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ディサイデッド~我が道を進むファンタジー物語~  作者: スパイラル
攫われた姫と吸血鬼(ヴァンパイア)・眼(アイ)
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甘え、災害

「まだ起きる気配はないようだね」


陽義はディルの様子を確認するためにディルの部屋を訪れていた。いくら魔法で眠ったとはいえ、ディルは寝息意外の一切の行動をとっておらず陽がすっかり沈んだ今になっても起きる気配が全くなかった。


「まあ寝かせておいてやろう。明日は夕方までに走り回って準備してもらうか」


つい先ほど準備を終えて本部に帰って来たジードが静かに言う。陽義はジードが帰って来たので2人でディルの様子を見に来ていたのだ。


「留守番してもらって悪かったな。ミーリアやアライナはどうしてるんだ?」


「2人にも依頼の事は伝えたよ。今は準備に回っているはずだね」


「そうか。俺を待っていてくれたのか、ありがとな。陽義も準備してくるといい」


「そうだね……。それじゃあ行ってくるよ」


陽義は部屋を出ようとしたが扉を出てすぐの所で止まった。そして深刻に口を開いた。


「ジード……、」


「何だ?」


「ディルは、お姫様を……。いや、すまない。何でもない」


「ん?」


始めの言葉はジードに聞こえない程小さいモノであった。ジードは陽義の顔を見る。逆光により表情までは読み取れなかったが、声色が明らかに普段のものより沈んでいたため一抹の不安を覚えた。


陽義はメンテナ本部を出ると直ぐに盗賊ギルドに入ってから知った裏道に飛び込んだ。フードを目深に被り己の目的地を悟らせないように幾重にも回り道をして盗賊ギルドの一つの拠点に入った。


「合言葉は?」


「王や貴族も盗賊と変わらぬ」


定期的に変わる合言葉を言い。酒場に擬態している拠点の奥の部屋へと入り込む。そこで待っているのは『情報屋』だ。


「魔法使い様じゃねえか。最近は良く来なさるなあ。羽振りがいいのかい?」


「情報は時として命を救ってくれるからね。時間がないから手短にお願いするよ」


情報屋のギルドメンバーと軽いやり取りを済ませ、金貨を5枚放り投げた。陽義は情報は金なりというのを盗賊ギルドに入ってから痛いほど良く学んでいた。盗賊ギルドの風潮として排他的ではあるが決して仲間思いという訳ではない。取り分け契約事や掟には厳しい。その掟でギルドメンバー同士の諍いは禁止とされているのだがそれでも陽義は盗賊たちに隙を見せる気にはなれなかった。情報屋の男は器用に金貨をキャッチして驚きの表情を見せた。


「おっと……、大金じゃねえか。一体何が聞きたいんだ?」


「マリン姫の情報を話せるだけ全て」


その言葉を聞き男の顔からにやけが消え失せた。


「俺らは金さえ貰えれば何でもかんでも話す集団じゃねえ。お前が何の目的でその情報が知りてえのかは知らねえが聞きてえことがそれだけなら俺が言えることは何もねえな」


「っ!!」


まさか断られるとは思っていなかったので陽義は柄にもなく驚きの表情になる。


「そんな意外そうな顔すんなよ。金貨は『特別』に返してやるからさ」


男は懐に入れた金貨を陽義に差し出す。それでハッと驚きから立ち直った陽義はそれを制した。


「……確かに一国の王の妹君の情報を易々と売るわけにはいかないね。甘えていたよ。他にも聞きたいことがあるから金貨は返さなくていいよ」


「ほぉう?」


「ザイドの村についての情報も欲しいんだよね。出来れば知っている限りの」


「ザイドの村といやあお前に付近で姫様が失踪したって伝えた村じゃねえか。結局姫様がらみか?」


「それは違うね。明日の夜頃仕事でその村に行かなきゃならなくなったんだ。リザードマン退治にね」


「リザードマンねえ。確かにあの村の付近には奴らが好みそうな洞窟や湿地帯は存在するが……。そういった情報が欲しいのか?」


「そういった情報は自分で調べれるからいいかな。あの村って治安いいのかい?」


ちょっと不自然な聞き方だったかなと陽義は少し不安になったが男は意外にも質問に納得するかのように答えた。


「あーあ、なるほどな。あの村はここ1年だか2年前までは貴族の領主に対して以前酷い対応を受けたという事で領主と村人たちのいがみ合いが多発してやがったからな。だが最近領主になったゼフィスという男が来てからはいがみ合う事はほとんどなくなったそうだぜ?それでいてそのゼフィスとやらは他の村よりも多くの税を村人たちに進んで払わせたりしていたっけな。兎に角、優秀な領主様が治めるようになってからは嘘のように治安が良くなったみたいだぜ」


