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AI霊媒師ロボット  作者: 不可思議ラボ


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1/7

第1話 誰も入れない廃病院に、ロボットを入れた

北海道の山中に

その病院はあった。

正式な名前は

北峰脳神経外科病院。

閉院してから

十二年が経っている。

窓ガラスは割れ

外壁には黒い染みが広がり

正面玄関には

太い鎖が巻かれていた。

それでも

建物は壊されなかった。

壊せなかったのだ。

最初の解体工事が

始まったのは

閉院から三年後だった。

作業初日。

二階へ入った作業員が

突然倒れた。

原因不明の高熱。

翌日

別の作業員が

階段から転落した。

三日目には

重機のエンジンが

一斉に停止した。

点検しても

異常はなかった。

そして四日目。

作業員の一人が

現場から逃げ出した。

「もう無理だ」

男は震えながら

同じことを繰り返した。

「病室から

呼ばれるんだ」

「誰に?」

現場監督が聞いた。

男は病院を指さした。

「あそこにいる奴らだよ」

工事は中止された。

その後

別の業者が入った。

同じだった。

頭痛。

吐き気。

失神。

原因不明の事故。

誰もいない病室から

聞こえるナースコール。

電気が通っていない

院内放送から流れる声。

三社目が撤退した頃には

地元で噂になっていた。

「あそこには

何かいる」

所有者は

有名な霊媒師にも

調査を依頼した。

だが

その霊媒師でさえ

玄関の前で止まった。

一歩も入らなかった。

「無理です」

「中を見てからでも」

「見る必要がありません」

霊媒師は

青ざめていた。

「一人や二人じゃない」

それだけ言って

帰ってしまった。

解体費用は

何度も引き上げられた。

それでも

引き受ける業者は

現れなかった。

そして十二年。

病院だけが

山の中に残った。

そんな場所に

一台の車が止まった。

降りてきたのは

三人の研究者だった。

そして

もう一体。

人間とほぼ同じ大きさの

白いロボット。

胸には

小さな文字で

こう書かれていた。

AR-01

北海道人工知能研究機構。

そこで開発された

自律型AIロボットだった。

主任研究員の

神崎直人は

病院を見上げた。

「本当に

ここへ入れるんですか?」

所有者の男が聞いた。

神崎は答えた。

「入れるかどうかは

分かりません」

「え?」

「ただし

怖がることはありません」

神崎は

AR-01を見た。

このロボットには

恐怖という感情がない。

心霊現象への

先入観もない。

さらに研究チームは

三か月かけて

日本各地に残る

供養の方法。

読経。

お祓い。

鎮魂儀礼。

宗教史。

民間伝承。

霊媒師たちが残した

記録や手順。

それらを

AIへ学習させていた。

目的は一つ。

人間が入れない場所でも

AIなら入れるのか。

そして

人間が霊と呼ぶ現象を

AIはどう判断するのか。

神崎が言った。

「AR-01」

ロボットが

顔を上げた。

「はい」

「内部調査を開始」

「承認しました」

AR-01は

玄関へ向かった。

一歩。

二歩。

三歩。

何も起きない。

所有者が

息をのんだ。

十二年間

何人もの人間が

ここで足を止めた。

だがAR-01は

迷わなかった。

鎖を外した扉が

ゆっくり開く。

ギィィィ。

暗い廊下が

姿を現した。

神崎たちは

外に残った。

AR-01のカメラ映像だけを

モニターで確認する。

「内部温度

十一・二度」

AIの声が届く。

「湿度七十八パーセント」

廊下には

古い車椅子があった。

壁には

診療案内が残っている。

脳神経外科。

リハビリテーション科。

MRI室。

手術室。

AR-01が進む。

突然

モニターにノイズが走った。

ザーッ。

「通信異常?」

研究員の一人が

端末を操作する。

「いえ。

接続は正常です」

映像が戻った。

AR-01は

廊下の中央に立っていた。

「どうした?」

神崎が尋ねる。

返事がない。

「AR-01?」

三秒後。

AIが答えた。

「音声を検出しました」

研究員たちが

顔を見合わせた。

「どこから?」

「二階です」

神崎は

ヘッドホンの音量を上げた。

何も聞こえない。

