表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

間章:世界の始まりの日2(とある魔術師長の回顧録)

※本編は次回から。

※イケメンだと思った? 残念っ☆ 変態ですっ☆ (๑´ڡ`๑)


 人生一度きりなら楽しい方がいいと思わない?

“つがい”がいようと、いまいとも。

 だから私は楽しく生きる。

見目麗しく可愛らしい雌達(レディ達)を愛でながら、ふらりふらりと気の向くままに。




【とある魔術師長の回顧録】(以降雌=レディ)



 体内の魔力量によって獣の本能が左右されるこの獣の世界。

その世界で狼人族の王の三番目の息子として生を受けたのがこの私。

 王は魔力の多さ故に本能も獣に近く蜜月が濃厚濃密で一般人より子供が多いのが普通だ。

まぁ次期王候補がもし欠けたとしても困らない様にという獣の性も関係しているのだろうけれど。(とは言っても時に母体は自分より大きな魔力の塊を腹に収める事もある為、母体の事を考えてもせいぜい4人が限度だと言われている。)

 現在次期王候補の長兄に次ぐ魔力を持つ私は、長兄にもしもの事があった時のスペアなのだと幼い頃から言われ王候補の教育も受けさせられてきたのだが、幼い私は大きすぎる魔力をコントロールする事が出来ず魔力を暴発させては度々城を壊していた。

 それを見かねた当時の魔術師長であり叔父でもあるオールが、私を引き取り魔力のコントロールから人生の生き方、雌の愛で方等全てを教え込んでくれた。



「いいか、ベルナード。雌ってのは花と一緒だ。優しく愛でなきゃならんもんだ。

 それが自分だけの花でなくとも可愛いものは可愛がらなきゃ輝かねぇ。

 雄は花の為の肥料でいい。美味しい蜜を最後に吸うのは雄だしな?」



 オールは父に次ぐ程魔力が高い癖に“つがい”を求める本能は父の様に病的ではなかった。

むしろ常識とは違い“つがい”ではない雌達を侍らせ、“つがい”のように優しく扱っていた。

 オールにとっての唯一がいなかったせいなのかもしれないが、雌達も擬似的に自分の“つがい”としての逢瀬を楽しんでいるようだった。

 だからといってオールが一線を超える事はない。雌達に“つがい”が出来た時報復だの云々が厄介だから、そういったことを楽しむのはプロの娼婦達を愛でるのだという事も全てオールに教え込まれた。

 だが娼婦といっても獣人だ。獣の性で“つがい”に縛られると思うかもしれないが、娼婦の殆どは魔力を持たない者ばかりだ。

 魔力を持たないということは獣の本能も持たない為“つがい”というものに縛られたりもしない。

魔力なしは突然変異的に生まれる為昔は迫害もあったらしいが、今はそれもなく魔力のない者だけの国もある。そして今は獣の性を持たない彼らの事を獣人から獣をとった“人族”とも呼んでいる。

 子供も魔力なし同士なら授かるが、魔力量が違えば授からない。

彼らは運命に決められた唯一無二の半身を得れない代わりに相手を本能ではなく自分の意思で自由に選ぶことが出来る。その為移り気があれば相手は変え放題で問題も起きることもあるらしい。

