逆境を乗り越えてこそ友情は深まる。知らんけど
鬱展開ウキウキアゲインに期待を膨らませる俺だ。
見てくれ、やっっっっと鬱展開の芽が出てきたぜ。今はまだちいちゃいちいちゃいクソザコ雑草みたいな鬱展開だが、これをいかに大事に育て、実らせ、適切なタイミングで収穫し、尤も相応しい料理として仕上げ、そしてどんな状況で味わうか。それを考えると今からめちゃくちゃによだれが溢れてきますわ……へへ……。
というわけで入学後初の俺的に重要なイベントが発生したわけである。
結果としては薄味だったけれどね。でもそこは、今後どう活かしていくかという点こそが重要なわけなのでね。まあ良いとしよう。
いやあ、ノエルくんはてっきりいじめられる側として鬱展開を発生させると思っていたのだけれど、いじめ冤罪吹っ掛けられ側ときましたか。そっちも嫌いじゃないよ。
当たり前の話ではあるが、俺は教室付近に到着後、ノエルくんが周囲からギャーギャー言われている様子をめちゃくちゃしっかり見聞きしていた。当然だろ。このために生きてんだこっちは。
ノエルくんはものすごく成績が良い。そして一応後ろ盾はあるが身寄りはなく、友人はジーンくんちゃんさん一人で、そりゃもう孤高の変人として生きている。そして極めつけはお父上の研究内容だ。
この世に心の中を覗かれてもOKですよなんてオープンな思考のやつはそうそう居ない。居た場合まず間違いなく心に何らかの問題を抱えているかド変人だろう。勿論読心魔法なんてものは滅茶苦茶難易度が高く、歴史に名を残す超高名魔術師が使っていた、なんて伝説や神話の中でしか見かけないようなものだということを、この学園に通うような賢いお子様達なら当然知っている。しかし心というのは知識だけで納得するものではないのだ。高い場所に立てば柵があろうが落ちる不安が脳裏に過るように、檻の中の猛獣を見れば攻撃される恐怖を思い描いてしまうように、あるかもしれない危険に備えるのは人間として当然の心の動きだと言えるだろう。
勿論中にはジーンくんちゃんさん、いやジーンくん(仮称)とするか。彼や優秀クラスの生徒達のように理性的に振る舞える人間だっている。しかしそれはある意味恵まれているがゆえの余裕のある行動だとも言えるだろう。
謂れのない罪を着せられる、というのは誰にとっても怒りや屈辱、恐怖などの様々な負の感情を呼び起こされる、最悪の事態の一つだ。大人だって時にはこれに耐えられない。泣いたり怒ったり、不当な周囲の人間に当たり散らしたり、そんな反応をしたって仕方のないことだ。
しかしノエルくんはそんな選択肢を選ばない。自分の代わりに怒るジーンくんに声を掛け、周囲を俯瞰するノエルくんの瞳には、ただ真摯に謎へと挑もうという冷静かつ燃えるような情熱があった。
それを見て俺はピンときたね。この子はおそらく名探偵タイプなのだと。
きっと彼は今後もこのちょっと社会に不向きな性格とはちゃめちゃに高い知能のせいで、様々なトラブルに巻き込まれたり、あるいは突っ込んでいったりすることだろう。
トラブルあるところに災難あり。災難あるところに悲劇あり。そしてそれらを踏み越えて進まんとする人間の意思の力が存在すると俺は信じている。
なのでそれを拝見するために彼の周囲を友人ポジションでうろちょろし、解決のための協力をして、良い感じに鬱展開からのハッピーエンドを摂取させていただくことにした。こういうことは俺もまあまあ好きだからね。心の底から楽しくやらせていただきました。
教室で起きた事件については、特に言うところもない。なにせ謎は全て解明されたのだから。
この件で俺はノエルくんという素材のポテンシャルの高さの再認識し、クラスメイトの善良さと知性の高さ、そして担任であるアークランド女史の優秀さを確認することができた。本当に教育に良い環境だな。
ここまでは何の問題もない。
本題はその後の事件だ。
学園に潜む奇妙な生物! 二人揃っての謎の失神! 大人には頼り切れない事情により自分たちで事件の調査に乗り出す子供達!
そして唐突に差し挟まれる命の危機!
