世界は自分を中心に回らないことを僕は知っている
「えーと、お二人様はいったい何の御用でしょうか?」
いきなり訪ねてきた泉と椿に俺はおずおずと質問した。いや、普通散々バカにされた男のところに来るか?
「剣崎君・・・」
「剣崎・・・」
「おいおい、なんだよ。もしかして心配か、それとも哀れみか、まぁどちらでもいいけどな。」
「ねぇ、剣崎君。今どんな表情してるか分かってるの?」
「剣崎、何故泣いているんだ?」
(何言ってんだ。俺が泣く訳無いだろうが。)
そう思い、手で眼を拭うと、その手には濡れた感触があった。
「何で、泣いてるんだ、俺は。」
俺は勇者だろ!化け物じみたステータスを持って、たくさんの命を奪ってきた犯罪者だ!
人の醜さや汚さなら誰よりも見てきたはずなのになんで、なんでなんだよ!
ガバッ!
突然、2人が抱きついてきた。
「ごめんね。今の私にはこれくらいしかできないや。でも、お願い。お願いだから・・」
「すまん。私はバカだから、どんな言葉をかけるべきかわからないんだ。でも、たのむから・・」
「「そんな悲しい顔をしないで(くれ)!」」
「すまん、出て行ってくれ。」
あの後2人にはこの部屋から出て行ってもらった。他にも言うべきことはあったんだろうが、俺の口からは他に何も言えなかった。
「何悩んでいるんだ、俺は!」
うじうじ悩んでいた俺は、気分転換のつもりでこの城を見て回ることにした。少しでも頭の中をリフレッシュしたくて、歩いていたのに、
「よう、剣崎。何してんだよ?ゴミの分際でよ!」
ーーー
「おい、何無視してんだ、あぁ!」
もう勘弁してくれよ。さっきの2人の件もあって気分が落ちているのに、さらにアニメをバカにしてコイツらは俺にボコボコにされたいのか?
「調子こいてんじゃねぇ!」
バキッ!
考えごとをしていた俺の顔にモブ1のパンチが入った。もちろんランクEXの俺に死角はなく、まったくのノーダメージだが、殴ったことで気分が良くなったのか、さらに残りの2人も我先にと痛めつけてきた。
「ほらほら、泣けよ!どうせ、泣くしかできないんだからよ。」
「誰もてめえみたいなゴミ、たすけねぇがな。」
「せいぜい、俺らのサンドバックになってろバーカ!」
そんな中殴られている俺は、
(随分弱いな。これで戦えるのか?)
そんなことを考えていた。
しかし、数分もすれば飽きてきたのか、モブ3人衆は颯爽と帰って行った。
「痛ぇー。別に実際は痛くねぇ〜が。」
しかし、このモブ3人によって、少し自分の頭が整理できた。どうやら、俺は未だに勇者の真似事ができるかもと期待していたみたいだ。
この強さこそが正義の世界での俺は明らかに強さがおかしい。だからこそ、今度こそ救えるんじゃないかと。真の勇者になれるのではないか。と、そんなわけはないのに。
だから、アイツらのおかげでさらに元の世界に帰りたいと言う意欲があがった。あんな奴等を助けたいと思っていたなんて、俺ってやつは何て紳士なんだろ。こんな紳士見たこと無いぜ!
「そのためにもこの世界について、知らなければな!」
いつもの調子が戻った俺は、魂術について学ぶために大広間に向かった。それにしても自分の悩みが解消出来たのが、ヒロインじゃなく、モブのおかげとは。ヒロインがいないからしょうがないが、それでもどうなんだろ?
ーーー大広間ーーー
大広間に着くと、既に講義が始まっていた。俺が入ると、皆が俺を邪魔者を見るかのように見てきた。
「遅いですよ、剣崎君・・・ってどうしたんですか?こんな汚れちゃって!」
「すいません。富士 先生。後、これは派手にダイビングヘッドしただけなんで気にしないでください。」
「そ、そうなんですか。・・・・何で、ダイビングヘッド?」
傷ついた俺を見て、慌てて近づいてきたのは富士 先生だった。走ってきたから、富士 先生の富士山が揺れに揺れ、まさにお祭り気分だったが、空気を読んで黙って自分の脳内フォルダに保存した。そのためか適当な言い訳をしてしまったが、納得したみたいだからまぁいいか。
「剣崎・・・」
「剣崎君・・・」
「2人とも、・・・さっきはゴメン。心配されることに慣れてなくてな。軽蔑してくれていいが、謝りたくて。本当にすまなかった。」
「そう、大丈夫そうなら良かったよ。ねぇ、由美ちゃん。」
「あぁ、そうだな。でも、」
「「ソノケガハドウイウコト?」」
「い、いや気にしなくていいから。本当、マジで。」
2人のあまりの怒気にこちらに向かってないにもかからわず、逃げたくなった。ていうか、もうゴールしてもいいよね。
とにかく、慌ててどっかに座ろうとすると、またもイケメン(笑)君が襲来した。あれ、イケメン(笑)って言い過ぎて名前忘れちまった。
「おい、2人に何したんだ!?」
はぁ?コイツは何言ってんだ?もしかして、俺のせいだと思ってるのか。
「知らねぇよ。理由なら俺が知りたいくらいだ。」
「ふざけるな!君と話してあんなに怒っているんだ。君が何か言ったに決まってるじゃないか!」
はぁ?ダメだ。まったく理解できない。なんだイケメンとフツメンだと何か違う思考パターンでもあるのか?