「それは……不思議だね……」


「それとこの情報だけで金貨5枚は流石に少なすぎるからな。何か情報はっと、あの村周辺は兵士どもが息巻いているから出来るだけ関わらんようにしとけな。それとついでに湿地の場所や洞窟についても教えといてやるぜ…………」


男はホクホク顔でその後も情報を提供してくれた。まあ恐らくは金貨を返したくはないからだろうが……、ギルドのアジトを出た陽義は少し肩を落としていた。


(自分の甘さが身に染みたな……)


陽義は盗賊ギルドの一員になれば自分の知りたいことを何でも正確に知れると思っていた。金がかかると知った時であってもそれで情報が手に入るなら安いものだと思っていた。だが、違う。何でもかんでも聞けるわけではない、それを思い知らされたのだ。


(自分のやりたいことくらい、自分一人でもやらなくちゃ)


「俺にでも、出来る事……か……」


ギルドの拠点を出た陽義は足取りも重く歩き始める。


「何が出来るんだろうねぇ……」







「はい、お嬢ちゃん。りんご飴ね」


「うわあ、すごいわ。本当に艶々だわ。お城で見たどのリンゴよりも!!」


マリンは今最高の気分であった。城の外に出たことがないわけではないがそれのほとんどが馬車に乗せられての移動であったから、馬車を降りて出歩くのは初めてなのだ。姫という身分ではしょうがない事だと諦めていた事が叶ったのだから楽しくて仕方がない。


だが、姫だという事がバレる訳にも行かないのでお付きの老騎士であるビクスが侍女たちに街の少女たちが着ている服装を集めさせその服を着て出歩いている。当然露店の店主が姫だと気づくこともない。マリンの反応を町娘のものではないと不思議に感じ口を開く。


「何だい?お嬢ちゃんりんご飴見たことないのかい?そりゃ、とんでもない箱入り娘だねえ」


「箱入り……?意味はわからないけど私に対して失礼ね!!私は…むぐっ!!」


マリンにとって、「箱入り」という言葉は知らないものであったが、何か馬鹿にされたように感じて言い返そうとする。だがそれも後ろから口を塞がれて止められた。


「そうそう!!途轍もない箱入り娘なんだ。おっちゃん、これお代な、それじゃあ!!」


ディルだった。ディルは少し前からこの様にすぐにボロを出す姫様に振り回されているので対応も迅速だった。店主に飴の代金を手渡しまだモガモガ言ってるマリンを強引にその場から離れさせた。


「もう!何するのよ!!」


ようやく口から手を放して貰えたマリンが抗議する。


「それはこっちのセリフだぜ。何を言い返そうとしたのかは知らねえが、喧嘩腰になってどうする!?相手のおっちゃんは普通に話してただけだっての」


ディルはもう何度目になるかわかない注意をマリンにする。


「もう三日目だってのに、いい加減学んでくれ……」


「だって、私お姫様なのよ?私の召使いの癖にぃ~」


マリンは恨みがましくブツブツ呟く。ディルは大きく溜息をつき、そっぽを向いて三日前から姫が文句を言いだしたときに効果抜群な脅し文句を口にする。


「はぁ~。そうか、じゃあ今日はもう終わりにして城に帰るか」


マリンは城の外を出歩いて良いとアランから許可を受けてはいたが誰かと共にという条件も付けられていた。故にディルが帰る気になってしまえばマリンも帰らなくてはならないのだ。勿論それが嫌なマリンはディルの言う事を多少は聞かなければならないのだった。


「まだ昼よ?帰るなんて嫌よ!!今日は見晴らしのいい花畑がある公園に案内してくれるって昨日約束したじゃない!!」


「じゃあ、すぐに喧嘩腰になるのを止めるれるな?」


「うぅ、わかったわよ」


今回もやはり効果は抜群でマリンは頷くしかなかった。







「うわあ、綺麗」


公園に着いた二人は花畑を見てまわる。マリンは広々とした土地にチューリップや菜の花が一面に咲き誇っている景色にはしゃいでいる。


「花畑なら城にもあるんじゃねえのかね……」


そんな事は言いながらもディルも解放的な場所である公園は好きな場所であった。そんなディルの何気ない一言にもマリンは振り向き、わかってないなぁと言い返す。


「城にはバラ庭園があって綺麗だけど、こういう景色じゃないのよ!こっちのが素敵かも!!」


「まあ確かに違いがあるかもしれねえな……」


周りの花たちを見て確かに王城の雰囲気には合ってないかもしれないなどと考えながらディルは呟く。ディルとしてもゆったりとした空間は好きなので花畑を楽しむことにした。しばらくの間花に見惚れながらゆっくりと歩いていたディルは同年代くらいの男の子とマリンの声で我に返った。


