た時には黒龍と黒い雨の関連性は見当たらなかったが、サラはその時から直感的に黒龍と黒い雨は繋がりがあると感じていた。


そして今回ネムレのお告げが裏付けとなり、案の定今この場に現れた事で、やはりこの黒龍が魔獣を降らす雨の元凶だったかと、サラは自分の予想が当たっていた事を確信した。


「ぐっ、がはっ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ」


それと同時に、聞き慣れた声で聞き慣れない悲鳴が鮮明に聞こえている事に危機感も感じていた。



「学園長っ!」


「がっ、うゔっ、うおぇェぇェェッ」



黒龍の目の前で呻き声を上げながら嘔吐するソガラムに最速で近寄ったサラは、黒龍に警戒をしながらソガラムを掴むとすぐに黒龍から距離をとろうとしたが、


「うゔぁっ!やめてやめてやめろやめろぼくに触るな寄るな触れるなっっ」


ボッ、シュッ、ビリッーー


ソガラムに触れた途端、正気を失っているソガラムがサラに向けて気が狂ったように魔法の乱打を浴びせてきた。


「くっ…、またですか…仕方ありません、少し大人しくして頂きます」



不意打ちの1発以外は避ける事も可能であったが、ソガラムの魔法が一帯に展開してあるウラルの結界を壊してしまう可能性を危惧したサラは全ての魔法を全身で受け止めつつ、ソガラムを鞭で拘束する事を選択した。


「うぅゔぅ…ちがう、ぼくは、おえっ…」


「申し訳ありませんが学園長、一旦引きましょう」



ゾワッーーー



縛り上げたソガラムを掴みながら黒龍から距離を取る直前、黒龍に視線を向けていたサラは全身に悪寒が走った。


逃げるようにその場から飛び退いたサラであったが、一瞬だけ異質なモノが視界に入ったのを見逃してはいなかった。


[・・・・・]


多くの魔獣が現存する今の世の中でも龍の形を持つ魔獣は極めて少なく、黒龍の存在がすでに異質ではあるのだが…


サラが見たモノはその更に上を行く異質さがあった。



「知らないモノと予定外の事が多過ぎて対処に困りますね。どうしたものでしょうか」


黒龍を生け捕りにするだけでも骨が折れると考えていたが、ソガラムの独断行動で余計な心労と手間とダメージが増え、そこに加えて黒龍以上に異質な存在の出現。



「黒龍の口の中に居たのは、何者でしょうか…。学園長なら何か知っているかもしれませんが、このままでは聞けませんね」



サラが見た異質なモノ。


半開きになっていた黒龍の口の中に居た色白な人物。


黒龍の口の中に居るような者の事を人物と言っていいかは疑問が残るが、サラが見たその存在は限りなく人間に近い形をしていた。


ひょろ長い長身で猫背のように少し俯向いた姿勢で立ったまま、サラを観察するようにエメラルドグリーンの瞳を動かす白い人物。


異様な雰囲気を醸し出しながらも敵意を全く感じさせないその存在に、サラは得も言えぬ不気味さを感じていた。



「うぅうぅ、ゲホッゲホッ…いやだちがういやだいやだオエッッッ」



いずれにせよソガラムが正気を失っている状態ではサラの手だけでは足りない。


「ーーーー」


足枷になっているソガラムをどうするべきか…


ウラルに預ける為に転移で一旦引く事も考えたが、黒龍と白い人物がここにいるのでは引いたところで百害あって一理しかないと判断し、サラは相手を視界に入れたまま1キロ程離れて少し様子を見る事にした。




「追って来ない…、見ているだけのようですね。それならそれでこちらとしては助かります」


黒龍達から距離を取ったサラだが、黒龍も不気味な白い人物も追ってこようとはせず、その場でジッとサラ達を見ているだけであったので、サラはひとまず目先の問題であるソガラムを正気に戻す事を優先させた。



「学園長、しっかりして下さい」


「ぁうゔぅぅ……」



ウラルの張った結界のおかげで雨雲は下から上には行けるが、上から下には工夫をしないと行けないようになっていることが幸いし、高度な技術が必要な飛行魔法を使える状態ではないソガラムが地上に落下する事は避けられているが、鞭に縛られながら震えるソガラムが正気に戻る気配はなく、黒龍達から視線を外さないままソガラムに声を掛けるサラも頭を抱える思いであった。


