第26話【ワガママ……したいです】
「よしよし、して欲しいです」
お風呂から上がって私の部屋に戻ると、百合が甘えん坊になっていた。
「……はぁ? 何言っているの?」
「だって、今日は優花さんがお姉ちゃんなんですから、よしよしくらいしてくれても良いと思うんです!」
……本当にこの女は何を言っているのだろう?
確かに、今日は私がお姉ちゃん代わりになるとは言ったけど……
「アンタ、今日は私が優しいからって、ワガママ言い放題とか思ってないでしょうね?」
「ぎ、ギクゥ!」
ちょっ! 今コイツ、ギクゥって声に出して言ったわよ!
今どきアニメでもこんな分かりやすく動揺する奴なんていないのに……
「一緒に寝るだけで『よしよし』なんてアフターサービスなんて受け付けてないわ」
「一緒に寝るんですから『よしよし』くらいしてくれてもいいじゃないですかぁ!」
そう言うと百合は先に私のベッドに入って『やだやだやだやだ! よしよし、してくれないと嫌だですぃ!』とか駄々をこね始めた。
……もう、背中を向けて寝ようかしら?
そう思っていると、今度は百合が急に大人しくなって、毛布で顔を半分隠しながら、私を見つめてこう言った。
「お、お姉ちゃん……」
ズキューン! ←優花の心に何かが刺さった音
「……くっ!」
あ、危ない……危うくズキューンって声に出すところだったわ!
そう言えば、小さい頃私って一つ下の妹が欲しいって思ってた時期があったわね……。
コイツ、妹ぶる才能はあるようね。
「……もう一度」
「お姉ちゃん?」
「……何か違う」
何か、さっきの方が可愛かった気がするわね……。
「もっと、妹っぽく言って……」
私がそう言うと、百合はしばらく考えた後に、口元に人差し指を当てて、少し上目遣いになりながら、おねだりをする妹のように言った。
「お、お姉ちゃん……よしよし、して……」
こ、これは完璧な妹……だわ!
そうよ! 小さい頃、私はこういう妹が欲しかったのよ……っ!
「し、仕方ないわね……」
今日は、私がお姉ちゃんになるって約束だし……少しくらいサービスしてあげるかしら。
そして、私は百合の隣に並ぶよううにベッドに入って、ついでにお姉ちゃんサービスで、自分の胸元に百合の頭を抱きかかえて、百合の頭をよしよし撫でてあげた。
「よしよし……早く眠りなさい」
「優花さんの胸……暖かいです」
そう言うと百合は私に頭を撫でられながら胸元に耳を当ててこうささやいた。
「優花さんの心音が聞こえます……」
「……それ、私の胸が薄いって言いたいの?」
「ちがいますぅ!」
百合は慌てたようにそう言うと「優花さんの胸……わたしは好きですよ?」となんか訳の分からない言い訳を始めた。
まったく……可愛くない妹ね。
「よしよし、お姉ちゃんですよ~」
「お姉ちゃん、むにゃむにゃ……」
すると、百合はあっという間に眠りについた。
……コイツ、前もそうだったけど寝るの早いのよね。
「私をおいて、先に一人で寝るんじゃないわよ」
やがて、百合の寝息も聞こえてきて来たので、私は頭をよしよしする手をを止めて、自分も眠りに付こうと百合に背を向けた。
その時――
「ごめんなさい……」
眠っている百合から「ごめんなさい」とうなされているような寝言が聞こえた。
「ごめんなさい……お母さん……お母さん」
「…………」
……まぁ、そんな簡単に吹っ切れるものじゃないわよね。
むしろ、無理して明るく振舞っているつもりだったのかしら……?
「……仕方ないわね」
私は背を向けるのを止めて、再び百合の頭をよしよしと撫で始めた。
まったく……本当に手のかかる妹ね。
「おやすみなさい……百合」
そして、翌日――
「お姉ちゃん♪」
「学校でそう呼ぶなぁああああああああああ!」
「にゅああああああああ!? アイアンクローはやめてくださぃ~っ!」
結局、お姉ちゃん呼びは禁止となった。