「おい、テメェ、調子に乗ってんじゃねえよ!!」


「何?貴方達如きが私に口答えするの?」


ハッとして辺りを見回すといつの間にか少し離れたところでマリンと見ず知らずの男の子グループが衝突していた。今にも取っ組み合いに発展しそうだった。


「うおっ、やば」


ディルは慌ててその場へと駆け出す。


「あぁ?何だその偉そうな口の利き方はぁ!?いきなりやって来たよそ者の癖に生意気な!!」


「何よ!その汚い手を離しなさい!!」


ディルが到着した時には一人の男の子がマリンに掴みかかっているところだった。


「おい、よせよ!!」


ディルが何とか間に入って2人を引きはがす。


「遅いわよ!!召使いの癖に!!早くこの不敬者どもを片付けなさい!!」


「召使いぃ!?テメエ本当にいけ好かねえな!!」


「落ち着けよ!!」


再び取っ組み合いが始まりそうになるのでディルは一喝する。その言葉で両者の動きが止まった。


「何があったんだ?」


取り敢えずその場が落ち着いたのでディルはマリンに尋ねる。


「そこの不敬者が私に暴言を吐いてきたのよ……」


マリンは男子グループの先頭に立っている取っ組み合いをしていた男の子を指さして言う。


「はあ!?お前が最初に俺たちからシャボン玉取り上げたんだろうが!!」


男の子はその言葉に怒って怒鳴る。ディルはその言葉を聞いて改めてマリンを見てみると確かにシャボンを作る輪っかとシャボン液を手に持っていた。


「それを取り上げたのか?」


ディルはマリンに問いかける。ここに来た時には持っていなかったものなので取り上げたというのは嘘ではないだろう。


「違うわ、お金は払ったもの」


そう言って地面に転がる金貨を指さす。それだけでディルは何があったかを理解出来た。これまで、街の店は回って来たが公共施設のような場所は回らなかったのでマリンは金さへ渡せば何でも自分のモノになると思ったのだろう。


「はぁ~」


ディルはため息をつき、少し強くマリンを叱らねばならなかった。


「それはお前のモノじゃない、返すんだ」


「何でよ!!」


「何もかもお金で買える訳じゃねえんだ!!返しなさい!!」


「くっ!」


マリンは自分の味方だと思っていたディルに怒られて言葉を失う。


「わかったわよ……」


そしてシャボン液と輪っかを差し出す。男の子はそれをひったくる様に取り返す。


「貴方、何よ!その態度!!」


マリンはそれを見てまた怒るが、ディルが手を出して制する。


「謝れ、マリン」


「私が!?こんな奴らに!?」


その言葉を聞いた時ディルの顔が途轍もなく冷たくなる。マリンはその表情に一瞬怯えるがそれでも謝りだけはするものかと反抗的にディルを睨みつける。


「あ~あ、もういいやこいつらに構ってたらきりがねえ」


その内男の子たちは踵を返していってしまう。後には2人だけが残された。


「何で……あんな奴らに味方したのよ!!あんな平民なんかに!!」


マリンは涙を流しながらディルに怒る。以前自分が王城で困った時は味方になってくれたのに今回は味方してくれなくて傷ついたのだ。だがディルの表情から冷たさは抜けない。寧ろ今の言葉で更に冷たくなったようにさえ感じられる。


「平民なんか?」


静かに呟くその言葉もさっきとは比べ物にならないくらい冷たく、鋭い。


「お前がどうやって育てられたのか、俺は知らねえ。だが覚えておけよ……」


マリンは王城で侍女たちから叱られたこともミランから怒鳴られた事も何度もある。でもディルは怒鳴ってるわけではない、だがその言葉はそれらのどれよりもマリンには痛く感じられた。


「俺は貴族だからどうだの、平民だからどうだのって身分だけを棚に上げて誰かを貶すような人間がっ!!一番嫌いだ!!」


ディルはそこで初めて怒鳴る。不思議だった。自分の胸の内にずっと抱えてきた思いではあったのだが今まで誰にも、親にだってこんな風に怒鳴った事はないのに。思えば王城で怒鳴った事も普段のディルからは考えられない事だったようにも思う。そんな事を考えているとディルは初めてマリンが涙を零している事に気づく。