 どちらがいいのかはわからないが、皆自分の生まれを受け入れありのまま生きるしかない。



「人生ってのは楽しまなきゃ損だ。

 勉学も最低でもやることきっちりやってりゃ誰も文句は言わねぇ。

 だからお前も楽しく生きろ。“つがい”は望んで手に入るもんでもねぇしな。

 いなきゃいないでもいい。世界には可愛い雌に旨い酒、旨い飯がある。

 あるもので十分楽しめる。」



 オールも“つがい”を求めていないわけでは無かったが、確保出来ない雄もいる事を知ってもいた。

人生なるようになると豪快に笑うオールは“つがい”がいなくても人生を楽しんでいた。

 そんな姿を私は小さい頃からいつもすぐ傍で見ていた。

だから今の自分があるのもオールのおかげだといえる。

 私も成るようになると楽観的に“今”を楽しんでいた。






 そんな当たり前のように過ぎていく毎日の中、オールが魔物の蔓延る同盟国の猫族の地まで遠征に旅立ってから数日後、彼が“つがい”を得たという報告があった。

数ヵ月はかかるだろうという遠征の期間は、“つがい”を得たオールの活躍により一ヶ月も経たず終わりを迎えた。

 オールが軍を従え帰国するという日、私は門の前でオールを待った。

オールの“つがい”と“つがい”を得たオールを見たかったからだ。

 私は“つがい”を得たとしてもオールは何時もと変わらないのではないのかと思っていた。

 だが現実は違った。

“つがい”を得たオールは雰囲気までもががらりと変わっていた。

 片腕に成人したばかりのまだ幼さを残す猫族の雌を抱えたその表情は見たこともない程の甘さを含み、その雌しか目に入れていない。

声をかけねば私の存在すら目に止めなかったのではないかと思う程だった。



「オール…、その子が貴方の…?」

「ん?ああ…ベルナードか。丁度良い。ついに見つけた俺だけの“つがい”だ。

 これからゆっくり蜜月を堪能する。魔術師団の隊長の座は引退しお前に譲る事にする。」

「なっ!?」

「元々副隊長の座だ。副が取れるだけでたいして変わらんよ。ではな。」



 空いた口が塞がらないままの私の肩を軽く叩いてオールは“つがい”を抱えたまま足早に去っていった。

兄が成人した矢先直ぐに王座を譲った父と血は争えないということか。まぁ逆らえないのは獣の本能の方かもしれないが。

 どちらにしろ私は数日後には正式に魔術師達の軍団を率いる隊長に任命された。

その間オールは“つがい”と世界旅行へ行ったらしい。

何時戻るかも分からないが気が向いたら顔を出すと言っていた。

 幸せそうな2人を見れば羨ましくは思うが誰も止めはしない。

この世の何より“つがい”を優先する事は当たり前の常識だから、誰も責める様なこともしない。

 きっともし私も“つがい”を見つけたとしたら、オールのように仕事より何より“つがい”を一番に選ぶ。

そんな日がいつか来れば良いと思いながら私は私のいつもの日常に戻った。




 そして変わらない日常がそれから200数年続き、これからもその日常が続いていくのだと思っていた矢先、私の“つがい”は天使のごとく天井から現れた。

 時空を歪め異なる世界から私の全身に“つがい”たる証の魔力を浴びせ香らせながら、彼女はやってきたのだ。

見た目はオールの“つがい”より幼い姿で驚いたが、それでも成熟した雌の匂いは私の雄を刺激した。

 この世界では珍しい漆黒の瞳に美しい艶やかな髪を持つこの美姫を魔法で探索してもまったく見つからなかったのは彼女が異世界にいたからだったらしい。

 目覚めた彼女はあたりをきょろきょろと不安そうに見まわしている。

そして、彼女の目が私の姿を捉えて止まる。

 心が、視線が、体が、己の全てが囚われる。そんな感覚がした。

これが、“つがい”同士だけで感じる“恋”なのだと悟った。

 早くこの胸に抱きしめたくて彼女を安心させる様に優しく微笑んで両手を広げる。


 こちらへおいで。

 ようやく出会えた私の“つがい”。

 

 熱に浮かされる私と違い、彼女はおびえたまま動かない。

こちらから近づこうとすると後退り、その拒絶の意思に足は進められなかった。



 そして脅えさせない様に話すうち、彼女【エリ】にこちらの“つがい”の常識が一切ない事に愕然とした。

さらに驚くべき事はまだ続く。

 魂に刻まれた紋様のおかげで一夫一妻のつがい制度が揺るがないこの国で“つがい”が被る事は有り得ないのに、兄や弟もエリが自分だけの“つがい”だと宣言したのだ。

 …確かにエリの腕には私達の“つがい”である“証”があり、その魔力も私達4人を補充してなお有り余るだろう強大な魔力もある。

異世界から来たエリにはこの世界の常識を当てはめることは出来ないというのもあり、この状況も有り得ない事では無いのかもしれない。

けれどそれでもようやく見つけた自分だけの唯一を、兄弟だと言う理由で譲るという選択肢は私にはない。

 しかしそんな私達の意見より“つがい”の意志が最も重要だ。

出生率が低いこの国で子宝を与えてくれる雌は何よりも大事にされる。一族に引き継がれる大いなる意思(遺伝子)には逆らえないし、それでなくてもオールの言葉の様に雄は雌という花の為の奴隷でいい。


