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シニモドリ  作者: 朝霞ちさめ
シニモドリと約束
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32 - 魔法の常識と非常識のこと

 コーマさん、の本体は、少し長めの茶色い髪を纏めた、常に笑顔を絶やさないような優しげな人だった。

 不思議とその表情には仮面のような印象も無く、本質的な部分で優しい、そして誰よりも人間らしい人なのかもしれない。

 まあ、誰よりも人間らしいからこそ、人間のようでまったく人間とは違う人形というものに魅かれたのかなとか思ったりして。

「紅茶は飲めますか、ノアくん」

「はい。ありがとうございます、色々と」

「いえいえ。君は将来有望な子ですからね……恩を売っておくのも悪くありません」

 けろりとそんな事を言って、コーマさんは紅茶とクッキーをテーブルに置いてくれた。

 ちなみに僕は既に二冊の魔法書を読了し、三冊目に突入していたり。

 僕、というか、シーグが覚えていた魔法は当然戦闘系が大半を占めていて、ついで程度に便利系って感じだったんだけど、コーマさんが持っている魔法書は特殊な系統が多い。普通に買おうとしたらとんでもない高値の筈だ。

 たとえば物を動かす『操物』。コーマさんはこれに様々な魔法を追加して行使することで人形を自在に操ってるんだけど、この魔法単体でも、たとえば水の入ったグラスを手元に寄せるだとか、そういう便利な使い方が出来るのは当然として、戦場ならば敵の武器を取り上げたり、飛んで来る矢を逸らしたり、そう言う事が出来るようになる。

 効果が大雑把過ぎるからこそ、使い手によってその性能が大きく変わるタイプの魔法、って感じか。

 そしてその大雑把さを利用して、コーマさんは人形を動かすのに使っていると。うーん、勉強になるな。

「……ところで、ノアくん。さっきからものすごい速度でページをめくっていますが、ちゃんと読めているのですか?」

「え? ……そんなに早くないですよ。普通の本を読むのと同じくらいでしょ?」

「ええ、まあ、確かにそうなんですが……」

 コーマさんは困惑を浮かべて首を傾げた。

「既に『操物』と『造形』は習得済み、そして今読んでいるのは『設視』ですか」

「はい。僕が使える魔法って、なんかこう、直接的なものが殆どなんですよね……だからこういう絡め手は、新鮮なんです」

「へえ。直接的な魔法と言うと……なんでしょう?」

「『矢弾』とか。ウサギ狩るのに使ってました」

「…………。ウサギも災難ですね……」

「だって僕、動くのはそんなに得意じゃないですから……」

 ウサギを狩るには瞬発力が大事。

 その瞬発力が決定的に無いのだ、ノアの身体には。

 一応多少の訓練は始めているので、最初と比べれば多少マシにはなってるとはいえ、体力作りを優先しているのが実情だ。

 それでも最近はようやく十キロくらいなら走れるかな、という感じ。

 『域』を使えば誤魔化せるとはいえ、あの魔法は人間が使っていい魔法じゃなさそうだし、実際に使う時はよほど追い詰められた時くらいだし、結局のところ体力をまずは備えなければならない。

 瞬発力はその後だから、早くても一年はかかるかなあ……。

「ふうん。『設視』の魔法って情報属性なんだ」

「ええ。その手の特殊魔法は、大概が情報属性ですよ」

 それもそうか。

 ということは属性変更で光にして、表示もできるだろう。使い方次第とは言ったものだ。

「複数の魔法を同時に行使する……。って、二つまではそんなに問題ないけど、三つ目からは大変ですよね。何かコツみたいなのありますか?」

「修行です。そればかりは慣れるしかありません」

 それもそうだ。

「難しいと言っても、感覚的な問題ですからね。一度掴んでしまえばあとは殆ど負荷もありませんよ」

「へえ……。あ、そうだ。もう一つ聞きたい事があるんだった」

「なんですか?」

「えっと、コーマさんは魔法使いとしてだと、レベルはいくつなんですか?」

「さて?」

 どうやら自分でも把握していなかったらしい。

 コーマさんはレベルカードを取り出すと、クラス変更、魔法と定義。

 そして、表示された文字を僕に見せてくれた。

「見ての通りです」

「…………、70? あれ?」

「人形師というのは、魔法に加える所の専門技術ですからね。たとえば私は『矢弾』の魔法は使えますけど、それ以外の直接的な魔法はほとんど使えませんし、そのせいでしょう」

「なるほど……」

 高度な技術を持っているからこそ、単純に魔法使いとして見たらその強さはそれほどでもない、というケースか。

 逆に言えば技術だけでもそこまで変化が起きる。

 これはシーグの格闘魔術師で、格闘はたいして進歩していなくても魔法をいくつか覚えただけでレベルが跳ね上がったことと、理屈は同じだろう。

「うん、読み終わった」

 詠唱して、『設視』を発動。対象を選択するタイプ。但し、対象は空間でも良いし、物でも良い。

 空間を指定しておけばその空間から得られる視野を常にえる事が出来るし、物を指定しておけばその物が動いた時に一緒に動いてくれると。

 で、行使してみると、複数の視界を獲得するという奇妙な感覚に。

「うわあ。なんか変な気分」

「直に慣れますよ。ただ、最初の内は空間を指定して発動するべきでしょうね。目が回りますよ」

「そうですね。そうします」

 アドバイスには素直に従うことにする。

 一度行使を終了して、この魔法を何か別の魔法と組み合わせて悪さできないかなあとか考えて見て……。

「……うーん?」

「何か妙な事を思いつきましたか。魔法の練習には失敗も付き物ですから、やってみては?」

「んー……。じゃあ、やってみます。えっと、ちょっと騒がしいかもしれないんですけど、すぐに消えるようにしておくので、慌てないでくださいね」

「ええ」

 家主に許可を貰ったので、僕は『矢弾』の魔法で二十七発の矢弾を産み出し、それの一つ一つに『設視』を掛けておく。

 うわ、すごい。二十七個視界が増えた。しかも『矢弾』は自動で動かすのが基本だけど、手動でも操作自体は可能なのだ、面倒なだけで。二十七個を同時に操るのは流石に厳しいけど、二、三個を手動で残りは自動とかで使えるな。思ったより目も回らないし。