あと、近いんだよ。そんなに近づくな!
って、ヤバッ
「ねぇ、来人君。」
「おい、来人。」
「「剣崎君から離れてね。(離れろ)」」
怖っ。おい、イケメン(笑)君なんか驚き過ぎて、まるでハトがトンプソン機関銃喰らったみたいな顔してるぞ。
「お前、2人に何したんだ!」
「はぁ?お前バカか!明らかにお前が怒らせたろ、今。」
「いつもの2人が僕にあんなことを言う訳が無いじゃないか!」
うざっ。コイツ何様のつもりなんだろ。しかし、無視しても何回でも絡んできそうだしな。
イケメン(笑)君の対応に悩んでいると、
「さっさと戻ってくれないか、君たち。」
謎の美女が俺たちの何とも言えない感じの空気を壊してくれた。なんて優しいお方だ。これからは天使と呼ぶことにし・・・
「たく、これだからガキは。この愚図が!」
前言撤回である。いや、まさか子供嫌いとか誰が予想しただろうか、いやない。あまりのことについ、反語を使ってしまった。
とにかく、俺はいそいそと空いてる席に座った。
「さて、この“魂術”とは先ほど説明した“魂の定義”に含まれる、魂を持つもの全てが使用できる力だ。これは大きく分けて3つに分けられる。自らにかける“強化系” 、命を持たない物質にかける“付与系” 、自分以外の人間にかける“干渉系” だ。これらのさらに詳しい説明は後日話してやる。何か質問はあるか?」
静まる一堂。周りを見渡しても質問をしたがる人は居ないようだ。だったら、
「はい、質問があります。」
「なんだ、貴様か。悪いが、貴様が遅れたせいで聞かなかった“魂の定義”についてなら答えんぞ。」
「いえ、そのことについてではなく、別の件です。」
「何だと。話してみろ。」
「分かりました。では、お言葉に甘えて。
俺が聞きたいことは俺たちの異世界召喚についてです。」
「なんだと?」
「簡単に言いますと、俺たちはいったい何を使って召喚されたのでしょう?」
「ふーん。何故そんなことを聞く?」
「さっきのあんたの話を聞くと魂術では俺たちを召喚するのは無理そうだ。なら、この世界には異世界から何十人の人を召喚するような道具や技術、または儀式などがあると考える方が自然だ。そんなぶっ飛んだ力があるなら、警戒しておかない理由がない。」
「へぇ〜やるじゃん。ちょうどいい話してやるよ。確かにお前の想像通り、お前たちはこの世界にある神具によって召喚された。」
「なんだそれは?」
「神具とは、Aランク魔具を超えた存在。言うなれば、Sランクの魔具と言ったところかね。世界にいくつあるのかさえ、分かっていない激レアなものさ。」
「例えば、それを見つけて使えば、元の世界に戻れるのか?」
「そのための神具を見つければね。しかし、この国が使った神具は1度使うと、その神具は何処かへと消えてしまうのさ。だから、こちらもお手上げ状態さ。」
「そうですか。分かりました。」
おいおい、今日だけで知りたい情報がいくつも分かってきたぞ。これでここをおさらばした時の目的ができた。あとはいつ俺を殺しに来るかだな。
「さて、質問がないようだから次だ。これから騎士団長と副騎士団長の模擬戦が行われる。さっき説明した魂術を用いた実戦形式で行われる。10分後に訓練場に集合だ。じゃあ解散!」
「よしっ、帰るか!」
知りたいことが知れて、上機嫌な俺は意気揚々と自室に戻ろうとすると、
「おい、お前。名はなんだ?」
「俺? 俺の名前は剣崎 和人だ。あんたは?」
「僕の名前はネロだ。よろしく和人。僕は君のことが気に入った。何か知りたければいつでも来たまえ!」
「「な、名前呼び!」」
何処かの2人が何か言った気がしたが、無視した。
「それと勘違いしている人達がいるから言っておくけど、僕は男だから。」
はっ?えっ、今なんて言った。男、OTOKO、マジで!見た目クールビューティーな女性だと思っていたのに、何か複雑な気分だ。
「君も勘違いしていたのか。まぁいいや。それよりも君が気に入ったから教えてあげるけど、あまりこの国を信用しないほうがいい。痛い目にあうよ。」ボソッ
ネロが男だという事実に衝撃を受け、呆然としていると、ネロの口から国の人間としては言っちゃいけないことを平然と言った。
ていうか、
「えっ、いまさら。」