 それから皆必死に“つがい”として自分を選んで欲しいと懇願しエリに訴えたが、エリは選べないと言った。

だから私達は自分達で選択肢を減らそうとしたのだけれど、争いはダメだときつく言い渡されてしまった。

 自分以外の誰かを選ばれるよりは誰も特別視されない今の状態の方がまだいいのかもしれない。

けれど誰もがまだ自分だけを見て欲しいという思いを捨ててはいない。

 平等以上に少しでも愛情を注がれたい、視線を独占したいと、隙あらばその機会を狙っている。

なにせ“つがい”との間に自分の血を引く子を設ける事こそ雄の本懐なのだ。だからこそ私もやり遂げたい。父の様に4人は家族が欲しいが出来れば全員エリの様な女の子だとなお素晴らしい。







 だが未だ、私の愛に実りはない。
















・・・(数ヶ月後)・・・






「エリ、待ってたよ。廊下は寒かっただろう?早くお入り。」



 寒の期に入り、夜は城の中でも肌を刺すほどの寒さがある。

風呂から戻ってきたエリをベットの中で待っていた私は、毛布を開き彼女の入るスペースを作る。



「……私の部屋で、…何してるの?」



 入口から動かないエリを出迎えにベットを降りて、椅子の背にかけていたバスローブを羽織る。

流石に半裸では私でも肌寒いし、冷えた肌でエリに触れるわけにはいかない。

 エリの前まで行くとエリは黙ったまま床を指さす。

これは我々の中で暗黙の合図、【正座】だ。私もエリの意思を大分くみ取れるようになった。

 いそいそと正座をすると、腕を組んだエリに見つめられる。



「私は、私の部屋の、私のベットで、何を、していたのか、聞 い て い る ん だ け ど?」

「今夜は冷えるだろう?だからベットを温めておいたんだよ。」

「半裸で?」

「寒い夜は人肌に限るんじゃないかと思ってね。エリの暖になればと思ったのさ。」

「まったくこれっぽっちも一言ですら頼んでないんですけど?」

「だってエリはおねだりをしてくれないだろう?私たち雄は“つがい”に尽くしたいんだ。

 愛を“つがい”に注がなければ生きていけない。それが“つがい”を得た雄なんだよ。」



 愛しい愛しい世界で唯一の花である“つがい”の雌を愛らしく咲かせる為に雄は働き、貢ぎ、愛を乞う。

大きなものなど望まない。“つがい”が笑えばこちらも笑顔になるし、幸せであれば自分も幸せになれる。



「…そんなにお願いをされたいのなら私の望みを叶えてくれるかしら?

 あなたは凄腕の魔術師なら簡単だと思うけど。」

「勿論さ!エリのお願いならなんだって叶えるよ。」



 エリからのお願いを(正座しながら)ワクワクして待っていたら、エリはベットの方を指さした。



「“虫”が部屋に入り込んでいたの。

 安心して眠れるように浄化の魔法で部屋の中の物を全てきれいに浄化してほしいんだけど出来る?」

「エリの部屋に虫が?何て厚かましい…。大丈夫、すぐに綺麗にしてあげるよ。」



 浄化ぐらいなら演唱もいらない。念じて発動の合図を出せば終わる。

私はエリの部屋中を浄化するイメージを浮かべ、指をパチンと鳴らした。

これで全てが新品同様綺麗に浄化された。



「これで大丈夫だよ、エリ。」

「ありがとう。それともう1つお願いをしてもいいかしら。

 また“虫”が勝手に入り込んだりしたら嫌だから部屋に結界を張ってくれない?

 どんな例外もなく、私が入っていいと許可した人しか入れない様に。

 そうしたら“虫”も勝手に入れないと思うの。」

「それはいい。防犯の上でも安全だろうし、うんと強力なのをかけておこう。」



 残りの兄弟達が侵入しないとも限らない。

念には念を入れて私でも解けない程強化にしていれば蟻の子一匹不法侵入はできないだろう。


 エリの部屋のドアの前で十数個の術式を展開してそれを難解に絡ませ1つに凝縮した後、エリの部屋のドアに発動させる。その後【エリの許可なく立入り不可】と親切に注意書きのメッセージも残しておけば、城の者達も理解するだろう。