「・・・・・」


現時点では相手に動く気配はないが、いつ攻めてくるかは分からない。


ソガラムはここに置いておいて、当初の予定通り黒龍達を相手にするべきか…


震えながら喚いているだけならそれもありだが、ソガラムがまた暴れ出したら雨雲に掛けてある結界を破壊して地上に影響が出る可能性がある…



ソガラムを学園に移動させるにしろ、ここで待機させるにしろ、この状況ではやはり手が足りない。


「クローツ君に連絡をしてティーレさんかダイゴロウ君をお借りするべきですね」


そう判断したサラは助っ人を呼ぶ為、耳に装着してある小型無線機を手際良く操作しだしたが、



ガガガガッーーー


「・・・厄介な結界を張ってくれたものですね、ウラルさんは」



肝心な時に無線機は役割を果たしてくれなかった。



通常よりも強めの魔力を発する必要がある念話は黒龍達を刺激してしまう可能性があるかもしれないと警戒したサラは無線機でクローツに連絡をしようとしたのだが、どうやらウラルは頼んでいた以上に強力な結界を張り巡らせていたようで無線機の機能は雨雲を越える事が出来きなかった。






さて、どうするべきか…


無線機は使えない。それに、ここら一帯にはおそらく魔力を強く込めても念話は通らない強度で結界が張られている。


故に助っ人は望めず、1人でなんとかするしかない。


対峙した時間が短かった為確実とまではいかないが、数多くの戦闘を経験してきたサラは相手との力量差を肌で感じる事は当然出来る。


相手は戦闘体勢にも入っておらず能力や魔力値は未知数ではあるが、黒龍に関しては戦って勝てない相手ではない。

地上への影響が出ないように加減しながら戦う事を考慮すると恐らく苦戦は強いられるだろうが、生け捕りも不可能ではないと、サラは踏んでいた。



だが、白い人物に関しては全く計算が出来ないでいた。


不気味な雰囲気を醸し出していたにも関わらず、美しいとさえ思えてしまった白い人物。


戦って勝てるかどうかの判断をする以前に、アレとは戦ってはいけないと、サラの直感が告げている。


それは数多の経験から導き出された自己防衛の警告。


それを無視して特攻する程サラは無謀でも無鉄砲でもないが、背を向けて逃げる訳にもいかない。


予定以上に強力な結界が施されている為助っ人を呼ぶ事は出来ないが、そのおかげで当初の予定より力を抑えずに戦う事は出来るはず。


「ーーーーー」


様々な思考がサラの脳内で繰り広げられてはいるが、最善がどれか決めかねる。


黒龍だけなら足踏みする事はなかったが、得体の知れない白い人物のせいでサラは次の行動に移れないでいた。




ズォンッーー



視線は黒龍達に向けたまま、頭の中だけで次の行動について考えていると、ふいにサラの真横に魔力球が出現した。


「ダイソン君、ご無事でしたか」


突如現れた魔力球であったが、サラは慌てる事も視線をそちらへ向ける事もしないまま、言葉だけを魔力球へと向けた。


「アア」


魔力球から現れたのは半仮面の少年執事、サラと同じく八英雄と呼ばれているダイソンであった。


この場に来ているとウラルから聞いてはいたが、ソガラムが正気を失い、黒龍は無傷。更には謎の白い人物まで出現していた事でダイソンは既に殺されているかもしれないと考えていたが、どうやらその最悪のケースではなかったようだ。