「じゃあ!私はどうすれば良かったのよっ!?何でそんなに……怒るの……?」


そこで初めてディルは言い過ぎたと感じるのだった。


「あ、いやっ、そんなに泣くなよ。ほ、ほら、取り敢えず隅行くぞ……」


ディルは涙が止まらないマリンの手を引き、目立たない木陰に移動する。暫く宥めているとようやく涙が止まった。しかしまだしゃくりあげている。


「ディルは……私の事が、一番嫌いなの?」


その状態のままようやく口を開いたマリンが問いかける。


「え?……そりゃ、お前が今のままだったらな」


ディルは一瞬質問の意味を考えさっき怒鳴った内容を思い出し答える。


「じゃあ、私はどうすれば嫌われなくなるの?」


「人の事は身分なんかじゃなくて、中身をみるんだ。その人が良い人なのか悪い人なのか。それで人の事を判断するんだ。その上で自分は良い人になるのが大切なんだ」


ディルは己が憧れた存在である兄の受け売りを口にする。ディル自身にもディルが良い人なのかなんてのはわからない。ディルの両親の基準にしてみれば悪い人なのかもしれないと最近は思っている。でもこの言葉を心にずっと留めておこうと決めている。だからそれをマリンにも伝えるのだった。


「この大切さを守れる人に俺はなりたいしそういう人が俺は好き……だな」


好きという言葉を口にするのが恥ずかしくて最後を口ごもってしまう。その言葉の途中で周りがざわつき音が掻き消える。


「な、何だ?」


ディルが辺りを見回すと馬に乗った人が数騎花畑に駆けてくる。こんなところに何の用事だろうとディルはいぶかしむが、花畑を無視したのを見て狙いがマリンである事に気づく。勿論遅すぎる。ディルはせめてマリンと騎馬の間に立ち油断なく騎馬に乗る人間を見据えるのだった。


「おやおや、こんなところに居たのかいマリン。駄目じゃないか、君は城にいなきゃあ」


先頭の男が馬から降り、少しずつ近づいて来る。ディルは何処かで見たような顔だなとその正体について考えるがマリンの一言で思い出す。


「ミラン……お兄様……」


マリンはディルの背中に隠れる。


「ミラン……ああ、王弟陛下か」


ミランはそこで初めてディルが目に入ったかのようにディルを睨みつける。


「おい、貴様!!何で貴様如きがマリンと一緒にいる!!強欲が張った醜い貴族のガキめ!!即刻我が妹から離れろ!!」


その声で後ろに控えていた護衛役が馬を降り、ディルに詰め寄ろうとする。


「待ってください!!お兄様!!ディルは……れっきとした私の従者ですわ!!手を出さないでください!!」


マリンの一声で護衛役の人たちはどうしたものかとお互いの顔を見る。こうなってはディルも成り行きを見守る事しか出来ないが、マリンとミランの間には立ち続けた。


ミランはマリンの言葉を聞くと一層顔を歪める。そしてディルを物凄い怒り狂った表情で睨みつけ、怒鳴った。


「ならその従者とやらに命令してやる!!今すぐそこをどけ!!二度とマリンに近付くなぁ!!」


それを聞くとマリンも負けじと怒鳴り返した。


「ディルは私の従者なのよ!!お兄様の命令を聞く必要なんてないわ!!」


その言葉を聞くとミランの目は驚愕に見開かれる。そして再び怒りに変わる。


「なん……だとぉぉぉ!!」


とうとうミランは腰の剣に手をかける。


「なっ!!」


ディルも驚きマリンを引き連れて逃げようとしたその時だった。大地が激しく揺れ出した。



ゴゴゴゴォォゴゴゴゴ!!



「うわ、あぁぁぁ!!」


「きゃあぁぁあああ!」


マリンや護衛役の人々、いや都に居た人々が立っている事さえ出来ない様な大地震だった。地面が激しく揺れ、倒壊する建物も少なくない。


「なんだ……、これっ!!」


勿論ディルも立っていられず転んで尻もちをつく。急に、何の前触れもなく怒った地震は考えられない程に規模が大きかった。


「何が起こっている!!」


ミランも訳が分からず叫ぶ。今や都中のあらゆる場所から悲鳴が上がっている。そしてマリンも地面に激しく頭をぶつけて痛がっている。そこへ、木が傾き、少しずつ倒れてくる。木陰で休んでいたのが災いした。揺れの中でマリンを探していたディルだけがそれに気づいた。


「くっそ!!」


ディルは揺れる地面に足を取られながら立ち上がり駆け出す。マリンも頭を打ったところをさすっていたがようやく木が倒れていた事に気づくがもう間に合わない。


「うをおぉぉぉぉぉおおお!」


ディルはマリンに飛び掛かる。後少しでも遅ければマリンは下敷きにされていただろう、間一髪間に合ってマリンを木の下敷きから逃れさせることに成功した。


「ぐっ!ぅうう」


だがディル自身は間に合わず片足が木に潰されていた。


「ディル!!ディル!!返事をしてえぇぇえ!!」


その痛みに耐えきれなかったディルの意識は次第に遠のいて行った。


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