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顔面S級冷酷無双ヤンデレ王子と転生令嬢  作者: はるさんた


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第七十八話:新女王の来訪と、ヤンデレ旦那様の骨抜き作戦

バルカ荒野での大決戦から一ヶ月。

帝国との戦争は、王国軍の圧倒的勝利と、狂皇太子ゼノスの消滅によって完全に終結した。敗戦国となったエストリア帝国では、穏健派を率いて戦後処理に奔走したカミラ王女が、若き「新女王」として即位。両国間には、歴史上初となる強固な和平条約が結ばれることとなった。


――だが、そんな大陸の歴史がひっくり返るような大激変など、この男にとっては些事さじに過ぎなかった。


「……ねえ、アレス。ちょっとお聞きしたいのだけれど、この私の部屋の『仕様変更』について、説明を求めてもいいかしら?」


王宮の王妃専用離宮。ルナは、新調されたばかりの豪奢な天蓋付きベッドの上に腰掛け、頬杖をつきながら、目の前に佇む最愛の旦那様をジト目で睨みつけていた。


ルナの視線の先――かつては美しい王宮の庭園や、四季折々の花々が見渡せたはずの大きな窓は、今や一枚残らず取り払われていた。代わりにそこにあったのは、精緻な装飾が施された「白金製の美しい壁」。しかも、ただの壁ではない。アレスが持つ全魔力を注ぎ込み、物理攻撃はおろか、あらゆる転移魔法や因果律の干渉すら遮断する、国家防衛級の『絶対隔離結界』が部屋全体を包み込んでいた。


「説明かい? 奇遇だね、ルナ。僕も今、この部屋がどれほど完璧な安全を手に入れたか、君に自慢しようと思っていたところなんだ」


アレスは、手にした極上の紅茶をルナの前へと恭しく置き、至福の微笑みを浮かべた。

彼の銀髪は室内の柔らかな魔導灯の光を受けて神秘的に輝き、深紅の瞳には、一切の濁りのない、純度百パーセントの「狂愛」が爛々と輝いている。アレスはベッドの縁に腰を下ろすと、自然な動作でルナの細い腰を引き寄せ、その首筋に自身の額をすり寄せた。


「あの戦場で、君が僕の影から飛び出した時、僕の心臓は一度完全に停止した。思い出すだけで、世界中のすべてを灰にして、君と二人きりになりたいという衝動が抑えきれなくなるんだ。……だからね、ルナ。もう君を外の世界に出すわけにはいかない。窓なんて不確実なものは必要ない。この僕の腕の中と、この完璧な部屋だけが、君が永遠に傷つかずに済む場所なんだよ」


アレスの言葉には、一片の迷いもなかった。戦争という極限状態を経験したことで、彼のヤンデレ本能は「過保護」の域を突き抜け、「完全なる聖域への隔離」へとエスカレートしてしまったのだ。彼はルナの髪を一房すくい上げ、熱烈な口づけを落とす。


ルナはアレスの広い胸に背中を預けながら、心の中で深く溜息をついた。


(……あちゃー、完全に重症化しちゃったわね。でも、ここで怒ったり泣いたりしたら、アレスは『僕の愛が足りないから不安にさせているんだ』って勘違いして、さらに結界を厚くするだけだわ。ここは、転生令嬢としての知略……通称『ヤンデレ旦那様骨抜き作戦』を敢行するしかないわね!)


ルナはふっと表情を和らげ、アレスの方へと寝返りを打つようにして向き直った。そして、彼の美しい首筋に自ら両腕を絡ませ、潤んだ瞳でアレスを真っ直ぐに見つめた。


「アレス。あなたが私の安全を誰よりも考えてくれていること、本当に嬉しいわ。私、世界中であなたに守られている時が一番幸せよ」


「ルナ……」


「でもね? こんなに素敵な部屋に閉じこもっているだけじゃ、もったいないわ。ねえ、二人だけで『ハネムーン(新婚旅行)』に行かない? 王宮の退屈な公務も、国境の緊迫した情勢もすべて忘れて、どこか誰も私たちを知らない静かな湖畔の別荘で、一ヶ月……いえ、三ヶ月くらい、二人っきりでべったり過ごすの。あなたが私を独り占めして、私があなたの愛に溺れるだけの、特別な時間。……どうかしら?」


ルナの口から飛び出した、予想外に情熱的で甘い提案。

アレスの深紅の瞳が、驚きと、それに続く爆発的な歓喜によって大きく見開かれた。彼にとって、ルナから求められること、そして二人きりの閉鎖空間で時間を過ごすことほど、魂を揺さぶられる報酬は存在しない。


「……二人きりで、三ヶ月……? 君が僕だけを見て、僕の愛に飼い慣らされる時間……。素晴らしいな。いや、最高だ、ルナ。すぐに準備をさせよう。いや、僕が自らすべての手配をする!」


「ええ、楽しみにしているわ。……だからね? その旅行に行く前に、どうしても片付けなきゃいけない公務が一つだけあるの。それを無事に終えたら、私は完全にあなたのものよ」