なにはともあれ、この状況で味方が来てくれたのは有難い。

それも猫の手ではなくサラと並ぶ程の戦力であり、サラがこの場に来るまでに何があったのかを把握している可能性が高い人物なのだから尚更だ。



「まずは状況を把握したいところですが…」


ソガラムの状態、白い人物の詳細、黒龍が現れてから起こした行動、その他諸々…。

聞きたい事は多くあったが、サラは視線を黒龍に向けたまま歯切れ悪くダイソンに声を掛けた。


しかし…


「セツメイハ、ニガテダ」


ダイソンとウラルのマイペースは筋金入りだと知っているサラは、ダイソンがそう言う事も予想していた。


スムーズな情報共有は望めないと判断したサラは、必要な情報だけを優先して質問するいつものやり方に切り替える。



「では質問にだけお答え下さい。黒い雨は降りましたか?」


1キロ先には黒龍と白い人物は居るが、黒い雲や魔獣は見当たらない。


サラは、お告げに関する質問をダイソンへ投げ掛けた。


「アァ。シロイヤツガダシタカラ、オレガゼンブスイトッタ。マジュウモナ」


「そうですか。黒龍と白い人物を吸う事は可能ですか?」


「ムリダッタ」


「そうですか」


サラの質問にダイソンが答えると、サラは再びネムレのお告げと現状について思考する。





ーーー求め彷徨う闇が黒き雨で半身を呼び、優しき魂は染められた悪意に散らされるーーー



ネムレのお告げに出ていた事の中で明確に分かっている現象は、黒い雨が降るという事。


それが既に履行されており、地上に被害が出る事なく対処されていた事は吉報と考えていいだろう。


明確ではなかった散らされる優しき魂という一文。

この一文に関しても、バフリーンの死がそれに当てはまると解釈出来る為、やる事はだいぶ絞られたとサラは判断して、思考を前進させた。



「ダイソン君、色々と許し難い事もありますが速やかな対処には感謝します。ひとまずこれでお告げに出ていた『確実に起こる出来事』は全て出揃ったと考えていいでしょう。今からは『助言』に従った対応をします。協力をお願いできますか?」


「パパサマガコワレテルカラ、オマエノシジニシタガウ」


「そうして頂けると助かります」



ネムレの《お告げ》の能力に対するサラの解釈。


それは『確実に起こる事』と『悲劇を避ける為の助言』が分かれているという事。


これはネムレ本人から聞いた事ではなく、何度もネムレのお告げを見てきたサラが辿り着いた解釈であり、クローツもサラとほぼ同じ解釈をしている。


というのも、お告げの最初の一文はどれだけ対策を講じても今まで1度も避けられた事がなかったからだ。


それをサラは自分の力不足だと考えた時もあったが、力不足だけでは説明が付かない事が幾つも起きた事で、ネムレのお告げはそういう物なのだと結論付けた。


人知を超えたジーニアススキルという最上級の力。ジースという力の事をよく知っているサラがそう結論付けるのも至極当然の流れではあったが、それで抗う事を止めるようなサラではなかった。


出来る事、出来ない事、可能な事、不可能な事、トライ&エラーを繰り返し、お告げという強力な手札を最大限に利用出来るように模索し続けた。


そうして辿り着いたのが、お告げのルール。



最初の一文に出た事は避けられない。

しかし、起こる事を予想して、お告げ以上の被害を出さないようにする事は可能。


その為、今回のお告げでの最善は、元凶が黒い雨を降らせた後にすぐ捕獲する事だとサラは考えていた。


お告げに対するサラの解釈が正しいのであれば、求め彷徨う闇が黒き雨で半身を呼ぶのは避けられないが、その半身と接触するのは止められる。


その半身がソガラムの事かどうかはサラとクローツで意見が分かれたが、ソガラムとグルルどちらも現場に行かせなければ済む事。




そう考えてはいたが、困った事に全てが思い通りにいくとは限らないのが世の理。


サラの考えは味方であるはずのソガラムの悪戯心のせいで台無しになったのはご覧の通りだ。


しかし、ソガラムのせいで多少予定は狂ってしまったがこれからやる事は明確。


ネムレのお告げに出ていた『助言』に従い、対策を遂行するだけ。



「やる事は決まっていますが、1つ確認をさせて下さい。学園長はアレらに触れられましたか?」


「イヤ、チョクセツハサワッテナイナ。ヒカリデテラサレタダケダ」


ソガラムが正気を失っている現状。

サラはウラルのお告げに出ていた2つ目の助言、

ーーー半身に触れさせてはいけない、弱き光は深き闇に飲まれてしまうからーーー

この助言は既に手遅れだった可能性が高いと考えていたが、一応確認の為にダイソンに質問をすると予想とは少し違う返答がきた。



「光…、先程の発光の事でしょうか。私は地上したに居たので雨雲越しに目視しただけですが、攻撃魔法のような物でしたか?」


「タブンチガウナ。チカイノデイエバ…キャンセルマホウカナ」



ウラルに頼んでいた結界の中には視覚阻害の結界もある。

上空で戦闘を行なっても地上に居る島民達に気付かれない程度の強度で頼んでいたうえ、サラの要望よりも遥かに強力な結界がこの空間には張られているのは無線機が通じない事でも把握している…にも関わらず、地上から上空の発光が目視出来たという事は、ウラルの結界の力を超えた力が放出されたという事。


