第二十五話・三下役者たちへの芝居の閉幕
休み中、全然、書く時間がありませんでした。
とりあえず騎士さん達に私が少人数で行動していた理由を理解してもらった。
では今度は私からの一芝居だ。
「主神様より、お兄様の考えをお伺いしました。確かに私の能力を隠しながら守っていただくより、公開して牽制する方が良いと思います。
主神様も私の心に反して攫われたりした場合は容赦なく称号で罰して頂けるとそうです」
私の言葉に先ほどその効果を身に染みて理解させられた男達はこくこくと首振りトラになっている。
父上はそんな男たちの態度に何かを言いたげにこちらを見るが、私は何も言わない。詳しくいってしまえば、先ほどエリシアさんが無いことにした事件まで掘り返すことになるからだ。
口を割らない私の態度にこれ以上深く掘ることを断念した父上は、騎士たちに向き直る。
「私の娘はいつまでここに拘束されなければならないのかね?」
確かに罪もない齢5歳の公爵令嬢をこんな外に待たすこと自体、常識に外れることだ。実際最初の馬車改めでも私が『否』と言えば実行はできなかっただろう。
「そうですな、馬車にも異常はなし。疑われた女性も無実の可能性が高いうえにすでに馬車から降りている。アレキサンドラ嬢をはじめエリシア嬢、それからメイドの方々は帰られて結構です」
騎士たちは問題ありませんとばかりに笑顔で答える。
私は最初から所在無げに佇んでいる馭者のほうを見る。
「辻馬車の方は?お父様の馬車は一台だけですから、どうにかしていただきたいのですが」
はっきり言って、ある程度の絡繰りを知っている馭者さんはこちらの陣営に引き込みたい。エリシアさんの知り合いだし、為人に問題がないと聞いているからなおさらに。
こちらの意を汲み取った父上は小さく頷き「どうなのんかね?」と騎士たちに確認する。
騎士たちは「どうしますか?」と自分たちの責任者である老騎士に目線で確認を取る。老騎士は私のほうにちらりと視線を向けてから
「そうですな、後で事情を聴かせていただければこの場は問題ないかと」
と、返してきた。
あれ?もしかして老騎士さん、こっちの芝居に気付いてる??
少し気になったがこのままこの場に残って問いただすことはできないので、そちらの馬車に移動しようとしたのだが……弟・妹よ、そして母よ、ついてくる気が満載なのはどうなのだろうか。
「お母様、馬車にこの人数はきついです。お父様と元の馬車にお戻りください」
私がそういうと母上は「仕方ないわね」と聞き分けよくパージェンシー家の馬車に戻ってくれた。
サフィールとパメラは外れそうにないから、このまま一緒の馬車で帰るしかないだろう。
兄弟3人とアイリス、マーシャ、エリシアさんが乗りこむと解放されたことにほっとした馭者さんが扉を閉めた。
馬車の動く音の後に、こちらの馬車も動き出す。その後ろから騎馬の音が数個聞こえるから、前後に護衛する形で進んでいるのだろう。
「何とか、乗り切れましたね」
緊張が緩んだのか椅子に沈み込むようにしながらエリシアさんが呟いた。
「ベルフェンド卿は何がしか気付いたみたいだけど、後からの説明でいいってことは追手側には付かないと考えていいのかな」
「あの老騎士勘が鋭かったよね。途中から、しんゆーの視線を見て、話を移動させてくれてたし」
私が希望的観測の言葉を継げれば、親友が彼が途中から取っていた行動を告げてくる。
「そういえば、パメラ。やっぱり『アリエラ・ブリメイラ』は及川愛里だったぞ」
私の言葉に妹がばっと『アイリス』へ……メイドに変装しているアリエラを凝視し、目にいっぱいの涙をためた。
アイリスは彼女のその行動に不思議そうに首を傾げている。
「親友、私の妹になったパメラは『神田えみり』だ」
その言葉に今度はアイリスの目が大きく見開かれる。「どうして」と呟き、パメラの方に近寄るとその顔や表情を見つめる。
「あそこなら、えみりんは助かるって、ぎりぎりなんとかなるって」
そう言葉を発しながら2歳の差があるパメラの体を抱きしめる。
「うん、現場じゃなくて、その後、病院に運ばれて死んだの。助かる道もあったかもしれないけど、事故で助かってもお父さんとお母さんが延命装置を止めて、どっちにしろ死ぬことになりそうだったから、こっちに来たの」
パメラが何でもないことのように、死ぬ間際の事を告げる。その言葉に周りの全員が眉をしかめた。
神田の親はそこまで鬼畜生だったのか。愛里に聴いてはいたが、子供にこの決断をさせるほど酷かったとは思わなかった。
後で、母上と父上に言って、パメラへの愛情を加算して貰おう。
「アレク兄様、パメラの前世の家族って……」
「最悪の両親だったと聞いてる。だから近い血縁の愛に飢えてるって。だから父上と母上、私とサフィールで愛情の割り増しをしような」
「はい!!」
サフィールは私の提案に深く頷いてくれた。