ルナはアレスの唇に、蕩けるような甘いキスを一つ贈った。

アレスは完全に骨抜きにされ、夢見心地の表情で何度も頷いている。ルナの「ハネムーン計画」は見事に成功した。アレスの意識を旅行の準備へと逸らし、その隙に結界の制限を緩めさせることに成功したのだ。


そして、ルナがどうしても片付けなければならない「最後の公務」――それこそが、今日、王国を公式訪問するエストリア帝国の新女王、カミラの謁見だった。


数時間後、王宮の盛大な歓迎式典を経て、内密の三者会談が設けられた。

場所は、アレスの結界が一時的に解除された、離宮の応接間。


「――ルナお姉様! お会いしたかったです!」


扉が開いた瞬間、かつての傲慢な衣装を脱ぎ捨て、洗練された帝国の正装に身を包んだカミラが、王女としての立場も忘れてルナの元へと駆け寄ってきた。その瞳には、ルナへの純粋な崇拝と親愛の情が溢れている。


しかし、カミラがルナの手を握ろうとした瞬間、その間に目にも留まらぬ速さで漆黒の魔剣「絶影」のさやが割り込んだ。


「……エストリアの新女王。いくら和平が結ばれたとはいえ、僕のルナに気安く触れるな。君が国を背負ってここにいるのでなければ、今この瞬間に、その不敬な両腕を切り落としているところだ」


アレスがカミラを睨みつける。彼の背後には、ハネムーンを邪魔された怨念と、ルナへの接近を許さないという強烈な殺気が渦巻いていた。


「アレス、メッでしょ。カミラ様は遠いところを来てくださったのよ」


ルナがアレスの袖を引いて宥めると、アレスは不満そうに「チッ」と舌打ちをして剣を収めた。だが、その視線は一秒たりともカミラから外されない。


カミラは一瞬アレスの覇気に怯んだものの、すぐに背筋を伸ばし、凛とした表情でルナに向き直った。


「お姉様、ご安心ください。アレス殿下のその……狂気的な過保護ぶりには、もう慣れましたわ。……本日お伺いしたのは、和平の挨拶だけではありません。兄ゼノスが遺した魔導研究のデータを完全に破棄し、その代わりに、お姉様が提唱されていた『民生用魔導技術』の共同開発都市を、両国の国境に建設したいというご提案を持ってきたのです」


カミラは机の上に、丁寧にまとめられた計画書を広げた。そこには、ルナの無属性魔導の理論をベースにした、医療や農業、街のインフラを発展させるための素晴らしいアイデアが詰まっていた。


「カミラ様……、これをあなたが考えてくれたの?」


「はい。お姉様が戦場で示してくださった『誰も傷つけない知恵』。それこそが、我が帝国がこれから歩むべき光の道だと確信したのです。……私は、お姉様の最初で最高の『弟子』として、このプロジェクトを成功させてみせます!」


カミラの真っ直ぐな言葉に、ルナの胸は温かい達成感で満たされた。

転生令嬢として、悪役令嬢としての破滅フラグを回避するために必死に磨いてきた知恵が、今、二つの国の未来を救い、一人の孤独な王女の心を完全に救ったのだ。


「ありがとう、カミラ様。喜んでお受けするわ。一緒に、素晴らしい世界を作りましょう」


ルナが微笑み、今度こそカミラと固い握手を交わした。カミラは感激のあまり、瞳に薄すらと涙を浮かべている。


その様子を、アレスは実につまらなさそうに、しかしルナの幸せそうな笑顔に免じて、静かに見守っていた。


「……話は終わったね、カミラ女王。なら、今すぐ自国へ帰りたまえ。僕とルナは、これから三ヶ月間、誰の邪魔も入らない秘密の隠れ家へと旅立つ予定があるんだ。一分一秒でも、僕たちの時間を無駄にしないでほしい」


アレスが冷酷に帰国を促すと、カミラは呆れたように肩をすくめた。


「ふん、相変わらずお姉様への執着が度を越していますわね、アレス殿下。ですが、お姉様を少しでも泣かせるようなことがあれば、我が帝国の全軍を以て、お姉様を奪い返しに参りますわ!」


「やってみろ。返り討ちにして、今度こそ君の国を地図から消してやる」


バチバチと火花を散らすアレスとカミラ。その間で、ルナは「まぁまぁ」と苦笑しながらも、心の底から安堵していた。


ゼノスという巨悪は去り、帝国との未来は開かれた。

アレスのヤンデレ過保護ぶりはさらに極まってしまったが、彼をコントロールする手綱は、すでにルナの二つの手の中にしっかりと握られている。


「さあ、アレス。公務も終わったことだし、私たちの『二人だけの内緒の旅行』の準備をしましょうか?」


「ああ、ルナ! 君との永遠の時間を、今すぐ始めよう!」


アレスはルナを愛おしそうに横抱きにすると、嬉々として旅立ちの魔法を唱え始めた。

顔面S級のヤンデレ王子からの、重すぎるほどの深愛。それに怯むことなく、自らの知性と明るさで世界をも変えてみせた転生令嬢ルナ・ノート。

二人の、甘くて、少しだけ危険で、どこまでも狂おしい幸福な物語は、これからも永遠に続いていくのだった。


――『顔面S級転生令嬢と冷酷無双ヤンデレ王子』第二章・完――

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