地上でその発光を見た時、サラは上空でソガラムが厄災と戦闘を繰り広げているのだと思っていた。



解除キャンセル魔法ですか?結界の張ってある雨雲にではなく学園長へ向けてですか?」


「アァ、ダカラパパサマ二ダメージハナイハズダ」



確かに、見た限りではソガラムに外傷はない。


だが府に落ちない。


本来、解除魔法は主に結界を解いたり、鍵を開けたりする時に使用する魔法だ。


対人で解除魔法を使う事はまずあり得ない。ましてやウラルの結界を貫通する程の力で解除魔法を発動するなど意味が分からない。



「……また疑問が増えましたが、学園長が直接触れられていないのであれば私達が今やる事はとりあえず2つです。1つは黒龍と白い人物を生け捕りにする事。もう1つは学園長を黒龍達に触れさせない事です」


「ナニヲスレバイイ?」



分からないのであれば、その事に関しては保留。

分かる事、やるべき事は他にある。

分からない事に時間を割く暇などない。


最優先させるべきは初めから決まっているのだから。



「ダイソン君はまず学園長を学園長室へ連れて行き、学生や教員の目に触れない様に部屋へ閉じ込めておいて下さい。それが済みましたらダイゴロウ君に私の所へ来て補佐をするように伝えて下さい。その後は当初の予定通りグルル君の監視と地上で異変があった時の連絡係りをお任せします」


「ワカッタ」



ズォンーー



サラの指示を受けたダイソンは短い返事をした後、すぐにソガラムを連れて魔力球の中へと消えて行った。


その間もサラは視線を黒龍達から逸らさずにいたが、視線を逸らしていないのは白い人物も同じだった。



「・・・学園長に固執している訳ではないようですね。半身を探しているとお告げに出ていましたが、学園長ではないのでしょうか…」


お告げの内容と白い人物の行動が伴わず、サラは注意深く白い人物を見ながら思考を続けていた。


サラの予想では、求め彷徨う闇…つまりは黒龍と白い人物が呼び出したい相手はソガラムだと予想していた。


しかし、白い人物はこの場から去っていくソガラムを追う様子がなく、自分の予想が外れたかもしれないと考えていた。



「いずれにせよ、捕らえてしまえば済む事ですね。ダイゴロウ君が来るまで大人しくしていてくれれば良いのですが…」


相手の力は未知数だが、様々な結界術や回復術など多くのサポート魔法を習得している風紀委員長ダイゴロウが補佐に加われば、殺さずに捕らえるというミッションの難易度が格段に下がる。


ダイソンがダイゴロウへ伝言を届けてくれるまで相手が大人しくしてくれればそれに越した事はないがーーー



「っっ!?」


そんなに都合良くはいかなかった。







※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



こんばんわ、セカンドです。


早いもので、クリスマス後書きも今回で3度目でございます。


皆々様はいかがお過ごしでしょうか。



……え、特に何もしていないけど とりあえずチキンだけは食べたって?


そうですか、私も同じです。


・・・・


・・



サンタさんお願いです、病的なほど愛してくれる恋人を私に下さいっっっ!

私も久し振りにホールケーキを食卓に並べたいんですっ!

1人だとコンビニでショートケーキ買うのも勇気が必要なんです!

暖房とヒートテックでは心までは温めてくれないんですぅぅぅっ……うぅぅっ…







〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓








タクト

「・・・・・なんだ、ここは?」


ネムレ(幼)

「なんか〜、セカンドって人が〜、涙で明日が見えないから〜、今年はネム達が勝手にやってだって〜」



タクト

「なんだよそれ。誰だよセカンドって。ってか勝手にやれって言われても…何をやればいいんだ?」


ネムレ(幼)

「しらな〜い。今日はクリスマスだから〜、ここを見てくれてる人を〜、楽しませてって言ってたけど〜、ネムは〜、タクトくんと一緒に〜、ゴロゴロむにゃむにゃしたいかなぁ〜」



タクト

「ここを見てくれてる人を楽しませる?俺達は見られてるのか?ーーーあ、なんかメモが降って来た」


ネムレ(幼)