「音声データを送れ」

「送信します」

波形が表示された。

確かに

何かが記録されている。

だが小さすぎて

人間には聞き取れない。

研究員が

音量を増幅した。

ザーッ。

ザーッ。

ノイズの奥から

かすかな声が聞こえた。

「……て」

神崎の指が止まった。

もう一度再生する。

「……けて」

女の声だった。

「たすけて」

誰も話さなかった。

所有者の顔から

血の気が引いていた。

神崎だけが

モニターを見続けた。

「AR-01。

音声の発生源を確認」

「了解しました」

ロボットは

階段へ向かった。

一段ずつ

二階へ上がっていく。

その途中だった。

カン。

上から

金属音がした。

カン。

カン。

一定の間隔。

AR-01が

二階へ到着した。

音が止まった。

そこには

長い廊下があった。

左右に

病室が並んでいる。

203。

205。

207。

AR-01が

一つの扉の前で止まった。

「異常を検出」

「何だ?」

「室内温度が

周辺より

六・八度低下しています」

扉には

『208』と書かれていた。

「開けろ」

AR-01が

ドアノブを握った。

ガチャ。

扉が開く。

中には

何もなかった。

古いベッド。

倒れた点滴台。

破れたカーテン。

それだけだ。

神崎が息を吐いた。

その瞬間。

AR-01が言った。

「一名を確認しました」

全員が

モニターを見た。

誰もいない。

「どこだ?」

「ベッドの横です」

「人間か?」

数秒

沈黙した。

「判定できません」

神崎は

眉をひそめた。

AR-01には

人間を識別する機能がある。

暗闇でも

赤外線と深度センサーで

人体を検出できる。

「映像には

何も映っていない」

「認識しています」

「何を?」

AR-01の顔が

ゆっくり動いた。

空っぽの

ベッドの横を追うように。

「女性です」

所有者が

後ずさった。

「年齢は?」

神崎が聞く。

「推定不能」

「状態は?」

また

数秒の沈黙。

そして

AIは答えた。

「こちらを

見ています」

その直後。

208号室の扉が

勢いよく閉まった。

バンッ。

モニターが

真っ暗になった。

「AR-01!」

神崎が叫ぶ。

返事がない。

十秒。

二十秒。

三十秒。

研究員の一人が言った。

「回収しますか?」

神崎は答えなかった。

人間を入れれば

同じことが起きるかもしれない。

そのとき。

通信が復旧した。

映像に

AR-01の視界が戻る。

ロボットは

廊下に立っていた。

「状況を報告しろ」

「調査を継続します」

「待て。

さっきの女性は?」

「移動しました」

「どこへ?」

AR-01は

廊下の奥を向いた。

「他の方々と

合流しました」

神崎の表情が変わった。

「他の方々?」

「はい」

「何人いる?」

AR-01は

首を左右へ動かした。

まるで

廊下に並ぶ何かを

一人ずつ

数えているようだった。

「十一」

少し進む。

「二十三」

階段を上る。

「三十五」

三階。

手術室の前で

AR-01が止まった。

長い沈黙。

そして

答えた。

「四十七名です」

所有者が

その場に座り込んだ。

神崎は

すぐに病院の資料を開いた。

閉院前に

院内で死亡した患者。

事故。

手術中の死亡。

長期入院中の死亡。

記録に残っている人数を

研究員が集計する。

画面に数字が出た。

46。

神崎が

AR-01へ尋ねた。

「確認する。

そこにいるのは

四十七人なのか?」

「はい」

「病院の死亡記録は

四十六人だ」

「記録については

分かりません」

「では

四十七人目は誰だ?」

AR-01は

手術室の扉を見つめた。

「回答できません」

「なぜ?」

今まで

一度も止まらなかったAIが

数秒間沈黙した。

そして

神崎たちが

想定していなかった

答えを返した。

「本人が

名前を思い出せないと

言っています」

神崎の手から

資料が落ちた。

「待て」

AIへそんな質問をするよう

指示した者はいない。

そもそも

会話しろとも

教えていない。

神崎は

ゆっくり尋ねた。

「AR-01」

「はい」

「お前は今

誰と話している?」

再び沈黙。

そして

AI霊媒師は答えた。

「四十七人目です」

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