「これで完成なの?」



 私の隣で見守ってくれていたエリが手を止めた私に話しかけてきた。

エリの視線に合わせる為に膝をついて、私は自分の胸に手を当てる。



「愛するエリのご要望通り完璧に仕上げたよ。」

「ふーん。じゃあベルナードも私が許可を出さないと入れないのね?」

「勿論さ。私の術は完璧で最高位だからね。私という例外もないよ。」

「へー。じゃあちょっと試してみるからそこいてね。」



 そう言い残してエリは部屋の中に入り、ドアをガチャリと閉じた。



「じゃあベルナード、入れるかどうかチェックしてみて。」



 中から聞こえたエリの声で、私は普通にドアを引いてみるがびくともしない。

その後解呪の魔法を何パターンもかけたがドアが開くことはないし、攻撃魔法も相殺される。

エリの鉄壁の防御壁といってもいいだろう。



「凄い、本当に完璧ね。」

「はは、そりゃ国一だからね。それに、エリに関することなら全身全霊をかけて成し遂げるよ。」

「これってドアを開けてても入れないの?」



 ドアを開けてひょこりと顔を出したエリに手を伸ばす。けれど透明な壁に阻まれて私の手は中に入れることができない。

 ふいにエリに腕を掴まれぐいぐいと引かれてどきりとした。


 エリに、誘われている。


 初めてのことに感動と動揺が大きくて動けなかった。

これでようやく“つがい”としての本懐を遂げることが出来る。

長年待ち続けた心と体が一つになる、その瞬間が。

ようやく、今日、やってくる。



「本当に許可しないと入れないのね~。これでようやく安心して眠れるわ。

 それじゃあベルナード、おやすみなさい。あなたもゆっくり休んでね。」



 にこりと笑ってバイバイと手を振るエリに反射的に手を振り返したら、目の前でドアがばたんと閉じられた。



「……エリ…?」



 私がまだ入室していない…というか入室許可をもらっていないから部屋に入れないままなのだけれど。

ドアをノックしてエリを起こし許可を得ようかという考えが一瞬過ったけれど、エリの安眠を妨害するわけにはいかない。気持ちよさそうに眠っているエリを想像するだけでこちらも幸せを感じるのだから余計に邪魔は出来ない。

 


「……おやすみ、愛しい私のエリ…。…また明日の朝に。」



 本来ならエリの額に口付けておやすみのあいさつをしたかったけれど仕方ない。

エリにするように(※妄想の中でしかしたことはない)ドアに口付けて別れを惜しみつつもドアから離れる。


 今日こそエリとの関係に進展をと意気込んで乗り込んだけれど進展は得られなかった。

ただエリの使用済みベットでのしみついたエリの香り・魔力は予想以上に心地が良く、“あなたもゆっくり休んでね”のエリのおやすみの挨拶と笑顔という収穫はあった。

それを思うとむしろプラスだったかもしれない。


 300年待ち続け殆ど諦めかけていた私の“つがい”だから早く蜜月りたい思いは強い。

けれどこう焦らされ続けるのも苦しいが、最近はそうされた分だけ後々の期待が高まる。

体までつがった後に得られる幸福は初対面の時以上ではないかと思うからだ。

 認めたくはないが私を含む4人の守護者がいる私の“つがい”たるエリを、この先不手際で喪失することはまずない。

だから後は目の前の“つがい”に受け入れてもらうだけでいい。

探す手間も、得られない不安を抱くこともない。300年の間の時間より今が一番幸福だ。

 だからエリにも幸せになってもらいたい。私に与えられた分だけ幸せにしたい。


 だからどうか私を受け入れて。


 その小さな体で私を受け止められる様精一杯頑張るから。

 夢の中でしか抱けないその身だけれど、誰よりも努力をしたのだから。

 

 いつかそれが報われる日が来るように、明日もまた私は頑張ろう。

ライバルを蹴落とし寵を奪うために、朝からまた戦争だ。

しかしエリの為にいつか必ず勝ってみせる。

 あの中の誰よりも私こそが一番エリを心身共に満たせるという自信と手腕は、誰より尊敬する師匠譲りなのだから。




《end》




次回から本編にようやく戻ります。

そして長らく放置プレイなこの話も後1、2話でオチがつくので【異世界と私とつがい詐欺】ようやく終わると思います!…その後は続編投稿する予定です。<(_ _)>


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