 問題は『矢弾』の効果時間が短い事。本来攻撃魔法だから当然なんだけど、どんなに長持ちさせても一分くらいで消えてしまう。まあ、一分間だけ視界を一気に増やせれば十分だし、これで得た視界から適当な空間を選択、改めて『設視』すれば済む話だったりする。

 とりあえず『矢弾』を消して、と。

「思った通りといえば思った通りだけど、思った以上の結果か。うーん。便利な魔法ですね、『設視』って」

「…………。えっと。今のは、『矢弾』の魔法に、『設視』を載せた……のでしょうか?」

「そうです。二十七発に全部。一気に沢山の視界が増えると、逆に目は回らないんですね。同時に沢山の本を眺めてるみたいな感覚でした」

「そうですか……。ねえ、ノアくん」

 コーマさんは真剣に頷くと、僕にプレートを差し出してくる。

 プレート。

 レベルカード、しかも誰の物とも定義されていない新品だ、これは。

「それを差し上げます。今のあなたの魔法使いとしてのレベル、調べてもらっていいですか?」

「え、良いんですか? これ高いじゃないですか。お金払えませんよ、まだ」

「構いません。私もそれはもらいものですから、元手は掛かってませんし」

「……、じゃあ、もらいます。ありがとう!」

 らっきー、儲けだ。

「『認証』、『更新』、えっと、『クラス変更』、『魔法使い』」

 これで初期設定。

 名前の欄にはノア・ロンド。

「おー。ちゃんと僕の名前だ」

「初めて扱うにしては、説明なしなんですが。よくわかりましたね、使い方」

「他の人が使ってるところを何度も見てますから」

「ああ。確かにあの酒場では使う人も多いですか」

 それにラス・ペル・ダナンの時に使い方は教わっているし、それを忘れないのがシニモドリなのだ。

「あれ? クラスが出ない?」

「複数のクラスに素質がある場合と特殊クラスが表示される場合で、かつ初回の時、判定に少し時間がかかるんです。ノアくんはそのどっちかと言うわけですね」

「へえ」

 それは知らなかった。

「レアケースなので、知らなくて当然です」

 あるいはラスのころから少し進化したのかもしれない。

 少し待つと、クラスの欄におずおずと文字が表示される。

 いや、おずおずと表示されるというのも奇妙な表現なんだけど、でもやっぱり、そんな感じだ。

 表示されたのは。

「『魔法使い?』……って、なんで『?』がついてるんだろう」

「……見せてもらっても?」

「はい」

 僕はコーマさんにプレートを渡すと、コーマさんも首を傾げる。

「これは私も始めて見る表示ですね。一応魔法使い系のクラスなんだとは思いますけど……。ああ、レベルも出ましたよ」

「いくつだろう」

「79だそうです」

 おお、高い。

 僕が笑みを浮かべると、コーマさんは複雑そうな表情で僕にレベルカードを返し、言葉を続けた。

「ノアくんの年齢でそのレベルは、正直高すぎる気もしますが……。でも、『?』が良くわかりませんね」

「普通の魔法使いじゃないって言われてるのかな?」

「そんな気もします。クラス変更で『自動判定』を宣言すると、特殊クラスを含めた全クラスの中で最も適正の高いクラスが表示されるのはご存知ですか?」

「いえ、それは知らなかったです……。やってみますね。『クラス変更』、『自動判定』」

 レベルカードの文字は一瞬消えて、再表示される。

「クラスは……『魔賊』?」

「『魔賊』……? 聞いた事のないクラスですけど、表記的には魔法が使える盗賊……ですかね。ノアくんもまた、特殊クラスの持ち主ということです」

「へえ……」

 魔法が使える盗賊。

 魔賊か。

 なんかカッコイイ。

 そしてレベルは、89。

 …………。

 なんだか過大評価されてる気がする。

「急に表情が曇りましたね。どうしましたか?」

「なんか、レベルに納得ができなくて……。僕、レベル89も無いと思うんですよね」

 あって50くらいかなと思ってたんだけど。

 『域』を使う前提で表示されてるのかな?

 だとしたらレベルカードを作った人はすごいと思う。

「レベルカードはそれでも、嘘をつけませんからね。きっとノアくんが考えているよりも、ノアくんには強さがあるんだと思いますよ。あるいは、魔賊が戦闘系のクラスでは無いのかもしれません」

「戦闘系? じゃない?」

「たとえば商人さんとかではたまにあるんですよ。レベル90とかの商人さん。当然、その商人さんは戦闘で強いわけではありませんが、『物を売る、物を買う』事に関しては国でもトップクラスの『実力』だとか。今度、魔賊というクラスについて調べて見るといいのでは?」

「なるほど」

 そうしてみよう。

 僕は大きく、笑顔で頷いた。

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