「むぅ〜、ゴロゴロはスル〜?」


タクト

「悪い悪い。とりあえずこの手紙を読んでみるか。何すればいいか書いてあるかもしれないしな。えぇと、なになに…」



《幼女達にモテモテのタクト君へ。

 

 冬は寒いですね。私は心も身体も冷え冷えです。

 クリスマスは街に沢山のカップルが出現して、さらに私の心にダメージを与えてーーー》


ーーークシャ



ネムレ(幼)

「あれ〜?どうして〜、クシャってしたのぉ〜?なにが〜、書いてあったのぉ〜?」


タクト

「あ、あぁ。やっぱりさっきネムレが言った通りクリスマスを盛り上げてくれ的な事が書いてあった…気がする」


ネムレ(幼)

「そっか〜、じゃあ〜なにする〜?」


タクト

「んん〜、見てくれている人を楽しませろって言われても、ここには何も無いからなぁ…。あ、そうだ!ネムレがさっき見せてくれたお告げの能力!あれでみんなにお告げをするってのはどうだ?」


ネムレ(幼)

「ネムはいいけど〜、良いお告げが出るかは〜、しらないよぉ〜?」


タクト

「でも悪い事を避ける助けにはなるかもしれないだろ?クリスマスに恋人と喧嘩したとか結構よく聞くし、楽しいクリスマスを楽しく過ごせる手伝いが出来るならアリなんじゃないか?」


ネムレ(幼)

「タクトくんがそう言うなら〜、ネムはいいよぉ〜。そういえば〜、見えない相手に〜、お告げはした事ないなぁ〜、まぁい〜か〜。じゃあピカるね〜」


タクト

「あぁ。なるべく良いお告げを頼むな」



ピカッーー



『・・・多くの悲しみは小さな幸せに浄化され、幸福は年始に向けて加速する・・・』


『・・・怒りを表に出してはいけない、向けられる笑顔が減ってしまうから・・・』


『・・・目を下に向け過ぎてはいけない、今しか見れない物を見逃してしまうから・・・』


『・・・特別を求めてはいけない、既に手に入れている特別を失ってしまうから・・・』



スゥーーー


ネムレ(大)

「ふぅ〜。いかがでしたか?ハピハピなお告げが出ましたか?」


タクト

「え…っと。う、うん。まぁあれだ。俺の予想よりちょっと警告っぽさが強かったけど、悪くはなかった…と思うよ」



ネムレ(大)

「ネムレのお告げはそういう物だから仕方がないのです。お告げではなく夢占いの方にしておけば良かったかもしれませんね。お気遣いが行き届かずに申し訳ありません……あ、慎ましいネムレにクラッときました?」


タクト

「いや全然。ってか夢占いなんてのも出来るのか、ジースは多様性も凄いんだな。まぁでも今回のお告げは俺の時みたいに悪い事ばかり言われたって感じでもなかったし、楽しいクリスマスを過ごす為の心得っぽいのもあったから、これはこれで良かったんじゃないかな」


ネムレ(大)

「そうですか。ではこのお告げが誰かのお役に立てた時には、ご褒美に一緒にお昼寝して下さいね」


タクト

「昼は大体学園に居るから昼寝は無理かな。でも、ここを見てくれている人がネムレのお告げを聞いて、少しでも良いクリスマスを過ごしてくれてるといいな」


ネムレ(大)

「むぅ〜。タクトくんは夢でも現実でもネムレのお願いを全然聞いてくれないのですね。もうネムレはプンスカプンで不貞寝しますっ!おやすみなさいっ」


タクト

「お、おいおい…。って本当に寝やがった。はぁ、まぁいいか。俺も帰って寝よ」




タクト

「あ、えーと。ここを見てくれている人…が居るかは俺には分からないけど、もし見てくれてるなら……メリークリスマス。楽しい日になるといいな。じゃあ、おやすみ」

















ネムレ(大)

「むにゃむにゃ……はっ!嘘不貞寝のつもりがまた本当に寝てしまいました。・・・むぅ〜、タクトくんは夜這いするどころか居なくなってますし…。もう一回寝て、夢でケーキを食べ…グゥ…スゥ…」



〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓




メリークリスマス。


今年も来年もその先もずっと、皆様に大小様々な幸福が訪れますように。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

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