もう一度言おう。命の危機! 良い言葉だぜ。
校舎に侵入したっぽい野生動物を追いかけて、取り壊しが決まっている旧寮に行く、なんていういかにも子供の放課後っぽいイベントにウキウキで同行した甲斐があったってもんですよ。
やっぱり最低限このくらいのひりつきは欲しいもの……。
まあさすがに急に失神した時は俺もちょっと焦ったよ。明確な鬱展開とそこからの立ち直りを期待できる状況ならいくらでも死んでいいが、状況を何も理解しない状況ではさすがに鬱展開もクソもなくて心躍らないからな。
ありがたいことに特に問題もなく起き上がり、ここまでは、さては変な魔獣に眠りの魔法でも掛けられたんかなと思ったんだよ。しかし事態ははもう少々奇妙な方向に進むことになった。
七不思議ですって。呪いで死ぬんですって。
なるほど、つまり俺は子供特有のちょっとばかり無鉄砲な探索に同行したばっかりに理不尽に死んでしまい、一緒に動物探しをした善意の生徒に大ダメージを残すと。そして学園と国の危機管理体制にどえらい泥を塗ると。
まあそれもなかなか良い死に様ですかね? 様々な方向に負の影を落とせるし。
ところで、魔法と呪いの違いとはなんだろう?
魔法というのは世に溢れる神秘の技術の総称のようなもので、こうして学校で教えられるほど体系化された魔術もあれば、そうでないものもある。呪いもまたその一つだ。
確かに存在はしているようだが具体的には知られておらず、使う人間、あるいは魔獣によって威力の差が激しい。マイナーで研究の進んでいない分野なので使える人間自体希少だし、解呪の術を扱う人間となれば輪をかけて珍しい。
とはいえこの可愛い末っ子王子が呪われたかも、となればうちのハイパー最高賢王父上は大陸随一の王国の王の地位をふんだんに利用しまくり、国庫を傾けない程度に探し回ってくれるだろう。一年という期限内に探し出せるかはまあまあ賭けだが、学園側もメンツにかけて解決方法を探し出そうと頑張ってくれるだろうから、怨霊の呪いが実在するとしても、放置しておくだけで解決する可能性はある。
でもって解決せず死ぬ可能性もある。
でもそれって、面白い? ちょっとパンチが足りないんじゃない?
俺がするべきことは座して待つことではなく、子供達に対して、自分たちで七不思議の謎を解明し死の運命から逃れよう! と頑張る方向に引っ張っていくことでは……?
そのほうがどう考えても、高名な僧侶や呪術者を呼んだけれど結局王子は死んでしまったよ……みたいな受け身の鬱展開より発展性があるだろ。
いやぶっちゃけ七不思議も呪いの白ビグレルも眉唾モンだと思ってるけれど、万が一にも鬱展開死の可能性があるのなら、それを掴んで離さないし可能な限り面白みをしゃぶりつくしてやるのが俺という生き物だ。
皆で必死になって不思議で恐ろしい呪いを解こうと奔走し、途中慰め合いや喧嘩や和解を経て人間的成長をし、最終的には無事生き残ったり頑張りむなしく死んだりする……。それこそが青春、それこそが人生だ。
よし、これでいこう。
そう決意するまでの時間は本当にマジで早かった。
幸いお揃い呪われメンツは好奇心の塊、ノエルくんだ。俺の期待通りやっぱり事件を呼び込んでくれた彼は、焚き付けられるまでもなく事件の調査をする気だったようなので、俺はもうそこに全力で乗っかるだけでいい。
いやあ、七不思議調査、楽しみですね。
その過程でも~~~~~っと事件が起きる可能性もあるし、七不思議だの怪談だのってのは探っていくと陰惨な事件にたどり着くこともあるから、そのへんから栄養を摂取できる可能性もあって期待値が高い。
希望に満ちたハッピー学園ライフで干からびて死ぬ可能性もあったことを考えると、今のところどの程度深刻な事態に陥るかは分からないにせよ、この流れはありがたいものだ。
起きろ怪事件。苦しめ若者達。
苦労も恐怖も絶望もいつかは、きっと君たちの成長の糧になる。
というわけで俺の愉快になる予定の学園生活は、まだまだ始まったばかりだぜ!




